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『リーファへ。これを読んでいるということは、あなたはもうディナトル公国へ向かっている道中なのでしょう。リーファ、これから伝えることは本当に信頼できる人間ひとにしか伝えてはなりません。使いようによっては人びとを滅ぼし兼ねない……そんなことなのだから。


それについて、伝えることが三つあります。


一つ目はリーファの持っているその宝珠について。


代々の王に受け継がれた虹色の宝珠は、持ち主を守護すると言われています。持ち主、つまりは王を守護するのです。


二つ目は宝珠に秘められた力について。


宝珠には、持ち主の強い願いを一つだけ叶える、という力があります。肌身離さず持っていることが不可欠となるそうです。信じられないと思いますが、本当です。


三つ目は宝珠の継承方法について。


方法、という方法はありません。なにせ、血の繋がりがあるリンドベルク王家で継承されてきたものですから…。


先王の妃として伝えることはこれだけです。とてもわかりにくくてごめんなさい。なにしろ口伝で伝えられていることだから、よくわからないの。


リルフィリア、母としてなにも出来なくてごめんなさい。もっと、一緒に居たかった。離れていてもリーファのことは案じています。リーファが、幸せになれる様に…。』













馬の蹄の音が規則的に石畳の道にこだまする。その音を延々と聞きながら私は手渡された手紙を封筒に仕舞う。母からの手紙の内容が衝撃的すぎて、きれいに整理できなかったのだ。まさか、宝珠コレにそんな不思議な力が秘められているなんて思わない。今日も私の胸元を揺れる宝珠はただ虹色に輝くだけだ。



王国リンドベルクを出て3日、なかなか快適な馬車の旅であったと思う。王族御用達なのか揺れはほとんど感じられないし、座席はふかふか、しかも広い。会ったことのない従姉妹2人はいつもこんなのに乗っているのかと思うと気が遠くなる。従姉妹に限らず、普通の王族ならそうなのだろう。…普通の王族なら。


今更ながらにそんなひねくれたことは考えないようにしたい、と思う。不遇ではあったかもしれない10年だが、それなりに充実していたのだから。


「アリサ、そろそろ到着なの?」


手持ちの鞄をゴソゴソと探っていたアリサは「はい!」と上機嫌に答える。


「ドレスを整えさせていただきますよ!」


アリサが上機嫌なのには訳がある。曰く、「リルフィリア様が美しいドレスに見を包んで、それを拝見するのが大好きなのです!」と。目を爛々と光らせるアリサに一瞬引いてしまった私は苦笑いしかできなかった。華美なドレスは着慣れないせいか、窮屈に感じるのだ。


「お、おねがいします…」


アリサは座る私の横に来ると、乱れたドレスの裾や髪を細々と整えてくれる。この日のためだけに用意された純白のドレスは花嫁衣装にぴったりだ。豪奢な花嫁衣装ではなく、どこまでもしっとりとした落ち着いたドレスである。ひだのように広がる裾は陽の光を浴びて輝くことは間違いない。


「ふふふふ…。リルフィリア様の美しさに感服なさいな、公子殿下…。こんな可憐で麗しい花嫁様は二人としていませんのよ…っ」


アリサの怪しい声に私は一歩後退する。こんなに危なげな子だったかしら、と。


「も、もう結構よ、アリサ。ほら、近づいてきたみたいだし?」


まとまった大きな建物の影が見えるようになり、それらはどんどん近づいてくる。ディナトル公国は周囲を険しい山々に囲まれており、侵略の恐れは少ない。そのためか、人々の生活は平穏で馬車の中まで明るく楽しげな声が聞こえてきている。


「…この国を治めていらっしゃる方はとても優しい方なのね」


耳をすませば笑い声が聞こえるのだ。なんて素敵な国だろう、と私は思いを馳せた。しめっぽくなった私にアリサは「心配無用ですから!」と声をかけてくれる。


そうね、と返しながらも一抹の不安感はやはり拭えなかった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「……イレーヌ!」


「もう何も聞きたくありません!!セディ、あなたのような人のことを世間では"確信犯"というのです!」


ぎゃぁぎゃぁと大声で痴話喧嘩をするのは止めて欲しい。せめてもう少し小さな声で、と頼みたい。


今日は隣国、リンドベルク王国から花嫁となる王女がやってくるのだ。国を代表するものとして落ち着きを…と言ってもこの状態の彼らは聞き入れてくれないであろう。


「ジークハルト様、どちらが正しいと思いまして!?」


「我が弟よ、イレーヌの言い分は濡れ衣だ!」


「……もうどちらでもよろしいですから、静かにしてください」


出鼻を挫かれた様子の2人────────ちなみに婚約者同士である────────は同時にムッとした表情を見せた。


「よろしくなんてないですわ!婚約者としてのわたくしの立場がありませんもの」


「イレーヌと僕は婚約者だ。その事実は覆されないだろう?ならば構わないのでは…」


「まぁ!?認めましたわねっ!今の、しかと聞きましたわ!」


相変わらずな2人にこっそりとため息をつく。


まったく……。ディナトル公国第一公子セドリックとその婚約者イレーヌとは思えない。


国民の間に出回っている噂では「相思相愛のお似合いの2人」ではなかっただろうか。その2人が「公子セドリックの女性関係で痴話喧嘩をしていて、挙句の果てに騒動を巻き起こす」と言えばどんな反応が返ってくるか楽しみだ。


「公子殿下、王女がご到着なさいました」


すると、恭しく一礼して入ってきた騎士はここにいる3人が待ち望んでいた人物の来訪を告げる。おもしろいことに、騒いでいた2人はピタリと言い合いをやめた。


「……すぐに行く」


ちらりと2人を一瞥すると、ばつが悪そうに互いの顔を見合わせる。婚約者あいてのことが好きすぎるだけで素直になれないのだろう。



…俺には到底、理解できないが。



すぐに行く、と言ったはずなのになかなか動かない騎士に兄上は「どうかしたか?」と問われる。こういうところは公子らしいのだから、勿体無い。


「は、はい。それが─────────」

お兄さんとその婚約者さんにイチャコラさせたかっただけです:(´◦ω◦`):


後半の視点はこの作品のヒーロー、ジークハルトさんです。

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