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東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】  作者: 十六夜やと
2章 紅霧の宴会~始まりの物語~
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19話 和解?

side フランドール


スキップしながら博麗神社の宴会場を徘徊する私は、とある黒髪の少年の姿を追っていた。

お姉様が『ちょっと夜刀神呼んできてくれない?』とお願いされたときは物凄く嬉しかった。お姉様には何か考えがあってのことだろうけど、私にはそんなの関係なかった。




お兄様に会えるのだ!




私を救ってくれた人間。

能力のせいで忌み嫌われていた私に、身内以外で唯一手を差しのべてくれた『初めての兄』。

できれば早くお兄様に会いたかったけど、お姉様が許してくれなかったし、霊夢にも止められたのだ。不満だったけど『紫苑さんの怪我がある程度治るまで待ちなさい』って霊夢が言ってたから我慢した。

我慢したら誉めてくれるって咲夜も言ってたし!


だから、お兄様の背中を見付けた瞬間、なにも考えずに飛び付いた。


「お兄様♪」


「ふ、フランか……いきなり飛び付くのは危ないぜ?」


「ご、ごめんなさい……」


確かにお兄様は麦茶を溢しそうだった。

すぐに謝ると、お兄様は私の方を向いて頭を撫でてくれる。暖かい手の感触が嬉しくて、私は無意識に羽をパタパタさせていた。


「よしよし、ちゃんと謝ることができたのはえらいぞー。今度からは回りを確認しろよ?」


「うん!」


「知ってるぜ。紫苑はロリコンって言うんだろ?」


「魔理沙シャラップ」


ろりこん?って何なのかな。

よく見ると金髪の女の人と狐の人が羨ましそうに私を眺めていた。お兄様に頼めばしてくれそうなのに、どうして遠慮してるのかな? あと緑色の女の人が怖い。


「ところで俺に用事があって来たんじゃないのか?」


「あ、そうだ! お姉様が呼んでたよ」


「………」


「幽香、ついて来なくていいから。呼ばれてるなら行かなくちゃな……フラン、案内してくれる?」


「わかった」


緑色の女の人――幽香?が立ち上がろうとしたのをお兄様が制止して、私の右手を左手で繋ぎながら金髪の人に言う。

幽香は複雑そうな顔をしていた。


「ちょっとスカーレット姉のところに行ってくるわ」


「お気をつけて」


ん? もしかして金髪の人って『幻想郷の賢者』なのかな?

お姉様が胡散臭い人だって言ってたけど、そんなに怪しそうな人に見えないなぁ。お兄様のことを本気で心配してるようだし、とってもいい人に見える。

霊夢と魔理沙が手を振って見送ってくれたので、私は手を振り返しながらお兄様と並んで歩く。


「スカーレット姉……レミリアは何で俺を呼んだのか聞いてるか?」


私は歩きながら質問するお兄様に首を振った。


「理由は聞かなかったよ。お兄様に会えるし!」


「そっかー」


もしかして困ってるのかなと不安になったけど、お兄様はそこまで気にしている様子はなかった。


お姉様は優しいからね!

きっとお兄様と仲直りしたいんだよ!




   ♦♦♦




side レミリア


「なぜ妹様を向かわせたのですか?」


「私よりもフランの方が警戒されないでしょ?」


美鈴の素朴な質問に主らしく堂々と答えたが、本音は私が赴いたらボコボコにされる運命が見えたからだ。

『誰にやられるのか』までは分からないが、遠くから見て目から光が消えているあの花妖怪が犯人になるのではないかと推測。

噂で聞いたことのある四季のフラワーマスター・風見幽香。幻想郷でも五本の指に入るほどの猛者と噂されている彼女ですら、あの男が関係しているとは予想外だった。

さすがおじいさまの盟友とでも言うべきか。


夜刀神の評価を上げていると、パチェと目が合う。

本の虫で大図書館とか呼ばれる昔ながらの友人は、ジト目で釘を刺してきた。


「レミィ、分かってるんでしょうね?」


「う、煩いわね。分かってるわ」


あの騒動の後、紅魔館で彼に対する今後の関係を話し合った結果、『彼と友好関係を築く』ということが決まった。何よりおじいさまの遺言でもある上に、なぜか懐いているフランや咲夜までもが彼側についたことが決定打となった。

そもそも相手は帝王が認めた人間。敵対関係を貫くほど私は愚かではないし、ぶっちゃけ敵対したらフランに嫌われそうな気がする。彼のところへ行って来てと頼んだときの妹は誰よりも輝いていた。

ちょうど先日に紅魔館へ様子見に来た博麗の巫女に頼んで、宴会で謝罪の仲介を頼んだのだけれど……。


パチェが心配しているのは『ちゃんと私が謝罪できるのか』だ。謝ることなんて人間の子供でもできることだが……果たして、その時になった時に謝れるだろうか? プライドが邪魔しそうな気がしてならない。

まだまだ私も子供なのだろうと己に呆れていると、別方向を見ていた咲夜が報告する。


「お嬢様、紫苑様がお見えに」


「「「!?」」」


私やパチェ、美鈴が急いで姿勢を正し迎えの準備をする。違和感のないように吸血鬼としての矜持を保ちながら、おじいさまの旧友を待つ。

そして――






「そーれ、肩車だぞー」


「わぁ! 高い高い!」






フランを肩車したや夜刀神が現れた。

物凄く楽しそうである。似ている部分などないはずなのに、本当の兄妹に見えるから不思議だ。

夜刀神は私を視界に捉えると手を挙げて挨拶をした。


「あ、スカーレット姉こんばんは。で、殺し合いを所望?」


そして帝王の友人は壮大な勘違いをしつつ、とても馴れ馴れしそうに聞いてきた。さらっと『殺し合う』ことを前提に聞いてくるあたり、彼が本当に普通の人間なのか疑問に思えてくる。ぶっちゃけ私の知ってる普通ではないと思う。

私はプライドを損なわないように意識しつつ、しかし相手に不敬だと思われないような態度で話す。


「私たちはお前と戦いに来たのではない事を先に言っておこう」


「そうなの?」


「お姉様はお兄様に謝りに来たんだよ」


「マジで?」


「ちょ――」


威厳をもって夜刀神と語っていたが、妹がまさかの暴露。言っていないのにバレた!?

美鈴は苦笑いを浮かべ、咲夜は目を背け、パチェは笑いを必死にこらえている。とりあえずムカついたから美鈴の給料は来月までカットしておこう。


そんなことを知ってか知らずか、夜刀神は心底不思議そうに首をかしげていた。


「俺、なんか謝られるようなことしたっけ?」


「お姉様がこの前、お兄様にひどいこと言ったでしょ? それについてちゃんと謝って仲良くしたいって、みんな思っているの!」


フランが私の言いたいことを、言わなくてもいいことまで織り交ぜて夜刀神に伝えた。フランには伝えてないのに。

穴があったら入りたい気分だ。

しかし夜刀神の反応は私の予想の斜め上を行った。


「スカーレット姉の言ったことは正論だろ?」


「「「「「え?」」」」」


「ぶっちゃけ俺の発言の方が煽っているようにしか聞こえないし、家族の問題に首突っ込んだのも俺が悪いだろうよ。俺部外者だぜ? いきなり武器を突き付けてきたのは……あっちではいつものことだし謝られる要素は何一つないと思うけど」


「しかし! お前は私に――」


「俺は敵意を向けてきた奴らには容赦しないつもりだけど、ここは幻想郷だぞ。俺の住んでた街ならいざ知らず、ここで殺し合いするわけないじゃん。弟子が作った世界のルール守らないで、どうやって師匠名乗ればいいんだよって話」


なんだろう、この笑っている男と話していると調子が狂う。

つかみどころがなく、威圧してもどこ吹く風のごとく躱され、相手の行動を肯定しつつ自分の意見も述べる。そして力は桁違い。ある意味では『幻想郷の賢者』と似ているようで非なる存在。胡散臭さがない分、本当に厄介な相手だ。


そんな私の考えを知ってか知らずか、フランに催促されて私達の輪に入ってきた。それを咎めるつもりは一切ないけれど、なぜ輪にいることに違和感がないのだろうか。


「ちょいと隣失礼するよ。あ、紫色の魔女さんお久しぶり」


「パチュリー・ノーレッジよ」


「んじゃあ、パチュリーさんでいい? 魔理沙から『たくさんの本持ってる紫もやし』って聞いたから、読書好きの身としては会話したかったんだよ」


「後で魔理沙をシバくとして……貴方、本に興味あるの?」


パチェと会話を始めた。

本が好き、という言葉で親友も興味を持つ。パチェは本が好き過ぎて、宴会に誘っても中々出たがらなかったぐらいだ。だから先程まで不機嫌だったのだが……。


「うちにも本があるけど、図書館レベルの蔵書を持ってるって耳に挟んだから、ぜひとも本を借りたいと思ってさ。あっちの世界で魔術師共から押収した魔導書とか読み始めて本好きになったし――」


「外の世界の魔導書、ね。それは見せてもらいたいわ。他にどんな本を持ってるの?」


「薬学書とか政治学系統の本、哲学・数学の教科書やら兵法書の原本まで揃ってるぜ」


「――いいわ、図書館の本を貸してあげる。その代わりとはなんだけど、貴方の蔵書を貸してちょうだい。私の図書館は現世で幻とされた本しか置いてないから」


「そうなのか。俺の本でよければいくらでも貸すぞ」


何かしら、この疎外感。

今までにないくらいパチェが楽しそうだ。幻想入りしていない本を持っているということで、紫紺色の瞳をキラキラさせていた。


「――とにかく! この前は申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい」


「律儀だなぁ」


個人的には置いてけぼりに納得いかないけど、なし崩しに謝ることでこの前の件を終わらす。私がこの疎外感に堪えられない。

パチェが『話のいいところで邪魔するな』という視線を向けていたけれど……謝れって言い出したの貴女でしょ? 私悪くないわよね?

すると、夜刀神は手を差し出してきた。握れということだろうか?


「ほれ、仲直りの握手」


「え、えぇ」


「これからもよろしくな、スカーレット姉」


「その呼び方をやめなさい、夜刀神紫苑」


握手を交わす私と夜刀神。

そして彼の中から僅からがら亡き帝王の妖力が感じ取られた。懐かしくも力強い、圧倒的王者の妖力。

だからだろうか。男の手は大きくて暖かく――おじいさまに似ていた。






「お兄様、肩車して!」


「紫苑、魔導書はどんな種類が……」


「紫苑さん、ところで格闘術を嗜んでいると聞いて」


「紫苑様、こちらの料理はどうでしょう?」


私より人気なのが腹立つわ。





紫苑「『幼女視点の心情描写難しい!』って作者が言ってた」

フラン「そうなの?」

紫苑「難しそうな熟語とか使いにくいから、どうしても文字数が減るって嘆いてたぜ。その点、姉の方は書きやすいって」

レミィ「ふふ、それは私が大人だからよ。私視点なら詩的な描写を展開――」

紫苑「どっちもガキなのに不思議だよな」

レミィ「オイ」

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