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くじ引き転生  作者: ブラックシュミット
6/32

「ふわあ………あー、下が固くもないし体の節々が痛いこともない…………幸せ………」

まともな寝床で寝れた幸せを噛み締めつつ、リビングへと足を踏み入れると、朝食の準備をしているアルティアと、何故かげっそりした表情をしたクレアがいた。

「おはよう」

「おはよう、よく眠れたかしら?」

「ああ、冷たくないし固くもないし痛くもない普通の布団で寝れたからな」

「…………まだ、最初の時のことを根に持ってるの?」

「はっはっはっ、何を当たり前のことを」

「うっ………だから悪かったって言ってるじゃない………」

残念ながら俺は執念深い、恐らく当分は忘れない。

アルティアとにこやかに会話しつつクレアの隣に座る。

「よお、クレア。

よく眠れたか?」

「…………騙しましたね」

「な、何のことやら」

睨むクレアから視線をそらしつつ嘯く。

よく見ると、クレアの目の下にうっすら隈が………え、マジか。

「………なあ、そんなに酷かったのか?」

「…………もしも私がアルティアのぬいぐるみだったら三日で暇をもらいます。

もらえないならゴミ捨て場に飛び込んだ方がマシです」

「…………」

「レンヤー、クレアちゃんー、ご飯出来たわよー………どうしたの二人とも?」

俺は今後、寝るときは絶対にアルティアの近くで寝ないことを固く誓うのだった。

「うーん、それにしても昨日はよく寝たわ。

何かふわふわで温かいペットを抱いて寝てる気分だったわ」

「…………私はペットですか」

「そこツッコムとこなのか?」

話しながら食べ終わり、お茶をもらって一息つくと、アルティアがこんなことを言い出した。

「ねえ、二人とも。

私、街に用があるんだけど一緒に行ってみない?」

「え、街?」

「そうよ、私ギルドっていうのに所属してるんだけど、そこの免許更新に行かないといけないし、それに食材がものすごい勢いで減っていくからそれの買い物にも行かないと」

ん?今、ギルドって言ったか?

ギルドと言うと、こういう転生ものならお馴染みの存在だ。

大抵、主人公達はギルドで登録し、そこで活躍して徐々に周囲に認められていったりする。

言葉も通じるし、行っても問題はなさそうだが

「でも、俺たちが行っても大丈夫なのか?

ほら、俺たちその街のこととか何も知らんし…………」

「大丈夫よ、私がサポートしてあげるわ。

それにもしかしたらあんた達のことを知ってる人がいるかもしれないわよ」

知ってる人がいるわけないんだけどな、だって俺たちこの世界の住人じゃないし。

まあ、せっかくのアルティアの好意だ、それにギルド、というものにも興味がある。

「行ってみようかクレア?」

「はい。私もこの世界の街がどういう風なのか興味がーー」

「この世界?」

「いや、とにかく興味があるってことだ!な、クレア!」

「は、はい。そうですそうです」

バカ神が口を滑らせそうになったので慌てて取り繕う。

全く、こいつは………街でも俺が注意しとかねえと………って、何で一般人の俺が異世界で神様の言動にヒヤヒヤしてるんだ?普通逆だろ…………。

「じゃあ決まりね。

準備を整えておきなさいよ」

「そういえば、歩きで行くのか?」

昨日の今日だし、その街がどれだけ遠いか知らないが、なるべくなら歩きたくない。

「歩かないわよ、面倒くさいじゃない。

とにかく準備を整えたら家の前に来て」

そう言うとアルティアは外へと出ていった。

まあここは異世界、俺たちの常識に依らないものがあるに違いない。

せいぜい楽しみにしておこう。

「さて、俺たちも準備しようぜ。

まあせいぜい身支度を整えるぐらいだが」

なんせ、転生の時に何も持ってきてなかったからな。

はあ………ゲームが恋しい………。

「そのため息が何を指しているかは大体分かります。

確かに私もやりかけのイベント戦などがあったのでガッカリです」

「………神様もゲームすんのか?」

「まあ私の場合はある人の影響ですけど。

あの人も中々のゲーマーでしたからね」

そう語るクレアの顔は、古い知人のことを話すような感じでありながら、どこかその人に対して特別な感情を抱いているように見えた。

正直言うと少し気になるが、まあ人のことに首を突っ込む気もない、それにここでその人に対するのろけ話とか出てきたら俺が殺戮の修羅と化すのでやめておこう。

クレアと適当に雑談しながら簡単に身支度を整え外へ出ると、アルティアが杖を持って待っていた。

「来たわね。それじゃ早速行きましょ」

「だから何で行くーーー」

「テレポート、アダザーナ!」

アルティアの言葉とともに周囲が光に包まれる。

そして一瞬の浮遊感の後、俺たちはいつの間にか見知らぬ街の入口に立っていた。

アルティアの家とは違い、人々の生活する音に溢れている。

簡単に言うと騒がしい。

「着いたわよ」

「ちょ、待って………少し酔った………」

涼しげに言うアルティアの横で、俺は早くもグロッキーになっていた。

「はあ?何で酔うのよ?」

「いや、あの独特の浮遊感というか何というか………うぷ」

「ちょっと、今私に近づかないでよね!」

アルティアが俺から慌てて距離を取るのを見つつ、酔いが治るのを待つ。

「そういえば………クレアは………」

横を向くとクレアも平気な顔で辺りを物珍しげに見回している。

俺の視線に気づくとクレアは勝ち誇ったような顔になる。

「ふふ、どうしました連夜?

まさか酔って気持ち悪いのですか?」

「うるせえ……何でてめえは平気なんだよ………」

「それはしょっちゅうテレポートで移動させてもらった頃もありまーーいえ、私は神ですから!」

「そこまで言ったらもう全部言えよ!取り繕ってもおせえよ!」

あ、何かツッコミ入れたら治った。

「二人とも、漫才やってないで早く行くわよ」

「へーい、最初はどこに行くんだ?」

「最初はギルドに行きましょ。

買い物したら荷物持たないといけないし、今回の買い物は結構買っておかないといけないから」

「うっ、すまん………」

それだけ買わないといけなくなったのは俺たち(主にバカ神の方)が原因なので、少し罪悪感を感じる。

「何で謝るのよ?」

「いや……買い物するには金がいるだろ?

今のところ全部アルティアに出してもらってるからな………」

俺の言葉にアルティアはきょとんとして

「ああ、お金のこと?

それなら心配ないわよ」

「ん?どういうことだ?」

「だって私、この街を丸ごと買えるだけのお金を持ってるもの」

「「………………」」

俺とクレアは同時に黙り込む。

え、いやだってこの街結構デカいしジョークだよな?

こんな俺の世界で小学生ぐらいの子供が………

「まあ、とにかくギルドへ行きましょう?

今日はやること一杯あるし日が暮れるわよ」

アルティアはそう言って先へ進み始める。

置いて行かれたらこの辺の地理が分からない俺たちは致命的になるので疑問は置き、慌ててアルティアについていく。

しばらく進むと、やがて目の前に木造の酒場みたいなのが見えてきた。

結構大きいな、まあギルドって言うんだから当然か?

ってかこれ勝手に入って良いのか?

俺が疑問に思うもアルティアが何食わぬ顔でギルドに入ろうとする。と

「おい、お前ら何者だ?

ここは街長の許可のない者は入れねえぞ」

身長が軽く二メートル以上ある、トカゲが二足歩行しているような生物がそう言いながら前を塞いだ。

「(うわあ………キモい………)」

「(連夜、失礼ですよ)」

しかしアルティアは自分から見て巨人なような身長差をものともせず、トカゲ男の前に立つと鋭い目で睨み返しながら

「アルティアだけど、更新に来たわよ」

その瞬間、トカゲ男の様子が変わった。

具体的には威圧的な態度が消え、怖れるような憧憬のような視線をアルティアに向ける。

「あ、アルティア様ですか!?

ど、どうぞ中へお入りください!」

トカゲ男は扉の前から退き、まるで重鎮を出迎える軍人のごとく直立不動で敬礼した。

「さ、行くわよレンヤ、クレアちゃん」

アルティアはそれに何も言わず酒場の扉をくぐる。

「お、お邪魔しまーす」

訳がわからないが、俺もトカゲ男の側を通り中へ入る。

「では私も」

「ああ、ちょっと君、未成年者は酒場へ入っちゃいけないよ」

「え!?何でアルティアさんはスルーで私は引っ掛かるんですか!」

「アルティアさんは特別に決まってるじゃないか。

君はアルティアさんのお付きだろう?

もうちょっと色々と成長してから来た方が」

「喧嘩なら買いますよトカゲ!」

「…………なにやってんだあいつ」

入口でトカゲ男と揉め始めたクレアは放っておいて、酒場を見回す。

中はやはり酒場のようで、手前に客席、奥に厨房と厨房の横に紙が貼られたボードが置いてある。

恐らく、アレはこのギルドに出されてる依頼などに違いない。モン〇ンでもフェア〇ーテイルでもあったし。

中にいる客たちは思い思いに酒を飲んでいたが、入ってきたアルティアを見ると

『おお!あ、アルティア様!?』

『み、皆!アルティア様が戻られたぞ!』

と、瞬く間に全員がアルティアに注目する。

「…………お前ってもしかして凄い奴だったのか?」

「あれ?そう言えば言ってなかったわね」

アルティアは俺の方に向くと一枚のカードを俺の目の前に出した。

そこにはSなどのアルファベットといくつかの項目が乗っており、アルティアの名前の横にはSSの字がある。

「改めて魔法使いギルド所属のSS魔法使い、アルティア・クーレンカよ。

一応、最強の魔法使いの一人に数えられてるわ」

「ふーん…………………はああああああ!?」

最強のという所にビックリして思わず叫ぶ。

「だだだ、おま、そんなこと一言も!?」

「だって記憶喪失だっていうから言っても分からないと思って」

「そりゃこの世界のことは分からないけど分かるよ!

最強のとかSSとかで通じるよ!」

「そ、そう………」

興奮した俺の様子にアルティアは若干引き気味に答える。

「ってことはあの森にアルティアがいたのは………」

「依頼でモンスターの討伐ね。

あの最初の犬のボスとその群れの」

そ、そうだったのか………。

「ちなみにあのモンスターはヘルハウンドと言い、高度な知恵と、ボスの統率力が高く、並みの魔法使いではなす術なく瞬殺されるほどのモンスターです」

受付のカウンターにいるお姉さんがそう補足してきた。

「あら、カティ。久し振りね」

「お帰りアルティア。

成果はどうかしら?」

「ボスは倒したし群れは半壊したわ。

もう人を襲うことはないでしょうね」

「お疲れさま。いつもありがとうね」

お姉さんはニッコリ微笑む。

「(おお、俺のどストライクなお姉さんだ………!)」

アルティアやクレアと違ってちゃんと大人の魅力を感じさせられる、どこがとは言わないが。

「………レンヤ、鼻の下伸びてるわよ」

「はっ!?い、いやそうだ!

アルティア、免許の更新するんだろ!?」

「免許って何よ………とりあえずカティ更新よろしく」

「はーい」

アルティアはさっきのカードをお姉さんに渡し、お姉さんはそれを持ちカードを魔方陣が書いてある机の上に乗せる。

「サーチ、アルティア・クーレンカ。

チェック開始…………………完了。

あら、また新しい魔法を覚えたのね」

お姉さんが呟くと、魔方陣が光り、その光がアルティアの様々な情報を映す。

ほとんどがSやAで埋め尽くされてる中、一つNEWと書いてある項目があった。

そこを見るとAからSへと変わっているのが表示されてある。

何かファンタジー世界には似合わずハイテクだなおい。

「そうなの。ただ、あまり使い道は無さそうなんだけどね」

「ふむふむ、他は特に変わってないわね………」

お姉さんはアルティアの体を上から下まで見てため息をはく。

「………………なにかしら?」

「いえ、何でもございませんわ」

「くっ…………このちょっと身長もスタイルも勝ってるから………っ………て…………」

「自分で言って凹まないでよ。

それでは次の方ー」

「あ、いや俺は」

お姉さんが俺の方を向いたので慌てて断ろうとするが

「そうだ、ちょうどいいからレンヤとクレアちゃんも登録しておきなさいよ」

「まあ、まだ未登録なの?」

「い、いや正直何が何だか………」

「カティ、レンヤ達はギルドについてあまり詳しくないから簡単に説明してあげて」

「そうね、じゃあ簡単に説明するわ。

まず、魔法使いギルドというのはその名の通り魔法使い達のギルド、つまり集まりね。

各地に支部があってここはアダザーナ支部。

他にも剣士ギルドとか、中には筋肉ギルドとかあったわね」

「……………」

大雑把だが学校の部活みたいなもんか?

ってか筋肉ギルドってなんだ………もう名前からしてヤバイ気配がぷんぷんする。

「で、ギルドに所属すると最初はこれで、能力を診断されるの」

そう言ってお姉さんは真っ白なカードの束を取り出す。

「この魔方陣の上でこのカードに魔力を込めながら名前を言うと登録されるの。

魔力の形は人それぞれだから、他の人と間違われることもないわ」

指紋認証みたいなもんか、便利だなー魔法。

お姉さんはカードを一枚取って俺に見せながら説明を続ける。

「このカードには登録者の名前、年齢、身長などの個人情報、それと各ステータスがF~SSで表示されるわ。

例えばアルティアなら筋力D、魔力Sといった感じでね。

ちなみに男の人なら普通は筋力や体力Cが平均、後は魔力等は個人差ね。

で、ギルドごとに追加で表示が変わったりするの。例えば、魔法使いギルドなら魔力の後に各属性魔法のステータスも表示されるの。

アルティアはちなみに魔法はオールA以上ね、これって凄いことなんだから」

「いまいち凄さが分かりませんけど」

「良い?一つのステータスがAやSの人でも何十万人に一人いるかいないか、ましてや各魔法がオールA以上なんてあり得ないことなのよ?

そのあり得ないステータスを持ってるのがこの子なんだから。

まさに魔法のエキスパートと言っても過言ではないわ」

そ、そこまで凄かったのか………それに何よりお姉さんの説明はアルティアのそれと比べると凄く分かりやすい、というかアルティアのマトモな説明は聞いたことないな。

「…………レンヤ、今考えていることを素直に言っても良いのよ?」

「な、なんのことやら。

そ、それよりギルドに入ると何かメリットがあるんですか?」

アルティアが電撃ムチをパシパシやりながら言ったので、慌ててお姉さんに先を促す。

「そうね…………色々とあるけれど一番はやっぱり依頼を受けれるようになることかしら」

「依頼?それって街の人とかからの雑用とかをこなすやつですか?」

「そういうのもあるわね。

ただ、大抵はモンスターの討伐になるけど。

というのも高ランクの魔法使いになればなるほど、使う魔法が強大すぎて街の雑用などをやるとかえって危ないのよね。

壊した修繕費とかもギルドに請求されるから私たちもそういう依頼はあまり回さないわ」

「な、なるほど」

納得はできるがファンタジーな世界にはあまり似つかわしくない金の話が出てきたな。

「まあ、ギルドのことはこれからおいおい分かってくると思うわ。それじゃ早速登録する?」

「え?」

お姉さんにカードを手渡されて思わず間抜けな声を出してしまった。

「あら、登録しないの?」

「いや…………そういうわけでは………」

確かにギルドというファンタジーな世界に関わりたいという思いもなくはないが、それをするとこの世界と密接に関わることになるだろう。

そうなるとボロが出ることが多くなり、俺がこの世界の人間でないことがバレてしまうかもしれない。

そうなった時にこの世界の人が異世界人をどう思うかは分からないが、わざわざ自分から面倒を背負うこともない、なるべく目立つ真似は避けるべきだろう。

「うーん、迷ってるみたいね。

じゃあ、とりあえずお試しで入ってみるのはどう?」

「お試し?」

「ええ、とりあえず入ってみて、あなたが気に入らなかったらいつでもやめて良いわ。

それに他のギルドは知らないけど、ここのギルドは結構自由でね、月に1回の定例会議ぐらいしかやることはないの。

後は各々自由に過ごして良いの」

そ、それはまた魅力的な条件だな。

会議ぐらいならボロが出ることもないし、それにギルドに入ればこの世界での居場所を作ることができる。

この世界に知り合いの一人もいない俺たちにとっては渡りに舟だ。

お姉さんは俺の顔を見て頷くとカードを差し出した。

「はい、どうやら乗り気みたいね?」

「はい。ええと………これをどうすれば?」

「指先に力を込める感じよ。

自分の中にあるエネルギーをカードに送り込むイメージをして」

アルティアの助言に従いその通りにイメージしてみる。

すると一瞬カードが眩く輝き、その後に文字と数字がカードに刻まれた。

意外にあっさりしてるな。

「えっとこんなもんですか?」

「ええ、ちょっと見せてもらうわね」

お姉さんにカードを渡すと、お姉さんはカードを興味津々な様子で眺め始めた。

「あんた、本当に人のステータスを見るのが好きよね」

「うるさいわね、ん?これ………って………」

お姉さんは突然、黙り込みアルティアに手招きした。

「なによ?」

「ちょ、ちょっと来て」

アルティアはお姉さんの様子に怪訝な顔をしながら俺のカードを見る、すると

「はあ!?あり得ないでしょこれ!」

「よ、良かった、私の見間違いじゃないわよね」

な、なんだなんだ?凄い気になるんだが。

アルティア達の様子に他の人もわらわら集まり俺のカードを覗き込むと口々に「おいおい、こりゃすげえな」「俺今までこんなの見たことねえぞ」とざわめき始める。

も、もしかして俺のステータスが凄かったのか?転生した先で実は地球人のステータスが異世界人より高いパターンもあるし。

「あの、俺のステータスどうでした?」

そんな期待を込めながら聞いてみるとお姉さんは興奮した様子で答える。

「凄いわよあなた!

私ギルドの受付やって結構長いけどこんなステータスを持ってる人は初めて見たわ!」

「い、いやーそんなことはないですよ。

それで、何が高かったんです?」

「え、高い?」

「え?」

あれ?何か予想してた反応と違う………その言い方だとまるで………

「能力は大体DとかEとか平均以下なんだけど」

へ、平均以下………さらっと言われたがそれ地味にショックなんだが。

「ここ見て」

そう言ってアルティアがカードを俺の前に出し、あるステータスを指差す。

アルティアの指を辿って見てみるとそこには

運:G

「……………え?」

あれ、確かさっきステータスはF~SSまでって………

「そうなんだけど稀にいるのよね~。

何十年に一人か二人ぐらいだけど上がEX、そして下がG。

つまり………あなたの運は凄まじく悪いってことね」

「何となくそんな予感はしてたけどやっぱりかよちくしょおおおおおおおおおお!」

ステータスは平均以下、運の悪さは天下一品ときてる、何かもう色々と生きる気力を失いそうな結果になった。

「はー………はー………あのトカゲ、中々強敵でした………」

絶望を味わっている俺の元へ、ボロボロながらも勝ち誇った顔をしたクレアが戻ってきた。

そうだこいつにもステータスを測らせてみよう。

どうせこのヘボ神のことだ、俺と同じかそれ以下のステータスが出るに違いない。

「クレア、お前ちょっとこのカードを持ってみろ」

「はい?何ですか藪から棒に。

私、激戦の後なので疲れてるんですけど」

「良いから良いから」

無理矢理カードをクレアに持たせ、少し力を入れるよう指示する。

カードが一瞬輝き、文字がカードに刻まれる。

「何なのですか………ってああ、これは…………」

「ふははは!今さら分かっても遅い!

お前のヘボステータスを見せてもらうぜえええ!」

「レンヤ、あなた意外に気にしてたのね」

俺はクレアからカードを奪い取りそれを眺める。

ふっふっふっ、さーてどんなステータス…………が………

「…………」

「レンヤ?固まってどうしたの?」

「クレアちゃん、で良いのよね。

私にも見せてもらっても良い?」

「あ、はい、どうぞ」

俺の横からアルティアとお姉さんがクレアのカードを覗き込む。と

「ええ!?なにこれ!?

ほぼ全てのステータスがS以上!?」

「そ、それだけじゃないわ!

見てこれ、魔力がEX、各属性魔法もSランクよ!!」

お姉さんの言葉にギルドにいた全員が『す、すげえ!』『EXなんて伝説だと思ってた!』と、口々に驚きを露にする。

「運の悪さはFみたいだけど、凄いわクレアちゃん!

クレアちゃんなら魔法の勉強を始めればすぐにでもSSランクの魔法使いになれるわ!」

「是非ウチのギルドに入って!

今ならここでの食費、宿泊費をタダにしてあげるから!」

周りの人間がクレアを囲んでギルドに勧誘する中、俺はさっきよりも深く絶望して床に崩れ落ちていた。

「く、クレアにも負けた………流石、腐っても神の端くれ………」

「失敬な!神の端くれじゃなくて立派な神ですよ!」

「かみの端くれ?」

アルティアが俺たちの会話を聞きつけ不思議そうに首を傾げる。

「あー、いや紙!紙の端きれが欲しいなーってな!

ちょっと鼻水が出てきたからさ!」

「??良いけど、なんで端きれなの?」

「え、えーと…………あー!

くしゃみ!くしゃみが出そう!

このままだとくしゃみと一緒に鼻水が周りに吹き散らされることにーーー!」

そう言ってくしゃみが出かかってるような顔をするとアルティアは嫌な顔をして

「き、汚い!

すぐ持ってくるから待ってなさい!」

と言って俺から距離を取り、ギルドの奥に引っ込んだ。

ふう、やれやれ何とか誤魔化せたか………その代わりアルティアにはゴミを見るような目で見られたがな。

「それが興奮するんですね」

「まあ、ちょっと良いかな………って何言わせるんだよ!?」

「いや、あなたが言ったんでしょうに」

クレアがやれやれと言うように首を振るのを、忌々しく見ていたがふと気づいたことをクレアに耳打ちする。

「(おい、クレア)」

「(はい、何でしょうか?)」

「(お前、あんな高いステータス持ってんなら、なんで最初の時とか、その後のピンチの時に助けてくれなかったんだよ。

どっちも割りと命の危機だったんだぞ?)」

「(恐らくあのカードは潜在能力も込みで測定してるのだと思うのです)」

「(……………つまり?)」

「(あのステータスは封印されてない私の能力です。

今の封印されている状態ではそこらの一般人と変わらないと思います)」

「……………」

俺はクレアのカードを見てわいわい騒いでいるギルドの人達を見る。

もしもクレアが戦ってステータス通りの戦いができなかったら当然不審に思い、理由を聞いてくるだろう。

それで、実はこいつ神様で今は別の神様に能力封印されてるんですよ、などと言ったらどうなるか。

信じてくれるならまだ良い、下手したら異世界に来て早々、頭のおかしい奴のレッテルを貼られることになるだろう。

他に説明のしようもないし、クレアが戦えないということは、バレないようにしないといけないということだ。

「それでクレアちゃん!

ギルドに入ってくれる?」

「え?えーと………そのー………」

「あ、あのー…………期待に目を輝かせているところ悪いのですが、クレアはギルドには入れません」

「えっ!?なんでどうして!?」

「それは…………」

どうしようか………それなりの理由がないと諦めないだろうし………「実は私とレンヤは恋人でして」「「「ええっ!!?」」」何か良い手は

「ってはあっ!?おま、何をくちばし」

「レンヤは心配性なので恋人の私をあまり危険なことに巻き込みたくないのです。

だからすみませんが………」

「そ、そういうことなら………仕方ないわよねうん。

大事な人を守りたいという思いは確かに分かるもの」

「いやいや!俺とこいつそんなんじゃない!

むしろ被害者と加害者、もしくは保護者と被保護者!」

「レンヤは照れ屋ですね」

「レンヤ君、照れることはないわ、立派なことじゃない」

「違うってーーーー!?」

『兄ちゃん照れるな照れるな。

こんな可愛い彼女がいるんだから心配になるわな』

『そうだぜ、こんな可愛い………でも兄ちゃんアレだったんだな、ロリコンだったんだな』

『そうだな、可愛いけどどっちかというと妹って感じだよなぁ』

『お前は妹じゃなくて娘になるだろうが』

『まあ、とにかく良い愛情じやわねえか。

よ、この幸せもん!』

『ひゅーひゅー!』

『パチパチパチパチ!』

『ローリコン!ローリコン!』

「だああああ!

二重三重に誤解してる上に囃し立てるな!

あと、俺はロリコンじゃねええええええ!!」

「本当にレンヤは照れ屋ですね」

「てめえはいい加減にしねえと口を縫い合わすぞ!!」

しかしクレアは意に介さず、俺に近寄ると小声で話し始めた。

「(まあまあ、レンヤ落ち着いて。

せっかく皆さんが納得してくれたのですから)」

「(だからって何で恋人なんだよ!

まだ妹の方がマシだったわ!)」

「(私とレンヤじゃ全然似てないじゃないですか、何言ってるんですか)」

「(恋人も俺とお前じゃ釣り合わないだろ!

お前見てくれだけは良いんだから!)」

「(えっ、そんな美人だなんて………)」

「(言っとくが誉めてないからな!?

ってか今はそういうことを言ってんじゃない!)」

「(では何が問題なのですか?)」

「(そ、それは…………)」

「(??)」

クレアが首を傾げる。

く、言いたくない………だがこのままにはできない理由がある。

「(それはその………は、恥ずかしいだろ。

嘘でも恋人とか………)」

「……………」

クレアはキョトンとした顔でしばらく黙り込むと

「ぷ………ふふ、れ、レンヤが………は、恥ずかし………」

堪えきれないといった様子で笑い始めた。

こ、このやろう…………!!

今すぐクレアの口とついでに鼻も塞いでやりたい衝動に駆られてると

「ちょっとこれなんの騒ぎ?」

戻ってきたアルティアが騒ぎに目を丸くしていた。

「あ、アルティア。

もう~あなた一言も言ってなかったじゃない」

「なんのことよ?」

「この二人が恋人どーー」

「カティさん!俺たちギルドに入ります!」

俺はカティさんの言葉を遮りカード二枚を受付の机に叩きつけた。

つい先日、アルティアにロリコン疑惑を持たれ、恋人関係を否定したというのに、ここでまた恋人どうしだなんて騒がれたら今度こそ決定的に俺はロリコン認定だ。

アルティアは耳を貸さないだろうし、下手すると変態扱いされて追い出される。

「え、でも………」

「このギルドは安全そうなので大丈夫です!

入れてくださいお願いします!」

俺が必死に頭を下げながら頼むとカティさんは目を輝かせながら確認してきた。

「それはウチのギルドにとって渡りに船だけど良いのね?」

「はい!」

「そう………ならあなたたちは今より魔法使いギルドの一員よ!

皆!拍手ー!」

『歓迎するぜ!』

『もう一人SSランクの魔法使いが増えるとはな!』

『これで他のギルドにも引けを取らねえな!』

こうして俺たちはギルドに入ることになった。

一度は憧れたギルド加入だが、この時の俺は嬉しさや興奮よりも、この先のことを思い不安しか抱かなかったのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「はー…………まさか、来る途中にモンスターの大軍と遭遇するなんて…………朝に来る予定だったのにすっかり遅くなっちゃったよ………」

静かな森を、疲れた様子で歩く一人の男がいた。

その男はアルティアの家まで来ると軽く身支度を整え、ドアをノックする。

ドンドンッ

「すみませーん」

………………

「寝てるのかな?」

男は困った様子でその場に立ちすくむ。と

「……………その中には誰もいないよ」

「ん?」

男が振り向くと、そこには長い黒髪をだらんと垂らし、首筋から血を流してる女の人が恨めしげな表情で立っていた。

「うら………めし………」

「悪いけど僕には幻術は通じないよ」

男が剣を一閃すると幽霊の姿がかき消えた。

「えっ!?嘘っ!」

「そこか!」

男が声のした方へ手を突き出し、ギュッと握ると

「痛い痛い!潰れる潰れる!」

手の中から小さな声がし、男はそっと手を開く。

手の上にちょこんと座っていたのは、青色の髪をした小さな羽が背中についた可愛らしい女の子だった。

「君、もしかして妖精?」

「そうよ、私は妖精のウサリィ。

お兄さん、どうして私の幻術が効かなかったの?」

「生憎、あの手の魔法やら化け物は見慣れてるからね」

男が事もなく言うと、妖精ははあ~とため息をつく。

「あーあ、運が悪かったかぁ。

昨日のお兄さんとお姉さんは面白いぐらいに引っ掛かってくれたのに~」

「それでここにいた人達がいないってどういうこと?」

「そこにいた人間三人はお出掛けしちゃったよ。

アダザーナに行くって言ってた」

「ま、マジか…………はあ~あそこでモンスターの群れに会わなきゃ………」

男はため息をつくが、出てしまったなら仕方ないと思い、また昨日作った寝床に帰ろうと妖精を放し帰ろうとする。

「あれ?私、無罪放免?」

妖精はパタパタと羽を動かして飛びながら意外そうな表情をする。

「ん?何か不思議なことがあった?」

「いや、大抵人間は私たちのことを見つけたら、捕まえるの。

幸運の象徴とか、捕まえて家で飼っておくと自慢?になるんだって」

「ふーん、まあ僕は家なんてないし、自慢する知り合いもいないから興味ないんだ」

男がそう言って森の奥へ歩き始めると、妖精はしばらくキョトンとしていたが

「お兄さん、気に入ったよ!

私で良ければ街まで送るけどどう?」

「え?良いの?」

「うん!普通なら窮屈な檻に閉じ込められていた所だもん!

このぐらいならお安いご用だよ!」

そう言うと妖精はパタパタと飛んで男の頭に乗った。

「それじゃ、転送魔法を使うよー」

「ああ、頼んだ。場所はアダザーナだったっけ?」

「うん、少し人間にはキツいかも知れないんだけど」

「ああ、転送魔法は慣れてるから大丈夫」

「そう?じゃ、いっくよーーー!」

妖精がそう言うと地面に魔方陣が現れ、一瞬の輝きの後男と妖精の姿は消え、再び森に静寂が訪れた。

ーーーーーENDーーーーー

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