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「ね、眠い……………。
おかしいな、俺、高級ホテルのふかふかの布団で眠ったはずなのに、熟睡どころか悪夢見たんだが…………」
その悪夢というのは、クレアが問題を起こし、それをエンドレスで俺が解決するというそれは恐ろしいものだった。
俺は寝不足で痛い頭を押さえつつ、気づくと襲ってくる睡魔を追い払いながら、ホテルの食堂で朝食をもそもそと食べる。
「それは大変だったわね」
「ふ、修行不足だな。
私は昔、不眠不休で三日間剣を振り続けたこともあるぞ」
昨日の俺の苦労など微塵も知らないであろうアルティアがそう言い、レイアは鼻で笑ってきた。
「お前みたいな化け物と俺みたいな一般人を一緒にすんじゃねえよ…………」
「…………ツッコミにもいつものキレがない」
ミリィだけは無表情だが一応心配…………いや、心配してくれてんのかこれ?
まあ良いや、ミリィなりに心配してくれていると思っておこう、一人ぐらいは心配してくれていると思っておかないと俺のガラスのハートにヒビが入る。
「昨日は大変でしたね」
「てめえは他人事みたいに言うなよ…………」
いつもなら頬を引っ張ってやるんだが、今日は流石にその元気もない、俺はどうにかスープと一緒にパンを飲み込んでいく。
「でもレンヤ、今から対魔神官の人に会うのにそんなので大丈夫なの?」
「そう思うなら今日は止めにしてほしいんだが…………」
「でも向こうが会いたがってるのよねぇ。
私が目覚まさせてあげようか?」
「一体どうやっ………いや、良いです、何とか頑張ります」
方法を聞こうとすると電撃ムチを手に取ったので速攻で断る。
今食らったら目が覚めるどころか、そのまま数時間気絶してしまいそうだ。
「ではこれが終わったら対魔神官の人に会いに行くんですね」
「そうね」
「ふっ、見事吸血鬼を撃退した俺に祝辞でも送ってくれるのか?」
「撃退したのは私達だけど」
「お前は弱点を言っただけだろう」
「うぐっ………」
ぐうの音も出ないことを言われ、調子に乗りかけてたのが一気に失墜する。
「まあ、レンヤの知識がなかったら私達も打つ手なしだったし…………少しは感謝してるけど」
「そ、そうだろう?」
「戦闘では役立たずだったけど」
「ぐはっ」
フォローかと思ったらまさかの追い討ちだった。
そろそろただでさえ貧弱な俺の体力と精神が持たないぜ………。
「じゃあ後で案内するから、身支度を整えたら降りてきなさい」
「………ああ、頼む」
アルティア達が上へ上がっていくのを見送って、俺はとりあえず眠気覚ましに水で顔でも洗おうと宿の人に水場を貸してもらう。
ここは魔法を使った道具でいつでも水が使えるようにしてるそうで、これも普通の宿にはない装置なんだとか。
「それにしても、クレアのアホは相変わらずだが、こんな高級宿に泊まれるし、金はこの間ので当分はあるし、最近の俺って結構ついてないか?」
昨日はアレだったが、全体的に見れば最近は悪くない。
最初に鎖で繋がれて、固くて寒い石の床で寝させられたのが嘘のようだ。
そうだ、きっと運がGとかいう最高に悪いランクだったこともきっと何かの間違いだったんだ。
俺はそんなことを思いながら、蛇口のようなものをひねる。
「お、お客様!
すみません、それ朝から壊れていたことをお伝えしてなくてーーー!」
「ぎゃあああああ!?
つめてえええええ!?」
壊れた給水装置から噴水のように吹き出た水はとてもひんやりしていて、強烈すぎる眠気覚ましになったのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「レンヤ、遅い!
……………何で髪がちょっと湿ってるの?」
「いや、まあ…………ちょっと眠気覚ましに水をな…………」
服が濡れたので着替えを素早く済ませ、慌てて降りた俺はぐったりした様子でそうアルティアに返した。
「顔だけではなく、滝にでも打たれてきたらどうだ?
目が覚めてさっぱりするぞ」
不思議だ、平然と言うレイアを見ていたら、冷たい水を頭から被ったことなんて大したことないように思え…………ないなやっぱり。
「?まあ良いわ。
じゃあ案内するわね、こっちよ」
アルティアについて、皆で移動を開始する。
流石にまだ早いからか、人通りはまばらで、開いてる店もあまりない閑散とした雰囲気だ。
見るものもないので、適当に話題を振ってみる。
「今から会う対魔神官だっけか?
そいつらはレフーーー吸血鬼とかを倒すための組織なんだよな?」
「そうね。正確には“教会”に属する戦闘部隊に属する人を対魔神官って言うんだけど」
「教会?前も言ってたが………」
字面から想像できるから前は突っ込まなかったが、暇なので話ついでに聞いてみる、こっちの常識と違ってたらいけないしな。
記憶喪失の俺たちのためにアルティアが説明する。
「教会って言うのは、この世界に存在すると言われている神を崇める人達の集まりよ。
その中には、布教を主とする人達や、神と相反する存在であるアンデッド達を討伐するーー教会の人達は“浄化”って言ってるらしいけど、そういう戦闘を主にする集団に分かれているの。
ちなみに布教の人がほとんどで、戦闘部隊、まあ対魔神官って呼ばれてる人達は全体で見れば極小数なの」
「アンデッドは私達の武器や魔法では倒せないことが多いからな。
だからモンスターの中でもアンデッドはほとんど対魔神官の仕事なのだ」
「なるほど」
「……………私はてっきりお前が対魔神官かと思っていたんだがな」
「……………私も」
「え、いや…………」
そう言えばレイアとミリィにはまだ記憶喪失の設定を話してなかったか。
ここで疑われても困るし、ここで二人にも話しておこうか。
「あー、実はだな、俺とクレアは記憶喪失なんだ」
「は?」
「……………ほんと?」
「ああ。自分の名前とかそう言うのは覚えてるんだが、この世界に関する知識がほとんどなくてな」
「そういえばクレア殿も通信機の存在を知らなかったみたいだったな」
通信機…………ああ、昨日のアレか、そういえばこの二人同室だった。って
「お前、なら昨日のクレアの破壊を止めろよ!?」
「私が壊したみたいに言わないでください!」
「壊したんだろうが!」
「ち、違いますよ、壊れたんです!」
「…………そういえば……き………も結局、クレ………と……ね………った…………また、この…………とこが…………!」
「な、なんだなんだ!?
急にレイアが俺を怨敵を見るかのような目で睨み付けてきてるんだが!」
レイアが発してくる殺気をミリィの後ろに隠れて防ぎながら「…………盾にしないで」今までにレイアが怒るような要素があったか思い返してみるが、全く思い至らない。
前にも似たようなことがあったが、まさか突発的に殺気を飛ばす病気にでもかかってるのだろうか?
腹を空かせた猛獣にするように、目を合わさないようにしながら俺は話を戻す。
「は、話を元に戻すが、俺を今回呼んだのはその対魔神官の方で良いんだよな?」
「そうよ。きっと勧誘ね、伯爵クラスの吸血鬼なんて対魔神官でもまだ倒してないんだから」
「へー」
アルティアの話を聞いて本当に俺は凄いことを成し遂げたんだなという気持ちと、何故か少しの不安がよぎる。
ここまで順調に行ってる裏返しのような些細なものかもしれないと思った俺は、その不安を特に気にすることなく先に進んだが…………
結論から言ってあの時抱いた不安は的中することになる。
ーーーーーーーーーーーーー
「着いたわよ」
「着いたわよって……………ここか?」
俺はアルティアが立ち止まった建物を見て思わずそう呟く。
目の前には少し老朽化した教会のような建物があるだけで他には何もない。
とても教会とやらのエリート様がいるような場所には思えないような佇まいだが、アルティアが嘘をついてるようにも思えない。
らしいと言えば、教会の扉の前に重厚そうな鎧に身を包み、身の丈を超えるハルバードを軽々持っている騎士が二人いるぐらいか。
アルティア達はその騎士に近づく、と騎士の一人がハルバードを片手でアルティアに向けた。
「何用だ、ここは許可のない者は通せんぞ」
「そっちから呼ばれたんだけど」
「なに?
ということはお前達が………」
騎士は俺とクレアを見て、隣の騎士に何やら耳打ちする。
耳打ちされた騎士は頷き、中へと入り残った騎士は「少し待て」と言って扉の前に立つ。
「(何か感じ悪いですね)」
「(ああ)」
クレアの言う通り、向こうから呼んだくせに対応がおざなりと言うか、望んでない客が来たみたいな態度だ。
そんな不満を持ちつつ少し待つと、扉が開きそこからさっきの騎士が出てきて、扉の前の騎士に耳打ちする。
騎士は頷き俺たちの方に向いて口を開く。
「よし、カミカゼレンヤ殿と、クレア殿は入っていただく。
他の者は外で待ってもらう」
「「え?俺(私)たちだけ?」」
騎士の言葉に思わずクレアとハモりながら、アルティア達の方を向く。
三人はさして驚いた様子もなく
「まあ、そうよね。
じゃあ、私たちはその辺を適当に歩いておこうかしら」
「失礼のないようにな」
「……………頑張れ」
と言いながら、街の方へ歩いていく。
「ちょ、まっ…………」
「それでは付いてきてください」
「……………はい」
アルティア達を呼び止めようとすると、騎士が有無を言わせない口調で先を促し、項垂れながら渋々ついていき、クレアも俺の後に続く。
騎士は木の板でできた廊下を黙々と進んでいくが、俺たちは内心の不安を紛らわすために二人で話しながら歩く。
「どうしよう…………俺、めっちゃ人見知りなんだけど…………」
「わ、私もです…………。
こ、怖い人だったらどうしましょう……………」
「だ、大丈夫だ。
教会に仕えるような人なんだからきっとシスターのような慈愛溢れる人がーーー」
言いかけて俺は目の前にいるのも教会に属する人、そして今から会うのは対魔神官という戦闘を主とする部隊なのを思い出しそれ以上言えなくなる。
「れ、連夜、急に黙らないでください」
「いや、心の準備はしといた方が良いかも知れねえ…………」
「な、何で不吉なこと言うんですか!?」
「少し静かにしろ」
先頭を行く騎士から注意されクレアが黙り、それを顔だけ向けて確認すると騎士は再び歩き始めた。
さっきから嫌な予感はしているが、俺はまだ信じていた。
まさか巷では吸血鬼を倒した(アドバイスをした)ことになっている俺たちをどうこうするわけないだろう、という根拠のない自信もあった。
騎士はとある部屋の前で一度立ち止まり、鍵を使ってギイと扉を開け、俺たちに中に入るよう促す。
恐る恐るクレアと入ると、中は予想に反して何もなく、ただの小部屋のようだった。
「あの……………何もないのですが…………」
クレアが騎士の方に向いて聞こうとすると、ガション!というレバーか何かを下ろした音がして、一瞬の浮遊感、のち
「うわああああああ!?」
「きゃあああああああ!!?」
俺たちは開いた床から下へ落ちた。
そして
バシャーーーンッ!という音が二つし、俺たちは冷たい水の中に投げ出されていた。
幸いそこまで広くなく、すぐに俺たちは地上へと上がることができた。
周りは壁にかけられた蝋燭のみで、蝋燭の周り以外は真っ暗だった。
俺とクレアは濡れた体を暖めるために蝋燭の近くへ移動する。
「げほ、げほ!
どうなってんだちくしょう、教会とやらは俺たちに水泳でも教えるつもりなのか!?」
「けほ、こほ!
うう……………さ、寒いです…………」
俺は怒りに任せて上へ怒鳴るが、何のリアクションもない。
何なんだ、呼ばれたから来たのにここの奴等は嫌がらせがしたかったのか?
俺は怒った頭のまま、ここから出せと叫ぼうとしたが
「やっと来たか」
暗闇から突然、ハスキーな声がしたかと思った瞬間、俺は地面に叩きつけられていた。
「げほっ!?」
「れ、連夜!?」
「おっと、動くなよ。
この坊っちゃんの首が胴体とバイバイすることになるぜ?」
ハスキーな声の主はそう言うと、ひたりと首筋に冷たいものを押しつけてきた。
首と胴体がバイバイ、から押しつけられてる物を想像して上っていた頭が一気に冷えていくのを感じる。
「よしよし、聞き分けの良い子は好きだぜ。
さて、改めてようこそカミカゼレンヤとクレア。
オレはここの教会に属する対魔神官、そうだなマーガレットとでも名乗っておこうか」
対魔神官ってことは………
「も、もしかして私達を呼んだ人ですか?」
「そうだ」
「ふざけんな!
何でこんなことをするんだ!?」
「ん?何でって、まさかお前ら伯爵クラスの吸血鬼を倒したから、教会から何かご褒美貰えるぜわーいとでも思ってここに来たのか?
バカか」
「なっ……………!!」
「考えてもみろよ。
オレたちが汗水流してやってた仕事を、どこの誰かも分からん奴がいきなり出てきて、しかも俺たちの誰もが成し遂げなかったことをやりやがったんだ。
今はまだあまり噂になってない、いやさせてないから良いようなものの、プロのオレたちが出来なかったことをド素人のてめえがやりましたなんてことが世間一般に広まってみろ。
…………どうなると思う?」
「そ、それは………連夜が有名になる……………?」
クレアの答えにマーガレットは大笑いした。
「はっはっ!
単純な答えありがとうよ!
だが、世の中もウチ(教会)のジジイとババアどもはそう単純じゃねえ」
「じゃ、じゃあどうなるってーー」
「消す。
適当に異端容疑かけて、適当に審判下してな。
ま、大方元吸血鬼の仲間だったとか言うつもりじゃねえか?
で、お前の行きつく先は栄光ではなく火炙りってわけだ」
「なっ…………!!
そ、そんなことが許されるわけーー」
「吸血鬼は倒したが素性の知れない男一人の言うことと、数百年続いてきた清く正しい教会の言うことと、どっちに信憑性があるだろうな?」
マーガレットの言葉に何も言い返せず黙り込む。
俺たちにはこの世界での身分を証明するものは何もない。
そこを突っ込まれれば、俺たちが不利なのは明らかだ。
「ようやく自分達の立場が分かったか?
オレは誰があのクソどもを倒そうがどうでも良いんだがな、頭の固い老人たちは教会の伝統だとか、矜持が大切らしい。
だから、もう目立つ真似はするな、次同じことがあったらもう誤魔化せないと思え、良いな?ってか良いって言え」
「それもう強制ーーいたた!?」
横暴な言い方に反論しようとすると、片手で腕を極められ悲鳴をあげる。
「口答えすんな、これ以上オレに面倒をかけるな、返事は?」
「い、イエス…………」
マーガレットから殺気を感じ大人しく返事をする。
その答えに満足したのか、マーガレットは極めていた腕と、首に突きつけていた何かを離す。
解放されたので恐る恐る立ち上がってマーガレットの方に向く。
粗野な言葉から見た目もそんな感じを想像してたのだが、予想に反してマーガレットは中々の美女だった。
黒い髪を手入れするのが面倒で適当に切ってますというようなボサボサなヘアーであることを除けば、雑誌とかのモデルをやっていてもおかしくない体型と整った顔立ちをしている。
そのマーガレットは俺へ言いたいことは終わったのか、今度はクレアの方を向いた。
俺とのやり取りを見ていたからか、クレアがビクッと身をすくませる。
「さて、今度はお嬢ちゃんだ」
「な、何ですか…………?」
「あんたは龍を撃退したんだってな?
それは本当か?」
「えと…………その…………そ、そうです」
クレアが言い淀んだのは恐らく、撃退は撃退でも広がっている噂とは全く違うからだろう。
クレアの返答にマーガレットは「ふむ…………」と何かを考えるかのように少し黙り
「よし、ならお前はもう良い。
お前らへの用は済んだからとっとと帰れ」
と言ってしっしっと手を振る。
当然、俺とクレアは思わぬ反応に唖然とする。
「え?え?な、何もないのですか?」
「そ、そうだそうだ。
俺は床に叩きつけられたのにクレアだけ何もないなんて!」
「そっちですか!?」
「それ以外に何があるんだよ!
不公平だ!せめて慰謝料よこ」
ヒュンッ ザクッ!
言葉の途中で何かが顔の横をかすめ、後ろにある壁に突き刺さった。
冷や汗を流しながら後ろを恐る恐る向いてみると、ナイフが一本壁を貫通して突き刺さっていた。
「まだ足りないか?」
「い、いえもう充分ですありがとうございます!」
マーガレットがにこやかな顔でナイフを構え、俺は首が千切れんばかりの勢いでブンブンと首を振る。
「ならもう用はないな?
そこから上へ上がれるからとっとと帰れ。
それとくれぐれも他言無用だ、まあ喋ってもお前が火炙りになるだけだからな、大したことはないが」
「いや、大したことあるんですけど!」
「ならせいぜいバレないようにすることだ。
慈悲深い私の親切を無駄にするなよ」
マーガレットはそう言って、暗い通路の奥へと消えていった。
わざわざ忠告してくれる辺り、確かに優しい人ではあるんだろうが…………大雑把というか、あの暴力的な性格が全てを無駄にしている。
「……………色んな意味で強烈な人だったな…………」
「……………はい、とりあえず上へ戻りますか?」
「ああ…………」
俺は朝より疲れた体を引きずるように、近くにある階段を上っていくと、最初に光が上から差し込んできて、気づけばいきなり落とされたあの部屋にいた。
「はあ…………あの時は仕方なかったとはいえ、やっぱり目立つような真似なんてするんじゃなかったな…………」
地上に戻って安心すると同時に、ついつい文句が口から出る。
とりあえず教会とやらにはもう目をつけられてしまったから仕方ないが、これ以上目立つような真似は極力控えよう、やっぱりただのオタクがもしかして英雄になれるんじゃね?とか期待したのがいけなかったんだ。
と、愚痴を心中でぼやきながら部屋を出ると騎士が一人立っていた。
「…………戻ったか、出口まで行くぞ」
そう言うと騎士はついてこい、とばかりに踵を返し歩き始めた。
その横暴な態度に色々と言いたいことはあるが、道が分からないので仕方なく黙って騎士についていく。
しばらく三人で黙々と歩いていると
「…………何の話をしてたんだ?」
「え?」
機械のように俺たちを案内するだけかと思ったら、いきなり喋り始めたので思わず聞き返してしまった。
「……………言いたくないなら良い」
「そ、その、ちょっと注意を受けまして…………」
人の良いクレアが(この空気に耐えかねたのもあっただろうが)そう答えると、騎士は少し黙り込み
「…………あの人もあの粗雑な性格だが、嘘はつかないし、民衆のことを考えている。
…………だから言い方はキツかったかもしれないが、真摯に受け止めておいてほしい」
「は、はあ…………まあ、嘘をついてる様子はなかったし言う通りにしようとは思ってますけど…………」
「…………なら良い」
騎士は俺の言葉を聞くとまた前を向いて黙々と歩き始めた。
確かに乱暴な性格だったが、部下には慕われているらしいな。
そんなことを思いながらしばらくまた黙々と歩くと、最初に入れられた扉の前に着いた。
「…………行け、くれぐれも忠告を忘れるなよ」
「わ、分かりました」
騎士が扉を開き、そこから二人外へと出る。
外の風を浴びながらやっと解放されたという気持ちと、何だか刑期を終えた囚人のようだな、と複雑な気持ちになる。
「あ、やっと出てきたわね」
教会前でアルティア達が、迷惑そうな騎士の視線を無視して、街で買ってきたであろう串に肉や野菜が刺さった物を食べていた。
「…………美味しそうなもん食ってんな」
「?どうしたのよ?
何だか疲れてるようだけど」
「…………いや、何でもない。
とりあえず腹減ったな、俺たちもそれ欲しいんだが、どこに売ってるんだ?」
「それならこっちよ」
アルティア達は特に何も言わず、街の方に歩き出した。
どうやら今のところはバレずに誤魔化せたみたいだな。
「…………連夜、言わなくても良いんですか?」
「マーガレットに脅されたからな。
それにもうとっとと忘れたい」
俺はそう言ってアルティア達について歩き出し、クレアも微妙な顔をしつつもそれ以上は言わず歩き出した。
この時はもう目立つ真似をしなければ良いんだろ、ぐらいにしか思っていなかったのだが、良くも悪くも一度有名になるとそれだけでは済まなくなる、ということを思い知ることになるのは後のことである。
ーーーーーーーーーーーーー
燭台に灯された薄暗い部屋の中で、吸血鬼を倒した少年と、龍を撃退した少女にマーガレットと名乗った対魔神官の女は一人の男と話していた。
「それでは…………あの少女が本当に…………?」
「ああ、純白の髪に紅い眼、それにこの世界での最強生物である龍を撃退した、という話も本当だった」
「まさか…………しかし、もし本当にあの方だったとしたら何故わざわざ下界へ降りてこられたのでしょうか?」
「さあな、オレたちには分からない崇高な理由があるかもしれないし、ただの気紛れかもしれん」
「…………我々、教会にはあの方を保護する義務があるのでは?
聞けばあの一緒にいた少年はあの方に対して数々の無礼を働いているとか」
そう言う男は、怒りを抑えきれないように手が震えていた。
信仰深いこの男には、今のアレの扱いに我慢できないのだろう。
「あの方を保護し、しかるのちにあの少年に裁きを下すべきです!」
「おいおい、いつからお前はこのオレに意見できるほど偉くなったんだ?」
昂っている男が一瞬で黙るほどの鋭い眼光を向けながら、マーガレットはドスの利いた声で低く呟く。
しかし、男は怯みながらもなおも口を開く。
「し、しかし…………あの方がお怒りになったらどうするのです?
この世界が滅んでしまうかも知れません」
「その時は我らが神にお願いしようじゃないか。
聖書に書いてあるには、神とあの方は先輩と後輩関係にあるらしいからな」
マーガレットは軽い調子でそう言うが、男は納得しきれてないのが見え見えな態度で聞いていた。
マーガレットはそれを悟りつつもあえて無視する、今ここでどれだけ言葉を並べようが、実力行使で無理矢理納得させようがこの男は納得しないだろうからだ。
「ま、とにかく教会としてはあの方やあのガキに関わるつもりはない。
聖騎士も暇じゃないんだ、こんなことに使ったら可哀想だろう?」
マーガレットの言葉に男は憮然とした顔で頷くが、ふと何かに気づいたかのように目を瞬かせ
「…………それでは私個人が会いに行くのは?」
「さっきも言ったろ、あの二人には干渉するな。
だがまあ、これもさっき言った通りオレたちは暇じゃない、お前が休日に誰とデートしようが一々調べて回ったりはしねえし、とやかく言うつもりはない」
マーガレットの言葉に男は少し黙り込み
「……………分かりました、それでは失礼します」
何かを決意した顔でマーガレットに一礼し、部屋を出ていった。
残ったマーガレットは、ポケットから葉巻を取り出し、火をつけてそれを口にくわえてから一息つく。
わざと焚き付けるような言い方をしたのは、やはり本当にあの少女が伝説のアレなのかどうか、そして一見普通のヘタレか貧弱なガキにしか見えなかったあの少年がどういう理由でそんな奴と一緒にいるのか、それを確かめたかったからだろう。
「ま、せいぜい頑張れや、どう転んでもオレは楽しめるから良いけどな」
ニヤリ、と葉巻をくわえながら笑うと、葉巻をくわえたまま、闇の中へと消えていき、部屋には蝋燭の明かりだけが残るのだった…………。
ーーーーーENDーーーーー




