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晴れてギルドの一員になった俺たちだが、本当に自由らしく入ったは良いものの「何してても良いわよ、ギルドの評判を落とすようなことじゃなければ」と言われた。
ということで、当然クエストに出る気のない俺たちはアルティアの買い物に付き合うついでに、街を散策することにした。
ちなみにギルドから前金ということで、俺とクレアにお金が払われている。
今のままでも普通に暮らすには充分だそうだが、ギルド内でのランクが上がるごとに支払われる金額も多くなっていくという。
つまりアルティアの「街が買える」発言は本当のことだったわけだ。
俺は歩きながらそのことをアルティアに話す。
「それにしてもアルティアがそんなに凄い魔法使いだとは驚いた。
俺と(見た目を除けば)変わらない歳なのに………」
「今何か余計なことを考えてなかった?
まあ、私は元々魔法が好きで独自に勉強してたからね。
そこに生まれ持った魔力が合わさって、たまたま強力な魔法が使えたというだけよ」
ちなみにここでの魔力というのは、自然界のエネルギーをどれだけ扱えるか、のことを指すらしい。
当然、高ければ高いほど多く自然のエネルギーを使え、強力な魔法を扱えるというわけだ。
「偶然だろうが何だろうが才能があるって良いよな。
俺なんか………」
平均以下と言われたステータスを思い出し沈む。
秀でたステータスをとまでは言わないから、せめて平均的なステータスが欲しかった………。
「まあそんなに落ち込まないで。
まだ固有魔法とか、もしかしたら固有特技があるかもしれないわよ?」
「固有特技?」
「あれ?まだ説明してなかった?」
「初耳だと思うが」
「私も聞いていません」
「えーと、固有特技というのは、固有魔法と同じで一人一人に発現する技や、身体的な特技ね。
身体を変化させたり、強力な技が放てるようになったりするわ」
「強力な技って?自分で編み出すんじゃなくて?」
「うーん………私の知り合いの話によると、目覚めると技名とどういう技なのかが頭の中に浮かんできて、その技名を言いながら体を動かすと放てるそうよ」
ソード〇ートオンラインか。
「ちなみにその知り合いはどういう技を使えるんだ?」
「あまり詳しくは言えないけど、その技で山を真っ二つにしたわね」
「……………………え?」
何気なく言うので冗談かと思って聞き返すも、アルティアに冗談を言っている様子はない。
「これだけじゃ分からないわよね」
「い、いや、充分すごいってのは伝わった………」
「そう?
とにかく固有特技、固有魔法次第ではステータスがたとえ平均以下でも立派に第一線に立てられるほどの強さは身に付くわよ」
「………………」
アルティアに悪気はないのだろうが、すごい傷つく………。
「あと本当に稀だけど、固有魔法と固有特技が両方発現する人もいるわね」
「それは凄いな」
アルティアがイフリートを召喚しながら、剣か何かで山を真っ二つにする光景を想像する。
俺だったら会った瞬間に全力で逃げるな………まあ今でも鞭を出したら全力で逃げるけど。
「本当に稀よ。
それに能力の組み合わせ次第では全く使えなくなることもあるし」
「へー………例えば?」
「例えば、強い動物に変化できるようになる固有特技と、魔方陣を描かないと発動できない固有魔法が発現した時とか」
「……………それは確かに役に立たねえな」
その変化する動物にもよるだろうが、牙やら爪やらでアルティアがイフリートを召喚するときに書いてたような複雑な魔方陣を描けるわけないだろうし。
「クレアちゃんはどんなのが発現してほしい?」
「私ですか?
そうですね…………今の私にどんな能力が身に付くのかは分かりませんが、龍とかになれたらカッコいいですよね」
「「龍?」」
クレアがドラゴンになるところを想像してみる…………うん、ないな。
「クレアちゃん、龍はちょっと難しいかもしれないわね」
「何故ですか?」
「龍っていうのは、この世界で最強の生物の一角なの。
生まれつき魔力が高く、強力な肉体に強力な魔法を扱い、さらに高い知能まで兼ね備えている。
人間ごときがなれる存在ではないわ。それに未だかつて龍になる固有特技を習得した人は聞いたことがないし」
「へー………龍ってそんなに凄いんだな」
確かにそれはクレアには無理だな、想像できんし。
「…………私は本来、その龍たちの神なんですが………」
「ん?クレア、どうした?
ははーん、さてはあまりに自分とかけ離れすぎた存在でショックを受けてんな?」
「違います!連夜のばーか!」
そう言ってクレアはぷいと俺から顔をそらした。
何だよ急に怒りやがって、事実は事実なんだからしっかり受け止めないと
「お、さっきの超すげえ嬢ちゃんと、平均以下の奴じゃ…………」
「俺は平均以下じゃねえ!あの時はたまたま調子が悪かっただけだぁ!」
「な、ど、どうしたんだよ急に」
くそ、誰だ余計な記憶を思い出させるのは!
声のした方を振り向くとそこには二足歩行の人間トカゲが
「あ、ギルドの時の………」
「よう、あの時は悪かったな。
まああれが一応俺の仕事だから勘弁してくれよ」
トカゲ男は気さくに話しかけてくれる。
なるほど、あの門番の時の無愛想な態度は仕事用で、こっちが素なのか。
「改めて、俺はガルネシアっていうんだ。
種族は見た通りリザードマンだ、よろしくな」
そう言って握手を求めてきたので応じる。
うお、でかいな手………俺の頭ぐらいなら片手で握りつぶせそうだ。
「ちなみに彼はA級の魔法使いよ」
「ええっ!?トカゲなのに!?」
こういう種族は大体魔法が苦手って相場(?)が決まってるのに!
「おい小僧…………今トカゲと言ったか………?」
俺が思わず言った言葉にトカゲ………ガルネシアさんが低い声で聞き返す。
あ、そ、そういえばこういう種族に確か“トカゲ”も禁句だったような…………
や、やべー!殺される!
「ご、ごめんなさいごめんなさい!
つい口がすべ」
「最高の誉め言葉だぜ!ありがとう!」
「……………へ?」
ガルネシアさんがサムズアップするのをポカンと見る。
「トカゲは彼らにとって誉め言葉なのよ。
私たちで言うとイケメンとか可愛いとかの意味になるわ」
「へ、へー………」
「いやー、平均以下だが見る目はあるよな」
「平均以下は余計だ!」
「これでヤモリ野郎とか言ってたらボコボコだったけどな」
………違いが分からん、とか言ったらボコボコにされるんだろうな、やめとこう。
「それで何の用だ?」
「いや、お前らもギルドに入ったんだろ?
だから改めて挨拶しようと思ってな」
見た目は物騒なのに律儀なトカゲだった。
「それじゃ、また門番の仕事を頑張りますかねっと」
ガルネシアさんは俺たちに手を振りながらギルドの方へ歩いていった。
「…………思ったんだが、A級なのになんで門番なんてやってるんだ?」
「私たちのギルドは魔法に特化した人が多くて、格闘とかの近接戦闘はあまり得意じゃないの。
その点、彼はリザードマンだから、筋力や体力が高いの。
それにあの見た目は門番にうってつけでしょ?」
「…………なるほど」
妙に納得できる説明だった。
確かに例えば、アルティアみたいなのが門番だったら、実際の実力はどうあれ、あまり門番としての役割は果たさないかもしれない。
ガルネシアさんだったらまず見た目で相手に威圧を与え、さらに実力で排除できる力も持っている、と、確かにあれ以上に門番に適した人(?)はいないだろうな。
「さーて、買い物するわよ。
まずは食料ね、長く持つものを大量に買っておかないと」
「お肉、お肉が食べたいです!」
「で、俺は荷物持ちか」
「当たり前じゃない」
ステータスが低かろうが、荷物持ちは男、という立場は変わらないらしい。
俺たちは露天で売られてある商品を見つつ、わいわいと騒ぎながら食料を買っていく。
「アルティア、これは何だ?」
「それはアダザーナの工芸品ね。
持ってると幸運が虫の魂ほど上がるから、『一寸虫魂』って言うの」
「……………色んな意味で買う気を失くす商品だな」
「アルティアさん、これは何のお肉ですか?」
「それは巨大ナメクジの肉ね。
さっぱりした風味で美味しいらしいわよ」
「連夜、これ買いましょう!」
「だが断る!
ってかそれ魔物の肉じゃねえの!?」
クレアが持ってる肉を横目で見ながらアルティアに言う。
うわ、何かちょっともぞもぞ動いてるし!ひいい!
「お前が倒した時は消えてたよな?
なんで肉が残って………おい、クレアそれ俺に近づけたらこの激辛果物を口に突っ込むからな」
「その時は捕獲じゃないし、処理をしてなかったからよ。
魔物から素材を剥ぎ取る時は、殺さないようにして弱らせてから特殊な技術を持った人がさばくの。
でないと消えちゃうからね」
「な、なるほど」
「ところでクレアちゃん、それ食べるの?」
「はい」
「待ておい、アルティアそれ買う気か?」
「美味しいらしいわよ」
「それはさっきも聞いたけど、ナメクジだろコレ?
しかも魔物なんだろ?」
「「それが?」」
「………………とりあえず、それ俺に食わすなよ。
良いか、絶対に食わすなよ!!」
これが食文化の違いと言うやつか…………とりあえずSAN値が下がりそうな食材から目をそらし別の商品を見始める。
と、何か向こうの方が騒がしいことに気づく。
「どうしました?」
「いや、何か向こうの方が騒がしいと思ってな」
「?あ、本当ですね。
人だかりができてます」
喧嘩でもしてるんだろうか。
「まあ、時たま酔っぱらいとかがやるけどね、軽い小競り合いみたいなものよ」
アルティアがそう言ったとき、ドーン!という爆発音が響き人だかりから悲鳴が上がる。
「…………軽い小競り合い?」
「今日はちょっと激しいわね」
「おい」
「まあ私たちには関係ないことよ。
さあ、次の店に行きましょう」
「え?まだ行くのか?」
「当然」
アルティアの顔には、まだまだ買うわよ、とはっきり書かれていた。
クレアと話しながら進むアルティアを見ながら、俺の腕が持つぐらいの量に止めてくれれば良いんだが、とため息をつくのだった。
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妖精ウサリィと、黒服の男はアダザーナの前に転移していた。
「はい、到着~」
「ここがそのアダザーナって街?」
「うん、でもどこに行ったかまでは分からないわ」
「充分だよ、ありがとう」
男はそう言って歩き出すがしばらくすると立ち止まり、頭の上に乗っかったままの妖精に話しかける。
「……………ウサリィだっけ?
君、帰らなくても良いの?」
「え、なんで?」
「なんでって…………人間に見られたらまずいんじゃ?」
「あ、うーん………お兄さん強そうだから大丈夫よね!」
「おい」
「そういえばお兄さんの名前は?」
「唐突だな、僕は黒峰、黒峰秋人だよ。
それよりさっきの話はまだ終わってないんだけど?」
「うわあ、本当にこの周り一杯店がある~」
「おい」
男………黒峰は頭の上の妖精を睨むが、妖精はどこ吹く風で街をキョロキョロと見回している。
この辺の気紛れさというか無邪気さは妖精らしいな、と黒峰は軽くため息をつく。
「あ、お兄さん!
これ、これ美味しいよ!」
「ん?どれどれ、果実酒か。
確かに美味しそう」
「でしょ?ねえねえ、買ってー」
「え?いや、僕お金持ってないんだけど」
「ええっ!?」
「そんなにガッカリした顔をされても無いものは出せないよ」
「うう~」
名残惜しそうに果実酒を見るウサリィを見て、まさかたかる気で付いてきたのか?と、思った時
「おい、そこの兄ちゃん」
「ん?」
声に振り向くと、そこには柄の悪そうな男数人が取り囲むように立っており、しかも腰には武器をぶら下げている。
「(この人達、元ギルドの人達だね)」
「(ギルド?)」
「(うーん、とりあえずあの人達は結構強いってこと)」
「(なるほど、確かに素人とは違う雰囲気だ)」
黒峰は怯むことなく男達に応じる。
「何の用?」
「いや、あんたの頭の上にいるの妖精だろ?
そいつを売ってほしいんだよ」
「なんで?」
「そいつらはちっこいし、見映えも中々良いだろ?
観賞用に飼っておきたい金持ちは多いんだよ。
もちろん、ただでとは言わねえ、ここにある金貨袋でどうだ?」
男の一人が袋を出して振ると、回りのギャラリーからどよめきがこぼれた。
「あれ多いのか?」
「いや、滅茶苦茶少ないわ。
自分で言うのも何だけど、妖精は大体金貨袋10袋が相場よ」
「つまりあいつらはそういうつもりで言ってるわけだな」
そういうつもりとはつまり、相場より相当安い値段で売れ、ということだ。
元より売るつもりはないが、数人で囲んできていきなりの脅迫じみたやり方に少し怒りを覚える。
「どうだ?良い話だろ?」
男の一人がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら言うのに黒峰はーー
「どこが良い値段だアホ、そもそもこいつは僕の友達だお前らみたいないかにもザ・チンピラな三下に売る気なんてさらさらない」
と、散々男達をこき下ろした上挑発する。
「なっ………あっ………!!」
男達は怒りのあまり言葉が出ないらしくしばらく口をパクパクさせ
「ざけんな!おいてめえらやっちまドーン!覚えてろよ!」
怒りのまま殴りかかり魔法で文字通り瞬殺された男達は、少し焦げた体を動かして蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「おお、お兄さんつよーい。
ギルド崩れの人達を簡単に倒しちゃうなんて」
「おお、じゃないよ!
やっぱり面倒事に巻き込まれたじゃないか!」
「だから言ったでしょ?
お兄さん強そうだから大丈夫よねって」
そう言ってけらけら笑う妖精に黒峰は「………もういい」と諦めた表情で呟く。
「…………それに嬉しかったよ、守ってくれてありがとう」
「……………」
不意に妖精が呟いた言葉を聞いた黒峰は、顔を俯かせ黙り込む。
「お兄さん?
あ、もしかして照れ」
「う、うるさい!
ニヤニヤ笑うな!
あと周り!微笑ましいものを見るような目で見るなあああああ!!」
一部始終を見ていた街の人達から生暖かい視線を送られ、黒峰は絶叫したのだった。
ーーーーーEND ーーーーー