表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の歩く世界。
26/31

ゼン。

 ジョウオウ。


 それが、僕の生まれ育った「群れ」。


 日本列島ではあったけど。まだ、「日本国」が存在しなかった時代。


 縄文時代と呼ばれた時代の、ちょっと前のお話。



 僕は、天才だった。


 知ろうとすれば、何でも分かったし、やろうと思えば、何でも出来た。


 だから、きっと、幸せな、全てが上手く行く人生が送れると思ってた。



 ある日。


 群れは壊滅的な被害を受けた。


 別の群れとの戦争に負けたんだ。


 僕がその場に居ればなあ。敵なんて、皆殺しにしてやったのに。


 僕は子供だったけど、既に最高の狩猟者だったんだ。だから、群れのために別行動をしていたのが仇になったね。



 それでね。いくら僕が天才でも、家族を蘇らせたりは出来ないしさ。しょうがないから、生き残った群れと一緒に、別の土地に移ったんだ。


 それも、あんまり上手く行かなかったね。食うには困らなかったけど、生き残りが少なすぎた。僕のツガイになれる女の子も居なかったし、群れを増やせる男女も、徐々に減って行った。


 最後の若い生き残り。つまり、僕だけになった時。


 群れは、無くなり、僕という個体が生まれたんだ。



 困っちゃうよね。


 僕は、今までずっと、群れのために頑張って来たんだよ?


 それ以外の生き方も知らないしさあ。



 1人で生きる事は出来たんだ。


 でも。


 どうして生きているのかは、分からなかった。



 その時。


 僕の時間は、止まったんだ。



 天才だから、じゃないよ。流石に。



 それまでも、僕は色々な不思議、としか言いようのない力が使えた。


 例えば、様々な道具を作った。例えば、火種も無く火を起こしたり。例えば、氷を作って、ついでに氷室もこしらえたり。


 それでね。


 その力を全て使って、僕は、新しい僕になったんだ。



 力を、自分に向けて使う。


 ちょっと怖かったよ。正直に言うけど。


 でも、それはあくまで自分だけの恐怖だった。


 今まで、皆のために生きて、皆と一緒に生きて来た事を思えば、何て事はなかったよ。だって、失敗して死んじゃっても、結局、僕の群れは、もう無いんだからさ。



 それで。


 僕は、ゼンになったんだ。


 僕の名前は、それまで無かった。


 一番若くて賢くてすごい天才、みたいな意味の名前はあったんだけど。群れが無くなると同時に、僕をその名前で呼ぶ人も居なくなってたし。



 だから、僕は1人で生きていかなくっちゃならなかった。



 僕は、個体で、全。


 僕が、群れ。



 生きる意味を、作らなきゃいけなかったんだ。




 それで。新しい世界を開いた。ウミを作った。カワを作った。四季を作った。


 僕は、見事に群れを取り戻した!



 ・・・んだけど。


 僕も、群れも、誰も死なないし、お腹も減らないんだ。



 そりゃあそうだよね。


 僕は、僕に力を加えた。


 今までの僕を超えた、すごい何かになったんだ。


 三生君の言う所の神様とかに。



 僕はまた、生きるって事が分からなくなっちゃった。



 だからね。



 人をこっちに連れて来たんだよ。


 待っている人が居る、群れに強い繋がりのある人をさ。


 その人達を見ていたら、何か分かるんじゃないかなって。


 僕ってほら、賢いし、勉強も出来る方だし。





 この、救いのない話を聞いて、三生は、どうしようもなさを得た。


 生きる実感とやらのために、何人も何人も誘拐したのかよ!


 しかし。


 ゼンの話が事実として話を進めるなら、縄文時代の法律なんて、知らない。もっと言うと、三生のオリジナル世界の法律の通用する相手ではない。


 法も警察も軍隊も、人間しか相手に出来ない。


 地球上から、ゴキブリというたった1種の生命を排除する事すら、人類には不可能なのだ。


 ゼンを倒すのは、それ以上に不可能な話。



 そしてそんな存在は、地球史上にいくつも例がある。



 太陽とかな。



 太陽には誰も逆らえない。今日は暑いからちょっと弱まってー、とは言えない。先進国である日本ですら熱中症で死人が出ているというのに、誰も抗議しない。


 こら太陽!とか、怒ったりしない。


 もし怒らせて、じゃーちょっと弱まるよ、と冷えられると、一瞬で人類絶滅にもなるからね。



 ゼンは、その太陽並みに手が付けられない。




 三生は、困った。


 元々、勝てる相手ではない。実力差は、人間と神様ぐらいある。文字通りな。


 そしてその上で、相手の事情も知ってしまった。



 ゼンの苦境は、三生には解決不可能だ。


 群れを作るとか何とか。



 手段を選ばないのであれば、適当な男女をさらって、村でも作れば良い。


 だが、ゼンはそれをしなかった。必ず、個体でさらっていた。



 多分、個体になった事がトラウマなんだろう。それで、そのトラウマを乗り越えるために、他人にも、同じ事をやっている。誰かが越える姿を見て、勉強するために。


 努力家と褒めてやれば良いのか?




 あ。




 三生は、気付いた。



 わざわざ、三生の第二の人生を作り出した理由。



 それは、三生を、全くバックボーンの無い個体として仕上げるためだ。



 ゼンより、更に何も無い。



 確かだったはずの過去すら揺らいだ、不確かな人間。




 この野郎。




 それでも。あの世界で、ゼンにさらわれた事を知った時ほどの怒りは抱いていない。



 ゼンの過去を知ってしまった。


 縄文人に向かって、人を誘拐するとは何事か!と言い含める無意味さも、なんとなく分かる。


 常識とか、全然違うはずだ。



 何よりかにより。


 つまり、ゼンは、おれ達のご先祖様じゃねえか。



 これは三生の無意識の心の働き。何1つすがれるものの無い三生が、やっと見出したバックボーン。


 三生と繋がりのあるモノが、最早、ゼンのみであると言う事実。これに、三生は薄っすらと気付いた。


 とどのつまり。


 三生は知らず知らず、ゼンに媚びたのだ。






 ゼンは三生に虫眼鏡でじっと見られている間、律儀に動かず着席していた。


 当然、虫眼鏡の能力も知っている。





「どうした。三生」


 是無を凝視している三生をいぶかしく思った黒金が、三生の肩を叩く。


「あ。あー」


 適当な返事しか返せなかった。


 どうする?


 皆にも、見てもらうか。


 いや。


「黒金。何が見えた?」


「何も?よく分からなかったぜ」


「俺も」


 黒金だけでなく、火山花以下、皆が同じ感じだった。


 虫眼鏡の力を以ってしても、皆を・・・・・。



 皆を?



 皆を、どうしたら良いんだ?



 あの世界に戻りたくないテツとマナツ。他の奴らは、生きられれば、それで良いらしいが。



 じゃあ、他の世界って、どこだよ。


 テツも、皆も、どこでどうやって生きるんだ。



 おれだってよう。人の事心配してる場合じゃねえよお・・。



 ゼンんんん・・・・。難しすぎ・・・・。



 割とヘコんだ三生は、テーブルに突っ伏した。ホカホカの体が冷やされて気持ち良い。


 三生の頭に乗っているバッタは、それなりに頑張って髪を掴んでいると言うのに。三生はその気配りすら出来ていなかった。周りを考える余裕を失っていた。


コン


 三生と同じにテーブルに着いた硬い音。氷の入ったコップ。


 フウが気を利かしてくれたコーラだ。


 て言うか、おれのだ。冷蔵庫に入れてた奴に違いない。こいつ、自分のコップも用意してやがる。


 いつもの事だけど。


ぐびり


 美味しく頂いて、更にスッキリ。



 ちょいと、頭も冷えたか。




 三生が虫眼鏡を駆使している間、是無は、皆と雑談していた。



 こいつが、本当に、ゼン、か。


 なんで、お前、皆とそんなに普通に話せる。普通の友達みたいに。


 お前の「作った」モノじゃねえか。


 このおれですら。




 ・・・・・・・・・・・?


 三生は今、とても大事な何かに触れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ