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東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】  作者: 十六夜やと
3章 夜刀神の日常~冬の巻~
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26話 長い冬の一日

紫苑「身の危険を感じた」

霊夢「次回あたりから異変再開?」

紫苑「次って春雪だっけ?」

霊夢「白玉楼メンバーのターンね」

side 霊夢


物凄く寒い。

もう春が近いのに氷点下ってどういうこと?


朝起きた私は、その寒さに身震いした。

外は一面の銀世界。白くない所が見当たらなくて、雪掻きをしようにも寒くて寒くて仕方がない。

足まで冷たくなっていて、急いで居間のストーブに火を――


「あ」


灯油が切れていた。

箱を逆さに振っても底を叩いても、灯油は一滴も落ちなかった。


「……どうしよう」


灯油を買うお金はないし、ましてや他に神社内を暖めるものは存在しない。昨日の寒さの比ではないので、恐らく凍死する。


考えていると、とある人物の笑顔が横切った。

神社の横に住む年上の少年。最近、年上のお兄ちゃんみたいな関係になりつつあるけど。

けど夕食まで毎晩ご馳走になっているのに、灯油が切れているからって暖まりに行ってもいいのだろうか? さすがに図々し過ぎるのではないのだろうか? 今までの私なら考えずに彼の家へ上がり込むのだが、日頃お世話になっている隣人であることが歯止めとなる。




そこで、すきま風が私の頬を撫でた。

貴様に選択肢があるとでも思っているのかと。


「………」



♦♦♦



side 紫苑


朝からインターホンが鳴ったので外に出てみると、涙声で切実に訴えてくる霊夢が寒さに震えて土下座していた。

今起きたばかりだけど、クソ寒い。

冷蔵庫の中の方が温かいと思えるほどだ。


「お願いします紫苑さん! 何でもするから暖まらせて!」


「年頃の女の子が何でもって言うな。早く入って!」


この寒さなら霊夢の行動にも納得できた。

俺も起きたばかりで家の中は氷点下。リビングも外ほどではないが寒いので、俺はクーラーの暖房のリモコンを弄って早急に部屋を暖める。ついでにカーペットに搭載されてる保温機能も付けた。部屋が広いから暖房機も持ってくる。炬燵(こたつ)の電気もONにした。

霊夢には膝掛け代わりに毛布を渡す。

キッチンに行ってポットに水を入れたり、簡単なトマトスープを作ったりする。


「霊夢、もうちょっと待ってろよ。すぐ暖かくなるからさ」


「………」(コクコク)


ブルブル毛布に包まれながら頷く霊夢。

少しずつ部屋が暖かくなり、二人してスープで暖まった後、またインターホンが鳴った。俺が玄関に行って扉を開くと、さっきの霊夢と同じような状態で土下座する魔理沙とアリスがいた。

土下座が流行っているのだろうか。


「……皆まで言うな。ほら、入りな」


「「ありがとう……!」」


こうしてリビングにお茶を啜っている3人の美少女達が生まれた。

俺はカーテンを開いて外の様子を眺めながら呟く。


「それにしても今日は寒いな」


「ごめんなさいね、急に来てしまって……」


「気にすんなって。ゆっくりしていくといい」


こんなに寒い日は俺ですら出たくないわ。

俺は洗濯物を回そうとリビングから出ようとして、振り返り様に3人に告げる。


「あ、暖房器具は魔力とか霊力とかで動くようになってるから、キッチンの機械に注いどいてくれると嬉しい。地下室にある書庫の本は自由に読んでいいし、寝たければ2階のベッドか布団でなー」


「「「はーい」」」


午前中に洗濯を終えて乾燥。

乾燥した衣類を抱えてリビングに戻ると、霊夢の姿はなく魔理沙とアリスは本を読んでいた。

衣類を畳んだり、部屋の掃除をしたり。あらかた午前中にすることがなくなったときに、またもやインターホンが鳴った。ここまで来ると何しに来たのか俺でも分かるわ。

扉を開けると紅魔館の住人がいた。今回は土下座していなかったが、生まれたての小鹿に見間違えるくらい震えているスカーレット姉に涙を禁じ得ない。


「ふふっ、夜刀神。来てや――」


「皆入った入った」


「私のセリフがっ」


寒そうに震えている連中もリビングに入れば、あら不思議。適度な温度の俺ん家に感動していた。

とりあえず先に来た者と同じ説明をすると、美鈴は2階に行き、パチュリーさんとこぁさんは書庫に走った。

やることなくて暇な俺はPCを起動してフリゲを始め、それを眺めるスカーレット姉とフラン。咲夜は紅茶を淹れている。


「お兄様、これは何なの?」


「フリーゲームってやつだな」


「とても楽しそ――」


フリーホラーゲームだけどな。

と言おうとしたところでホラーな場面になって、スカーレット姉が悲鳴をあげてフランに抱きつく。フランも少し怖そうにしてる感じかな。俺はフリゲはホラーしかしない。


「……吸血鬼って怖いのね」


「自分の種族言ってみろよ」


怖さのせいか変なことを口走るレミリアに苦笑しながらも、比較的怖くないフリゲをスカーレット姉やフランにさせてみた。悲鳴を上げてはいるが、姉妹の仲は深まったんじゃないかな?見ていて心が暖まる。


お次にパチュリーさんとこぁさんの様子を見に行くと、書庫に籠っていたので暖房器具を持っていく。さすが図書館の管理人と言うべきか。筆記用具を所望されたので、ノートを数冊とボールペンを渡す。

ボールペンの機能に凄く驚いていたが。


そろそろ昼飯の準備を始めようとしたところで、性懲りもなくインターホンが鳴る。

今度は誰かなーっと扉を開けると、


「失礼するわね」


幽香が居ったそうだ。

暖まりに来たのなら、コイツ俺ん家来なくても大丈夫じゃね?と思うくらい堂々としている様に一瞬思ったが、よく見たら小刻みに震えていた。寒いのをやせ我慢してるらしい。

俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ほら、手も冷たいじゃねーか。入って」


幽香の手を引いて、俺は家の中に入った。

炬燵に強制的に入れさせて、咲夜が紅茶を出す。


「ったく、こんな冷えるくらいなら家に早く来い」


「……行っていいのか迷ってたわ」


ちょうど座っている幽香の頭をポンポンと優しく叩くと、幽香は顔を隠すように炬燵の毛布で顔を隠した。こういうところで素直じゃないのは昔から変わらないのか。

ちなみに、この炬燵は割りと大きくて、魔理沙やアリス、スカーレット姉妹も入っている。まだまだ余裕あるぜ。




さて、昼食を作りますか。

書庫に引きこもってる方々もいるから、手軽に食べられるものがいいな――炒飯作ろう。手軽? 何それ? 俺が食いたかったんだよ。


「炒飯、ですか」


「まぁ、作り方は簡単だから見てればわかる」


咲夜に観察されながら、外の世界で作っていたように玉子とひき肉を炒めたりする。米を次に炒めて、ちょっと茶色くなったら香辛料とウスターソースとかでアクセントをつけて。パラパラになるようにフライパンにスナップ利かせて米を宙に踊らせながら炒める。

えーと、今何人居るんだっけ……俺合わせて11人か。

霊夢と美鈴の分はラップに包んで保存。

咲夜と一緒に盛り付けた炒飯を各場所まで運んでいく。


「パチュリーさん、こぁさん、どうぞー」


「……そこに置いといて」


「ありがとうございます!」


2人分の炒飯を置いて書庫を後にする。閉めた扉から『うまっ!』という声が聞こえた気がした。

リビングに戻ってみると、美味しそうに食べる面々。


「すっごく美味しいよ! お兄様!」


「相変わらず紫苑の料理は美味ね」


吸血鬼妹とフラワーマスターからお褒めの言葉を頂いた。

無邪気に笑いながら言ってくれると嬉しいよね。


食べ終わったものは咲夜が皿洗いしてくれて、本格的にやることなくなって、この前パチュリ―さんに借りた本を読んでいると、聞き慣れたインターホンが――




ガチャッ




「「「………」」」


「……うん、知ってた」


幻想卿で一番暖かいところと思われる俺の家に来るのは、ある意味では賢い選択なのかもしれない。

そう自分に言い聞かせつつ、俺は慧音、妹紅、霖之助を中に招き入れる。補足だが、リビングに入った3人は先に居座っている面子に驚いたらしい。

ちょっとした過剰戦力の集まりだからな。


この家には現在進行形で14人がいる。

なんて大所帯。ここにいる全員の家は氷点下なのだろうが……人里の方々が凍死してないか心配だ。

あの新聞記者も生きているだろうか?


暇だと言ったが、これだけ暇人が集まればボードゲームとかトランプとか出来そうだが、数時間を潰すのなら――アレをしよう。


「暇だからTRPGするかー」


「TRPG?」


時間が潰せそうな遊びとして、初心者には難易度高いけど有名な『クトゥルフ神話TRPG』のセッションをする。

もちろんGMは俺で、参加者は起きてきた霊夢・本を読み飽きた魔理沙・興味があるのか妹紅・皿洗いがおわった咲夜・マイフレンド霖之助の5人だ。慧音は書庫に行っている。スカーレット姉妹は感動系ホラーゲームのエンディングに涙しつつ、新しいホラゲを開始。幽香はTRPGを見学。


実は外の世界でもセッションはよくやっていた。アホ共となら迷わず『パラノイア』か『シノビガミ』の対立型をするのだが、さすがに初心者5人でさせるわけにはいかない。『サタスペ』や『ソードワールド』でも良かったけど、生憎俺はそのルールブックを持っていない。詐欺師が持ってた気がすなぁ。

今回は比較的簡単なシナリオで、3.4時間で終わりそうなものを選んだ。キャラ作成に時間かかるだろうし。


「ちょ、咲夜ファンブル出さないでよ!」


「ここで『聞き耳』振るのぜ?」


「san値を最大値持っていかれた……」


「マーシャルアーツ+キックでお願いします」


「あ、クリティカル」


妹紅が2回ほど発狂したけど、どうにか全員が生還した。運が良かったってのもあるけど、初セッションという背景もあり救済措置が役立った感じだ。アホ共となら問答無用で殺してる。

アホ共とやったときは壊神と帝王がキャラロストして、皆で大笑いした記憶がある。切裂き魔は発狂したな。

そしてセッションが終わる頃には、外は暗くなっていた。


「晩飯は鍋だな。ほら、炬燵とテーブルの上を片付けて」


「「「「「はーい!」」」」」


鍋の好みは知らないので、キムチ鍋とモツ鍋、野菜鍋をそれぞれ大きな鍋に作る。手伝ってくれたのは咲夜と慧音。

出来上がる頃には、寝室にいた美鈴と書庫にこもっていたパチュリーさん&こぁさんが戻って来た。


「寝室貸していただきありがとうございます!」


「有意義な時間だったわ」


出来た鍋をリビングに持っていくと、リビングが綺麗になっていた。皆が掃除していてくれたらしい。

それぞれの御碗に鍋の具を配膳して配る。キムチ鍋は辛いから注意してね、と先に言っておく。


「はい、手を合わせて――」


「「「「「いただきます!」」」」」


鍋も好評だったらしく、綺麗に平らげてくれた。

洗い物は任せてほしいと霖之助に託して、俺は暗くなった外の様子を確認する。


外は雪が強くなっていた。

吹雪と表現する方が正しいな。


さすがに吹雪の中、皆を外に出すのは鬼畜だと思うので、今日は泊まってもらうことにした。2階の寝室には5つしかベッドがないので、リビングの炬燵を仕舞って布団を敷く。足りない分は隣の大広間に敷いた。


スカーレット姉妹は2人で1つのベッドを使うし、紅魔館からお越しの方々は2階に寝てもらうことにした。

俺はソファーの上だな。さすがに女性陣が横に寝るなんて、俺の紳士力が足りなくて無理。流れるように女性陣の布団の端っこで寝ている霖之助さんマジリスペクトっすわ。


「……紫苑さん」


「どうした、霊夢」


「……ありがとう」


「……どういたしまして」


俺は皆が寝るまで、窓の外で降っている雪を静かに眺めていた。


幻想郷の冬は長いらしい――




♦♦♦




side ???


「ここが幻想郷ねぇ……」


静かに降る雪の中を歩く。

ザクザクと氷を砕く音が夜闇に響き渡る。


「……もう4月のはずなんだけど?……寒いなー」


空を見上げた。

曇り空には光源など存在しない。


「……これが異変ってやつかな? 確か『博霊の巫女』って役職の人が解決している最中なのか、それとも仕事をしてないのか。――どうも冥界(・・)当たりが怪しいけど」


思わず笑みが溢れる。

いや――嗤み(えみ)とでも言うべきか。




「来たけど……目的がないね。うーん、これは一大事だ。暇が潰せそうではあるけれど、ひとまずは――












――夜刀神紫苑を殺そう」





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