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GOD STAY 〜神様のホームステイ〜  作者: 佐良浜夜月
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第2話 12月24日 昼ごはん

結局その後、シナを私の家に招くことにした。正直なところ、小学生のような風貌の彼女を家に連れて帰るところを近所の人に見られてしまうと、いろいろ誤解を受けそうなのだが、よく考えるとこの村は過疎が進んでいてここから家に帰るまでの間に人に出会うとは思えない。特にこの神社なんて、すでに寂れて久しく近所の方々すら存在を忘れかけているのだ。昔は小さいながらも祭りが行われ、活気に満ちていたのに。まあ、子供がいないから仕方がない部分もあるのだろうが。

家に帰ってから両親にどう説明するか、などといった問題もあるが、この少女型神様は、先ほどの言い草だと、最低一週間は私にまとわりつく気であろうから、いづれにしろいつかは辿らなければいけない道である。流石に加齢が進み、鈍い両親も、息子が「神社に行く」と行って何時間も戻ってこない、ということを何日も繰り返すと、怪しまれるに違いない。

私の家は土地だけはある田舎で、そこそこ広い。家族3人で暮らすには充分である。都会に出る前は都会のマンションに憧れていて古くさいこの家があまり好きではなかったが、今ではこの木の匂いの方が落ち着く。もうラビットハウスは充分だ。今は私を閉じ込めていた檻はない。自宅のそばには畑もあり、普段は私もそこを手伝っている。ただ専業農家だとそこまで儲かるわけではないので、小遣い稼ぎに近所の売店などで短期のアルバイトをしている。

家へ帰る途中、横を歩いているシナに気になっていることを尋ねた。

「シナって、何食べるの?霞?」

「そんなわけないでしょ」

シナは笑って返す。

「僕達も、君と同じものを食べることができるし、味覚もきちんとある。まあ消化器官とかが違うんだけど。だから君が美味しいと感じるものなら、なんでもいいよ」

では何が好物か尋ねてみる。

「正直なところ、人間界の食事を食べた事がないので、よく分からないんだよね。だからおまかせで頼むよ」

どうやら好き嫌いはないらしい。となると子供が喜びそうなメニューにすべきだろう。こう見えても都会では居酒屋でバイトしていたこともあり料理の腕にはそこそこ自信がある。この小学生風神様が喜ぶ料理を作ることなど、まさに朝飯前だ。今は昼飯前だが。

「でも、神様って割と人間と同じなんですね」

気がつけばそろそろ家の畑が見えてくるあたりまで来ていた。行きは結構長い道だと思ったが、やはり誰かと一緒に行動していると時はあっという間に過ぎていく。

「まあね、君達と触れ合うこともできるし、一見すると見分けはつかないだろうね」

そう言ってシナは私の腕を掴んできた。ほのかな温かみが流れ込んでくる。その温かさは人と全く変わらない、いや、それ以上の優しさを感じさせるものだった。


そうこうしている間に、家に着いてしまった。一応客人なのできちんともてなさなくてはならないだろう。それよりも、親になんと説明するか、ここが結構重要だ。

扉の前で立ち止まってしまう。シナが「どうしたの?」という目でこちらを見つめてくる。まずは彼女と口裏を合わせないといけなさそうだ。

「シナ、あのさ、たまたま近くに里帰りに来ていた女の子と神社であって、いろいろ話しているうちに家に遊びに来た、って両親には話すから、口裏を合わせてね」

正直、この言い訳はかなり厳しい。ただ他に思いつかない。間違っても真実を伝えてしまったら、彼女ではなく私が心配されてしまう。

シナはキョロキョロ周りを見渡していたが、私の方に向き直り、少し得意げな顔でこういった。

「その件に関しては心配ないよ?」

彼女がそう言ったのとほぼ同時に扉が開き、母が出てきた。ま、まずい。説明しなければ。

「か、か、母さん、この子は、その、誘拐とかではなく……」

「あら、シナちゃん、お帰り」

え?どうして母が彼女を知っているのだ。私が状況を掴めずにいると、シナがこちらにだけ分かるように片目でウインクしてきた。

「おばちゃん、ただいま。」

彼女は無邪気な笑顔で答える。その笑顔に母も気を良くしたのか、

「シナちゃんがいると、家が活気づくねえ。ほら、あんたもちゃんと面倒見てあげるのよ。晩御飯はおばさんがカレーを作ってあげるから、楽しみにしてるのよ」

と言って、出て行った。おそらく畑に向かったのだろう。冬の間も土作りなど、農家に心休まる時はない。これだけ手をかけても虫や台風に意地悪をされると途端に不作となってしまう。そこらのブラック企業よりたちが悪そうだ。

と、そんなことはどうでもいい。私が何度リクエストしても「面倒くさい」の一点張りで決して作ろうとしないカレーをシナがいたら作ろうとすることも今はどうでもいい。それよりも、

「シナ、どういうことだ?」

まあ見当はついているが念のためシナに聞いてみる。

「少し記憶を操作させてもらったよ」

悪びれもなく答える彼女。まあ正直助かったが。

「君の両親と思われる個体の脳に、『シナという親戚の少女が冬休みに遊びに来ている』という情報を転送しておいたんだ。これでしばらくは誤魔化せるはずだよ」

どうやら彼女が神様だと信じるほかなくなったようだ。

「そんな便利な力があるのなら、なぜもっと早く言わない」

シナはいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「君のビックリする顔が見たかったんだよ、許しておくれ」

と懇願するポーズを送った。まあこんな笑顔の前では、怒りも消え失せてしまうだろう。私は別にシナを責めるつもりは毛ほども無かったので、これ以上の追及はやめることにした。シナもお腹が減っているだろう、(よく考えたら神に空腹の感覚があるのか分からないが)早速食事を作るとしよう。

シナをリビングに待たせて、キッチンに入る。手を洗い、エプロンを着けるついでにリビングの方を見ると、シナは自分の髪の毛を撫でながら、テレビ番組を興味深そうに見つめていた。

冷蔵庫から卵を取り出す。何を作ろうか考えていたが、冷蔵庫の中身と相談して、オムライスを作ることにした。

この前雑誌で見つけた『ドリア風オムライス』を作ってみることにする。ホワイトソースを作り、鳥モモ肉、玉葱などでチキンライスを作り、卵で優しく包んでから、ホワイトソースをかけてオーブンに投入する。そして暫く待つと、夢と希望を運ぶオムライスの完成だ。香ばしい香りが漂ってくる。

「お待たせ」

今回のオムライスは相当な自信作だ。さあ、たんと召し上がれ。

シナは

シナにご飯が出来たことを伝え、オムライスを運ぶ。シナは初めて見るおもちゃに心を奪われる子供のように目を輝かせていた。

「さあ、どうぞ。初めて作ったから美味しいかどうかは分からないが。」

勿論これは謙遜である。私は料理だけは自信がある。心の中では、まさに国民的アニメのガキ大将のように、「うまいか、美味しいか、どっちだ?」と問うていた。

「ありがとう、この料理はスプーンというもので食べれば良いんだよね。」

シナは食卓に置いておいたスプーンを手に取り興味深げに見つめている。そしてスプーンでオムライスを迎え入れ、恐る恐る口に運ぶ。そして……、

「おいしーーーい、何これ、すごい。君、天才だね」

やはり、シナには大好評だった。すごい勢いでお皿を空にしていく。

「おーい、もうちょっと、食べる量抑えて、味わって食べて」

私の言葉も虚しく、数分後には皿は美しいと形容できる程空になっていた。そして彼女はもちろん、この言葉を続ける。

「おかわり」


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