落ち葉を鳴らす三生とコオリ。そしてバッタとモミジに出会う。
コオリの国の端っこ。氷の大地と落ち葉の大地の境にやって来た。
「準備は良いか」
「おれは良い。問題は、お前だろ」
そう。おれはコオリの国を出てから、防寒着を脱げば良い。
だが、コオリはここを出れば、暑さにさらされる。おれに取って、気持ち良く過ごしやすい天候が、コオリには毒。
「大丈夫」
コオリ愛用の水色の服、コート?を深く着込む。
そして2人は、落ち葉の国。
モミジの世界へと足を踏み入れた。
暖かい、って言うか暑い。
三生は防寒着を脱ぎ去り、コオリのソリに載せていく。そしてソリはここに置いて行く。
完成。三生は、パンツ一枚に靴下、ブーツのみ。
「さあ。行くか!」
「ああ」
・・・。
何かを言われても、困る。三生には、予備の衣服など無いのだから。
だからとて、ノーリアクションも寂しいものだなと、秋の物悲しさを覚える三生だった。
モミジの国とは。
その名の通り、大地の全てに落ち葉が敷き詰められた、深い森。
この光景が、ずっと続くらしい。未来永劫に。
「割と、無茶な世界だよな。ここ」
「私に言わせれば、同じ国で季節の違うお前達の世界の方が、有り得ん。それで国は持つのか」
「何とかかんとか、な。台風来たら死にかけるし、花粉症もヤバイ。雪の危険性は言わずもがな。そして季節の変わり目には、体調を崩す人続出」
「やはり、こちらの世界の方が良いな。お前の世界は危険過ぎる」
「いやまあ。極端に言ってみただけだ。そこまで悪いとこじゃない」
コオリなら、南極北極で、平気で生きていけるだろう。ただし、南国に行くと死ぬだろうな。
「さ。行くぞ」
「おう」
ロープと虫眼鏡を入れたバケツを持ち、おれ達は山を登る。秋の山を。
ちなみにコオリは持たない。体温が上がると、普通に命に関わってしまうらしい。
山道はそんなにキツくない。木の根が張り出してたり、岩が邪魔したり、そんな事は無かった。
無さ過ぎた。
三生も小学校、中学校と軽いハイキングに行った事は有る。学校の遠足だって行った。
しかし、こんな綺麗な山道は見た事が無い。
落ち葉の降りしきる道が、それだけが、ずうっと続く。よっぽど手入れされた自然公園でも、こうまではいくまい。
なんで、ドングリや栗が無いんだ?あれらも秋の山になら有るだろうに。それに柿もだ。
「なあ。この山、おかしくないか」
「何がだ。気が付いた事が有れば、言ってみろ」
「だってよ。こんなに木がいっぱい生えているのに、柿やら栗やら、実のなってるものが無いぜ。ずっと落ち葉だけ。葉っぱだけなんだ」
「当たり前だろう。ここはモミジの世界だぞ」
「ええ・・」
そうか?
まあ・・コオリの国だって、マジで氷雪のみだった。
普通、極地でもなければ、どんな寒い気候だろうと、草木は生える。近い所で言えば、北海道の真冬の気温は、さっき三生が体感したコオリの国より遥かに寒いのだ。
なのに、木の一本も見かけなかった。日本の本州程度の寒さで、だ。
コオリの国の真横には、花畑を有するハナの国が在るのだ。いくらでも増えて良いはずなのに。
2人で、しかも景色には全く変わりがない。自然、話だけが積もる。
「お前の国には、色々なものが有りそうだ」
「今までの人達と同じだよ。お前もハナさんと一緒で、こっちの世界に来た人を面倒見てくれてたんだろ?」
「私は、何もしていない。お前にしたのと同じ事しか。ハナやウミ、フウなどはよく人を助けているようだが。物好きな事よ」
「お前のしてくれたのは、おれの命を助けてくれた事。もっとすげえ事だよ」
「?」
照れ隠し、ではない。本当に、意味が分かっていないらしい。
感動しろよ。すごい褒めたぞ、今。
・・・そう言えば。体力が自然回復するのに、命は失われる?
「お前ら、千年以上生きてるらしいけど、いつかは死ぬのか」
「さあな。そのような事を考えた事も無い」
「怖くないのか。明日、何も出来ない体になってたらって」
「そうなった事も無い」
無茶苦茶な。病気さえ無いのかよ。
「おれ、故郷に恋人が居るんだ。羨ましいだろ」
ちょっかいをかけてみる。
「そうか」
何も反応してくれない。声色も表情も、一切変化無し。寂しい。
「夢とか」
「さあな」
「欲しいものとか」
「さあな」
こいつ。クールなんじゃなくって、何も考えていない人なんじゃ。
・・・・・そして。
「そろそろだ」
「ああ」
コオリの世界との境界付近から、更に境界沿いに真っ直ぐに山を登る事、1時間。
やはり境界付近に、その場所は在る。
ゴオオオオオオオ
「すげえ。真上から見ると、更に怖い」
滝だ。
「ここの水を調べるんだよな」
「ああ」
コオリの調べ物が、これだ。
ロープをくくり付けたバケツを、滝壺に向けて下ろして行く。ざっと2、30メートルほどの距離が有るが、ロープはまるで短くならない。いつまでも余裕が有る。
ぼちゃん
お。水を入れたら。
ぐい
引き上げる。ほんの数キロ、数リットル程度の水でも、30メートル引き上げると、中々にキツい。この疲労も、すぐに治るのだろうが。
引き上げたバケツを、虫眼鏡でのぞき込む。
「何をやっているんだ。お前達」
緑色の皮膚。頭髪は黒い。妙なキンキラな服を着た、ヘンな女が現れた。
「お前か」
コオリの態度も、妙に刺々(とげとげ)しい。
確かに見た目はおかしいが、おれ達がヘンな事をしているのも、その通りなのだ。他人が疑問に思っても、何の不思議も無かろうよ。
「おれ達はここで、水質調査?をやってるんだ」
「コオリ。こいつは?」
キンキラの女は、三生を見る事さえなく、コオリに問いかけた。
おれの答えは完全にスルーされた、と言う事だ。おれがパンツ一枚だから?
「バッタ。奴の使いだ」
そしてコオリはキンキラの女をスルー。何故か、おれに彼女の紹介をしてくれた。
バッタ?虫みたいな。
「奴、か。お前も偉くなったものだな」
バッタは、威圧するでもなく、極普通の口調でコオリに話しかけている。なのに、無機質な感じだ。本当に、虫っぽい。いや、虫と話した事無いけど。
「奴は奴だ。名前が無いのだから、仕方無い。それにここはモミジの国だ。お前だって、ここでは宿無しの身だろうが」
「あの方のお名前は、無いのではない。我々にお呼びする資格が無いだけだ。そして、私はお前の国以外の全ての国に居る。勘違いするな」
盛り上がっている所、悪いが。全く、話について行けてない。
三生は、体育座りで2人の話を眺めていた。コオリに肩入れしたい所だが、知り合い同士の口喧嘩に首を突っ込むのも。なあ。
何でも良いから早く終わらせて、この仕事も終わらせようぜ。
手持ち無沙汰の三生は1人、バケツを虫眼鏡で観察するお仕事を再開した。
と。バッタも、三生の後ろからのぞき込んできた。
「見るか」
三生が、虫眼鏡を差し出してやる。
「私はこのままで見える。だが、ありがとう」
なんだ、良い奴じゃないか。何故、コオリはあんなツンケンしているんだ。
「見えたか」
「よく分からん」
コオリは、相変わらずマイペース。おれが見ているのだからと、手伝うわけでもなく。人手の要る作業じゃあないけどな。
バケツには水しか入っていない。ザリガニだとか鮎だとか、そんなものは居ない。
その水が目当てだから、これで良い。
虫眼鏡をのぞきながら、想う。もっと良く見たい。
そうすると。
顕微鏡のように拡大画像が見えて来る。
無茶苦茶だが、先のロープと同じく、コオリの蔵の物だからな。これで当たり前なんだろう。
そしてそこに見えたものは。
ゾウリムシ、ミジンコ。その他、微生物と言われる類の生き物。
・・・普通の水中の生物だな。
「やはりな」
「なるほど」
コオリとバッタは、やたら納得したっぽいが。
「何だ?何がヘンなんだ?」
コオリは、本当に分からないのか、とでも言いたげな顔で説明してくれる。
「水に、ヘンなのが入っているだろう。」
「ヘン、って。そりゃ自然の山水だぞ。これぐらい居るだろ」
バッタは、今度こそ、コオリに同情したような顔付きになった。
「水に何故、他のものが入っている。お前は何を言っているんだ」
三生にも、やっとバッタの言葉の意味が飲み込めた。
この世界と、おれの世界では、理屈が法則が、全く違っていた。
水とは、もしや純水を意味するのか。それが、ここでは自然の河川に流れている。だから、異物、生物が紛れている事自体が不自然。
本当に、無茶な世界だ。
「それで。異物混入が問題なら、この川の上流に行けば、何か分かるんじゃないか?」
三生の問いに、答えてくれたのはバッタだった。
「上流は」
そう言うと、バッタはコオリを見た。
「私の国だ」
なるほど。
だから、ここに来た。
「コオリ。来てくれましたか」
「モミジ。遅くなったな」
詫びを入れるコオリを、モミジと呼ばれた女は優しく受け入れた。
赤茶色の服に、栗色の髪。まるで秋の迷彩のようだ。と、本人には言えない。
だが、本当に迷彩をかけたかのように、突如現れたのだ。
バッタもコオリも驚いてこそいないが、モミジに絶対に気付いていなかったはず。
忍者かこいつ。
「私はモミジ。コオリのお友達のあなたは?」
穏やかな声。秋の風を思わせる涼やかさ。
「おれは切始 三生。コオリの手助けをしながら、元の世界に帰る術を探している。もし何か知っている事があれば、教えて欲しい」
三生は、真剣な顔で大真面目にモミジに語った。
この場合、モミジが忍者だろうがアサシンだろうが、問題ではない。モミジが、こちらの知らない情報を知っているかどうか。それが全てだ。
「さっぱりです」
優しい声で、そう言われてしまった。
「こいつの言う事は、気にしないで良い。それよりコッチだ」
こいつ・・・。おれが言うならまだしも。
「私の国からの雪解け水がお前の国に逆流している。そんな話を聞いた時は、モミジともあろう者がハナのようなたわけた事を何故、と思ったものだが。実際に見てみれば、確かにな。この非現実的な光景。私の領分の問題と認識した。時間はかかっても、きっと解決しよう」
「ありがとう、コオリ。私1人の力では、どうにも出来なかったの。何が起こっているのか。何故、起こっているのか。さっぱり分かりません。あなたの協力を得られて、百人力だわ」
2人の間では、話が通じているようだ。
「私も見物させてもらおうかな」
特に強い興味が有りそう、でもないが。関わりあったのも何かの縁。バッタも見ていくようだ。
そして三生も、微力ながらコオリに助力する。
時間経過で自動的に元の世界に帰れるなら、それで良い。だが、そうでないなら、悔やんでも悔やみきれない。タイムリミットまで、出来る事をやる。
この世界に関わり、深く知っていけば、必ずチャンスは来る。
そう信じる。
そしてモミジの国での探求が始まった。




