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1 棣鄂之情 (ていがくのじょう)

 棣鄂之情(ていがくのじょう

 四文字熟語。

 意味――兄弟のうるわしい愛情。

 「棣」は庭梅のことで、「鄂」は花のがくにあたる部分。庭梅の花はがくが寄り添って美しく咲くことから――

「……ねえ~待ってよ」

「……ハアハア」

「んっ……もう少しゆっくり……」

「……ハアハア」

「そんなに急がないで……」

「……ハアハア」

「んっぁ……激しいよ」

「……ハアハア」




「だ・か・ら――待ちなさいってば~~! さもないと死ぬわよ!!!」



 純情無垢(じゅんじょうむく)な高校二年生の『上野隼人(うえのはやと)』17才 は、懸命(けんめい)に田舎町の商店街を爆走(ばくそう)していた。

 振り返ると美少女が鬼の形相(ぎょうそう)で追いかけてくる。


 7月初旬。一昨日(おとつい)まで続いた長雨(ながあめ)()み、久しぶりの晴れ間が、道端(みちばた)(いろどり)()えて()(ほこ)紫陽花(あじさい)達を、優しい光で照らしている。まさに梅雨晴れ。雨雲さえ今日は休暇(きゅうか)を取りバカンスに出掛(でか)けていそうな、そんな気持ちのよい午後。

 

 それなのに……それなのに……

 すでに全身は汗に包まれ、呼吸は乱れに乱れ、フルスロットルの両足は悲鳴をあげている。


(ハアハア――なんなんだよ~これ~)


 隼人は、この美少女に見覚えがないわけでもないのだが、知りうる情報量は少なかった。

 同じ近所の高校に通う同級生で、(となり)のクラス。そこそこ男子に人気がある。名前は……『花園仁和(はなぞのにわ)』確か中学も同じ学校だったような……そのくらいしか知らない間柄(あいだがら)だ。


 先に言っておくとかなりタイプではある。相当(そうとう)気になる逸材(いつざい)だ。顔も好みだが、定期的に回ってくる男子限定情報だと、この花園さん、かなり内気で照れ屋な性格と聞いており、隼人妄想(趣味)の中では、なかなかの高得点をたたき出している。ちなみに、三歩後ろを付いてくるようなそんな可憐(かれん)な感じを……


 それなのに……それなのに……

「止まりなさいよ~! じゃないと死んじゃうよ! この子、死んじゃうよ! この人殺し~!」

 内気な女の子だと? 照れ屋だと? どこがじゃ~それにその必死な顔……恐ろしすぎるよ……やめて……もうやめたげて……なにこれ……泣きたい……


 花園は右手に木刀らしき(ぶつ)を持ち、華麗(かれい)なフォームで追いすがる。

 逃げますよ! 逃げますとも! だって『死ぬ』だの『人殺し』だの(わめ)いてるんですよ! 正気の沙汰(さた)とは思えない。


 そもそも今日は寝起きからツイテナイのだ……女難(じょなん)(そう)でもツイテイルのか……


「待ちやがれ~こんにゃろう!」 

 だから……なにこれ……泣きたい……



――――――――――



 この日の早朝。


 隼人はまだ薄暗い時間帯に目が覚めた。枕元の目覚ましに目を配ると時刻は、AM4:00を指している。


「またあの夢か……」ひとりごちる。


 汗で濡れたTシャツが不快で、また(とこ)()く気にはなれなかった。

 (のど)(かわ)きに()えられず、のらのらと自室を出る。手探りで階段の手すりをつたい、一階へと降りる頃には薄暗さにも目が()れてきた。


 静まり返るダイニングキッチンに立ち入ると、シンク上の小さな窓から街頭のおぼろげな光が()れている。


 冷蔵庫横の食器棚から大ぶりのマグカップを取り出し、テーブルに置かれた瓶詰めインスタントコーヒーのキャップを開ける。そして、ざっとスプーン一杯程を入れるとポットのお湯を注いだ。(かさ)が増すにつれて透明(とうめい)のお湯が()げ茶色の液体に変わる。

 隼人はかき(かきま)ぜるのも面倒(めんどう)で、そのまま口へと運ぶ。鼻に抜ける(こう)ばしさを感じながら、先程まで見ていた夢を思い返す……


 隼人は一年前の夏休み最後の日、信号無視したトラックと接触した。そう交通事故にあったのだ。


 抜ける空。ヒリヒリと肌を()がす太陽。そして遠くで手を振る誰か……おそらく用事を済ませ別れた直後なのだろう……顔も容姿もぼやけてしまって、誰なのか思い出せない。

 信号が青へと変わる。足が交差点へ差し掛かる。視線はまだ見送る彼女を追っていた。暴走するトラックに気づきもせず。その直後事故に()う。視界がぐにゃりと(ゆが)む。そして、そのままブラックアウト……これがよく見る夢なのだが、うなされ起きるたび、あれは誰なのか気になって、こうしてまた考え込んでしまう。


 ん? 俺はなぜ彼女……つまり女性だと今しがた思ったんだ? 顔も容姿も分からないのに……


 あの事故を思い返すたびに必ず目頭(めがしら)の奥が痛み出す。


 隼人は分かっていた。これまでも事故のことは幾度(いくど)となく思い返していたが、ショックによる記憶の欠落(けつらく)は簡単には思い出せない。(こころ)みた結果は決まって頭痛によって邪魔(じゃま)される。そして思考(しこう)が止まる……

 

 二口目を(ふく)むと、ようやくコーヒーの味を(した)が思い出した。ついでに熱さも……

「アチッ!」思わず声が出た。


『ガチャンガチャガチャ』

 

 突然、玄関のほうから怪しい物音が(ひび)く。思わずコーヒーをこぼしそうになる。

 なんだ? なんだ? こんな時間に……隼人はマグカップをテーブルに置くと、(おそ)る恐るダイニングの扉をゆっくりと開け、体は残し顔だけを廊下に出した。


 すると暗闇の玄関から髪の長い女性が(くつ)をハチャメチャに脱ぎ捨てて、こちらへ向かってくる。

 何かのホラー映画で見たぞ! この光景! 張り付く髪で顔が見えない……力無き両腕をだらりとさせ、左右にゆらゆらと(やなぎ)の木が風になびくように、ゆっくりと近寄ってくる……まさか……お化け!?

 ――!!!!!?

「ギャーーーー!」

 隼人(はやと)大絶叫(だいぜっきょう)がこだまする。


「あー隼人だ~~なんで起きてるの~~? あと、うるさいよ~~ふにゃふにゃ~」

 ふにゃ~?

 少し鼻にかかる舌足(したた)らずな聞き覚えのある声。

「な、な、なんだよ! 姉貴(あねき)かよ! ビビらせんなよ!」

 お化けの正体は姉貴だった。隼人は、ほっと胸をなでおろす。


 『上野一恵(うえのかずえ)』20才(大学生)

 身内のひいき目を入れないでも(悔しいが)近所で有名な美貌(びぼう)の持ち主だ。

 肌の色は()き通る白さで、腰まで伸びた黒髪は絹糸(きぬいと)のようにさらりとしており、多少の化粧(けしょう)テクもあるだろうが、目鼻立ちもはっきりしており、見事な(出てるところは出て、引っ込むところは引っ込み)体躯(たいく)は、まるでパリコレモデルのようなのだ。(悔しいが)


 姉貴(あねき)と入れ替わりで入学した中学校では、在学中だった頃の姉貴の武勇伝(ぶゆうでん)(男絡み)を先生達から(いや)というほど聞かされていた。男子生徒半数以上は恋に落ちていたそうだ。

 おそらくかなりモテはやされたのだろう。そのせいか性格はわがまま(きわ)まりない……女王様気質というやつだ。


 無事正体も判明して、飲みかけのマグカップを取りに戻ると、すぐに自室に向かうと思っていた姉貴も、めずらしくダイニングに入ってきた。

 

「隼人~なに飲んでるの~~? 私にも頂戴(ちょうだい)よ~~」

 甘えた声で懇願(こんがん)してくる。家族にその手は通用しないのだ。誰でも優しくしてくれると思うなよ。

「自分でやれ!」

「隼人のくせに~~生意気(なまいき)だぞ~~? だぞ?」

 おいおい! 重いよ! 姉貴が後ろからコアラのように肩に手を回し張り付いてきた。それに、なぜ疑問形なんだよ……そこは生意気だぞ! と言い張れよ……

 くさ! こいつ……

「おまえ! また()ってんのか?」

 一恵は二十歳になった途端(とたん)、酒を覚えた……いや……(おぼ)れた。毎日のように飲み会や合コンに出かけている。

 バイトもしてないくせにお金は? 飲み代はどうしてる? いやいやそんな野暮(やぼ)なことは聞くまい。どうせ全て、それこそ足代まで、相手に出させてるのだろうから……全くいいご身分だこと。


「酔ってないよ~! 隼人こそお姉ちゃんの美貌(びぼう)に酔ってる? それともすでに泥酔(でいすい)してる?」

 はあ~馬鹿(ばか)な姉はタチが悪い……息がかかってんだよ……近い近い……

「何が悲しくて実の姉に酔わなきゃなんねーんだ! アホか!」

「えぇ~~! 酔ってよ! 私に酔いしれなさいよ~~」

 回された腕が、さらに強まる。

「そのセリフはあなたの腰巾着(こしぎんちゃく)に言ってくれ」

 隼人は巻きつく姉を引きずりながら無理やりソファーへと座らせる。一恵は(から)まる(うで)が外れると力なくそのまま横になった。それを横目に、再びマグカップを手に取り少し距離を置いて一口すする。


「隼人はいつになったら、また私に愛を(ささや)いてくれるの?」


 ゴホゴホ……むせた。ふくんでいた液体を吹き出しそうになる。唐突(とうとつ)になに言ってんだよ……

 一恵はソファーの上に並んでたクッションを寝たまま抱きしめて爆弾を投下し始めた。


「小さい頃は私の後ばかり付いてきたのに! 『お姉ちゃん愛してる』って言ってくれたのに! なんでなんで最近は言ってくれないの~~?」

「すまん昔のことは全く、さっぱり覚えてない。それにそのようなことが事実なら、きっとそれは俺じゃない」

 爆弾を打ち返そうと(こころ)みる。

「やだ~やだ~愛してるって言ってよ~~」

「断る!!! 弟にセクハラするな!」

「セクハラじゃないもん。愛だもん! にゃ~」

 一恵は招き(ねこ)のポーズで、おそらく隼人を招いている……何度も手招きしながら、にゃ~にゃ~と鳴く。

 しかし隼人(はやと)は知っていた。一恵(かずえ)は可愛らしい猫ではなくて、獰猛(どうもう)(とら)だということを……

「にゃ~じゃねぇよ。弟になに求めてんだよ」

「愛よ! 私は弟の愛が欲しいにゃ~!」

「わるいが(ほか)をあたってくれ!」

「なんでにゃ~!」

「弟に愛を求めるな!」 

「安売り中なのに! にゃ~?」

「愛を安売りするな!」

「ええぇ~! 大安売り中なのに! にゃ~?」

 一恵のしなっぷりは、芸術の(いき)に達している。これは身内じゃなければコロッと()ってしまうな……恐るべし上目遣い……小悪魔レベルではない! 大魔王サターンレベルだ!

「そうやって男どもを下僕(げぼく)にしてるのか! 俺は(だま)されんぞ!」

 そろそろ(なぐ)って(だま)らしてもいいだろうか?

「誰にも安売りしないもん……隼人だから大安売りするの! びゃ~」

 どうでもいいが、もう猫の鳴き声はやめたの? びゃ~って――もう()きてきたのね……


「はいはい。もうわかったから部屋戻れ」 

「まだお話するの~お水、お水ちょうらい」 

 ろれつ回ってないぞ。もうめんどくさいなー。

 隼人は食器棚から、グラスを取り出すと、冷蔵庫を開けミネラルウオーターを七分目まで注ぐ。

 そして少しだけポットのお湯を足してやる。冷たすぎるのも体に良くないとの配慮(はいりょ)だが、こういう気配りが一恵をブラコンに走らせる原因だと気付いていないのだ。

「ほらよ」

 一恵を起こし、グラスを手渡そうとした。すると一恵はぐるりと腕を背中に回し受け取らない。

「持てない。そんな重いの持てない。口移しで飲ませて」

 一恵は小鳥が親鳥に餌をもらうみたいに顔を上げ、目をつむり、口をぱくぱくさせている。両腕も体にくっつけて、ちゃんとパタパタと手首を振り羽の動きを真似(まね)ている。


 うぐっ……クソ……可愛いじゃねぇか……いかんいかん……


 隼人はぷるぷると頭を振り煩悩(ぼんのう)()()る。

「ここ置いとくぞ」

 (いま)だ小鳥のポーズの一恵を横目に置いて、静かにテーブルへグラスを置いた。

「もう! 隼人つれないぞ」

「大人しく飲め」

 ほんとこの酔っぱらいはタチが悪い……しらふの時はサバサバした性格なのに……姉貴(あねき)というより兄貴(あにき)に近いくらいなのに……こうなると隼人は、ほっとけないのだ。

 なんだかんだ言いつつも甲斐甲斐(かいがい)しくお世話(せわ)をしてしまう……隼人もまたブラコンなのだ。棣鄂之情(ていがくのじょう)そのものなのだ。


隼人(はやと)。そういえばラブレターもらった女の子に返事したの?」


 ぶしゅ~。


 一恵のさらなる爆弾投下攻撃炸裂。ついにコーヒーを()き出してしまった。

 えっ? えっ?

「なぜ! そのことを知ってる?」

 三日前の出来事だった。隼人は放課後、一人の同級生女子に呼び出された。そして人生初のラブレターをもらったのだが、そのことはもちろん誰にもしゃべってないはずだ……

「にっしっし! このお屋敷(やしき)にプライベート空間なんてものは存在しないのだよ!」

 おい! お屋敷って……なんの変哲(へんてつ)もない一軒家だろうに……って、ちがーう! そこじゃなーい!

「おまえ、勝手に人の部屋入ったな」

「そうよ。『マル()ちょっとHなグラビア集』の隠し場所も、おととい入荷した『激しいタイトルのDVD』の隠し場所も、すでに掘り当て済みよ! キリッ!」

 なんてことだ……

 隼人は穿(うが)たれた心臓を押さえ、その場に()()した。


「で、どうなのよ。その子と付き合ってるの?」

 一恵の目が流れ星のごとく(きらめ)く。

「……まだだよ。返事すら言えてない」

 ガサ入れされてたショックから立ち直れてないが、かろうじて声を(しぼ)り出す。

「女の子を待たせんじゃないよ。まったく」

「ラブレターなんてもらうの初めてで、恋愛経験もないし、俺もどうしたらいいか、わかんねーんだよ」

「そうなの? 私は幼稚園の時から(もら)いっぱなしよ! 初めて? (うそ)でしょ?」

 こ、こ、こいつ――くぬぬぬ。本気で(おどろ)いてやがる――くぬぬぬ。

 外面(そとずら)の良さで今の地位に君臨(くんりん)しているだけのくせに! 普段は焼酎(しょうちゅう)一升瓶片手(いっしょうびんかたて)に、あぐらをかき、(まご)の手で背中をバリバリ()いてるくせに! ばらすぞ、こんにゃろ!

 隼人は、まだソファーの上で子猫のようにクッションと(たわむ)れている一恵を見下ろし(こぶし)をワナワナと(ふる)わせていた。

 そんなようすもお(かま)いなしに一恵は――

「じゃー、隼人はキスもしたことないの? てことは、キスのその先もまだなの? ま・じ・で~~?」

「……ねえよ。キスもその先も、経験ねえよ! わるいか!」


 隼人が恋愛に奥手(おくて)になりつつあるのも、もとはといえば、目の前の恋愛破綻者(モテすぎて)の責任もあるのだが……同じ年のクラスの女子などは(さわ)がしいだけだし、子供っぽく感じてしまい、どうにも恋愛対象に見れないのだ。

 それに、一恵の整いすぎる顔を毎日のように見てる隼人は、よほどのタイプ(隼人的に)の顔じゃないと()えないのだ。

 まだある! 一恵のハチャメチャな性格のおかげ……せいで、奥ゆかしく、可憐(かれん)で、物静かな女性でないとレーダーが感知しないのだ。

 とにかく、この姉のせいで、隼人は恋愛べたになってしまった。


「わるくないわよ。初めては大事にしなさい」

 いつの間にか一恵はソファーの上で正座をして真面目な顔をしていた。

「よく考えて、ちゃんと迷って、答えを出しなさい。じゃないとその子にわるいわ。あと……あの子にも……」

 意味深(いみしん)な言葉を残し、とうとう電池が切れた。一恵は、そういうとソファーに倒れこみ寝息(ねいき)をたてはじめた。

 おいおい。こんなとこで寝たら風邪(かぜ)引くぞ。やれやれ――

「おい! 起きろ! 寝るなら自分の部屋で寝ろ」

 (みだ)れてあらわになったおでこを軽く(たた)く。

「ふえ~ん、痛い――連れてって! 隼人が連れてってくれないと動かない。絶対に!」

 いやいや……連れてってって……動く気ないだろ初めから――

 酔うとほんと人が変わったように、甘えん坊になるのな。やれやれ……

「ほら(つか)まれ。おぶってやるから」

 仕方なく。ほんと仕方なく。隼人はしゃがみこみ背中を差し出す。

「うにゃ~~! 隼人大好き!」

 一恵は勢いよく隼人の背中に飛び乗った。「進め~隼人丸~」背中で奇声(きせい)を上げている。

 耳元で相当(そうとう)うるさいが、うれしそうにしてるから、まっ、いいか。


 薄暗く足元がおぼつかないなか、ダイニングを出て玄関脇の二階へと続く階段の前にやってきた。

 相変わらず、一恵は隼人の背中で跳ね回っている。

「階段上がるから、少し大人しくしてろ」

 首だけ振り向き、なだめにかかる。

「うん♪ ぎゅうぅぅ~~」

 暴れ回るのは収まったが、今度は髪の毛一本も通らないくらいに密着(みっちゃく)してきた。

 すでに二歩ほど階段に差し()かっていた隼人は、足元に気を(めぐ)らせていたのに、背中の柔らかな感触にも神経を研ぎ()まさるをえなかった。

 う~ん……当たってるんだよな~。いくら姉貴とはいえ、女性の部分を当てられると、純情無垢な高校二年生は反応してしまうのだ……

 急に足元がおぼつかなくなる。手すりにつかまり、数にしておよそ十段、暗闇の(いただ)きを見つめる。

「隼人、どしたの?」

 隼人の真剣な眼差(まなざ)しに気がついたのか、一恵が心配そうに(のぞ)き込む。

 さらに顔が近づき、耳に一恵の吐息(といき)がかかり、ますます(おす)(さが)が目を覚ます……

「ちょ! 近いんだよ!」

「なに~~? 隼人、照れてるの? お姉ちゃんに、照れてるの?」

 こいつは……くそ~……

「ああ! 照れてるよ! わるいか!」

 (なか)ばやけくそで言い返す。

「ううん、わるくない。クスクス」

 一恵は、くすぐったそうに微笑(ほほえ)んだ。

「……」

 たかだか三年早く産まれただけなのに、この差は()めれそうにないな……恋愛豊富な姉と、不慣(ふな)れな弟……

 ようやく無事に階段を登りきり、隼人は(ひざ)に手をついて一息ついた。

 すると、スルスルと絡まる腕が(ほど)け、一恵は(ゆか)に足をつける。

「ここまででいいわ。もう歩けるから」

 そういうと一恵は、さっさと奥の角部屋(一恵の自室)へ歩き出した。

 (ひめ)を無事送り届けた勇者は、お役御免(やくごめん)のようだ。

「ったくよ~ほんとは自分で歩けるんだろうが~次は自分で歩けよ! もうおんぶなんてしないからな!」


「隼人のくせに生意気!」


 ちゅっ! ちゅ~~~~っ!


 隼人は油断(ゆだん)していた……(ひざ)から手を離し顔を上げた瞬間、こっそりと戻ってきた一恵に、キ、キ、キスされていた!!!


 ん?ん?

 

「おま――なっ――なにしてんだ~~~~~~!!!」

「べつにいいじゃない。姉弟なんだし。それにほっぺたなんだし」

「おま――おまえ――」

 隼人は右頬(みぎほほ)を押さえながら立ちすくむ。

 一恵はいたずらが成功してご満悦(まんえつ)微笑(ほほえ)む。少し顔が赤いのは気のせいか……

 ウィンクして一恵は「お礼よ。お礼。介抱(かいほう)してくた、お・れ・い!」

「なにがお礼だ! さっきおまえが言ったんだろう、キスとか、そ、そういうのは大事にしろって!」

 それなのに、初めての(ほほ)にキスが姉なんて……姉なんて……なんて日だ――

「私のキスはほっぺたでも高いのよ~~にっしっしっ、(おお)いにありがたりなさい!」

 呆然(ぼうぜん)とする隼人をよそに、今度こそ一恵は(きびす)を返し自室に入っていく。

 

 まあこれが、この日の早朝の出来事なのだが、それだけで女難の試練(しれん)は終わらなかった……



 というのも、この日の学校でも……



「待てって言ってんだろが~! 待ちやがれ~! ほんとに死ぬぞ~~!」

「……」

 え~と……うん! まずは逃げよう! この(なぞ)の追いかけっこに勝つべく隼人は、またも懸命(けんめい)に爆走して逃げるのであった。

 ()み渡る夏空の下、行き交う人たちの『!!?てな顔』を置き去りにして……

   



――――つづく。 


  

 

 読みやすい文章を意識しながら書いてはいますが、かえって読みにくい部分もあるかもしれません…… 

 小説を読むのは好きでかなり読んでますが、書くのは初めての経験です。 

 まったくの初心者です……ですのでおそらく誤字脱字も、多々あると思われます。そのときはやんわりと指摘してくださいまし。

 更新等、頑張ります。覗いてくださった方々! 本当にありがとうございます♪

 当人、尻尾パタパタして喜んでおります。

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