蒼い夢路
蒼が、左へ左へと流されていく。
雲もあり得ない速さで回る。雨が降ったりやんだり、一瞬雷光が光ったり、その向こうで覗く空はいつまでも蒼かった。
瞬きするのも惜しい。
自然の理など微塵も感じさせないその不思議な現象に、私はただため息をついていた。
「しっかり、目に焼き付けて置くのね。何せ、一生に一度、それも一瞬だけなんだもの」
そんな声が聞こえたかと思うと、突然視界が激しく揺れた。
突然の衝撃に私は堪らず目を閉じる。
何度か瞼の裏で光が交差したかと思うと、次の瞬間今までの唸り声がスッと消えた。
そこは、元の穏やかな海だった。
静かで、優しくて、全てを包み込むような、ただそんな風景が広がっていた。
向かいに臨む灰色の街、摩天楼は相変わらず空をめがけて手を伸ばしている。
蒼い、蒼い。
何もかもが、蒼い。
「あ~、終わっちゃったなぁ。でも、言った通り。あなたと私は運が良かったでしょう?」
女の子は濡れた髪を揺らしながら、こちらを見てにっこりと笑った。
その表情には、どこまでも澄んだ哀しさを、包み隠すような温かさがある。
「……うん。とっても綺麗だった」
震えるような衝動が、私の中でうずめいている。
澄んだ憂いの中に、何かが。
何だろう、この気持ち。
蒼い光が窓から差し込む中、女の子は窓を閉じた。
透明な痛みの向こうで、静かな波が空の下で漂っている。




