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美しい蒼がある
「大丈夫? ねぇ、大丈夫?」
心配そうに、女の子が私を見ている。
私の額からは、汗が雫となって零れ落ちていた。
あの、ノイズが掛った私の声も、訳のわからない機械音ももう聞こえない。
ただ、蒼い世界から心地よい沈黙の音が、辺りに響いているだけだ。
「……何でもないよ。大丈夫。私にも、名前はないんだ」
私は笑って答えた。
女の子はホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「なぁんだ、じゃあ、同じね。『名前がない仲間』!」
「うん! 名前がない仲間」
お互いの顔を見つめて、そう言う。
キラキラとした目は、やはり蒼くて美しい。
私は何だか急におかしくなって、クフフと声に出して笑った。
女の子も、私を見つめて同じようにクフフと笑う。
私は、再び窓枠に肘を掛けて、外の景色を眺め出した。
磨き上げられたガラス。そこから伝わる透明な温度が、とても心地よい。
空とくっつきそうな海。それを許さないとでも言うように、上に手を伸ばすくすんだ建造物。
飽きない景色。もうこのまま、ずっと、ずっとこのままでも良い。
戻れなくたって、構わない。




