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蒼が目を覚ました日  作者: 甘寧もえ
蒼が眠っている時(上)
4/13

灰色の街


「ここは、素敵なところだね」

「ありがとう。私のお気に入りの窓なんだ」

 女の子は嬉しそうにくるりと回った。

 長い髪がさらりと揺れる。



「でも、すぐに帰っちゃうんでしょう? せっかく遊びに来てくれたのにね」

「そうだねぇ、帰らないといけないねぇ」



 海を見つめたまま答えた。

 微睡むような優しさを漂わせる風。



 でも、私は帰らないといけない。

 こんな私でも、待ってくれている人はいるのだから。



 二人の間に、また少しの沈黙が流れる。

 女の子はクフフと笑って、窓に凭れかかった。

 肘と肘がくっつき、少しむず痒い気持ちになる。

 しかし、嫌な気分はしない。私たちは少しの間顔を合わせてから、また笑った。



「……私はね、この前までは、向こうの街に住んでいたのよ」



 女の子は、細い指を向かいの灰色の街の方へ向けた。

 とても優しい目になる。

 届かない、もう過ぎ去った過去を甘く見つめているような、そんな目。



「あの島に住んでいたの?」

「あれはね、島じゃないの。ずぅっと遠くまで続く大陸。とっても大きい陸地の、一番海に近い街よ」



 どこまでも続く、道の大陸……。

 夢見るような声色で語られる。短い言葉だったが、私はいつかあのくすんだ街にも行ってみたいな、と思った。

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