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◇◆引き続き、ジークハルト視点からになります◆◇


「ジークハルト様、緊張なさってるの?」


義姉上の声に俺はまさか、と笑う。


「イレーヌ……、こう見えてジークはむっつりなんだぞ」


「誰にでも食指が動いてしまわれるセディよりマシですわ」


ぐぅの音も出ないらしい兄上にふんっ、と義姉上はそっぽを向いてしまう。どうやらまだ根に持つらしい。


「…それぐらいにしてください、義姉上。雰囲気というものも大切ですから」


さしてピリピリもしてないが、敏感なら堪えるかもしれない。


「手回しの方はいかがでしたか?」


くるりとこちらへ向き直ると、義姉上は「問題ないですわ」と人差し指を立てる。あとは…。


「ジーク、降りたみたいだぞ?」


ざわめきが徐々にこちらへ伝わってくる。


目を凝らしてみれば、赤い絨毯をしずしずと歩く華奢な王女の姿があった。俺と同様に純白の正装で、赤い絨毯の中で白は特に映える。そして、予想以上に貴族たちの風当たりが強いようだった。謀られたと言ってしまえるだけに仕方はない。


そんな空模様の中、近づいてくる王女は口元に笑みを浮かべていた。兄上や義姉上は驚いたように王女を凝視している。大勢の貴族の視線を集めながら、王女は俺たち3人の前でピタリと歩みを止めた。


「…手厚い歓迎、痛み入ります。私はリンドベルク王国第三王女、リルフィリア・ハーネクリスと申します」


型通りの挨拶をした王女の肩書きに俺の思考はピタリと止まる。それは兄上たちも例外ではなかったようで、少なからず呆然としていた。


第三王女・・・・など、聞いたことがない。


これが率直な思いだろう。頭の中で様々な情報が飛び交うが、リンドベルク国王の子女は2人しかいないはずだ。


「…申し遅れました。ジークハルト・フィ・レノア、ディナトル公国第二公子です」


未だ、完全に把握しきれていないが反射的に作法通りの返答をした。一瞬だけヴェールから垣間見えた王女は報告通りの美しい銀髪に、空色の瞳だった。他を圧倒するような美しさに俺は思わずこう言い放ってしまう。


「着いた早々で申し訳ないが、式を執り行うつもりだ。聖堂へ移動して貰えないだろうか」


「…はい、元より承知しております」


しまった、と思った。こんな言い方では誤解されかねない。初対面の王女と、しかもこれから妻となる女性にそれ以上向き合えなくて俺は背を向けた。


  




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「……ごめんなさい、少しだけ一人になりたいんです」


これからは第二公子の妻としてディナトル公国で生きる私には、王国リンドベルクでいた頃とは違い、数十人の侍女が付けられた。キュリオリア夫人からも伝え聞いてはいたが、何人もの侍女が張り付いているのはあまり落ち着かない。


…特に、聞かれては困るような事を考えるときには。


長らく塔で過ごしてきた私はぶつぶつと呟いてしまう癖があるらしいのだ。キュリオリア夫人に「特にご注意なさいませ」と灸を据えられている。


「心配なさらないでください、本当に一人になりたいだけですから。何があればすぐに声をかけます」


渋る侍女を何とか説得し私は誰もいなくなった部屋で物思いに目を閉じる。



今日は本当に濃い一日だった。


結婚式に、その後のパーティ。身分も様々な人から話しかけられ、私は頭の中に急遽叩き込んだ『ディナトル公国貴族一覧』を思い返しながら会話をした。よって、会話の内容なんてこれっぽっちも覚えていないに等しい。…本当にキュリオリア夫人が諸々を叩き込んでくれてよかったと思っている。そうでなければどうなっていたことか。


一挙一動に心休まらない私と対照的だったのは旦那様となったジークハルト…。っと、何と呼ぶべきなのだろうか?年上の方を呼び捨てにするのはあまりよろしくない…はず。


それで、私と対照的だったのはジークハルト様だった。


巧みな話術に貴公子そのものの態度。どこをとっても非の打ち所がなく、加えて、あの容姿だ。私が隣に並ぶのはかなり不釣り合いだと自負している。



たが、それらが「どうでもいいこと」と一言で片付けられる事が、目下の最大の問題だ。



「嫁げ」と命令されてやって来て、まさか王女の入れ替えがあっただなんて夢にも思わない。本人には事後承諾なんて無茶苦茶にも程がある。


というか、国と国との間の契約を反故するようなことをして王国リンドベルクは無事なのだろうか…。いや、それだからこそ、例の"親書"が活きてくるのだろうか……。もしかしたら、何か裏でそれ相応の対価が支払われたのだろうか………。



ぐるぐると考えを巡らせても悪い方向にしか広がらない。


今日の一日で疲れきった私はそのまま眠りに堕ちた。

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