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外に飛び出た俺が最初に目にしたのは
「「「グオオォォォ!」」」
「うおっ!?」
先程襲ってきた犬型モンスターの大群だった。
サイズは一回り小さい気がするが、元々がデカイのであまり違いがない。
「おいおい…………これヤバイんじゃね?」
俺は顔面蒼白になりつつあるのを感じながら呟いた。
犬型モンスターは知性があるのか、アルティアの家を包囲しつつジリジリと包囲の輪を狭めつつある。
つまり逃げることもできない絶体絶命の状況ということだ。
「そうだ!アルティアはっ!?」
ふとアルティアの姿が見えないことに気づき、慌てて探そうとするが
「鬱陶しいわね!フレイムバースト!!」
突然犬型モンスターの包囲網の一角が爆発とともに吹き飛んだ。
「…………心配なさそうだな」
霧のように溶けていくモンスターの姿を見ながら呟く。
それよりむしろ………
「「グルオオオオォォォ!!」」
「アルティアぁぁぁ!!
助けてくれえええぇぇぇ!!」
俺は飛びかかってきたモンスターをギリギリで避けて、全力で走りながら叫んだ。
「ちょ、何でいるのよ!?
外に出るなって言ったでしょ!?
このバカ!!間抜け!!」
「だって普通女の子が戦いに行ったらおわっ!?心配するひいっ!!だろう!?」
「結果的に足引っ張ってるじゃない!」
くっ、ぐうの音も出なっていつの間に目の前に!?
俺の前にいつの間にか回り込んでいたモンスターが爪を振りかざす。
「うおおおお!?」
俺は咄嗟にモン〇ン的緊急回避。
爪はギリギリで俺の髪をかすっただけだったが、代わりに腹を強かに打ち付けてしまう。
「げほおっ!?」
緊急回避ってこんなに痛いのかうおっ!
ガキンッ!!
悶絶する俺にモンスターが食らいつこうとしたのをギリギリで横に転がってかわす。
「そのまま転がってなさいよ!」
アルティアの声がした直後
「ブラストエアー!」
ゴウッ!!
俺の頭の上を何かが通り過ぎ、上にいたモンスターを吹き飛ばす。
「ふふん!どう?この上なく良いタイミングでの援護だったでしょ?」
アルティアが自慢げに胸を張る。
誤射スレスレの援護に言いたいことはあったが、助けられた手前グッと飲み込む。
それに今の攻撃でモンスター達も怯んで攻撃の手を止めたし。
「分かったから早くこいつらどうにかしてくれ!」
「数が多いんだから仕方ないでしょ!
役立たずのくせに文句言うな!」
「ぐっ…………!!」
実際その通りなので何も言い返せない。
「でもまあ、確かにこのままじゃ時間が掛かるわね。
まさかこれ程の数で攻めてくるなんて思ってなかったわ」
「ん?待て。
その言い方だと攻めてくるのは分かってた、みたいな言い方じゃねえか」
「当たり前じゃない。
だってさっき倒したのがこいつらのボスなんだもの。
敵討ちに来るのは当然でしょ」
「当然でしょ、って!
ならとっとと逃げた方が良かったんじゃないか!?」
俺がそう言うとアルティアは顔をそらして、ぽつりと呟いた。
「仕方ないじゃない…………忘れてたし……………」
「忘れてたぁ!?」
あれ、何かこの台詞にすっごいデジャヴを感じる!
「そ、そんなことより!
今はこの窮地を脱する方が先でしょ!」
「窮地に陥ってるのはお前のせいだがな!!」
だが確かに今はアルティアと言い争いしてる場合じゃない。
現にモンスター達は殺意の篭った目で俺達を完全に捉えてるからな。
「で?何か良い策でもあるのか?」
「ふっふっふっ、もちろんあるわよ。
私を誰だと思ってんの?」
「口だけ達者な自称17歳の小学四年生」
「…………ミンチにするわよ」
アルティアが睨んでくる。
だが下から俺を見上げて睨む姿に恐ろしさは皆無だった…………殺気以外は。
「わ、悪かったから続きを話してくれ」
「…………まあいいわ。
で、私の必勝の策はね…………ずばり!固有魔法よ!!」
………………こゆうまほう?
「あ…………そうか。
レンヤは分からないのよね。
まあ、難しく考えなくてもレンヤがやることは一つよ」
「お、一つだけなら何とかできそ―――」
「私が固有魔法の準備を終えるまで、モンスターを一匹残らず引き付けることよ!」
「できるかあああぁぁぁぁぁ!!」
さっき数体に取り囲まれただけで命の危機だったのに、まだ数十体はいるこいつら全部引き付けたら死ぬぞ!?瞬殺される自信あるぞ俺!
「待て!それは無理――」
「お願い!ほんの少し―――三分間だけだから!」
「意外にながっ!!」
三分あったらカップラーメンできるんだけど!
ちなみに三分の間に俺は100回は死ねる自信がある。
それに―――
「それって俺がミスったらアルティアが………」
「ええ。無防備になってるから確実にやられるわね」
「む、無理だって!
俺にそんなことを期待されても―――」
俺は顔を俯けてしまう。
一人の人間の命を背負える程、俺は強くもないし無責任でもない。
そんな弱音を吐く俺に対しアルティアは真剣な顔をして言った。
「大丈夫。何でか分からないけど………レンヤならできる。
そんな気がするの」
アルティアはそう言った後「それに」と続けた。
「もし私が死んでも私の命を背負う必要はないわ」
「え?」
どういう意味か聞き返そうとしたが、聞き返そうとするも、アルティアはすでに杖を構えていた。
「とにかく頼んだわ。
よろしくね」
「おい!待て―――」
慌ててアルティアを止めようとするも、アルティアはすでに何かの呪文を呟きながら、杖で地面に何かを描き始めていた。
「勝手に始めんな!
おい、聞いてんのか!」
俺はアルティアに怒鳴るも、アルティアは相当集中してるようで俺の声が聞こえてないらしい。
一方、モンスター達は先程まで猛威を奮っていたアルティアが動かなくなったからか、じりじりと接近しつつあった。
「くそ、冗談じゃねえぞ!!」
俺があんなモンスター共相手に三分も持つわけないって!
しかも勝手に信じられて、勝手に任せられたんだ。
そうだ、俺には関係ない―――
「―――なんて、考えられたらさっき飛び出してこなかったよな」
どうやら俺は女の子を見捨てて逃げられるほどクズじゃなかったらしい。
自分にも意外に根性があったことに驚きつつも、俺はアルティアを警戒しつつ接近しているモンスター共を見据える。
「さあ来い!
アルティアには指一本降れさせな」
「待たせたわね!」
え?と思いつつ振り向くと、アルティアが杖を振り上げて魔法を発動させる。
「いでよ、地獄の火炎の顕現者!『イフリート』!!」
アルティアがそう言うと、地面に書いた魔方陣のような物が光輝き、そこから二本足の紅い毛をした何かが浮かび上がってくる。
「すげえ…………」
思わず状況を忘れて呟いてしまうほど、その光景は圧巻だった。
イフリートと言えば、FF等のRPGでもお馴染みの存在だ。
まさか生で見れる日が来るなんて!
「焼き尽くしなさい!」
アルティアが命じると、イフリートが腕を振りかぶり―――地面に叩きつけた。
同時に、地面に無数の魔方陣が現れ次の瞬間
ゴウッ!!
と、そこから火柱が立ち昇った!
犬型モンスターがそれに次々と呑み込まれ、宣言通り焼き尽くされていく。
火柱が消えた頃には、数十体いたモンスターは半分以下になっていた。
残ったモンスターは完全に怯え、散り散りに逃げていった。
「ふふん、ざっとこんなもんね」
アルティアが胸をそらして得意気になる。
それを見て呆然としていた俺ははっとなり、アルティアに詰め寄った!
「いや、待て待て待て!!
色々言いたいことがあるんだが!
まず、三分かかるんじゃなかったのかよ!?
俺の覚悟、完全に無駄だったよなぁ!?
あと何だ今のは!?
滅茶苦茶す」
「うるさーーーーい!!」
バチイ!!ビリビリビリ!!
「ぎゃああああああ!?」
バタン
「な…………何故に…………?」
「あ、ごめん。つい」
「ついで済まされるか!!」
そりゃ俺もいっぺんに色々言い過ぎたかもしれんが、電撃ムチはないだろ!
「まあまあ、中でゆっくり説明してあげるから」
アルティアはそう言うと家の中へ入っていった。
それを寝転がったまま見ていると、クレアが俺の方に歩いてきた。
「…………大丈夫ですか?
立てます?」
「…………肩を貸してくれ…………」
―――――――――――
「で、レンヤは何が知りたいの?」
クレアに手伝ってもらいながら何とか家に入り、一息ついた後、質問タイムが始まった。
まあ色々と知りたいことはあるが、まず…………
「魔法のことについて教えてくれ!」
やっぱり最初はコレだろう!
ただでさえ興味津々だった所に、さっきみたいなのを見せられて我慢できるほど俺は辛抱強くない。
アルティアは頷くと説明を始める。
「まず、魔法の種類は二つあるの。
一つは、自然にあるエネルギー………人によって呼び方は変わるけど、私はマナって呼んでるわ。
そのマナを媒体とした魔法、自然魔法ね。
攻撃、防御、回復の三種類があって、基本誰にでも使えるわ。
もちろん、ある程度の才能と努力はいるし、高度な魔法になるにつれ使える人は限られるけどね。
あと、人によって合ったり合わなかったりもするわ」
なるほど、つまりほぼ俺の中の“魔法”のイメージそのままだな。
「あとランクがC〜SSSまであって、SSSの魔法を使える人は、世界でも数人ね。
各ランクにも一応、意味はあるけど…………面倒くさいから省略するわ」
「いきなり手抜きかよ!」
ついツッコムと、電撃ムチをお出しになられたので口を閉じる。
「こほん。まあ、自然魔法は自然のエネルギーを使うから、ほぼデメリットなしで使えるのが特徴ね。
高位な魔法は、その分集中しないといけないから、疲れることはあるけど」
ほぼデメリットなしって、凄いな、自然の力は偉大だ。
「そしてもう一つが固有魔法と呼ばれる魔法。
さっき私が使ったのもこれになるわね」
「固有、魔法…………」
実に…………実にオタク心をくすぐるワードじゃないですか!
「固有魔法は自然魔法とは違って誰にでも使えるわけではないわ。
修行の末使えるようになる人もいれば、ある日突然に使えるようになる人もいる。
そして、“固有”というように、人それぞれ特有の魔法を習得し、固有魔法で同じものは存在しない………と言われてるわね。
そして固有魔法は、大抵が強力な魔法だったり、効果が特殊だったりするの。
固有魔法の使い手が一人で他国の軍隊を蹴散らすなんてのもよくある話ね」
俺の脳裏に一撃でモンスターの群れを半分以上消滅させた赤毛の二足獣が横切る。
なるほど、確かにあんなのが暴れたら一軍ぐらい簡単に蹴散らせそうだ。
ここまで聞くと習得できさえすれば、バラ色人生が待っていそうだが………
「なあ、さっき自然魔法“は”ほぼデメリットなしって言ったよな。
固有魔法とやらはデメリットがあるのか?」
俺がそう聞くと、アルティアは頷いた。
「固有魔法の使い手は、ほぼ例外なく何らかのデメリットがあるわ。
使う度に寿命が縮んだり、習得して正気を失ったというのも聞いたことがあるわ」
「…………なっ!?何でそれを言わないんだ!!」
俺は慌ててアルティアの体をぺたぺたと触る。
「ちょっ、ちょっと!?
や、やめなさい!
私のはそういうんじゃないから!」
アルティアが顔を真っ赤にして俺を引き離す。
そこでようやく自分のやったことに気がつく。
「うわ!?すすすすまん!!」
「も、もう…………良いわよ…………」
アルティアがそう言うが、俺は自分のやったことに混乱してまともに思考できず
「(と、とにかく何かフォローしないと!
え〜と、あ、そうだ!)」
「だ、大丈夫だ!
胸はなかったから感触は分からなかったから!!」
ぷつん
何かが切れる音とともに、クレアが呆れたように目を伏せた。
あれ、俺、今何て言ったっけ…………?
「少しぐらいは!あるわよ!!
このド変態が!!」
アルティアが電撃ムチを両手に構える。
「二刀流!?ちょっと待て!
今のは本音がつい………」
「なおさら悪いわよ!
覚悟しなさい!」
静かな森に俺の悲鳴が響き渡ったのは、それからすぐのことだった…………。
――――END――――