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予兆の静寂
私は、ニコニコとする女の子に、眉をひそめた。
「運がいい? どういうことなの?」
だが、女の子は明るい瞳で遠くを見つめている。
そしてそのまま「いいから。ほら、よく見てなさいな」と答えた。
私は不思議に思いながらも、揺れる窓の外を眺め出した。
――異変は、すぐに起こった。
始めはその光景が何なのか、さっぱり見当もつかなかったが、今はさらに意味がわからない。
ただ、向こうの方で、ぴたりと風が止んだのだ。
今まで窓の外から爽やかに流れていた、心地よい音が消える。
穏やかに揺れていた波も、形を滑らかに変えていく。
「ね、ねぇ、これって何?」
「始まるわ!」
私に喋らせまいと言葉を重ねると、女の子は目を輝かせた。
あっという間に波が止む。
シンと静まりかえる海面。
水面から凹凸が消え、海は静かに息を潜める。
何もかもが透明なその時間に私は思わず息を呑み込んだ。




