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三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の見た世界。
3/31

落ち葉を鳴らす三生とコオリ。そしてバッタとモミジに出会う。

 コオリの国の端っこ。氷の大地と落ち葉の大地のさかいにやって来た。


「準備は良いか」


「おれは良い。問題は、お前だろ」


 そう。おれはコオリの国を出てから、防寒着を脱げば良い。


 だが、コオリはここを出れば、暑さにさらされる。おれに取って、気持ち良く過ごしやすい天候が、コオリには毒。


「大丈夫」


 コオリ愛用の水色の服、コート?を深く着込む。


 そして2人は、落ち葉の国。


 モミジの世界へと足を踏み入れた。




 暖かい、って言うか暑い。


 三生は防寒着を脱ぎ去り、コオリのソリに載せていく。そしてソリはここに置いて行く。


 完成。三生は、パンツ一枚に靴下、ブーツのみ。


「さあ。行くか!」


「ああ」


 ・・・。


 何かを言われても、困る。三生には、予備の衣服など無いのだから。


 だからとて、ノーリアクションも寂しいものだなと、秋の物悲しさを覚える三生だった。



 モミジの国とは。


 その名の通り、大地の全てに落ち葉が敷き詰められた、深い森。


 この光景が、ずっと続くらしい。未来永劫に。



「割と、無茶な世界だよな。ここ」


「私に言わせれば、同じ国で季節の違うお前達の世界の方が、有り得ん。それで国は持つのか」


「何とかかんとか、な。台風来たら死にかけるし、花粉症もヤバイ。雪の危険性は言わずもがな。そして季節の変わり目には、体調を崩す人続出」


「やはり、こちらの世界の方が良いな。お前の世界は危険過ぎる」


「いやまあ。極端に言ってみただけだ。そこまで悪いとこじゃない」


 コオリなら、南極北極で、平気で生きていけるだろう。ただし、南国に行くと死ぬだろうな。


「さ。行くぞ」


「おう」


 ロープと虫眼鏡を入れたバケツを持ち、おれ達は山を登る。秋の山を。


 ちなみにコオリは持たない。体温が上がると、普通に命に関わってしまうらしい。



 山道はそんなにキツくない。木の根が張り出してたり、岩が邪魔したり、そんな事は無かった。


 無さ過ぎた。


 三生も小学校、中学校と軽いハイキングに行った事は有る。学校の遠足だって行った。


 しかし、こんな綺麗な山道は見た事が無い。


 落ち葉の降りしきる道が、それだけが、ずうっと続く。よっぽど手入れされた自然公園でも、こうまではいくまい。


 なんで、ドングリや栗が無いんだ?あれらも秋の山になら有るだろうに。それに柿もだ。



「なあ。この山、おかしくないか」


「何がだ。気が付いた事が有れば、言ってみろ」


「だってよ。こんなに木がいっぱい生えているのに、柿やら栗やら、実のなってるものが無いぜ。ずっと落ち葉だけ。葉っぱだけなんだ」


「当たり前だろう。ここはモミジの世界だぞ」


「ええ・・」


 そうか?


 まあ・・コオリの国だって、マジで氷雪のみだった。


 普通、極地でもなければ、どんな寒い気候だろうと、草木は生える。近い所で言えば、北海道の真冬の気温は、さっき三生が体感したコオリの国より遥かに寒いのだ。


 なのに、木の一本も見かけなかった。日本の本州程度の寒さで、だ。


 コオリの国の真横には、花畑を有するハナの国が在るのだ。いくらでも増えて良いはずなのに。



 2人で、しかも景色には全く変わりがない。自然、話だけが積もる。


「お前の国には、色々なものが有りそうだ」


「今までの人達と同じだよ。お前もハナさんと一緒で、こっちの世界に来た人を面倒見てくれてたんだろ?」


「私は、何もしていない。お前にしたのと同じ事しか。ハナやウミ、フウなどはよく人を助けているようだが。物好きな事よ」


「お前のしてくれたのは、おれの命を助けてくれた事。もっとすげえ事だよ」


「?」


 照れ隠し、ではない。本当に、意味が分かっていないらしい。


 感動しろよ。すごい褒めたぞ、今。


 ・・・そう言えば。体力が自然回復するのに、命は失われる?


「お前ら、千年以上生きてるらしいけど、いつかは死ぬのか」


「さあな。そのような事を考えた事も無い」


「怖くないのか。明日、何も出来ない体になってたらって」


「そうなった事も無い」


 無茶苦茶な。病気さえ無いのかよ。



「おれ、故郷に恋人が居るんだ。羨ましいだろ」


 ちょっかいをかけてみる。


「そうか」


 何も反応してくれない。声色も表情も、一切変化無し。寂しい。



「夢とか」


「さあな」



「欲しいものとか」


「さあな」



 こいつ。クールなんじゃなくって、何も考えていない人なんじゃ。



 ・・・・・そして。


「そろそろだ」


「ああ」



 コオリの世界との境界付近から、更に境界沿いに真っ直ぐに山を登る事、1時間。


 やはり境界付近に、その場所は在る。



ゴオオオオオオオ



「すげえ。真上から見ると、更に怖い」



 滝だ。



「ここの水を調べるんだよな」


「ああ」



 コオリの調べ物が、これだ。



 ロープをくくり付けたバケツを、滝壺に向けて下ろして行く。ざっと2、30メートルほどの距離が有るが、ロープはまるで短くならない。いつまでも余裕が有る。


ぼちゃん


 お。水を入れたら。


ぐい


 引き上げる。ほんの数キロ、数リットル程度の水でも、30メートル引き上げると、中々にキツい。この疲労も、すぐに治るのだろうが。


 引き上げたバケツを、虫眼鏡でのぞき込む。



「何をやっているんだ。お前達」



 緑色の皮膚。頭髪は黒い。妙なキンキラな服を着た、ヘンな女が現れた。


「お前か」


 コオリの態度も、妙に刺々(とげとげ)しい。


 確かに見た目はおかしいが、おれ達がヘンな事をしているのも、その通りなのだ。他人が疑問に思っても、何の不思議も無かろうよ。


「おれ達はここで、水質調査?をやってるんだ」


「コオリ。こいつは?」


 キンキラの女は、三生を見る事さえなく、コオリに問いかけた。


 おれの答えは完全にスルーされた、と言う事だ。おれがパンツ一枚だから?


「バッタ。奴の使いだ」


 そしてコオリはキンキラの女をスルー。何故か、おれに彼女の紹介をしてくれた。


 バッタ?虫みたいな。


「奴、か。お前も偉くなったものだな」


 バッタは、威圧するでもなく、極普通の口調でコオリに話しかけている。なのに、無機質な感じだ。本当に、虫っぽい。いや、虫と話した事無いけど。


「奴は奴だ。名前が無いのだから、仕方無い。それにここはモミジの国だ。お前だって、ここでは宿無しの身だろうが」


「あの方のお名前は、無いのではない。我々にお呼びする資格が無いだけだ。そして、私はお前の国以外の全ての国に居る。勘違いするな」



 盛り上がっている所、悪いが。全く、話について行けてない。


 三生は、体育座りで2人の話を眺めていた。コオリに肩入れしたい所だが、知り合い同士の口喧嘩に首を突っ込むのも。なあ。


 何でも良いから早く終わらせて、この仕事も終わらせようぜ。



 手持ち無沙汰の三生は1人、バケツを虫眼鏡で観察するお仕事を再開した。


 と。バッタも、三生の後ろからのぞき込んできた。


「見るか」


 三生が、虫眼鏡を差し出してやる。


「私はこのままで見える。だが、ありがとう」


 なんだ、良い奴じゃないか。何故、コオリはあんなツンケンしているんだ。


「見えたか」


「よく分からん」


 コオリは、相変わらずマイペース。おれが見ているのだからと、手伝うわけでもなく。人手の要る作業じゃあないけどな。



 バケツには水しか入っていない。ザリガニだとかあゆだとか、そんなものは居ない。


 その水が目当てだから、これで良い。



 虫眼鏡をのぞきながら、想う。もっと良く見たい。


 そうすると。


 顕微鏡けんびきょうのように拡大画像が見えて来る。


 無茶苦茶だが、先のロープと同じく、コオリの蔵の物だからな。これで当たり前なんだろう。



 そしてそこに見えたものは。



 ゾウリムシ、ミジンコ。その他、微生物と言われる類の生き物。


 ・・・普通の水中の生物だな。



「やはりな」


「なるほど」


 コオリとバッタは、やたら納得したっぽいが。


「何だ?何がヘンなんだ?」


 コオリは、本当に分からないのか、とでも言いたげな顔で説明してくれる。


「水に、ヘンなのが入っているだろう。」


「ヘン、って。そりゃ自然の山水だぞ。これぐらい居るだろ」



 バッタは、今度こそ、コオリに同情したような顔付きになった。



「水に何故、他のものが入っている。お前は何を言っているんだ」


 三生にも、やっとバッタの言葉の意味が飲み込めた。


 この世界と、おれの世界では、理屈が法則が、全く違っていた。


 水とは、もしや純水を意味するのか。それが、ここでは自然の河川に流れている。だから、異物、生物が紛れている事自体が不自然。


 本当に、無茶な世界だ。



「それで。異物混入が問題なら、この川の上流に行けば、何か分かるんじゃないか?」


 三生の問いに、答えてくれたのはバッタだった。


「上流は」


 そう言うと、バッタはコオリを見た。


「私の国だ」



 なるほど。


 だから、ここに来た。



「コオリ。来てくれましたか」


「モミジ。遅くなったな」


 びを入れるコオリを、モミジと呼ばれた女は優しく受け入れた。


 赤茶色の服に、栗色の髪。まるで秋の迷彩のようだ。と、本人には言えない。


 だが、本当に迷彩をかけたかのように、突如現れたのだ。


 バッタもコオリも驚いてこそいないが、モミジに絶対に気付いていなかったはず。


 忍者かこいつ。


「私はモミジ。コオリのお友達のあなたは?」


 穏やかな声。秋の風を思わせる涼やかさ。


「おれは切始きりはじめ 三生みお。コオリの手助けをしながら、元の世界に帰るすべを探している。もし何か知っている事があれば、教えて欲しい」


 三生は、真剣な顔で大真面目にモミジに語った。


 この場合、モミジが忍者だろうがアサシンだろうが、問題ではない。モミジが、こちらの知らない情報を知っているかどうか。それが全てだ。


「さっぱりです」


 優しい声で、そう言われてしまった。


「こいつの言う事は、気にしないで良い。それよりコッチだ」


 こいつ・・・。おれが言うならまだしも。



「私の国からの雪解け水がお前の国に逆流している。そんな話を聞いた時は、モミジともあろう者がハナのようなたわけた事を何故、と思ったものだが。実際に見てみれば、確かにな。この非現実的な光景。私の領分の問題と認識した。時間はかかっても、きっと解決しよう」


「ありがとう、コオリ。私1人の力では、どうにも出来なかったの。何が起こっているのか。何故、起こっているのか。さっぱり分かりません。あなたの協力を得られて、百人力だわ」


 2人の間では、話が通じているようだ。


「私も見物させてもらおうかな」


 特に強い興味が有りそう、でもないが。関わりあったのも何かの縁。バッタも見ていくようだ。



 そして三生も、微力ながらコオリに助力する。


 時間経過で自動的に元の世界に帰れるなら、それで良い。だが、そうでないなら、悔やんでも悔やみきれない。タイムリミットまで、出来る事をやる。


 この世界に関わり、深く知っていけば、必ずチャンスは来る。


 そう信じる。




 そしてモミジの国での探求が始まった。

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