氷獄で得た友誼。そしてハナに助けられ、バッタと共に行く。
「来てくれたのかよ!!!」
三生は、この上なく、正しく歓喜していた。
この窮地、死地にあって、絶対的な味方が現れた。
「特にお前のために、と言うわけでもない。聞き覚えのある大声が届いたのでな。またぞろ騒動でも起こしているのかと、見物に来ただけだ」
そう言えば。コオリは、雪の降りしきる中、超高所の塔から、地面に居たおれのノック音を聞く事が出来たな。耳、メチャクチャ良いな。
「また随分と。遊んだようだな」
コオリは、周囲を見渡し、そう言った。
三生の姿は、凄惨極まるものであった。自身の吐き出した臓物と血とで防寒着は見るに耐えない有り様。閉所ゆえに、この洞穴内は、三生の血の匂いしかしなかった。
「遊んだ、ってお前。超大変だったよ」
三生は、コオリの常識を知っている。相手を氷像にするのが得意な女だ。この程度の修羅場なら、動じないのだろう。
本当に、本当に、無茶な世界だ。
「まあ。助かった。ここで磔にされる所だった」
「ほう」
コオリは、何か思案げだ。
「こいつは、知ってる奴か?」
ハナさんみたいに、あるいはカワみたいに。
「あまり組む事は無いな。向こうは、私を苦手にしていたようだが」
そう言った後、更に天井を見上げたり、テツの現れた奥の通路を見たり。
「なるほどな。カワに仕掛けを施したのは、テツだったのか」
「だろうけど。本人からは、まだ何も聞いてない。主犯か共犯か分からねえぞ」
「いや。テツの仕業だ。ツチでもイシでもない。この綺麗な洞穴。そして私に悟られぬよう、地下からの侵攻経路を選ぶ判断力。テツ以外には居ない」
コオリは、テツをかなり高く評価しているようだ。今まさに自身が氷漬けにした相手なのに。
「それでも、理由までは分からんな」
「お前、心を読む道具とか持ってない?」
「無い」
「そっかー」
そう言えば、虫眼鏡すげえ役立ったよー、とか。会話は進む。
「あ!」
三生は、防寒着を破かれている事を思い出した。このままでは、不味い。
急いで服を脱ぎ、破れ目をチェックする。
予想通り、服はボロボロだった。寒さは、今はまだそれほどでもないが、徐々に取り返しの付かない事態になるだろう。
「やべええええ・・・・」
「その服に、穴を空けられたのか」
「ああ。こうして動いていられるだけでも、超ラッキーなのは分かるが。これはこれで、やべえ」
「バッタに会ったなら、直してもらえ」
「え?」
「奴の作る服は、それなりに良い」
「マジで?バッタとは、モミジさんの国で、待ち合わせしてる。一緒に、カワの異変の調査をしてるんだ」
「そうか。ならば、都合が良い。調べる前に、直してもらえ」
「ああ!サンキュ!」
「どうと言う事はない。しかし、お前とはよくよく縁の有る事だな」
「ああ。もっと、平和な場面で会いたい所だがな」
苦笑を禁じ得ない。
こんな異常事態でもなければ、コオリとの出会いも無かった。
なのに、コオリが来てくれて、本当に嬉しかった。
この世界で出会った、大切な友人。
向こうは、知り合いとすら思ってないだろうけど。構いはしない。
コオリには、助けられ過ぎた。今度何かあれば、おれがコオリを助けよう。
「本当に助かった。何か分かったら、お前にも知らせに行く」
「あまり無理をするな。今のお前は、ほとんど不死のはずだが、それでもこの世界では無力なのだ」
「ああ・・・。分かってる。ありがとな!」
コオリの国の境で別れる。洞穴からは、コオリが連れ出してくれた。入って来たのと同じく、壁面を凍らせ、それを滑って。
落下時の苦しみ、テツに貫かれた痛みを思い出し、体を震わせながらも。
三生は、コオリと笑顔で別れた。
「流石に、帰ったか」
バッタと別れて、1時間は経ったろう。あれからバッタもモミジの国で調べていたのだろうけど、三生ほど時間はかからないはず。バッタは肉眼で、三生の持つ虫眼鏡と同じ視力がある。
国の境に、バッタの姿は見えなかった。
「わりい事しちまったな」
「何がだ?」
「うおっ!」
バッタの姿は全く無かったのに、突然話しかけられ、三生は冗談でなく飛び上がって驚いた。
「居たのかよ!びっくりした!」
先ほどの件もあって、ちょっと神経過敏になっている三生だ。
「私に用があるなら、コオリの国以外で呼んでくれれば、それで良い。出向いてやる」
「お、おお」
それはそれとして。
コオリの国での出来事を話す。テツのこしらえた穴。戦い。そしてコオリに助けられた事。
「それで、テツの穴を調べるのは、まだ出来てないんだよ。その前に、服を直してもらおうと思って」
「ふむ。見せてみろ」
一応、モミジの国に元々ある川で洗濯。色々ドロドロだからな。
そして服、ズボン、マフラー等等を並べていく。ブーツすら穴開きなのは、ちょっとどうにもならないだろうな。
「分かった」
バッタがそう言うと、地面から大量の芋虫が現れた。三生は、思わず、後ずさった。
芋虫らは、三生の衣服に目がけ、糸を吐き出していく。
おいおい。三生が何とも言えない表情で見守っていると、芋虫は消え、今度はクモが現れた。そしてクモはやはり、糸を吐き出し、衣服に絡み付けていく。
「出来たぞ。流石に、元通りとは行かんがな」
「マジか」
出来たの?
超不審な顔で、衣服を持ち上げてみる三生。
ベトベトしてないか?・・・。そんな疑問を持っていたが。
「う・・」
すげえツルツルしてる。しかも、縫い合わせていないから、頑丈さは期待出来ないと思っていたのに、それもまるで不安が無い。
何だこれ。完全な白の衣装。実際着込んでも、これはこれで、素晴らしい服にさえ見える。
すげえ、手触りが良い。
「テツの攻撃を防ぐ事までは不可能だ。もう、戦うな」
「おれも、出来ればそうしたいぜ」
戦いたくて戦ってはないんだ。
「靴は、ハナに任せろ。私では、無理だ」
「ああ。でも、すげえ助かったぜ。ありがとな」
「何。お前は、私に取って有用と判断している。この程度なら、これからも頼ってくれ」
「おう」
ん?今のは、返事をして良かったのか?
まあ、良いか。
ハナの国に向かう前に、バッタの調査結果を聞く事に。テツの穴は、最後になり、時間経過によって塞がってしまうかも知れないが、どうしようもない。
「痕跡は無かった。お前の調べた川が正解のようだな」
「そうか」
これはこれで有用な情報だ。こちらに形跡が無ければ、重点的に調べるのはコオリの国側。それが完全に分かるのは、モミジの国を調べてからだ。このバッタの動きを無駄働きなどと言うのは、ただ愚かなだけだ。
だから、三生はバッタに厚く礼を述べた。待っていてくれた事と合わせて。
「言ったはずだ。お前は、私に取って有用。感謝の必要は、全く無い」
「まあ、おれの気持ちの問題だ。悪いが、受け取ってくれ」
「構わんが」
そして2人は、オオカブトムシに乗り、急いでハナの国に行く。早くブーツを補修し、テツの洞穴を調べるのだ。
「ハナさーん!」
明るく清々しい雰囲気の花畑。ハナの国にやって来た三生とバッタ。
モミジの国からでも、ハナの国に直行出来たのは助かった。三生はそのルートを知らなかったが、バッタが勝手に先導してくれたのだ。コオリの国を経由するのは、色々面倒なので、かなり助かった。
「はーい!」
ハナは、すぐに出て来た。ハナの家の前で呼びかけたとは言え、三生はハナの行動範囲を知らないし、いつなら家に居るのかなんて事も、全然知らない。もし畑仕事にでも出ていたなら、一日待ちぼうけする所だ。かなりラッキーと言える。
「すみません!お借りした服やらブーツやら、穴開きにしちゃって!すみませんついでに、直して欲しいんです!」
「あらら」
カブトムシに載せていた荷物を取り出し、ハナ家の前に並べる。
ハナは、様変わりした衣服を見て、驚いているようだ。
「どうしたの?バッタが直してくれたようだけど」
「それが・・」
カワの異変。そして原因を探っている中での、テツとの戦い。それらを仔細漏らさずハナに伝える。ハナが何かを知っているなら、教えてもらうために。
「へええ」
驚きに、目をぱちくりしているが。新情報は持っていなさそうだ。
「大変だったのねえ。直してあげるから、待ってなさい。それと、服も乾いてるわよ」
ハナの家の庭に面した窓の奥には、確かに三生の衣服が。この世界に来た時着ていた、学生服だ。
三生がシャツなどを着てパンツ一枚から卒業している間に、ハナがブーツを直してくれていた。
「そうやるのか」
「あれ?知らなかったっけ、バッタ」
「こうして改めて見るのは初めてだな。何十年か前に、お前が直し終えた物は見た事があるが」
「へー」
三生には、ちょっと想像も付かない話をしていた2人の前には、修復出来たブーツが。
ハナがストックしてある植物の茎を巻き上げ、ブーツをぐるぐる巻きにしたのだ。穴開き部分には、厚めに重ねる。
「じゃ、バッタ。後はお願いね」
「ああ」
衣服と同じく、クモの糸を巻き付ける。これでタフなブーツの出来上がりだ。急ごしらえながら、三生の求める性能には足りているだろう。
「ハナさん。服、ありがとうございました」
「いえいえ」
ハナは、にこやかに言ってくれた。こっちの世界に来てから、多くの人に世話になりっぱなしだ。元の世界に帰れて、もしも行き来できるようなら、何かお土産を持って来よう。
「良し!行こう!」
「ああ」
と。
「また待ってもらうと思うけど。良いか?」
「いや。今度は、私も行こう」
「え」
「ハナ。私の分も頼む」
「良いよー」
軽く引き受けたハナは、バッタ用にと、新しい衣服を出して来た。
正直、防寒着を受け取るために危ない橋を渡ったと思ってる三生は、ちょっと複雑だ。
バッタの服は、三生の物とは、だいぶ毛色が違った。
三生の物は、現代人の三生が平気で着こなせるぐらい、違和感の無い物だったが。
バッタの服は。
「封筒?」
なぜ、そう思ったのか、三生自身不思議だが。バッタの頭部を覆い隠すフードが、本当に封筒のように閉じるのだ。更に手足部分、つまり服やズボンも、手先足先まで、一体化している。着包みのようなものだな。
それを着用したバッタの外観は、まさしく、ミノムシ。
本人の前では、とても口には出せるものではない。
「じゃあ、行こう!」
「ああ」
「頑張ってね!」
再び、テツの洞穴へ。今度は、三生1人ではない。道連れも居る。
今度こそ、真相を掴んでみせる。




