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三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の歩く世界。
23/31

帰還。そして。

 クモを頭に乗せた三生は、屋上からロープとハシゴを垂らし、外壁を降りる事にした。階段には行けない。屋上に、三生が歩くスペースは、もう無いのだ。


 ロープを、ハシゴと、まだしっかりくっつていそうな手すりに通し、結ぶ。そして外壁をするすると垂らし、下の階に届きそうな地点で、ロープをきっちり長さ調節。


 さあ、度胸試しの時間だ。


「バッタ。絶対に、おれの頭から離れるなよ」


 クモの足が、しっかりとしがみついた、ような気がする。多分。



 屋上から体を出し、ロープを掴む。足は先にロープに回している。これなら、手すりが崩壊しない限り、落ちてもハシゴで止まる。ハシゴは、安全装置なのだ。


 ロープの強度は十全。今日の登山のためにチェックしたから知っている。



 20階の廊下部分、その落下防止壁に着いた。ここからフロアに戻る。ロープ最下地点に置いたハシゴを壁に引っかける。そして壁を三生自身の手で掴み、陸地に降り立つ。


 何とか戻った後は、再度ハシゴを掴み、自分の腕を通す。そしてロープの結び目を探す。ロープは、手すりとハシゴを通して、くくっているので、結び目は自由に動く。そのため、結びをほどいたなら、ロープを回収可能だ。もちろん、ロープを解く以上、ハシゴも自由落下する。三生はあらかじめ、ハシゴを体に引き寄せていたので、そこまでの衝撃でもなかった。ハシゴは大きいが、重さ自体は三生のリュック以下だからな。


 ハシゴはマンションの付属物なので、ここでお別れ。世話になったが、礼も出来ん。



「さあ、降りるぜ。バッタ、これから、すげえ危ないエリアを抜ける。今度は、頭上にも注意だ」


 屋根が出来たからな。


 何も考えず、走って帰りたい所だが。そんな真似をすれば、一瞬で落ちる。ゆっくり行こう。急がば回れ、と言う奴だ。



 19階。


 18階。


「あ。そうだ」


プルル


「おう」


「おう。今、戻ってる。18階を過ぎた。ゆっくり、崩れないように帰ってるから、もうちょい時間はかかるけど。何とか、行けそうだ」


「良し。こっちから見てても、下部分の抜けてそうな階段は見えない。ゆっくりで構わない。ちゃんと、帰って来い」


「おうよ」


 通話終了。黒金の、テツの声を聞いて、安心した。



 虫眼鏡。そう言えば、お前には、こんな使い方もあったな。


 未来を読む。この先、崩れる階段はあるのかどうか。


 ・・無い。


 さんきゅ。


「多分、大丈夫っぽい。お前は、あいつらに虫と勘違いされないように気ぃ付けてな」


 クモからの反応は感じ取れなかった。頷きでもしたのか?



 5分ほどをかけて、三生はゆっくりと地上に降り立った。幸い、救急車を呼ばれる事も、黒金らが体を張る事も無かった。



「なんだあ。お前ら、泊まりがけでお出かけかよ」


「こいつ」


 三生のかける言葉に、火山花が笑って返す。


 20キロにものぼる重装備は、全くの無駄となった。


 最高の結果だ。



 頭に乗せたクモに付いて、ペットと言う説明をした三生は、決して悪い判断ではなかったとは思う。


 少しつつかれたけど。



 歩生とも合流、こちらに向かっていた泳涼も。


 先生に連絡を入れて、皆で帰る。



「で。何を見付けたんだ?」


「内緒。じゃないけど、部室で話す」


 なあ、バッタ。


 黒金への返事で、歩生以外は納得してなさそうだが。


 おれもまだ、どう説明していいか、分からねえんだ。




 世界が溶けて、おれとお前らが混じり合って、変な世界になっちまった。



 どう説明するんだ、これ。

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