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東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】  作者: 十六夜やと
2章 紅霧の宴会~始まりの物語~
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17話 会えたなら共に笑おう

『妖力は簡単に増えるものではない』なんてことは私でも知ってる。


そもそも妖怪の強さは重ねた年月か認知度に比例する。当時の私は『妖力の反復使用』か『時間の経過』ぐらいの方法でしか、妖力は増えないものだと考えていた。実際、その時代にいた大妖怪の大半は数百年の時を生きる者がほとんどだったからだ。




だからこそ、師匠の言った『格上の妖怪を倒す』という方法に驚いた。




『いわゆる経験値みたいなもんだな。もちろん格下を倒したところで成長はしにくい。俺の友人から聞いた話で、半妖だったアイツもその方法で強くなってたし、効果的だとは思うぜ?』


『アイツ、ですか?』


『中途半端な妖怪にも関わらず、能力だけで格上の奴を遠慮なしに斬り殺して、一年そこらで大妖怪レベルの力をつけた化け物さ。まぁ、他の妖怪から警戒されやすくなるから、殺りすぎは禁物だぞ』


格上の妖怪を倒す。その方法なら半妖ですら最強クラスになる。

言葉で表すには簡単だったが、実際にやってみるとなると怖かった。

それでもやる決心がついたのは師匠がそばにいたからだった。




その日以来、私と師匠は各地を歩き回って妖怪の集団と戦った。

無差別に戦うのではなく、私よりも格上――それも悪行を働いている妖怪を狙って殺し回った。

師匠が側ににいたとしても、戦うのは私だったから負けることもあった。いや、負けることの方が多かった。

そのときは私のスキマか師匠の能力で逃げ、また戦うことの繰り返し。


『いやー、負けた負けた! あの妖怪、見た目によらず強ぇな!』


『すみません……私が至らないばかりに、師匠まで怪我させて……』


『気にすんなって。切り替えて対策練ろうぜ』


『はい!』


師匠との模擬戦も修行として行った。

ある意味、大妖怪よりも化け物じみた動きや攻撃を行う師匠は、私が格上の妖怪を相手にする上で重要な経験となった。回避不可の理不尽な攻撃も繰り出してくるけど。

それだけでなく、休憩時に知識も教えてくれた。


『師匠が怖いものって何ですか?』


『人間』


『え、でも――』


『そりゃ紫が考えてるように人間ってのは妖怪よりも遥かに弱い生き物だ。でもな、アイツ等ほど残虐な思考を持つ生命体は存在しないぜ? なまじ知性があるってのは想像してるより厄介なんだ』


『なるほど……』


こうやって、私は着実に強くなっていった。

たった一ヶ月で中級レベルの妖怪になったけれど、師匠は毎日口癖のように言っていたわ。


『決して驕るな。臆病であれ』


『………』


『どれだけ強くなっても、上には上がいるんだよな。紫、忘れんなよ。驕り油断する奴に未来はない』


『……はい』


数百年後に私は驕って月に戦争仕掛けて返り討ちにあったときもあったし、師匠の言うことは的確に当たっていた。

彼の言うことに間違いはほとんどなかった


『師匠の言うことには間違いはないですよね』


『絶対性はないがな。だからって思考放棄するんじゃねーよ? まぁ、失敗の実体験ほど説得力のある言葉はない』


そう言った彼は懐から懐中時計を取り出した。師匠は考え込むときは時計を弄る癖があった。

この頃は何なのか分からなかったけど、師匠の表情はどこか寂しそうだったのは今でも覚えている。




私が師匠と出会って2か月経った頃。

私が負けることが前より若干少なくなるくらい力をつけた頃。いつもどおり妖怪のアジトを襲撃して殲滅した後、アジトを見て回っていた私たちは、とある母屋の中で縄で縛られた緑髪の少女を見つけた。生きているかわからないほど衰弱している、私と同じくらいの中級妖怪だった。

師匠は少女の頬をペチペチ叩きながら反応を見る。


『おーい、生きてるかー?』


『……何?』


『お、生きてた。どうしてこんなところにいる?』


『……強くなるために』


少女は赤い瞳で師匠を睨み付けた。

どうやらこの少女も私たちと同じようなことをしていたようだ。師匠がいて初めて中級妖怪になれた私とは違って、この少女は一人で妖怪の集団を襲撃したらしい。

少女の睨みも師匠にはどこ吹く風で、あっさりと縄をほどいて解放した。母屋から出ながら、師匠は緑髪の少女の説明を聞いていた。


『んで、返り討ちにあって捕まったと』


『………』


『ここの妖怪は力押しでは厳しい相手だからなぁ。あ、ところでお前の名前は何?』


『……風見幽香』


『そうか、なら幽香。俺達と一緒に来ないか?』


手を差し伸べる師匠に、少女は怪訝な表情をする。

反対に師匠は笑顔だった。


『向上心のある奴は好きだぜ、俺。俺もこの弟子を絶賛育成中だから、この際一緒にどうかなーって。失うものはなくとも、得るものはあるんじゃないか?』


『どうして私が人間なんかに――』


その時だった。私たちの前に4匹の大妖怪(・・・)が現れたのは。

各地を転々としては妖怪の集団を殲滅していた私たちを狙ってきたらしい。ここに留まっていた時間が長かったために起きた不幸だった。

目を見開く私と幽香だったが、師匠は呆れ肩をすくめていた。


『……紫、幽香をつれて逃げろ』


『で、ですが相手が大妖怪では……!』


『大妖怪? あの程度が(・・・・・)? ……まぁ、最近あのアホと遊んでない(ころしあってない)し、肩慣らしついでに――喜劇と洒落込もうか』


仕方なく私は幽香をつれて逃げた。

幽香も抵抗することはなかったわ。相手は大妖怪だし、実力差が決定的に違う相手と無駄に戦うほど彼女は馬鹿ではなかったから。


そして――私たちは目にした。

師匠の全力を。

人間が持つとは思えない力を。


大嵐が森の木々を薙ぎ倒し、人間の体から出されたとは思えないくらいの剛力で敵を殴り飛ばし、己の身体が傷ついても即座に修復させ、敵を森ごと焔の柱で焼きつくし、数千の黄金の剣で敵を切り裂き。

まるで師匠が語っていた『神話』を体現したような光景。

私たちはその雄々しくも戦う師匠に魅入っていた。


『これが……師匠の強さ……』


『……凄い』


一時間後には焼け野原となった森には、大妖怪だったと思われる肉塊と、血を流しながらも立っている師匠だけが残っていた。彼は一息ついて自分が作った光景を無表情で見ていた。

私は師匠に駆け寄った。幽香もあとからついて来る。


『師匠っ!』


『――紫か。大丈夫か?』


『私たちは何とも……でも師匠が!?』


『久しぶりに派手に暴れたわ。アジト殲滅に妖怪4体の相手……もう疲れた。寝たい』


そのまま師匠は地面に寝転がった。

地面が汚れていることを気にせず、仰向けになって倒れる。

それを見下ろす赤い瞳。


『………』


『幽香も大丈夫だったか?』


『……貴方についていけば、私は強くなれるの?』


あの光景を見て幽香も考えを改めたのだろう。彼が人間の枠に当てはまらない猛者であると。

期待と尊敬の眼差しで師匠に問う。


『知らん。どうなるかはお前次第だよ。俺は補助するだけ』


『……分かった。貴方についていく』


『そっかそっか。俺は夜刀神紫苑、コイツは八雲紫。短い間だけどよろしくな』


私は幽香に頭を下げた。

幽香もぶっきらぼうに自己紹介をする。


『私は風見幽香。花の妖怪よ』


『……ほぅ、花の妖怪であるにも関わらず、強さを求めるのか? 別に悪くはないけどさ』


『花を守りたいから、私は強くなりたい』


『なるほど。俺も花は好きだし、俺の名前もキク科の植物が由来だしね』


『……そう』


幽香は心なしか嬉しそうだった。

こうして私に弟弟子ができた。弟弟子とは言っても同じくらいに生まれたらしい妖怪だったから、そこまで畏まるような関係ではなかったけどね。


『師匠は私と寝るの!』


『あら、私が先だったじゃない』


『俺は一人で寝たいです』


『私が早かったわ!』


『昨日も貴女だったじゃないの。今日は私が』


『俺の話を聞いてください』


仲が良かったわけでもないし。






「なんか……驚くことが多すぎて……」


「まぁ、そうよね。質問は後にして、私と幽香は師匠からいろんなことを学んだわ。そして半年経つ頃には2人とも上級妖怪レベルの力をつけたのよ。すっごく苦労したけど」


「その割りには楽しそうに話すじゃない」


「えぇ……楽しかったわ。――けど、長くは続かなかった」


「? どうし――あ」


「時間切れってことよ」






師匠と出会って約半年のある日。


起きると近くに幽香が眠っていた。

けど、師匠がいなかった。師匠が急に居なくなることなんて今までもあったし、そのうち帰ってくるだろうと普通は思う。けど、今日はなぜか嫌な予感がして私は幽香を叩き起こした。


『ねぇ、幽香。師匠は?』


『……あっちよ』


叩き起こされて不機嫌な幽香は自分の能力――花々とコンタクトを取って師匠の場所を特定した。森の中だからこそできた芸当だ。

二人でその場所に行くと、やけに開けた場所に師匠は大きな岩の上に座って、刀の刀身を眺めていた。朝日が森の木々から差し込み、師匠を神秘的に照らしていた。


『師匠、探しましたよ』


『いきなりどっか行かないで。探したじゃない』


『――紫、お前と会って半年。幽香、お前とは4か月だったな』


何故そんなことを今聞くのかと困惑する私達に、刀を鞘に納めた師匠は私達と目を合わせた。

優しさに満ちた瞳には、不思議と悲しみも感じられた。


『お前ら、強くなったよ。俺が教えることはもうないだろう』


『そんなことはありません! まだ教えてもらいたいことが……!』


『ははっ、そう言ってくれると嬉しいぜ』


師匠は岩から降りて、私達に近づいて――手を差し伸べた。

私と幽香は意味が分からす、とりあえず手を掴もうと――






『けど――もうお別れだ』






した師匠の手が結晶化(・・・)して壊れた。






『『……え?』』


『言っただろ? 少しの間、って』


『な、んで』


『在るべき場所に帰るってことさ。つまり俺は消える』


パリパリと音をたてながら腕から消えていく。

結晶は光となって空に浮かび上がり、欠片は零れる水のように消えていった。それを畏れもせずに受け止めている師匠は――自分がこれからどうなるのか分かっているのだろう。

それでも私たちは納得できなかった。


『そんな! だって……』


『ふざけないでっ!』


叫ぼうとしたとき、怒鳴ったのは隣にいた幽香だった。

物凄い形相で師匠に詰め寄る。


『え? いや、ふざけてるつもりはないけど』


『私は貴方から様々なことを学んだわ。でも、私は貴方に何も返せていない! なぜ消えようとするの!?』


『んなこと言われたって。俺にはどうしようもないし』


我儘を言う子供にどう対処するか悩む親のような顔をする師。

脚も消え始めた師匠は少し悩んで、思い付いたように言った。


『出会いあれば別れあり――人間と妖怪なんざ寿命がそもそも違うし、遅かれ早かれ別れるのは当然だろ? 異種族が共存なんてできるはずもないさ』


『妖怪と人間は共存できます! だから消えないで……!』


『……面白いこと言うなぁ。それじゃあ、紫に宿題を出そうか? ――人間と妖怪が共存出来る、そんな戯言みたいな世界を作ってみなよ。そしたらお前の願いを出来る範囲で叶えてやるさ』


『へ?』


『幽香――何人よりも強くあれ、何人にも負けぬ身であれ。そうすりゃ、また会ってやるよ』


笑顔で課題を出す師匠に、私と幽香は唖然とした。

後から考えれば、私達は想像以上に師匠に依存していた。そのことを彼が知っていたはずだし、生きる目的を与えてくれたのかもしれない。


もう顔しか残っていない師匠は、最後に言った。






『与えられた課題くらい……ちゃんとこなせよ? また会った時に達成してなかったら拳骨喰らわせてやる。できてたら褒めてやる』






『そんなわけで、また会えたなら共に笑おう(・・・・・・・・・・)






そうして師匠は完全に消えて、光の粒は舞い上がった。

残されたのは――師匠が持っていた懐中時計。私はゆっくりと師匠が消えた場所まで歩み寄り、その懐中時計を拾って胸に抱きよせた。




そして私は泣いた。

幽香も泣いた。




泣いたあと、私たちは別れた。




幽香は強く在るために。

私は世界を作るために。





紫苑「シリアスもこれで終わりか」

幽香「この物語はシリアス多めじゃない」

紫苑「だからコメディ入れたいんだよなぁ」

紫「日常編なら存分に入れられるかと」

紫苑「そして異変になるとシリアスに戻る」

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