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三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の見た世界。
7/31

氷獄で得た友誼。そしてハナに助けられ、バッタと共に行く。

「来てくれたのかよ!!!」


 三生は、この上なく、正しく歓喜していた。


 この窮地、死地にあって、絶対的な味方が現れた。



「特にお前のために、と言うわけでもない。聞き覚えのある大声が届いたのでな。またぞろ騒動でも起こしているのかと、見物に来ただけだ」


 そう言えば。コオリは、雪の降りしきる中、超高所の塔から、地面に居たおれのノック音を聞く事が出来たな。耳、メチャクチャ良いな。



「また随分と。遊んだようだな」


 コオリは、周囲を見渡し、そう言った。



 三生の姿は、凄惨極まるものであった。自身の吐き出した臓物と血とで防寒着は見るに耐えない有り様。閉所ゆえに、この洞穴内は、三生の血の匂いしかしなかった。


「遊んだ、ってお前。超大変だったよ」


 三生は、コオリの常識を知っている。相手を氷像にするのが得意な女だ。この程度の修羅場なら、動じないのだろう。


 本当に、本当に、無茶な世界だ。


「まあ。助かった。ここではりつけにされる所だった」


「ほう」


 コオリは、何か思案げだ。


「こいつは、知ってる奴か?」


 ハナさんみたいに、あるいはカワみたいに。


「あまり組む事は無いな。向こうは、私を苦手にしていたようだが」


 そう言った後、更に天井を見上げたり、テツの現れた奥の通路を見たり。


「なるほどな。カワに仕掛けを施したのは、テツだったのか」


「だろうけど。本人からは、まだ何も聞いてない。主犯か共犯か分からねえぞ」


「いや。テツの仕業だ。ツチでもイシでもない。この綺麗な洞穴。そして私に悟られぬよう、地下からの侵攻経路を選ぶ判断力。テツ以外には居ない」


 コオリは、テツをかなり高く評価しているようだ。今まさに自身が氷漬けにした相手なのに。


「それでも、理由までは分からんな」


「お前、心を読む道具とか持ってない?」


「無い」


「そっかー」


 そう言えば、虫眼鏡すげえ役立ったよー、とか。会話は進む。


「あ!」


 三生は、防寒着を破かれている事を思い出した。このままでは、不味い。


 急いで服を脱ぎ、破れ目をチェックする。


 予想通り、服はボロボロだった。寒さは、今はまだそれほどでもないが、徐々に取り返しの付かない事態になるだろう。


「やべええええ・・・・」


「その服に、穴を空けられたのか」


「ああ。こうして動いていられるだけでも、超ラッキーなのは分かるが。これはこれで、やべえ」


「バッタに会ったなら、直してもらえ」


「え?」


「奴の作る服は、それなりに良い」


「マジで?バッタとは、モミジさんの国で、待ち合わせしてる。一緒に、カワの異変の調査をしてるんだ」


「そうか。ならば、都合が良い。調べる前に、直してもらえ」


「ああ!サンキュ!」


「どうと言う事はない。しかし、お前とはよくよく縁の有る事だな」


「ああ。もっと、平和な場面で会いたい所だがな」



 苦笑を禁じ得ない。


 こんな異常事態でもなければ、コオリとの出会いも無かった。


 なのに、コオリが来てくれて、本当に嬉しかった。


 この世界で出会った、大切な友人。


 向こうは、知り合いとすら思ってないだろうけど。構いはしない。


 コオリには、助けられ過ぎた。今度何かあれば、おれがコオリを助けよう。



「本当に助かった。何か分かったら、お前にも知らせに行く」


「あまり無理をするな。今のお前は、ほとんど不死のはずだが、それでもこの世界では無力なのだ」


「ああ・・・。分かってる。ありがとな!」


 コオリの国の境で別れる。洞穴からは、コオリが連れ出してくれた。入って来たのと同じく、壁面を凍らせ、それを滑って。


 落下時の苦しみ、テツに貫かれた痛みを思い出し、体を震わせながらも。


 三生は、コオリと笑顔で別れた。




「流石に、帰ったか」


 バッタと別れて、1時間は経ったろう。あれからバッタもモミジの国で調べていたのだろうけど、三生ほど時間はかからないはず。バッタは肉眼で、三生の持つ虫眼鏡と同じ視力がある。


 国の境に、バッタの姿は見えなかった。


「わりい事しちまったな」


「何がだ?」


「うおっ!」


 バッタの姿は全く無かったのに、突然話しかけられ、三生は冗談でなく飛び上がって驚いた。


「居たのかよ!びっくりした!」


 先ほどの件もあって、ちょっと神経過敏になっている三生だ。


「私に用があるなら、コオリの国以外で呼んでくれれば、それで良い。出向いてやる」


「お、おお」


 それはそれとして。


 コオリの国での出来事を話す。テツのこしらえた穴。戦い。そしてコオリに助けられた事。


「それで、テツの穴を調べるのは、まだ出来てないんだよ。その前に、服を直してもらおうと思って」


「ふむ。見せてみろ」


 一応、モミジの国に元々ある川で洗濯。色々ドロドロだからな。


 そして服、ズボン、マフラー等等を並べていく。ブーツすら穴開きなのは、ちょっとどうにもならないだろうな。


「分かった」


 バッタがそう言うと、地面から大量の芋虫が現れた。三生は、思わず、後ずさった。


 芋虫らは、三生の衣服に目がけ、糸を吐き出していく。


 おいおい。三生が何とも言えない表情で見守っていると、芋虫は消え、今度はクモが現れた。そしてクモはやはり、糸を吐き出し、衣服に絡み付けていく。


「出来たぞ。流石に、元通りとは行かんがな」


「マジか」


 出来たの?


 超不審な顔で、衣服を持ち上げてみる三生。


 ベトベトしてないか?・・・。そんな疑問を持っていたが。


「う・・」


 すげえツルツルしてる。しかも、縫い合わせていないから、頑丈さは期待出来ないと思っていたのに、それもまるで不安が無い。


 何だこれ。完全な白の衣装。実際着込んでも、これはこれで、素晴らしい服にさえ見える。


 すげえ、手触りが良い。


「テツの攻撃を防ぐ事までは不可能だ。もう、戦うな」


「おれも、出来ればそうしたいぜ」


 戦いたくて戦ってはないんだ。


「靴は、ハナに任せろ。私では、無理だ」


「ああ。でも、すげえ助かったぜ。ありがとな」


「何。お前は、私に取って有用と判断している。この程度なら、これからも頼ってくれ」


「おう」


 ん?今のは、返事をして良かったのか?


 まあ、良いか。



 ハナの国に向かう前に、バッタの調査結果を聞く事に。テツの穴は、最後になり、時間経過によって塞がってしまうかも知れないが、どうしようもない。


「痕跡は無かった。お前の調べた川が正解のようだな」


「そうか」


 これはこれで有用な情報だ。こちらに形跡が無ければ、重点的に調べるのはコオリの国側。それが完全に分かるのは、モミジの国を調べてからだ。このバッタの動きを無駄働きなどと言うのは、ただ愚かなだけだ。


 だから、三生はバッタに厚く礼を述べた。待っていてくれた事と合わせて。


「言ったはずだ。お前は、私に取って有用。感謝の必要は、全く無い」


「まあ、おれの気持ちの問題だ。悪いが、受け取ってくれ」


「構わんが」



 そして2人は、オオカブトムシに乗り、急いでハナの国に行く。早くブーツを補修し、テツの洞穴を調べるのだ。




「ハナさーん!」


 明るく清々しい雰囲気の花畑。ハナの国にやって来た三生とバッタ。


 モミジの国からでも、ハナの国に直行出来たのは助かった。三生はそのルートを知らなかったが、バッタが勝手に先導してくれたのだ。コオリの国を経由するのは、色々面倒なので、かなり助かった。


「はーい!」


 ハナは、すぐに出て来た。ハナの家の前で呼びかけたとは言え、三生はハナの行動範囲を知らないし、いつなら家に居るのかなんて事も、全然知らない。もし畑仕事にでも出ていたなら、一日待ちぼうけする所だ。かなりラッキーと言える。


「すみません!お借りした服やらブーツやら、穴開きにしちゃって!すみませんついでに、直して欲しいんです!」


「あらら」


 カブトムシに載せていた荷物を取り出し、ハナ家の前に並べる。


 ハナは、様変わりした衣服を見て、驚いているようだ。


「どうしたの?バッタが直してくれたようだけど」


「それが・・」


 カワの異変。そして原因を探っている中での、テツとの戦い。それらを仔細漏らさずハナに伝える。ハナが何かを知っているなら、教えてもらうために。


「へええ」


 驚きに、目をぱちくりしているが。新情報は持っていなさそうだ。


「大変だったのねえ。直してあげるから、待ってなさい。それと、服も乾いてるわよ」


 ハナの家の庭に面した窓の奥には、確かに三生の衣服が。この世界に来た時着ていた、学生服だ。



 三生がシャツなどを着てパンツ一枚から卒業している間に、ハナがブーツを直してくれていた。


「そうやるのか」


「あれ?知らなかったっけ、バッタ」


「こうして改めて見るのは初めてだな。何十年か前に、お前が直し終えた物は見た事があるが」


「へー」



 三生には、ちょっと想像も付かない話をしていた2人の前には、修復出来たブーツが。


 ハナがストックしてある植物の茎を巻き上げ、ブーツをぐるぐる巻きにしたのだ。穴開き部分には、厚めに重ねる。


「じゃ、バッタ。後はお願いね」


「ああ」


 衣服と同じく、クモの糸を巻き付ける。これでタフなブーツの出来上がりだ。急ごしらえながら、三生の求める性能には足りているだろう。



「ハナさん。服、ありがとうございました」


「いえいえ」


 ハナは、にこやかに言ってくれた。こっちの世界に来てから、多くの人に世話になりっぱなしだ。元の世界に帰れて、もしも行き来できるようなら、何かお土産を持って来よう。



「良し!行こう!」


「ああ」


 と。


「また待ってもらうと思うけど。良いか?」


「いや。今度は、私も行こう」


「え」


「ハナ。私の分も頼む」


「良いよー」


 軽く引き受けたハナは、バッタ用にと、新しい衣服を出して来た。


 正直、防寒着を受け取るために危ない橋を渡ったと思ってる三生は、ちょっと複雑だ。


 バッタの服は、三生の物とは、だいぶ毛色が違った。


 三生の物は、現代人の三生が平気で着こなせるぐらい、違和感の無い物だったが。


 バッタの服は。


「封筒?」


 なぜ、そう思ったのか、三生自身不思議だが。バッタの頭部を覆い隠すフードが、本当に封筒のように閉じるのだ。更に手足部分、つまり服やズボンも、手先足先まで、一体化している。着包みのようなものだな。


 それを着用したバッタの外観は、まさしく、ミノムシ。


 本人の前では、とても口には出せるものではない。



「じゃあ、行こう!」


「ああ」


「頑張ってね!」



 再び、テツの洞穴へ。今度は、三生1人ではない。道連れも居る。


 今度こそ、真相を掴んでみせる。

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