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蒼が目を覚ました日  作者: 甘寧もえ
蒼が眠っている時(下)
9/13

蒼い夢路



 蒼が、左へ左へと流されていく。

 雲もあり得ない速さで回る。雨が降ったりやんだり、一瞬雷光が光ったり、その向こうで覗く空はいつまでも蒼かった。



 瞬きするのも惜しい。

 自然の理など微塵も感じさせないその不思議な現象に、私はただため息をついていた。



「しっかり、目に焼き付けて置くのね。何せ、一生に一度、それも一瞬だけなんだもの」



 そんな声が聞こえたかと思うと、突然視界が激しく揺れた。

 突然の衝撃に私は堪らず目を閉じる。



 何度か瞼の裏で光が交差したかと思うと、次の瞬間今までの唸り声がスッと消えた。



 そこは、元の穏やかな海だった。

 静かで、優しくて、全てを包み込むような、ただそんな風景が広がっていた。

 向かいに臨む灰色の街、摩天楼は相変わらず空をめがけて手を伸ばしている。



 蒼い、蒼い。

 何もかもが、蒼い。



「あ~、終わっちゃったなぁ。でも、言った通り。あなたと私は運が良かったでしょう?」

 女の子は濡れた髪を揺らしながら、こちらを見てにっこりと笑った。

 その表情には、どこまでも澄んだ哀しさを、包み隠すような温かさがある。



「……うん。とっても綺麗だった」



 震えるような衝動が、私の中でうずめいている。



 澄んだ憂いの中に、何かが。

 何だろう、この気持ち。



 蒼い光が窓から差し込む中、女の子は窓を閉じた。

 透明な痛みの向こうで、静かな波が空の下で漂っている。

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