コイバナ。
三生とゼンは、寮の部屋で夜更かしをしていた。
机の上には、ジュースとお菓子。バイト帰りに購入して来たものだ。
「コイバナでもしようか」
三生は思いっきり吹き出した。
ゼンの口から、恋の話!軽い奴ではあるけど。もうちょっと、古風な奴かと思ってた。
驚きと笑み、両方を顔に浮かべつつ、三生はゼンの話を促した。
「どんなんだよ。聞かせろよ」
ゼンは、ジュースでのどを湿し、語り始めた。
「僕には、ツガイの女の子が居なかった。それは、知ったよね」
「ああ。お前の考えた事をのぞかせてもらった」
虫眼鏡にて、勝手に見させてもらった。やっぱ、それを知っていたのか。
「だから、女の子も作ったんだよ」
「へえー」
どんな子だろう。コオリとかだったらすごい。クール通り越して、何も考えてねえぞあいつ。
「ウミをね」
「ウミさんかあ」
意外なのか、妥当なのか。産海延先生なら、慧眼と言えるが。
三生は、ウミとの付き合いがまるでないので、何とも言えない。
「お嫁さんを作って、娘も作ってみた」
「まさか、カワ?」
「そ」
なるほど。
「僕が大人になれていたら。もし、群れがあったままなら。そんな夢を作ってみたんだ。結局、何にもならなかったけどね」
三生は、答えられなかった。
「三生君は、言ったよね。時間を巻き戻してみればって。でも、もう遅い。僕は、昔の僕を超えてしまった。もう、手に入らないんだ。神様になっちゃった僕と、生身の皆じゃあね」
群れを失くし、生きる意味を得るために全てを超えたら、かつての人生は更に遠ざかった。
得ようと努力すればするほど、届かなくなる。
三生は、知った。
こいつは、あの世界に連れ去られたおれと同じだった。
それを。2万年もの間、ずっと忘れずに居た。
涙をこぼし始めた三生に、特に注意を払うでなく。ゼンは、コイバナを続ける。
「三生君。君は、何を望む?君がそうして欲しいなら、君を何もかも元通りにしても良いよ。あの世界に来る前に。そして、恋人と幸せに暮らせば良い」
最後のチャンスだ。これを逃したら、多分、もう無い。
三生は、なんとなく分かった。
分かった上で。
「おれは。戻らない」
切始三生は、自分の意思で。
恋人と家族と、過去の人生を。捨てた。
「お前みたいな危ない奴を野放しにしておけるかよ。誰か、見てなきゃいけない」
「同情?」
「ああ」
「ありがとう」
「別に」
普通なんだよ。
おれとお前は。
友達なんだから。
もう、知らないフリは出来ない。
誰も、置いて行けない。
おれは、今を生きる。




