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あなたは、生きている
とても冷たい手だった。だが、どこか懐かしくて、どんな幸せよりも心地よいものだった。
ドクン、ドクンと私の心臓の鼓動が、女の子の手を通して聴こえる。
女の子は、優しい福音に耳を寄せるように、しばらく幸せそうな表情で目を閉じていた。
白いカーテンが、二人をふわりと包み込む。
「……うん、大丈夫。あなたはちゃんと、生きてる。だから、ちゃあんと、胸に刻まれているわ」
開かれた目。
優しいけれど、どこか憂いをたたえた目。
もう二度と、見ることのない目。
それが、私が最後に見た蒼だった。
既に、私の景色からは色が失われ始めている。
空、海。全てが、向こうの街と同じ色を残して、砂のように消え去って行く。
これは嘘なのか。それとも、夢なのか。
枯れることのない、蒼。
そう、何も変わらない。
ここから跡形もなく消え去るのは、私だけなのだから。




