灰色の街
「ここは、素敵なところだね」
「ありがとう。私のお気に入りの窓なんだ」
女の子は嬉しそうにくるりと回った。
長い髪がさらりと揺れる。
「でも、すぐに帰っちゃうんでしょう? せっかく遊びに来てくれたのにね」
「そうだねぇ、帰らないといけないねぇ」
海を見つめたまま答えた。
微睡むような優しさを漂わせる風。
でも、私は帰らないといけない。
こんな私でも、待ってくれている人はいるのだから。
二人の間に、また少しの沈黙が流れる。
女の子はクフフと笑って、窓に凭れかかった。
肘と肘がくっつき、少しむず痒い気持ちになる。
しかし、嫌な気分はしない。私たちは少しの間顔を合わせてから、また笑った。
「……私はね、この前までは、向こうの街に住んでいたのよ」
女の子は、細い指を向かいの灰色の街の方へ向けた。
とても優しい目になる。
届かない、もう過ぎ去った過去を甘く見つめているような、そんな目。
「あの島に住んでいたの?」
「あれはね、島じゃないの。ずぅっと遠くまで続く大陸。とっても大きい陸地の、一番海に近い街よ」
どこまでも続く、道の大陸……。
夢見るような声色で語られる。短い言葉だったが、私はいつかあのくすんだ街にも行ってみたいな、と思った。




