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三生紀行  作者: にわとり・イエーガー
三生の見た世界。
14/31

そして現れたもの。

 じゃあねー、と軽い挨拶だけでサカナは帰った。何しに来た?



 まさか。いや、それはないか。


 三生は、サカナとテツ、マナツが繋がっていたのを思い出し、何かの策略かと思ったが。それはもう、別の計画に変更されたのだった。それに三生を自由に動かしたいのなら、力づくでやれば良い。


 三生は、この世界に於いて、全くの無力。舞台が海上ともなれば、尚更だ。サカナが何をする奴なのか知らないが、三生を打ち倒すぐらい簡単だろう。


 やっぱ、気ままに動いてんのかな。


 こいつもそうだし。



 そう。フウは、まだイカダで寝ていた。


 こうなると、広い作りになっていて、三生の荷物も全て積載してまだ余裕があるイカダで良かった。テツの腕前とマナツのアドバイスのおかげだ。


 三生の考えでは、もっと小さく、持ち運びさえ出来るものにしたかった。いずこかの島に上陸した際、その島を越えて更に海に出た時のために。


 だが、マナツは、大型の船を主張した。


 大きい方が、かっこいいから。



 三生は、何となく救われた気持ちになって、それに同意したのだった。




 サカナとの邂逅かいこうから、3日が過ぎた。


 良い風が吹き、イカダも波に乗っている。かなりのスピードだ。


 無論、ウミには出会えていない。



 まさか。おれの最後の友達は、フウなのか?


 それも、良い。か。



「違うよ」


「起きたか。何か食うか?おれは食わないけど」


「フウは食べない。三生も食べない」


「そか」



 違う、って何が違うんだろう。どうでもいいけど。



 しかし。フウが居る事で、まだあいつらと繋がってる感覚はあるな。バッタらの知己であるフウが、ここに居る。何となく嬉しい。



「三生は、バッタに会いたい?」


「・・。会いたくない。会えば、おれはバッタを酷い目に合わせる。もう、会いたくない」


「嘘」


「言ったろ。おれはおれだけど、おれだけじゃない」


 そう言う事だ。



「そう言えば。お前、ウミさんの居場所とか知らない?」


「知ってる。あっち」


「おお!」


 マジか!



 三生はフウの指差した方向へ向けて、イカダを変針へんしん、力いっぱい漕ぎ出した!





ちゃぷ


「やっと行った。やっぱりフウ任せにすると、何時になるか分からないわねえ・・」


 イカダが見えなくなってから、サカナが海中から浮上して来た。


「ウミが、あの子の前に扉を示したなら。その時、ゼンが現れるかも知れない。皆を呼ばなきゃ」


 サカナは大急ぎで泳ぎ始め、マナツの国を目指した。





 日の落ちる時も無く、日の出る時も無く。


 三生は、ただ漕ぎ続けた。


 1人増えた、重量の増えたイカダだが、追い風により足は早くなった。



 2日と、半日。たったそれだけの時間で、三生は無限の海洋の中のウミに行き着いた。無論、時折のフウの忠告あっての成果だ。


 出航したマナツの国の海岸から、優に4000キロは来たか。だが、無限の大海の中では、ご近所ほどの距離だろうな。



 そこは、海ではなかった。



 大海原のど真ん中に、ぽつんとたたずむ、10平方メートルほどの岩礁。


 その上で、甲羅干しをしている女性が1人。詳しく分からないが、水着姿。金髪で茶褐色の肌。派手な人だ。



「あれか?」


「うん」


 フウに確認を取った三生は、岩礁にイカダを寄せる。自分の体に巻いていたロープを解き、イカダと岩を結ぶ。


 本当に小さな島だ。フウのアドバイス無しでは、絶対に見付けられなかっただろう。


 三生は、岩場に降り立つ。


 フウはイカダに乗ったままだ。



「すみません。おれは、切始三生と言います。あなたが、ここと別の世界との行き来の仕方を知っていると聞いて来ました。もし良ければ、それをお願いしたいのですが」


「良いわよ」


 ウミは寝っ転がったまま。顔を上げただけで、三生に答えてくれた。



 ・・簡単過ぎないか。こんなんで帰れるなら、皆もっと早く教えてくれて良かったのに。



 釈然としないながら。二つ返事で三生の願いは叶った。


 そして三生は、無事、日本に帰還・・・。



 出来ていたら。そのニュースは、既に日本国民の多くの知る所になっていただろう。



 三生の願いは確かに叶った。


 ウミは、三生の目の前に、この世界の扉を示してくれた。




 即ち。




 ゼンを。





「直接の顔合わせは、初めてかな?三生君」


「え?」


 誰?



 ウミが何やら呟くと、中空から青年が1人下りて来た。


 この世界の人間の唐突さには慣れたつもりだが。初めての男性だ。


「ゼン。この方のお願いを聞いてあげて?」


「分かったよ。ウミのお願いなら、仕方無い」


 青年は、微笑み、言った。



 こいつが、ゼン?この人を倒すと、この世界が消える?


 でも、おれは帰れそうだ。




 ・・・・何もしないで、黙って帰してもらおう。テツやマナツには悪いが、おれは自分を優先させてもらうぜ。



「三生君。僕も個人的に君には、とてもお世話になった。出来れば、もっと居て欲しいんだが、どうかな?要る物があるなら、もっと用意するよ」


「はあ・・」




 三生は、思考した。



 要る物を調達する。



 調達?



 持って来れる?




 こいつが。



 おれを。



 持って来た?




「そうだよ」



 三生は、全力で右拳をゼンの顔面に叩き込んだ。


「痛いなあ。もう」


 全然、こたえてなさそうだ。もうちょっと暴行したい。殴る蹴るしとくか。


 いや。殺そう。



 三生が殺意を固めた所で、ゼンはにこやかに笑ったままだ。


 フウと同じように心が読めるのだろうに。



「そっか。帰る意思は固そうだね。なら、お帰り」


「ゼン。意地悪しないの」


「はは」



 こいつら・・・!!



「三生。怒らないで」


 いつの間にかフウが側まで来ていた。そして三生をなだめる。


「フウ。あなたが選んだのね?」


「うん。違うよ。皆で選んだ」



 海が、波打った?三生の錯覚か?さっきまで、と言うか、今までずっと荒れていなかったのに。



「ウミ?」


「ゼン。私は、こちらに付くわ。ごめんなさい」



オ オ オ



「やべえっ!」


 三生は、大急ぎでイカダに戻り、ロープで自分とイカダを巻き付け始めた。


「フウ!お前は飛べ!!」


 と、フウを見ると、フウは既に三生の上空に居た。良し。



 津波が来た!



「うーん・・」


 そしてゼンも当然のように飛んでいる。


 このままでは、犠牲は三生のみ。




 ゼンは、悩んでいた。


 自身の生み出した最高傑作であるウミが、何故このような真似を。



 最高、だからかな?



「ひょっとして、ウミ。気付いてた?」


「うん。だから、ね?」



 私は、私達のために。ゼン、あなたを倒すわ。




 皆で。



オ オ オ



 大津波が、三生を襲う!そして大波が島を打ったその時!


「行けえっ!!!」


 テツが、マナツが飛び出して来た!!


 無数の鉄槍が宙のゼンを襲う!


「むむむ」


 だがゼンは、軽くごちただけ。


 数百、数千の槍は全てゼンの目の前で凍り付き、時間を止めた。一面の空全体が、凍らされた。


「お仕置きが。必要かな」


「それは、てめえにくれてやるぜ!」


 遅れて飛び出た鉄槍にしがみついたマナツが、凍った空を溶かしながらゼンに迫る!


 空は、灼熱の炎獄と化した!!


 が!


「全く分からないなあ。ウミならともかく。君達2人で何が出来ると思った?」


 数百メートル半径に渡る数万度の集熱地獄が、一瞬でマイナス200度の氷結地獄に変えられた!


 空に居たマナツも当然、瞬間冷凍だ。




 三生は、津波に備えて、お祈りしていた。


 飲み込まれれば、水中をもがきながら右往左往する事になる。そして生身で泳ぎ続けるのは、面倒だ。出来れば、オールとイカダの一部分でも残って欲しいが。



オ オ オ


 来た!どうか、無事で!


 三生のお祈りも終わろうかどうかと言う時。


ビキイ


 イカダは、波に襲われなかった。ただ、イカダの周りは、「波の中から」凍り付き、急ごしらえの足場となった。ちょうど、大波のカーテンに包まれた形だ。


 波の狭間からやって来た者。


 コオリによって。


「待たせたな」


「コオリ?」


 なんで?


 三生は、まだいかなる事態が生じているのか、まるで理解出来ていない。


 ウミとゼンのやり取りから、何故か突然、仲違なかたがいが生じた。それだけしか分かってない。


 もう、何が何やら。



「久しぶり!」


「ハナさん?」


「お久しぶりですね」


「モミジさん!」


 何故か。クジラに乗ったコオリの後ろには、シャチに乗ったハナとモミジまでが来ていた。


 ここで、三生は思考を諦めた。何も分からん!


 分からないから。


「お久しぶり!皆、元気してた?」


 挨拶でもしてみた。


「元気元気。あなたと同じで、もうすぐ消えちゃうけどね」


「は?」


 ハナさんが?なんで??


 思考を止めたはずの三生ですら、再び脳をフル回転させる話だ。


「私達、どうやら終わりの時が来たようなのです。それで、最後なら、と」


「はあ」


 考えても理解出来ん。情報が、知識が全く足りない!



「まだマナツが場を抑えてくれているな。三生。お前の力も借りたい」


「おれの力・・・。いやいや。お前らが動くのなら、おれなんて要らねえだろ」


 氷凍の座にかしこまったコオリが、三生に話を持ちかける。イカダの上の三生とは、数メートルの距離だ。


「確かに。お前はただの人間だ。だが、諦めない人間だ。お前は、ハナの国でもモミジの国でも、私の国でも。テツと相対した時でさえ、お前は諦めなかった。手段を模索した。だから、お前が欲しい。お前の手が借りたい」



ゴオウッ!


 ゼンの居た範囲の空間凍土が燃え尽き、8千度の炎熱地獄が再び再現された!


「灰にしてやんぜ!!!!」



 三生らの場所にも、マナツの生き生きとした声が届く。


「あちらは、まだ大丈夫だな。三生、これを」


「何だ。これ」


 三生が手渡されたのは、虫取り網。ただし、オール金属製。重そうって言うか、重い。


「テツの作った元に、私達の力を込めた。使いこなせ。そして、ゼンを倒す」


「・・倒しちゃって、良いのか」


「構わん。このままでは、私達は、ゼンに消される。それなら、動くだけ動いてみようと。そう、ウミに言われてな」


「ウミさん」


 だが、そこは問題ではない。会って数分のウミなぞ、どうでもいい。



 この場にバッタが居ない。それが、問題だ。


 このゼン打倒に、バッタは賛成しなかったのでは。


「バッタは?」


「来ていない。し、お前と一緒に行ってから、一度も顔を見ていないな」


「そうか・・・」



 どうする。皆と歩調を合わせるか。


 それともバッタに義理立てるか。


 どうする、おれは。



「あまり時間は無いが。考えて、出来れば協力してくれ。ではな」


「ま、待て!ゼンとかに、勝てるのかよ!あいつ、ピンピンしてんぞ!」


 三生の位置からの距離では、あまり見えない。だが、バッタを苦も無く制圧出来るマナツが、まだ戦っている。まだ、終わってない。


 冗談ではない化け物だぞ。


「私達だけでは勝てない。だが」


 動きたくなったんだ。お前を見て。


「行って来る。バッタに気を使うのも良い。お前の好きにしろ」


 コオリは海水を凍らせ氷路を作り上げ、その上を高速で滑って行った。



「あいつ。こんな温かい気候で動いたら」


 コオリは、モミジの国で一度きりでダウンしたのだ。絶対に長くは持たない。



 またも凍らされていたマナツの氷像を融解、そして周囲の冷気を自らのコートに引き入れるコオリ。


「私が道を作る。お前が決めろ」


「おおよ!!」


 再び自らの肉体に炎熱をまとわせ、マナツが吠える。


 コオリがマナツを引っ張りながら、凍結空間を自在に移動、ゼンの目の前まで滑り込んだ。


「コオリ。まさか、君が動くとは思えなかった。僕の頭も、大分鈍ったようだね」


「私自身、驚いている。動くつもりも無かった」


 ゼンとコオリは、お互いの氷撃を散らせながら、お喋りに入った。




 本当に。


 コオリは、動くつもりなど無かった。

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