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3 花顔柳腰 (かがんりゅうよう)

 花顔柳腰(かがんりゅうよう)

 四文字熟語。

 意味――花のように美しい顔と、柳のように細くしなやかな腰。

 そんな麗しい女性のたとえ。

「もう! 暴れん坊なんだから」

「……ハアハア」

「こういうの初めて?」

「……ハアハア」

「力抜いてよ。うまくできないじゃない」

「……ハアハア」

「痛くないでしょ? ほら、じっとして」

「……ハアハア」

「そんなに激しく動かさないで……」

「……ハアハア」




「だ・か・ら・暴れんなって言ってるだろうが!」


 

 とうとう隼人は美少女に捕まった。約三キロ続いた謎の鬼ごっこも、ようやく終止符(しゅうしふ)がうたれた。

 後ろから羽交(はが)()めにあい、息は乱れ、抵抗する力はこれっぽちも残っていない。美少女と目が合うと(大人しくしろ)と(うった)えかけているようだった。

 隼人は、されるがまま美少女に体を預け、目を(つむ)る。そして(なぜ? こんなことに……)三度(みたび)思い返す。

 


 よく晴れた7月初旬。西日照りつける放課後。

 隼人(はやと)帰路(きろ)につく途中、買い物がてらに商店街へ立ち寄った。いつもの帰り道よりだいぶそれてしまうが、寄りたい場所があったのだ。

 それは、ひいきにしている作家の、ライトノベル(ファンタジー小説)の新刊を手に入れる(ため)だ。


 田舎町の商店街は夕飯の買い出しだろうか、随分(ずいぶん)と人で(あふ)れていた。

 派手な看板のドラッグストアーを過ぎると、隣の店からうなぎの焼けるいい匂いがした。うなぎなんて年に一回食べれるか食べられないかぐらいだ、(にお)いだけでも――クンクン。


 そんなこんなしてると、目的地の本屋が見えてきた。

 店内に入るとすぐお目当ての物は見つかり、意気揚々とレジに並ぶ。

 そこでふっと、違和感(いわかん)に気づく。どうも誰かに見られているようなのだ……というか、モロに見られていた。

 隣のレジに並ぶ列から、美少女が、こちらの列にはみ出るかのように覗き込んでいる。

 視線は明らかに隼人へと向けられていた。

 

 見つめてくる美少女の名は『花園仁和(はなぞのにわ)』隼人とは隣のクラス。女子高生だ。

 少しカールした(あわ)い栗色の長い髪は、腰まで達していて照明を()び輝いている。

 美少女は完全に隣の列を離れ、隼人の目の前までやってくると、腰に手をやり下から見上げてきた。

 少し(うる)んだ大きな瞳に負けないほどの長いまつげが、二度三度パチリと鳴る。鼻筋の通った小さい小鼻は、ヒクヒクと動いている。ぷっくりとした薄桃色(うすももいろ)の唇は半開きだ。

 髪の毛からなのか、女性らしい柑橘系(かんきつけい)の甘い香りが隼人の心臓を加速させる。

 隼人は、おもむろに目をそらし目線を下げた。そのせいで涼しそうな白いワンピースから、美少女の胸元が見え隠れする。

 すると隼人の心臓は8ビートから16ビートにシフトチェンジしてしまった。

 なぜならその胸元は透き通るほど白く、()りっと彼女の(ナイスな)スタイルの良さを強調していたからだ……


「見つけた~~!」

 急に店内に(ひび)き渡る声で、隼人を指差し、花園が叫んだ。

 ん? 何事だ! 隼人はおもわず後ずさった。店内をキョロキョロと見回す。叫ばれたその相手が自分ではないと確認したかったのだ。

 されど花園は、後ずさった分の距離を埋めるべく、ジリジリと(にじ)みよる。

 そして花園は、幼い子供が物凄(ものすご)く欲しかったオモチャを買ってもらえたときのように、顔を紅潮(こうちょう)させ、不気味な笑みを浮かべている。

 

 隼人は(きびす)を返した。『逃げろ』と警鐘(けいしょう)が鳴っているのだ。

 今までの経験上(姉貴との)女性がこのような顔をしているときは、ろくなことがないことを一瞬(いっしゅん)(さと)った。

 買おうと手にしていた本は申し訳ないが、近くに設置された平積みコーナーに置いて、出口へ足を向ける。そしておもむろに走り出した。

 店の出口を抜け、一度振り返ると、美少女はいつの間にか木刀らしき(ぶつ)を持ち追いかけてきた。

「待て~」だの「人殺し~」だの奇声(きせい)を上げながら……


 なんだこれ……



 と、これが先程まで続いた追いかけっこの()こりなのだが、隼人はなぜ花園に追いかけられたのか、(いま)だにわかってない。目を(つむ)り思い返してみたが、さっぱりだ。

 

 そもそも隼人は、人に(うら)まれたり追いかけられたりするようなワイルドボーイではないのだ。

 学校でも目立つ存在ではないし、成績も(いた)って普通。人の悪口や陰口(かげぐち)も言う方じゃない。

 今、恨まれてるとするならば、三日前にラブレターを貰ったのに返事を待たせている『樫野由紀(かしのゆき)』くらいなものだ。もちろん申し訳ないと思っているが、恋愛初心者の隼人には考える時間が必要なのだ。


「ハアハア……隣のクラスの花園さんだよね? なぜ追いかけてくるの?」

 息はまだ上がっている。このまま地面に寝転びたい。それでも言葉を絞り出す。

 追いかけられた理由など、考えても見当がつかない。隼人は素直に問うことにした。

「わるかったわ……その――追いかけて……」

 隼人の腕をしっかりとホールドしながら、花園は小声で(つぶや)いた。すでに狂気(きょうき)じみた表情はなく、少し恥ずかしそうに(うつむ)いてる。

 どうやらとって喰おうという(わけ)じゃなさそううだ。

「逃げないから、その手を離してよ」

 隼人がそう告げると花園は、少し考えてゆっくりと腕を離した。


 気が付けば随分(ずいぶん)走ったものだ。商店街を抜け、閑静(かんせい)な住宅地に来ていた。田舎町なので、駅や商店街以外は、ほとんど閑静なのだが……この辺りまで隼人は足を運んだことがない。

 隼人は、立派な門構えの民家の先に、小さな公園を見つけた。

 そして迷わず歩き出した。

「ちょっと! 逃げないでよ」

「もう逃げないよ。公園にベンチがあるかもしれないから」

 隼人は目的の公園を指差す。そして――

「誰かさんのおかげで、ヘトヘトなんだ。話はその公園で聞くから、座って休ませてくれ」

「だから……わるかったって……言ってるじゃない……」

 聞き取れないほどの小さな声で、一応(いちおう)(あやま)っているのだろうが、隼人は無視して歩き出した。


 隼人は公園に着くと二人掛けのベンチに腰を下ろした。少しばかり土汚れがあったが気にしない。そんなことよりオーバーヒートの両足を休ませたかったのだ。そのまま後ろにもたれ「はあ~」と空を(あお)ぎ見る。青々と(しげ)った銀杏(いちょう)の葉が一枚、ひらひらと風と遊んでいた。

 花園は、座る隼人の前に立ち、()ねるように木刀で地面をえぐっている。

 

 隼人はようやく汗も引き落ち着いてきたが、(ねば)っこい唾液(だえき)(のど)(かわ)きを知らせる。

 見上げていた顔を正面に戻すと、見つめる少し先に、古そうな自動販売機を見つけた。制服の後ろポケットから財布を出し小銭を取り出した。

「俺、コーヒー。甘くないやつ」

 花園の手に小銭を落とす。もちろん二人分だ。

「……」

 花園は小銭とにらめっこしながら動こうとしない。

「もう逃げねえよ。いいから買ってきてくれ! 喉が渇いて死にそうなんだよ。花園さんの分も買っていいから」

 花園は往生(おうじょう)したのか、軽く(うなず)くとスタスタと古そうな自動販売機へ(あゆ)みだした。

 戻ってきた花園から手渡された缶コーヒーは、いまどき珍しい250㎖缶だ。甘くないやつと言ったはずだが……生乳(せいにゅう)たっぷりと書いてある……

 買ってきて(もらった手前(てまえ、文句は言えない。大人しくこれで我慢するしかない。

 プルタブを起こす。そして勢いよく口に(ふくんだ……めちゃくちゃ甘い……ここは素直にスポーツドリンクにしとけばよかった……


「飲まねえの?」

「飲む。開けて」

 花園が缶ジュースを差し出してきた。

「はい???」

「開け方が分からないの……」

「マジか?」

「マジよ!」

 (うそ)ではなさそうだ。しかし缶ジュースを開けられない女子高生がこの日本にいるのだろうか……それでいいのか花園よ……


 隼人は仕方なく受け取った。 

『20%つぶつぶオレンジ』なかなか良いチョイス!

 缶を開け手渡してやる。

「ありがと」

 花園は(のどを鳴らし飲み始めた。なんだよ喉渇(のどかわいてたんじゃん。


 しばらく二人して喉の渇きを(うるお)した。


「で、花園さんの目的はなに?」

 隼人は目の前に立ち(くし、つぶつぶオレンジの、つぶつぶを口元にくっつけている花園に話しかけた。

 しばらく、空になった缶ジュースを物惜(ものおしそうにみつめていた花園だったが、両腕を空へと向け「ふわ~」と伸びをしている。

 そして。

「もうやめた! 猫かぶるの疲れる!」

 花園はスタスタと隼人の隣を陣取ると、(わきの地面に空き缶を置いた。ベンチはさほど広くない。二人で座ると肩がぶつかってしまう。

「ちょ! 花園さん! 近い近い!」

 隼人は、その近さに耐えられず、立ち上がろうと投げ出していた足を引き力を込める。


「待って! 動かないで! 食事させて! いや……違った、目を(つむって!」

 ふぁ? 目を瞑れだと? 木刀を背中に刺したやつの前で? 美少女はなにしてもいいってか?

「断る!」

「なんでよ~?」

「木刀で殴られるかもしれないからだよ! 考えてもみろ。意味も分からず追いかけられて、目を瞑れだと! 怖すぎるだろ」

「それもそうね……でもあなたに拒否権はないわ! ほら! 殴らないから、目を瞑りなさいよ!」

 花園は背中の木刀を投げ捨てた。『これでいいんでしょ!』と、(うなずいている。 

 顔は真剣そのもの、瞳も揺らぐことなく隼人を見つめている。

 隼人は覚悟を決めた! 仮に花園に殴られたところで、素手ならば、大事故にはならないだろう。

「わかった! いや、わかってないが目を(つむるよ。いつまで瞑ればいいんだ? 花園さんがいいと言うまでか?」

「う、うん……それでいい」

 隼人はゆっくりと目を閉じた……


 ん? んんんんんんん???

 


『ちゅっ! ちゅ~~! はむはむはむ! ちゅ~!』



 な? な? なんですと~~~~!?


 隼人はたまらず目を見開いた。なんと花園はベンチに座る隼人の(ひざにお尻を乗せて向かい合い。両腕は首に絡まり、見事なおっぱ……胸はこぼれそうに押しつぶされている。

 そう今まさに隼人は公園のベンチで抱きしめられていた!

 この世に、こんなにも柔らかでとろける感覚があるものなのか! と感心してしまうほど強く強く抱きしめられていた。

 隼人は混乱(こんらんした。この身動きの取れない状況を把握(はあくするまでの数秒間は、永遠にも感じられるほどに……

 顔全体が燃えるように熱い。特に(くちびるはすでに溶けてしまったような感覚がする。


 隼人は、人生初めてのキスを……つまり、正真正銘(しょうしんしょうめい、唇を奪われていたのだ……

 目の前の花顔柳腰(かがんりゅうようと『ファーストキス』しちゃってるのだ。

 

 ちゅ~! はむっはむはむはむ! 


 しかも、吸い込まれたり、甘噛(あまがみされたり、舌を絡ませてきたりと、超上級キッス! 

 目を閉じて、一心不乱(いっしんふらんに、ちゅ~ちゅ~してる花園の顔は(たまらなく色っぽく、この世の全てを敵に回しても守ってあげたくなるほどに、とろける顔をしていた。

 

 意識が遠くなる……息継ぎは? どのタイミングですればいいのだろう? こんなことになるなら、姉貴(あねきにレクチャーでもしてもらえばよかった。きっと『実践ありで教えてあげる』なんて言うのだろうが……頭がクラクラしてきた……マジでやばいかも……このまま(されてもいいような気もするが……

  

 『プハ~~』

 

 巻きつけられた腕が(ゆるむ。花園はゆっくりと隼人の上から降りた。

 隼人とは対照的に涼しい顔をしている。

 

 おいおいおいおい! なんだこれ……


「花園さん……?」

 まだ心臓は早鐘(はやがねを打ちまくってる。それに追いかけられているときよりも体が熱い。

 ()(めぐ)る血流は下半身まで達し、()れ上がらせる。当然(とうぜん)、腰は引けてしまっていた。

「美味しかったわ! ごちそうさま!」

 そういうと花園は(れた口元を手の(こう(ぬぐう。

「今、なにしたの……」

「なにって、キスよ!」

「だ、だ、だから、なぜキスしたの……」

 ただ唖然と立ち尽くす(いろんな意味で)隼人の前で、花園は腰に手をやり、こちらも立ち尽くしていた。

 そして頭を一つ(いて「私たちの命に関わるからよ!」と意味不明な言葉ををぶちまけてきた。



――――――――――



 夕刻。閑静な住宅街の、とある公園。


 初めてのキスは、つぶつぶオレンジの味だった……

 

 あの衝撃的な『隼人のファーストキス事件』から、小一時間ほど経っていた。

 その(かん、花園から語られた真意(しんいは、とても信じられない『中二病全開ストーリー』だった。


「だ・か・ら・今の私は花園仁和(はなぞのにわの外見だけど、花園仁和じゃないんだって! 何度言わすのよ!」

「だ・か・ら・どう見ても花園さんにしか見えないって言ってんだろ! じゃーいったいお前は誰なんだよ?」

 こんな感じの一方通行が続いていた。


「あーもう、めんどくさい(やつ。 私は150年前に死んだ『バンパイア』よ! この子に呼ばれて憑依(ひょういしてるって何度も言ったでしょ」

「……信じられるか! そんな話!」

「信じるか信じないかはあなた次第です!」

「花園さん……真面目に話してるんですが……」

「私も真面目に話してるわよ!」

 隼人の、花園へ対するイメージが崩壊(ほうかいして、そして新しく構築(こうちくされてゆく。『痛い子』

 それでも、もともとタイプな可愛い顔に見つめられると、口元は(ゆるみっぱなしだ。

 今、こうして近くで話ができることに、隼人はどこか(なつかしさと、安堵感(あんどかん(つのらせていた。

 でも、バンパイアって……信じてあげたいが……バンパイアって……「プププッ――」

「なに笑ってんのよ!」

 笑うよ。声出して大笑いしたいよ。でもこれ以上突っ込んでると話が進まない。『なにその中二病設定!!!』とは言わないで隼人は我慢することに決めた。

 それに話に乗るのも楽しいかも! と思い始めていた。


「名前は? 花園仁和さんじゃないなら、名前くらいあるだろ?」

 さて、花園さんは、どう返す?

「……『ハニワ』よ! うん! ハニワでいいわ!」

「……ハニワって」

 どう考えても、『ハナゾノニワ』を(りゃくしただけだよね……安直(あんちょくすぎる……

「どうせ、借り物の体だし、私の本体は150年前に土に埋められてるし、ハニワって日本の土人形でしょ? 今の私にぴったりじゃない! それに響きもいいわ! ハニワ! そう呼びなさい!」

 てか、今思いついたのかよ……バンパイア設定妄想したのなら名前くらい用意しとけよ! これだから、妄想初心者は……にわかめ……


「で、ハニワは、何歳なんだよ? 150歳なのか?」

「う~ん……埋められたのが16の頃だから、16歳ね!」

「は? じゃー後の134年は何してたんだよ? 土に埋まってたのか? 体、腐るだろ~、それに土地開発とかで掘り起こされたりされないのかよ」

「あんたね! バンパイアをなんだと思ってるわけ? 魔族よ! 魔族! 肉体は失われても(たましいは消えないわ!」

 ほ~! だいぶ分かってきたぞ! 

 つまり150年間、彷徨(さまよったバンパイア少女の魂だけが、花園仁和へ憑依したと! で年齢は16歳だと! そういう設定なのね!

 まあそこまではいい。妄想は自由だ。よって恥ずかしくないのならば中二病とて自由だ。

 しかしだ! キスまではやりすぎじゃないか? 

 バンパイア=キス? いやいや関係性が見えない……なぜキスをした? あんなに必死になって追いかけてまで……

 たしか「私たちの命に関わるからよ!」花園はそう言った。私たち? それは隼人と花園のことなのか?

 

「質問いいか?」

「なに?」

「まずなぜ俺とキ、キスしたのか詳しく聞かせてくれ! その~設定を――」

「設定? なに言ってんの?」

「いやなんでもない。続けてくれ」

「まず私はバンパイア! ここまではいいわね?」

「ああ」

「じゃあ、バンパイアの主食はなに?」

「……血液か?」

「そう! 正解! じゃ~その血液はどうやって摂取(せっしゅ)する?」

首元(くびもと)(きば)を突き立てて吸い上げるんだろ?」

「一般的には、そうね! でもこれ見て」


 ハニワは、そういうと口を大きく開いて中を見せようとする。美少女の口の中を覗くなんて……なんだかムラムラするぞ。


「どう?」

「ん?」

「はあ~まだわからない? この子には牙がないでしょう」

「ああ! そうか! ん? 牙なかったら吸えないのか?」

「はあ~~~~~これだから素人は……バンパイアの牙はね、ストローみたいに空洞なのよ! それで吸い上げてるの! そんなことも知らないの?」

「知らねーよ! んなもん!」

「まあいいわ。牙がないから正規ルートでは血が吸えない。だからキスしたのよ!」

「――――??? は?」

「あんた、お馬鹿なの! この花園仁和の体で、血を吸うことが出来ると思ってるの? あんたならどうよ? 他人の体から直接、血を喉に流し込めるの? 気持ち悪くならない?」

 たしかに、人の血を喉に流し込み、胃袋に入れる……想像しただけで気持ち悪い。


「それでキスなのか?」

「そうよ! 唾液摂取(だえきせっしゅ)よ! 唾液には血液と同じ成分が混ざってるの! それを摂取したのよ! 私が、この子に召喚されてから三日! その間、血液を摂取してなかったのよ。あと少し遅れてたら私たちこの世から消えてたところよ!」

「でもよ! なぜ俺なんだよ? ファーストキスだったんだぞ!」

 男だって最初のキスはロマンチックにしてみたかった……見つめあい、甘い言葉をさえずり、女の子に恥ずかしそうに目を(つむ)らせ……それなのに、罵声(ばせい)()び鬼の形相で追いかけられ、挙句(あげく)まるで恋する少女のように、震えながら目を瞑ってしまった。やり直させろ~~~~。


「安心しなさい。おそらくこの子もファーストキスよ!」

「……」

 良く出来た設定だけどそこまでする?

「どう? これで信じられた?」

「まだだ」

「あんたって、ほんとめんどくさい性格ね!」

「まだどうして相手が、俺だったのか? という疑問が残ってる」

「はあ? どうしてって、あんたたちが恋人同士だからに決まってるでしょ! 私だってこの子の気持ちを()むわよ! 誰にでもキスなんてししないわ! 人だって輸血のとき、血液型が合わなければ死んじゃうでしょう。それと一緒でバンパイアにだって相性があるのよ! この体(花園仁和)の持ち主が選んだ人じゃないと」

 まてまて――恋人同士? 選ばれた相手? 

「俺は花園さんと話したのは今回が初めてなんだが……」

「え? それほんと?」

「ああ」

「そんなはずない! だって悪魔の書にあなた達のことかかれてたのよ!」

 悪魔の書? 今度はまた随分と……

「その悪魔の書とやらにはなんて書いてあるんだ?」

「それは――」

 


『ブルルッブルルッブルルッ』


 

「ごめん電話! この子の母親から! やばいもうこんな時間なのね」

 ハニワはそういうと電話に出た。うんうんと、頷いている。

 気が付けば公園の外灯(がいとう)にもいつの間にか明かりが(とも)っていた。

「ごめん帰らなきゃ。この子の両親が心配してる。続きは、また今度!」

「今度っていつだよ?」

「明日よ! 明日の放課後、ここで待ってる!」

「おう! わかった! あっ、それとほら」

 隼人はベンチ横に置いてある木刀をハニワへ投げる。ハニワは見事に受け取り微笑んだ。

「これ、中学の修学旅行のお土産らしいわよ!」

 たしかに修学旅行先の京都で木刀売ってたな。花園さんも買ったのか? それは少し笑えるな。

「ねえ! 最後にもう一度キスさせてよ!」

「すまん、今日は心がもたない……今度があれば、今度にしてくれ!」

「あははっ、わかったわ! じゃー明日!」

「ああ」

 

 走り去る謎の美少女『ナゾノ・ハニワ』『ハナゾノ・ニワ』を隼人は見えなくなるまで見送った。

 そして、またベンチに腰をおろす。

「はあ~~~~~~~~~~」

 長いため息を吐くと、自然と(まぶた)を閉じる。そして自然と、とろけた表情でキスをしている美少女の顔が浮かび上がる…… 

「ファーストキスはつぶつぶオレンジの味で、バンパイアで、燃えるように熱いものなんだな……完全に舐めてた! いや――舐められてた……ん? 俺はなに言ってんだ? はははっ――」

 もう笑うしかなかった。



―――――――――― 



 帰り道はどういうルートで歩いたのかさえわからない。気が付けば自宅のベットの上にいた。

 今日一日で隼人は少し大人になってしまった。

 朝は、姉に(ほほ)にキスされ! 昼は、同級生女子の神谷におでこにキスされ! 夕刻には、唇を奪われた。

 怒涛(どとう)の一日。

 興奮するなというほうが無理な話だ。

 先程から花園のキス顔が頭から離れない。

「今夜も眠れそうもないな……」

 実際、思い返すたび、熱い何かが全身を駆け巡る。無論(むろん)、それは下半身にも(およ)ぶ。

 だが『右手は封印(ふういん)』と隼人は固く誓うのであった。

  



――――――――――つづく。





 なんとか書き上げました……なほきです。

 今回は花園仁和ちゃんの衝撃発表がありました! 

 おいおい『バンパイア』って……しかも憑依してるって……なんだよ……ってなりました???

 皆さん! あきらめないで! ここからここから!

 まだラブレターのくだりとか! ほら残ってるし! ね! ブクマ! ブクマしましょ! 

 今回も読んでくださり、ほんとうにありがとうございます。

 無論、全開で尻尾パタパタですぜ!

 

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