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三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の生きる世界。
30/31

コイバナ。

 三生とゼンは、寮の部屋で夜更かしをしていた。


 机の上には、ジュースとお菓子。バイト帰りに購入して来たものだ。



「コイバナでもしようか」


 三生は思いっきり吹き出した。


 ゼンの口から、恋の話!軽い奴ではあるけど。もうちょっと、古風な奴かと思ってた。



 驚きと笑み、両方を顔に浮かべつつ、三生はゼンの話を促した。


「どんなんだよ。聞かせろよ」


 ゼンは、ジュースでのどを湿し、語り始めた。



「僕には、ツガイの女の子が居なかった。それは、知ったよね」


「ああ。お前の考えた事をのぞかせてもらった」


 虫眼鏡にて、勝手に見させてもらった。やっぱ、それを知っていたのか。


「だから、女の子も作ったんだよ」


「へえー」


 どんな子だろう。コオリとかだったらすごい。クール通り越して、何も考えてねえぞあいつ。


「ウミをね」


「ウミさんかあ」


 意外なのか、妥当なのか。産海延先生なら、慧眼と言えるが。


 三生は、ウミとの付き合いがまるでないので、何とも言えない。




「お嫁さんを作って、娘も作ってみた」


「まさか、カワ?」


「そ」


 なるほど。




「僕が大人になれていたら。もし、群れがあったままなら。そんな夢を作ってみたんだ。結局、何にもならなかったけどね」



 三生は、答えられなかった。



「三生君は、言ったよね。時間を巻き戻してみればって。でも、もう遅い。僕は、昔の僕を超えてしまった。もう、手に入らないんだ。神様になっちゃった僕と、生身の皆じゃあね」


 群れを失くし、生きる意味を得るために全てを超えたら、かつての人生は更に遠ざかった。


 得ようと努力すればするほど、届かなくなる。





 三生は、知った。



 こいつは、あの世界に連れ去られたおれと同じだった。




 それを。2万年もの間、ずっと忘れずに居た。




 涙をこぼし始めた三生に、特に注意を払うでなく。ゼンは、コイバナを続ける。



「三生君。君は、何を望む?君がそうして欲しいなら、君を何もかも元通りにしても良いよ。あの世界に来る前に。そして、恋人と幸せに暮らせば良い」




 最後のチャンスだ。これを逃したら、多分、もう無い。


 三生は、なんとなく分かった。



 分かった上で。




「おれは。戻らない」





 切始三生は、自分の意思で。


 恋人と家族と、過去の人生を。捨てた。






「お前みたいな危ない奴を野放しにしておけるかよ。誰か、見てなきゃいけない」


「同情?」


「ああ」


「ありがとう」


「別に」




 普通なんだよ。


 おれとお前は。


 友達なんだから。



 もう、知らないフリは出来ない。



 誰も、置いて行けない。



 おれは、今を生きる。

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