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「アルティアさーん?
そろそろ限界なんですが………?」
やはり俺の期待は裏切られ、アルティア達は買い物をしまくった。
すでに俺の腕は限界近く、その証拠に段々と腕に力が入らなくなってきた。
「え、もう?」
「もうってお前な………途中で買い足される荷物と、それまでの荷物を持って何時間も耐えた俺は誉められても良いと思うんだが…………?」
非力なオタクである俺に長時間の荷物係なんて無理だし、むしろここまで粘ったことを称えてもらいたい。
「しょうがないわね………じゃあ転送」
アルティアが杖を振ると、俺の腕にかかっていた重さが文字通り跡形もなく消える。
「うおっ!?
何をしたんだ?」
「転送魔法で私の家に直接送ったのよ」
事も無げに言うアルティアに便利な魔法があるんだな、と思いふと気がつく。
「なあ、なら最初から俺に持たせないでそれで直接送っていれば良かったんじゃ………」
「…………」
アルティアは後ろめたそうに顔をそらす。
「おい、まさかまた「忘れてた」ってオチじゃねえだろうな!?」
「ち、違うわよ、ただ忘却してただけよ」
「忘れてんじゃねーか!」
「う、うるさいわね!
あまりごちゃごちゃ言ってると舌だけ転送魔法で飛ばすわよ!」
「えげつない使い方するなおい!?」
フー!と猫みたいに威嚇してくるアルティアの脅し文句に引く。
何でこいつは見た目は小動物みたいな愛らしさなのに、中身は電撃ムチを振り回したり炎の化身で魔物を蹂躙したり今の発言だったりとこんなに物騒なんだろう。
「二人とも、落ち着いて。
街の人たちが見てますよ」
さっき買ったイカをかじりながらクレアが周囲を指す。
周りを見てみるといつの間にか俺たちを中心に人だかりができてひそひそと何やら話し合っていた。
『こんな街中で………お熱いことねえ』
『まさかアルティアさんがあんな冴えない男と………なあ』
『こんな路上でイチャイチャすんなってんだ………!』
今しがた舌を引っこ抜くぞ、と言われたのに周囲には痴話喧嘩の類いと思われてるらしい、この世界の恋愛価値観はどうなってんだ?
「あ、あんたたち!
見世物じゃないわよ!」
アルティアが杖を振り上げると、街の人たちは蜘蛛の子を散らすようにあっという間に散らばっていった。
「ふう、えっと何の話をしてたんだっけ?」
「いや、もう良い………何かどうでもよくなった」
「そう?なら買い物も終わったし、これからどうする?
家に帰る?」
アルティアの提案は最もだが、本音を言えばもうちょっと街を見てみたい、地理も覚えないといけないし、少しでもこの世界の常識を覚えなければ。
「いや、もうちょっと街を見て回りたいんだが」
「良いわよ、でも私はちょっと用事があるからレンヤとクレアちゃんだけになっちゃうけど良い?」
「え、そうなのか?」
「ええ、私宛に依頼が来てるらしいから。
断っても良いんだけど、報酬が良いからね」
うーむ、アルティア抜きか………まあこっちには神がいるから普通は安心なんだが………俺はクレアをチラッと見る。
「どうしました連夜?
はっ、これはあげませーーむぐっ!?むぐぐー!?」
俺の視線を勝手に勘違いし、勝手に自滅する食い意地の張ったアホ神を見て、改めて頼りにならないと認識した。
「まあ何かあったらギルドに帰るから問題ない」
「そうね、クレアちゃんもいるし心配ないでしょう。
それじゃ」
アルティアは杖を振り、転移魔法で消えた。
自分一人なら魔方陣もいらないのだろう、相変わらずチートじみた能力だ。
あとアルティアのあの発言はクレアのステータスが高いことを見越しての発言だろうが………
「うう、死ぬかと思いました………」
神様のくせに食べ物を喉に詰まらせて危うく死にそうだったらしいクレアを見てため息をつく。
仮にこいつのステータスが封印されてなくてもあまり役には立たないんだろうな、と確信に近い予想も抱きながら。
「いつまでも一人漫才やってないで行くぞ」
「良いですがどこに行くのですか?」
「適当に街をぶらつく。
この辺の地理も覚えないといけないしな」
「なるほど、一理ありますね。
それにこれについても何かしらの手がかりが掴めるかもしれません」
そう言ってクレアが取り出したのは一枚の紙だった。
「え、なにそれ」
「ここに送られる前にレンテ様が一緒に送ったものです。
何でもこの世界に私の封印を解くアイテムを隠したとか。
これはその一つ目のヒントを書いた紙です」
「……………」
ゴンッ!
俺はクレアの脳天にグーを一発落とした。
「いたっ!何をするんですか!?」
「何をじゃねえよそんな大事なものがあるんならさっさと出せやこのダメ神がああああ!!」
「いひゃっ!?いひゃい!
ふぉふぉをつねひゃないでくだひゃい!」
怒りに任せてクレアの頬を一分ぐらい伸ばしたり縮めて離し、俺はクレアから紙をもぎ取った。
「うう………酷いです………横暴です…………」
頬を押さえてしくしくと泣くクレア。
「うるせえ、俺がどう帰ろうか、そもそも帰る手段があるのかとか悶々としていた時間を返せ」
俺はクレアにそう吐き捨て、紙に目を通す。
ちゃんと日本語で書かれており、俺にも字が読めるようだ。
「なになに、『お前に小難しい話は意味がないだろうから簡単に三行で説明してやろう。
お前の力を取り戻すアイテムを
この世界に七つ隠した
帰りたければ探せ
この世の全てをそこに置いてきた』…………どこからツッコンだら良いものやら」
自分で三行と言ってるのに四行にしてるのは何なのか、おまけに四行目いらないし、あとあの人もワン〇ース知ってんのかよ意外、とか色々言いたいことはあるが本人がいないのにツッコンだところで誰も得をしないので俺はツッコミたいのをぐっと我慢して下の方へ目を向ける。
下の方はどうやらそのアイテムが隠されている場所を示しているらしい。
「どれどれ………『宝のありかを示す言葉をここに残す。
其は地下に眠る者達、幾千の魂従えし王を越えし時、そなたらの望む物は手に入るだろう』…………またそれっぽいものが来たな」
元の世界に帰りたいなら宝探しをしろと。
問題は宝探しだけなら良いが、そこに戦闘が加わるかどうかだ。
それにこの世界の地理がさっぱり分からない俺たちにはこの言葉がどこを示しているかも分からない、問題は山積みだ。
アルティアがいれば何か知っているかもしれないが、今はクエストに出掛けている、いつ帰ってくるか分からないし、帰る手がかりが見つかった以上、待つだけなのも苦痛だ。
確かにクレアの言った通り、街の探索ついでにこれについての情報収集をした方が良いかもしれん。
「よし、これについての情報を集めるぞ、グズグズするな」
「それ私がさっき言いましたよ………」
目的ができたことでやる気が出てきた俺はクレアとともに街を歩き始めたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
『なんだこりゃ?
知らねえ知らねえ』
『聞いたこともないわねぇ。
あ、あそこの串焼き買ってくれたら思い出すかもーーああ、待ってーーー!!』
『ひっひっひっ、このぐらいでどうだい?
あ、いや、やっぱこのぐらいで、ああ!お待ちくだせえーー!』
道行く街の人たちに声をかけるも、この言葉から場所を特定できる人は誰もいなかった。
「うーむ、まあ重要アイテムがそう簡単に見つかるわけないか…………」
「疲れました…………」
俺とクレアは街の一画にある休憩所に座り休息を取っていた。
あまり人気がないのか俺たち意外には誰もおらず、休むのにはちょうど良い場所だ。
「はあ………そう簡単には見つかるわけがねえか………」
期待してた分、空振りのダメージが重くのしかかる。
今までが順調だったおかげか、ここで見つかるんじゃないか、と根拠のない自信を抱いていたのだが、現実はそう甘くはないということか。
他の街で情報を探すにしても、何の手がかりもなく一つ一つの街を巡って探し回るのは無理だろう。
「は~…………」
思わず深くため息をつき、ベンチにもたれかかる。と
『………え!………んな』
『……………』
少し遠くの方からか荒立った数人の声が聞こえてきた。
「連夜、聞こえましたか?」
「…………ああ、聞こえちまったよ」
立ち上がって声がする方に近づくと、数人の男が一人の女の子を取り囲んでいるのが見えてきた。
女の子は身長から中学生ーー14歳ぐらいだろうか、魔法使いのような帽子をかぶってるせいでここからでは顔があまり見えないが、代わりにアメジストのように綺麗な紫色の長い髪が特徴だった。
「てめえ舐めた真似しやがって!」
「タダで帰れると思ってんじゃねえだろうなぁ!?」
「……………」
どうやら男達が女の子に一方的に詰めかかっているらしい。
何であそこまで怒ってるのかは分からないが、まあどうせあんなザ・三下みたいな奴等だ、どうせあいつらが悪いに決まってる。
問題はどうやって助けるかだ、見たところあまり悠長に悩んでいられる状況ではなさそうだし…………
「なあクレア、何か考えはないーー」
クレアの方を向くと、さっきまでそこにいたはずの自称神様の姿はそこになく代わりに
「やめなさいあなた達!
女の子一人相手に恥ずかしくないのですか!」
と、聞き覚えのある声で啖呵を切るのが聞こえてきた。
「あ、あのバカ…………!!」
後でさっき買った激辛果物とやらを口に放り込んでやると誓いながら俺も仕方なく姿を現す。
「なんだてめえらは!」
「部外者はすっこんでな!」
男たちは突然入ってきた俺たちにも敵意のこもった目を向ける。
「そうはいきません。
詳しい経緯は分かりませんが悪人面しているあなた達が悪いに決まってますから」
「「「なあっ!?」」」
クレアの暴言に男達は言葉を失ったようで、しばらく口をパクパクさせ
「「「ざけんなあこらぁ!!」」」
と、見事にシンクロさせた怒鳴り声をあげる。
「てめえ…………言うに事欠いて悪人面だと!?」
「人が気にしていることを!」
「てめえらから先にやってやるよぉ!」
と、物の見事に三下臭がする発言をし男たちは俺とクレアを取り囲む。
「…………で、あそこまで啖呵切って飛び出してきたんだ。
こうなる状況も見越してたんだよなもちろん」
「…………どうしましょう」
「やっぱりとは思ったがお前後で覚えとけよ」
包囲しつつジリジリと近づいてくる男達に冷や汗が流れるのを感じる。
何か状況を打開する方法は…………そうだ!
「クレア!アレを男達に見せてやれ!」
「は、はい!」
俺の言葉にクレアはバッと何かを取り出し男達に見せつける!
取り出したそれに男たちは怪訝な顔をする。
「ああ?何だこりゃ?」
「何かもぞもぞ動いてるぞ」
「ふっふっふっーーーこれは巨大ナメクジの肉です!
これを口に入れられたくなければーー」
「ちげえよアホんだらああああぁぁぁ!!
ステータスカードを出せっつってんだ!!」
「そ、そっちでしたか」
「逆に何でそれを出したのかが俺には分からないんだがっ!」
「連夜が気持ち悪がってましたから男の人は苦手なのかと」
「マトモな日本人なら普通なんだよ!
良いからとっとと出せ!」
クレアは肉をしまい、カードを出して男達に見せつける。
「はあ?何のつもーーーっ!?」
「ば、バカな!
なんだこのステータスは!?」
男たちはクレアのステータスを見て、さっきの勢いが嘘のように狼狽え始めた。
よし、狙い通り!
こいつは今は雑魚とはいえ、元々のステータスは高いからな、こういう脅しに使うには効果的だ。
「さあどうする?
逃げるなら今の内だぜ?」
俺はクレアに目で少し前に出るよう合図する。
クレアが指示通り一歩前に出ると、男たちは怯えた様子で一歩二歩と下がり
「ちくしょう!覚えてろよ!」
と、テンプレートな捨て台詞を言って走っていった。
ただのハッタリだったんだが予想以上に上手くいった。
役に立たねえと思ってたが、使いようによっては役に立つこともあるんだな。
「お前の無駄に高いだけで使えないハリボテみたいなステータスもたまには役に立つな」
「無駄に高いとは何ですか!
いつか封印が解けたら連夜なんてひれ伏せさせてあげますから!」
「あーはいはい。
俺は妄想に付き合ってる暇はないんだよ」
「本当です!!」
尚もぎゃーぎゃーと騒いでいるクレアはひとまず放っておき、俺は女の子に近づく。
「おい、大丈夫か?」
「……………」
髪の色と同じ、アメジスト色の瞳が俺をじっと見つめる。
「ど、どうした?」
「…………ありがとう」
女の子は澄んだ声でお礼を言って頭を下げた。
「ああ、いや気にするな。
俺たちはもう行くが、後は大丈夫か?」
「……………」
俺の問いかけに女の子は沈黙を返す。
「おーい?聞こえてるかー?」
「…………聞こえない」
「そ、そうか?」
この距離で聞こえないのか?と若干釈然としない思いを抱きつつもう一回さっきと同じことを繰り返す。
「俺たちはもう行くからな、またさっきみたいなのに捕まるんじゃないぞ?」
「………分かった」
今度は聞こえたみたいだーー
「………聞こえなかった」
「どっちなんだよ!」
「れ、連夜、落ち着いてください。
相手は年下の女の子ですよ?」
クレアに諌められ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
そうだ、相手は年下だ、落ち着け俺、すぐにカッとなるのは俺の悪い癖だって昔母さんも言ってたじゃないか。
「………大声出してすまなかったな。
じゃあ聞こえたってことで良いんだよな?
そういうわけだから俺たちはこれでーーー」
俺はそう言ってそそくさとその場を後にしようとするがぎゅっと服の端を掴まれる。
後ろを振り向くと女の子の瞳が俺を見つめ
「…………待って。
私の話を聞かないで」
「き、聞いてほしいってことで良いんだよな?」
「…………あなたに付いていきたい」
女の子にそう言われ一瞬本当なのかどうかを疑うが、わざわざ呼び止めたってことは、これは本当なんだろう。
「でもお前の家は?家族は?
帰る家があるなら帰った方が良いぞ」
助けておいて何だが、この子と関わると面倒くさいことになる、と俺の第六感が囁いているので、何とか女の子を帰らせようと試みる。
「……………家族は放浪してるから大丈夫。
…………今頃は楽しんだり、苦しんだりしてる」」
「だ、大丈夫の意味が分からんが。
それに割りとハードな人生送ってんだなお前………」
平然と言う辺りあまり深刻な状況ではないのかもしれんが。
それにしても………
「何でお前はそんな天の邪鬼みたいな喋り方をするんだ?」
「…………デメリット」
「デメリット?」
その言葉を聞いて真っ先に思い浮かんだのは固有魔法のことだった。
「まさか固有魔法か?」
「……………そう」
なるほど、本人の意思じゃあないんだな。
「すまん、俺はてっきりふざけてそういう言い方をしているのだと」
「…………」
女の子は無言で俺をポカポカと殴り始めた。
「いて、いて。
わ、悪かった、だから怒るなよ」
「……………怒ってない。反省して」
今のは反対だな、最初は訳の分からないことを言っているもんだと思ったが、慣れてくるとそうでもない。
言語が発達した日本人だからか、俺がラノベやゲームで言語を発達させているからか。
「あと何で俺たちに付いて行きたいと?」
「……………さっき助けてくれたから。
報復する」
「………お、お礼がしたいんだよな……?
で、でも気にしなくて良いぞ?
さっきのは相手が一人相撲をしてただけだからな」
俺たちがやったことといえばハリボテステータスを盾に脅しただけだ。
俺たちが何かしたと言うより、ほぼ運が良かったのと相手が小心者だっただけの話だ。
感謝するなら神に…………いや、あの神様に感謝するのも癪だからそこら辺の石にでも感謝する方が良い。
「……………でも助けてくれたから」
女の子はもう一度その言葉を繰り返した。
どうやら方法等はともかく“助けてくれた”というのが女の子にとっては重要らしい。
うーむ、俺にこの子の説得は無理そうだ………そうなるとこの子を連れてギルドに戻らないといけないのだが
「(おいクレア)」
「(はい、何ですか?)」
「(もしこの子を連れてギルドに帰ってアルティアに見られたらどうなると思う?)」
「(うーん………中学生はアウトではないでしょうか)」
「(だよな…………)」
問題は俺にロリコン疑惑がかけられていることだ。
そしてこの子の容姿からして間違いなくアルティアは勘違いして俺(変態)からこの子を守ろうとするだろう。
「あー深い意味はないんだが、君の歳とあと名前を聞かせてもらっても良いか?」
「………ミリィ・サフィリリス。14歳」
14歳か………うん、アウトだな。
「ミリィ、悪いがお前と一緒に行くことはできな」
「いたぞ!」
断ろうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと声のした方から、さっきの男達とさらに数人の仲間と思わしき男達が、武装してこちらに向かってきているのが見える。
ってこれ本気でやべえじゃねえか!
「ににに逃げるぞクレア!
あとミリィ!」
「は、はい!」
「…………追いかける」
「追いかけられてんのは俺たちだけどな!」
三人で走り出すと、男達も逃げていく俺たちに気づく。
「逃げたぞ!」
「落ち着け、相手は魔法使いのSSクラスだ!
このまま距離を保ちつつ前進、魔法の詠唱に入ったら散開しつつ弓で妨害する!」
さっきの男の一人が明らかにモブには出せないような的確な指示をする。
「あいつ三下じゃなかったのか!?」
「わ、私に聞かれても………」
「…………A級狩人ギルドの部隊長。
………すごく弱い」
「は、狩人ギルド!?」
「…………集団で大物の魔物を狩ったり、狩らなかったりする」
つまりモンスター〇ンター?
そしてA級ってことは上級かG級クラスの腕を持つ人ってことか?
…………………えらいのに喧嘩売っちまったぁ!?
「れ、連夜…………私………もう…………」
クレアの走るスピードが段々落ちていく。
かくいう俺の足も日頃の運動不足がたたってか、もうあまり前に進まなくなってきていた。
そしてそれと比例するかのように集団との距離が縮まるのが早くなっていく。
「相手の動きが鈍ってきたぞ!」
「よし、距離を取りながら包囲するぞ!」
ついに足が止まった俺たちを取り囲み、ジリジリと武器を構えながら近づいてくる。
「やべえ………やべえぞ………」
「…………戦わないの?」
女の子が素朴な疑問を投げかける。
「実は俺たちは戦えないんだ」
「…………どうして?」
「あまり詳しくは言えないんだが」
「連夜はステータスが平均以下で、私は能力が封印されているからです」
「俺のところはオブラートに包んでほしかったなぁ!」
などといつもの調子でつい漫才をするが状況は深刻だ。
向こうは完全に俺たちを実力者だと思ってるし、実は弱いんですと言っても信じないだろう、ステータスも見せちゃったし。
あのステータスを見せれば大抵の輩は手を出さないだろうと思っていたのだが、まさか相手があんな高ランクの人だとは思わなかった。
ってかあんな三下みたいな喋り方をする高ランクの人がいるなんて誰も思わねえよ!
「散々コケにしやがって………覚悟しやがれよ………!!」
どうやら男は完全にさっきのことでぶちギレてるみたいだ、こりゃ説得は無理だな………。
男達がどうするつもりなのかは分からないが、武器を持ち出して仲間まで連れている以上タダではすまないだろう。
ああ………せめて殴るなら俺だけにしてもらえるよう頼んでみようか………痛いのは嫌だが、俺も男の端くれだ、女の子には絶対に手を出させまい。
と、悲壮な覚悟を決めているとミリィが少し前に出て、手を地面につけた。
「お、おい………?」
「なんだぁ?今さら土下座でもすんのか?」
「…………反転。性質」
ミリィがそう呟くと
ズズッ
「うわあ!?なんだなんだ!?」
「し、沈むぅ!?」
「た、助けてくれーー!」
突然、男たちが地面に沈み始めた。
「な、何が起こったんだ………?」
俺とクレアはその様子を呆然とした顔で眺めていた。
ふとクレアがしゃがみこみ、地面を触り始めた。
「おい、どうした?」
「連夜、この地面を触ってみてください」
言われた通り触ってみると、固いはずの地面がすごく柔らかくなっているのに気づく。
それこそ、重い鎧と武器で身を固めた者なんて簡単に沈みそうなぐらいに。
「……………これでもう動けない」
「これ、お前がやったのか?」
「…………そう、私がやった。
…………感謝して、水溜まりのように深く」
「あ、ああ。
ところであいつら大丈夫なのか?
このまま沈んだら死ぬんじゃ………?」
「…………心配ない。………顔までは沈まないから」
「うわあ………」
それはつまり顔以外は全部沈むと言うことで、俺は男たちに心底同情した。
「そ、それより今何をしたんだ?
反転とか言ってたが………」
「…………地面の性質を反転させた。
…………固いのから柔らかいのに」
「つまり固い地面を柔らかくしたってことか?」
「…………そう」
思わずチートや!と叫びたくなるが我慢する、色々と危なくなるし。
「じゃあそのあとに性質、って言ったのには何か意味が?」
「…………私は方向と性質のどっちかしか一度に反転できないから。
…………まだ未熟で完璧」
「そ、そうか。
いやでも助かったよ、ありがとう」
「…………良い。
…………これで付いていける」
「ん?何の話だ?」
「…………さっきの話」
さっきの話っていうと………ああ、アレか。
「いや待て、なんでいきなり?」
「…………?
…………戦えないんでしょ?
…………なら私が付いていけば安心、安全。
………枕を低くして寝れる」
「いや…………その………」
問題は君の戦闘能力じゃなくて、君の容姿と歳なんだが。
どう説明したものかなぁ………。
俺が頭を悩ませているとクレアが「あ」と何かに気づいたかのように声を出した。
「どうしたクレア。
またチンピラに囲まれてる人がいるとか言うんじゃないだろうな」
「…………連夜、頑張ってください」
「おい、何でいきなりそんな最初の神様モードみたいな声を出す?
まさか…………」
俺はいきなり固くなった首を無理矢理動かして後ろを振り向く。
「ちょっと連夜、これ何のさわーー」
今来たらしいアルティアがちょうど振り向いた俺の顔と、その後ろにいるミリィの顔を見て、もう一度俺を見る。
「…………連夜、これはどう言うこと?
その子は?まさか…………」
「いやいやいや!話を聞いてくれ!実は」
「……………レンヤと一緒に住む」
「そうなんだって絶妙なタイミングで話を繋げるな!?
思わず頷いちまったじゃねえか!」
「な、な、な…………!!」
「待て!今のは違う!
俺の話を聞いてくれ!」
「…………レンヤに襲われたから。
………お礼をする」
「お前はまたこんなタイミングで反対のことをおおおおおお!?」
「レンヤ…………ついに犯罪行為に走ったわね………」
「ちが、こいつは反対のことを…………!?」
よくよく聞けば言葉がおかしいことに気づくのだろうが、怒りが沸騰してるアルティアには俺が襲った、の部分しか聞こえてないようだ。
「言い訳は牢屋で聞くわ!
往生しなさいこの変態ーーー!!」
「もう突き出すこと前提かよおおおお!?」
ーーーーーENDーーーーー