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くじ引き転生  作者: ブラックシュミット
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「まず種族について話すわね。

種族は私みたいな人間、獣人、魔人、機人が主にこの世界にいるわ。

他にも色々いるけど、この四種族が人口の大半を占めてるわ」

「……………」

「各種族の特徴は…………ま、会えば分かるわ。

で、次は…………」

「あの………アルティアさん?」

「ん?どうしたのクレアちゃん?」

「連夜に多分聞こえてないと思うのですが………」

「そんなことないわよ。

ほらアレ、睡眠学習よ、睡眠学習」

「はあ………?

そういうものですか」

「そうそう、そういうもの。

さて次は………」

「っておおおおい!?

それより先にすることがあんだろうが!!」

意識を取り戻した俺は、跳ね起きてクレアとアルティアを睨む。

「すること………?

何かあったかしら、クレアちゃん?」

「何でしょうね?」

「本気で言ってんのか!?

じゃあ質問するが、お前ら目の前に人が倒れてたらどうする!?」

「そりゃあ助けるでしょ」

「助けますよ」

「じゃあ今俺が倒れてました!君達が取るべき行動は!?」

「…………何かあるかしら?」

「全く思いつきません」

「何でだよ!?数秒前の自分の発言に答えが隠れてるぞ!!」

「無視一択ね」

「何もしないで良いかと」

「きぃさあああぁぁぁぁまああらあああああ!!」

「うるさい!今、大事なこと話してんでしょ!!」

お前らが………!お前らが…………!!…………ちくしょう。

「さて、ええと…………何の話をしてたんでしたっけ」

「ええと…………もうどうでもよくなってきたわ」

大事な話…………。

「で、この世界のことは大体分かったでしょ?」

アルティアはやり遂げた感を全身から醸し出しながら俺に顔を向ける。

分かったも何もさっきまで俺は気絶してたんだが…………。

でもそれを言うとアルティアの機嫌がまた悪くなりそうだし、一番聞きたかった魔法のことは聞けたからもう良いや。

それにこの世界については、おいおい分かっていくだろう。

どうせ今すぐ帰れないんだから、嫌でもこの世界でしばらくは暮らすんだし…………はぁ。

「で、レンヤ達はこれからどうするの?

記憶が戻るまでウチで暮らす?」

現実を直視して落ち込んでる俺にアルティアがそう提案する。

電撃鞭で叩いたり、魔法で吹き飛ばしてきたり、鎖で繋いできたりと凶暴な面が目立つが、会って間もなくしかも素性の知れない俺達に色々良くしてくれる辺り、根は優しい少女なのかもしれない。

…………本当に凶暴だが。

「…………何か前言撤回してレンヤに魔法を撃ち込みたくなってきたわ」

「い、いきなり何を言い出すんだ!?」

こいつエスパーじゃなかろうか…………いや、魔法少女ではあるけれど。

まあ、この世界の知識がないどころか、衣食住さえ確保できてない俺達には渡りに船だ。

「(おい、クレア。

ここはアルティアの提案に乗ろうと思うんだがどうだ?)」

「(私もそれが良いと思います)」

決まりだ。

「じゃあアルティアが迷惑でなければ………これからよろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「ま、まあ、もう夜になるし記憶喪失の人を途中で放り出すのは寝覚めが悪いから。

人として当然のことをしているだけよ」

頭を下げる俺達にアルティアは慌てたように付け加えた。

照れてるのか?案外可愛い所もあるじゃないか。

「でも良いのか?」

「何が?」

「いや、俺一応男だし…………」

「大丈夫よ。

あなたが指一本触れる前に、灰にできるもの」

「…………ごもっとも」

さらっと恐ろしいことを言われたが、まあもう慣れてきたし…………

「って慣れちゃダメだろ俺!」

思わず口に出すとアルティアとクレアが怪訝な顔で見てくる。

「どうしたのいきなり?」

「いや、何でもない………」

「そ、そう?

じゃあ私はそろそろ寝るから。

今日は久々に固有魔法使って疲れたし。

レンヤは、使ってない部屋があるからそこで寝て。

クレアちゃんは私と一緒でも良いけどどうする?」

「いえ、私はレンヤと一緒に寝ようと思いますので」

「「っ!?」」

クレアの言葉に衝撃を受けるアルティア。

中身はアレだが、見た目美少女な女の子にそんなことを言われ、俺も動揺してしまう。

「そ、そう………。

わ、私の所に来たくなったらいつでも良いからね」

「はい」

アルティアは俺とクレアをチラチラ見ながら自分の部屋に歩いていたが

「…………やっぱり二人はそういう関係なのね…………」

ボソッとアルティアが呟いた言葉を聞いた俺は思わず声を出した。

「ちょ、ちが!!

こいつとはそういうんじゃ!」

「おまけにあんな幼気な子が好みなのね………」

誤解が誤解を生んで俺に不名誉な称号が付けられようとしている――――!?

「本当にちがっ!!

待って本当に………!!」

しかしアルティアは考え事をしているからか、俺の言葉に足を止めることなく、自分の部屋に入った。

もうダメだ…………今部屋に入って説明しようとしても絶対魔法で追い出される。

それに俺に女の子の部屋に入る度胸はない。

肩を落とす俺にクレアは首をかしげる。

「二人ともどうしたんですか?

何か私、変なことを言いましたか?」

「ああ、ただでさえ崖っぷちにいるような立場の俺を、谷底に叩き落とすようなことを言った」

「?よく分かりませんが、私があんなことを言ったのにはちゃんと理由があるのです」

「理由?」

俺が聞き返すとクレアは真剣な顔で頷いた。

「連夜、あなたはこの世界に来てからおかしいと思ったことはありませんか?」

「おかしい…………?

イカれた世界だとは思いまくりだが、それとは違うのか」

「そういう意味ではないです。

連夜、あなたは何故“この世界の人と普通に会話できている”のですか?」

クレアの言葉にどういう意味だと聞き返そうとして………はっと気づく。

そうここは異世界。

俺が住んでた日本ではなく、当然言語も日本語ではない。

しかし、俺はこの世界の住人であるアルティアとまさにクレアの言う通り“普通に”会話できている。

「連夜、私が転生する際に授けると言った能力の中に異世界のあらゆる言語を習得がありましたね?」

「ま、まさか………俺は本当にチート転生したのか?」

あの時は本気でどうでも良かったが、無理矢理転生させられた今、あの能力の数々があればこの世界で暮らすのにも困らない。

それに自分が特別な存在になるというのは、人間誰しも一度は憧れるもの。

俺は特にそうだ。

「しかし、まだ能力が全部付加されているかは分からな………」

「なら外のモンスターも今の俺なら楽勝ってことだよな!

ちょっと外に行ってモンスター倒してくる!!」

気づけば俺は外に向かって走り出していた。

今の俺の頭には、自分がラノベの主人公のようにモンスターを蹴散らす姿がはっきりと写し出されていた。

「れ、連夜!?

戻ってください連夜!

まだ完全に分かった訳では………」

「おお!体が軽い!

これがチート能力の恩恵か!!」

クレアの言葉も耳に入らず、俺は暗い森の中に突撃していった。

―――――――――――

「この馬鹿!!

何で弱いくせにモンスターが活発する夜の森に突撃するのっ!?

おまけに素手で挑むなんて!

クレアちゃんが私に知らせてくれたから良かったものの一歩間違ったら死んでたんだからね!!」

森に突撃して数分後、アルティアの前にはモンスターにボロ雑巾のようにされた俺が横たわっていた。

「………はい、すみません」

アルティアの回復魔法を受けながら、俺はひたすら謝り続ける。

どうなったかは見ての通りだが、一応説明すると結局チート能力は引き継がれておらず、モンスターにフルボッコにされていた俺はアルティアに助けられたのだった。

「全く…………ただでさえ暗くて怖いから夜の森には来たくなかったのに」

「ん?何か言ったか?」

「っ!!な、何でもないわよ!!」

アルティアが何か呟いた気がするので聞き返したら何故か怒鳴られた。

どうやら機嫌が悪いみたいなので、これ以上は聞き返さないようにしよう。

「そ、そんなことより早く帰るわよ。私、眠たいんだから」

アルティアはずんずんと先に進んでいく。

慌てて後をついていくが、真っ暗な森の中を無言で歩くのは少し嫌だなアルティアの機嫌も悪いし。

何か、何か話を………。

「………………」

「………………」

なにも思いつきません…………。

「そ、そういえば、俺ロリコンじゃないからな?」

「…………はあっ?なによ、いきなり」

「いや、俺とクレアがその………アレだと思っただろ?」

「あ、アレって何よ」

「だから、その、一緒に毎日寝てるみたいな………恋人とか」

「え?…………し、知ってたわよ!」

アルティアは慌てたように言うとさらに歩くスピードを上げる。

「ちょ、まっ………これ以上上げられたらついて行けな………」

声をかけるも聞こえてないようで、アルティアの姿が暗闇に消える。

図星だな、アレは。

それは良いけど置いていかれたな、まあここまで来れば俺一人でも帰れるから別に問題ないけどーー

「きゃああああああああ!!」

「な、なんだ!?」

近くから女の子の悲鳴が聞こえ、その後こちらに走ってくる音が聞こえてくる。

闇の中から姿を現したのはアルティアだった。

「お前どうしげふっ!」

「な、何で付いてきてないのよバカーーーー!!」

「ちょ、痛い痛い!抱きつくのは嬉しいけど頭が、頭がみぞうちに!!」

アルティアは体を震わせて俺に抱きつき頭を俺の胸に押しつけている。

見た目が幼いのを抜きにすればアルティアは美少女で、俺も男だから抱きつかれるのは嬉しいが、ぐりぐりと押しつけられる頭は何とかして欲しい!

アルティアはしばらく俺に天国と地獄を味あわせてから、ようやく我に返りバッと体を離した。

「えっと、その、ち、違うからねっ!?」

「まだ何も言ってないけど………でもそうか、アルティアは怖がーー」

「違うって言ってるじゃない!!」

アルティアは力強く否定するが、体と足が震えていて目もうっすら涙目になってて説得力がない。

「何なら傍に付いて歩こうか?」

「い、いらないわよ!あんたの助けなんて!」

「じゃあ俺ここまで来たら大丈夫だし先に帰るわ、じゃあな」

「えっ!?」

アルティアを置いて帰るフリをしようとすると、アルティアの焦った声が聞こえ

「ま、待って…………」

「ん?一人で大丈夫なんだろ?」

「う、ううう…………」

会ってから散々しばかれたり気絶させられたり罵倒されたりしたアルティアが、涙目で震えてる姿は中々新鮮と言うか、嗜虐心をくすぐられる。

「…………て………ないで」

「ん?聞こえないなー」

「………置いて…………行かないで………」

普段のアルティアなら絶対にないであろうか細い、すがり付くような声で言われ、そろそろ勘弁してやるかと思う。

「しょうがないなー、じゃあ一緒にーーー」

トントン

行こう、と言いかけた時に肩を叩かれる。

クレアかな?

「どうしたクレーーー」

振り向いた俺の前に立っていたのは、長い髪をだらんと垂らし頬が青白く、首から大量の血を流した女の人だった。

てか、これ、ゆうれーー

「うら………めし……や」

「「ぎゃ(きゃ)あああああああああああああ!!」」

ーーーーーーー

「あ、二人ともお帰りなさ………どうしたんですか!?

息をそんなに切らして、おまけにアルティアさん気絶してませんか!?」

「はあ………はあ………く、クレア………俺の後ろに何か、いないか………?」

「い、いませんけど………」

「はあ~~~…………」

安心して気が抜けた俺は背負っていたアルティアを下ろしその場に座り込む。

「本当に何があったんですか?」

「思い出したくないからあまり言わないけど、とりあえずリアルで怪奇現象に遭遇した…………」

「………余計に気になるのですが」

クレアが聞きたそうにしていたが、これ以上話す気は起きず俺はアルティアをベッドに放り込んだ。

「クレア、今日はアルティアと一緒に寝てやってくれ」

「はあ、良いですが何故ですか?」

「じゃないと夜中に叩き起こされて抱き枕にされるぞ」

「よ、よく分かりませんが了解です」

クレアもアルティアの部屋に入って行った。

まあ、一緒にいても結局抱き枕にはされるだろうがな。

じゃあ何故行かせたかというと、それが万が一でも俺に回ってこないためのスケープゴートである。

起きて早々また電撃ムチは嫌だからな。

「さて、俺も寝るかな」

俺はアルティアが用意してくれた布団に入る。

思えばマトモな所で寝るのこれが初めてじゃね?

大抵は気絶だったし………泣くな、俺。

布団の暖かさを噛み締めつつ、俺は久し振りの気持ちいい眠りについたのだった。

ーーーーーーーー

「グルル…………」

静まり返った夜の森に大勢の獣が現れる。

その獣たちは昼間の群れの生き残りで、アルティアが思っていたより知能がある彼らは、正面からは勝てないと踏んで夜中に奇襲をかけるつもりだった。

実際、寝ている時にこの数の奇襲を受けたら、いくら固有魔法があろうともなすすべもなくやられるだろう。

獣たちは静かにしかし確実に小屋に近づいていく。

そしてついに小屋を包囲し、攻撃を仕掛けようとした時

「ちょっと待ってくれないか?」

その時、小屋の前に立ち塞がるように一人の男が現れる。

たった一人だが獣たちはその男を警戒するように遠巻きに唸り声をあげる。

「この中には僕の知り合いもいるんだ。

ドジで天然で気弱で神としてはまだまだ新米だけど、あいつなりに頑張ってる。

だからーー」

そう言うと男は背中の剣を抜き、切っ先を獣たちに向ける。

「ここで退いてくれ。さもなければ実力で排除する」

男の気迫に一瞬、獣たちは気圧されて後ずさるが………

「グルル………ガアッ!!」

ボスをやられ、群れの半分も消し飛ばされ、頭に血がのぼっている獣たちには退く気などなかった。

迫る獣たちに男はため息をつくと

「…………そうか。ならーーー」

男はスッと目をつむり、ゆっくりと開ける。

その目は血のような真紅色に染められていた。

「こっちも容赦しねえぞ!炎龍の息吹よ!」

男が剣を上段に構え、振り下ろすと剣から業火が放たれ、正面の獣たちを焼き尽くす。

しかし横にそれ炎を避けた獣たちが四方八方から男に襲いかかる。

「ガアアッ!」

獣の一匹が爪を男に振り下ろし引き裂くーーーだが確かに引き裂いたはずの男の死体がない。

怪訝に思った獣は次の瞬間真っ二つに切り裂かれた。

「陽炎……………そして風龍の息吹よ!」

男が手を振ると、猛風が吹き荒れ周りにいた獣たちを吹き飛ばす。

「グオオッ!」

一匹が体で押し潰そうとジャンプしてくるのを、男はその場から跳ぶと同時に、獣を切り裂き逃れる。

だが、空中に逃れた男を残った獣たちがさらに追撃する。

空中で身を動かせない絶体絶命の男だが不適に笑うと剣を構え

「閃華!」

ドンッ!と空中・・を踏みつけ獣たちに突っ込む。

男が通り抜けた一瞬後、獣たちは急所を切り裂かれ絶命する。

トンッと着地した男の後に、獣たちの体が落ち周囲は再び静寂に包まれる。

「…………ふう、やれやれ。

あいつは来て早々いきなり命の危機になってるし、来れたのは良いけどあの怖いお姉さんに出口塞がれたし………はあ」

そうため息をつく男の眼はいつの間にか元の黒色に戻っていた。

「千歳達にはすぐ戻るって言ったけど無理だな………まあ、観光に来たとでも…………思えない、はあ」

男は再びため息をつくと、家の方に視線を送り

「あいつは今ごろグーグー寝てるんだろうなぁ………すごい腹立ってきた。まあ、今日はもう会えないし僕も寝床探さないと………」

男は剣を納めると森の方へ向かうが、途中で足を止め小屋の方へ振り向いた。

「…………大変だろうけど、それも君の運命だった、ということだろう。

かつて同じ道を歩んだ者として、陰ながら応援させてもらうよ。

それにここも住めば面白いとは思うしね。ゲームがないのには僕も同感するけど」

誰かに聞かせるかのように呟き、今度こそ闇へと消えて行ったのだった。

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