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くじ引き転生  作者: ブラックシュミット
17/32

11 裏

「さて、街に出たのは良いものの、依頼を受けさせてくれる人って中々見つからないね」

「ほとんどの人は…………ギルドに頼みますからね…………」

「私そろそろ疲れてきたなー」

「ウサリィは歩いてないでしょ…………」

僕たちはカノンの部屋を出て、街を歩き回ってみるが、依頼を出してる人は見つからなかった。

やはりどこかの誰とも知れない人に頼るよりも、組織的に活動しているギルドへ出した方が信頼できるんだろう。

「まあこの程度は予想ついてたし、地道に探すしかないよね」

「そうですね」

「私退屈で死にそうなんだけど。

そうだ、カノンの話聞かせてよ」

暇をもて余したウサリィがカノンの頭に乗りそんなことを言い出した。

「私の………話………?」

「そうそう」

「でも、私、お話し苦手で…………」

「そんな悩むことないよー。

例えば、カノンの好きなものは?嫌いなものは?

そういえば、カノンはギルドに入ってるよね、カノンって強いの?

あとそれからーー」

「あ、あう…………えっと、えっと…………!」

「ウサリィ、カノンがオーバーヒートしてるよ」

「あ、ごめん」

ウサリィの質問攻めが止まると、カノンは落ち着きを取り戻し、一個一個答え始めた。

「好きなものは…………お肉、かな。骨付きの…………。

嫌いなものは…………虫、とか…………あとナメクジとか…………」

「え、肉?」

カノンの性格と容姿からはちょっと想像できないもので少し驚く。

「だ、ダメでしょうか………?」

「いやいや、否定してる訳じゃなくてちょっと意外だったから。

カノン、そういうの食べなさそうに見えるからさ」

「そ、そうですか…………?

でも私、見ての通り獣人なので…………お肉好き、ですよ…………?」

「そういえば犬型の獣人だったよね」

カノンがぴょこぴょこと耳を動かしながら言うのに思い出し納得する。

「そういえばカノンのその耳、私まだ触ってないんだよね~。

ね、ちょっと触っても良い?」

「えっ?その、耳は…………」

「良いじゃーん、減るもんじゃないしー。

クロミネも触りたいよね?」

「そこで僕に振られても困るんだけど」

確かに耳も尻尾もふわふわそうで、触ってみたいという気持ちもなきにしもあらずだが、本人嫌がってるみたいだし…………

「ねーねー、良いでしょー。

ちょっとだけ、ちょっとだけだから」

「で、でも私たちまだそういうのは早いと思います…………!」

「ふっふっふっ、あくまで拒むか。

ならば、実力行使じゃー!」

「調子に乗るな」

「ふむぎゅ!」

カノンの耳に飛び付こうとしたウサリィを、手で掴み阻止する。

「あ…………ありがとう、ございます」

「いや、こっちこそ。

ウサリィが迷惑かけまして」

「ちょ、ちょっと和やかに会話してないで離して!

潰れる!潰れるー!」

「あ、ごめん。力入れ過ぎた」

ウサリィを離すとパタパタと手の中から出てきたウサリィが涙目で僕の顔の前に来る。

「酷い拷問だよ、妖精権侵害で訴えてやる!」

「悪かったって。

でもウサリィもカノンに謝らないとだろ?」

「う……………。

カノン、調子に乗ってごめんなさい」

「い、いえそんな………!

も、もう気にしてないから、ね?顔を上げて」

「でも僕も意外だったな、そんなに耳を触られるの嫌?」

「…………その、私…………、そういうところ敏感で…………触られると…………力が抜けちゃうんです……………。

で、でも、どうしても触りたいのであれば、我慢しますから……………!」

「いやそんな悲壮な顔をされながら言われても触れないから!」

カノンが目を瞑りながら頭の耳を近づけてくるのを慌てて止める。

少し興味があったけど、この様子だと触るのは諦めた方が良さそうだ。

「そ、それよりカノンの腕前はどうなんだ?

前にギルドでは下っぱって言ってたけど」

「私、戦いもですけど、隠密行動が苦手で…………いつも皆の足を引っ張ってるんです…………」

カノンはしょんぼりと耳を項垂れさせながら言った。

うーん、カノンには悪いけど、前に抱いたイメージ通りだなぁ…………。

「じゃあカノンって家族の人いるの?

兄弟とかは?」

「お母さんとお父さんがいますよ。

あと……………お姉ちゃんも」

カノンはそう言って少し顔を伏せる。

「……………お姉さんと仲悪いのか?」

「い、いえ……………。

ただ、私にはちょっと遠すぎるだけで…………。

あの“疾風の太刀”って聞いたことありますか?」

「疾風の太刀?

いや僕は知らないな」

「疾風の太刀!?

それって超有名人じゃん!」

ウサリィの様子からするとこの世界では結構な有名人みたいだが、僕には毛一筋もピンと来ない。

「その人凄いのか?」

「凄いも何も、確か龍と一人で戦って片翼を斬り飛ばしたんだよ!

しかも五体満足で生きて帰ったって!」

「龍と一人で!?

しかも片翼を!?」

僕の知っている中でもそんなことができるのはほんの一握りだ。

「むしろ知らない方が驚きだよ。

クロミネ、本当にどこに住んでたの?」

「……………えーと、ここから遠い遠い所だようん」

「どの辺の?」

「ええと……………そ、それで疾風の太刀さんがどうしたの?」

言葉に詰まり、強引に話題を変える。

「もしかしてカノンに関係がある?」

「は、はい。

私の…………お姉ちゃん………です」

そう言うカノンの顔は、複雑な表情を浮かべているように見えた。

「お姉ちゃんは…………シャーフィンド流剣術の「風」の型を極めた…………凄い人なんです。

私なんか…………足元にも及ばないぐらい………」

「シャーフィンド流?ってカノンの…………」

「はい、私のおじいちゃんが開祖で…………火水風岩の教えがあります」

「私も聞いたことある。

シャーフィンド流は、大きな剣術の一つなんだよね」

「ウサリィって意外に物知りだよな」

「そこはほら、私は妖精ですから。

噂話とか大好きだからちょこちょこ耳に入れてるんだー」

ウサリィは得意気に胸を張る。

「しかし、カノンはお姉さんが、その、苦手みたいだね?」

「に、苦手……………かも、しれません…………」

カノンが顔を俯かせて答える。

お姉さんに苛められてた、とかじゃなさそうだけど…………まあ、剣術一家なら武人みたいな気質の人かもしれないし、そうだったら確かにカノンは苦手そうだな。

「それにしても……………いつの間にかこんな所まで来ちゃったな」

ふと周りを見回すと、辺りに人気はなくなり、ボロい家が立ち並ぶエリアに来ていた。

「こ、この辺は…………あまり治安が良くないですよ…………帰りましょう………?」

カノンがくいくいと袖を引っ張って帰りを促す。

「私も、何か不快な視線を感じるし…………」

ウサリィもキョロキョロと周りを見回しつつ、さりげなく僕の背中に隠れる。

「そうだね。

依頼を出してくれそうな人もいないしーー」

「そこのお兄さん、依頼を探してるのかい?」

突然、声をかけられそちらの方を向くと、そこにはラフな格好に身を包み、薄い笑みを浮かべている男がいた。

「そうだけど」

「いやー、まさかこんなところにまで依頼を受けに来てくれる人がいるとはね。

あ、俺はビズリーって言うんだ。

見たところお兄さんは中々、腕が立つ様子、ちょいと俺に力を貸してくれねえか?」

「依頼があるの?」

僕の問いに男はうんうん、と頷く。

願ってもない申し出に受けようとすると…………ツンツンと肩の辺りをウサリィにつつかれる。

「(ちょっとクロミネ)」

「(ん?どうした?)」

「(もしかしてそこの怪しいオジサンの依頼を受けるつもり?)」

「(いや、だってここまで来てやっと見つけた依頼人だよ?)」

「(それは分かってるけど、どう見ても怪しいでしょアレ!)」

ウサリィは見えないように男をビシッと指差す。

「(こら、人を指差しするんじゃない)」

「(で、でもクロミネさん…………私もあの人の依頼はやめた方が…………)」

「(まあまあ、見た目で判断するのも早計だろ?

とりあえず受けてみようよ)」

それに見た目は普通だが、中身はおよそ人間として底辺な最低野郎をいるし。

金にがめついどこかの友人の顔を思い出しつつ、男の方に顔を向ける。

「じゃあ依頼の内容を話してもらって良いですか?」

流石に何々を盗めとか、誰々を殺せという依頼は受けかねるので聞くと、男は怪しくないよという風に手をパタパタと振る。

「あ、お兄さん疑ってる?

大丈夫、モンスターの討伐なんだ。

お金も前金で…………このぐらいはどうだい?」

男は袋を二つ取り出し、それをじゃじゃらと振って見せた。

「1袋5000ゴルドで合計10000ゴルド。

モンスターを討伐してくれたらさらに20000ゴルド」

「ってことは………合計30000ゴルド!?」

ウサリィがすっとんきょうな声をあげた。

カノンも目を丸くし、驚きを隠せない様子だ。

「どうした?

そんなに破格か?」

「いや、私も依頼の相場知らないけど、30000ゴルドって確か強いモンスターを討伐しないとじゃないっけ?」

「そうなの?」

「は、はい…………A級モンスターの数回分の報酬ぐらいです…………」

それをこんな気前よく出してくれるってことは

「もしかして厄介なモンスター?」

「そうそう。

実はここだけの話、この街の近くに厄介な…………ひょっとするとSS級に匹敵するかもしれないモンスターが現れるかもしれないんだ。

いや、信じられないのは分かる、でも事実なんだ」

「「………………」」

僕とウサリィは洒落に聞こえなくて黙り込む。

ついこの間、そのSS級モンスターを討伐したばっかだからな…………。

「でも…………SS級のモンスターと言えば…………国への報告義務があるはずですけど…………」

「……………お嬢さん、もしかしてギルドの人かい?」

「そ、そうです…………けど…………」

「ランクは?」

「えと…………Dです…………」

「いやあ、そりゃお嬢さんはまだ知らないかも知れないけどな、高ランクのモンスターは出現したってすぐには報告しないんだよ。

ほら、後で実はいませんでしたってことになったら大変だろ?

だから高ランクのモンスターは本当にそうなのかどうか、じっくり見定めてから報告することになってんだよ」

男はいきなり饒舌に喋り始め、カノンはその勢いに押されて「は、はい…………すみません…………」と頭を下げる。

「で、どうだ?

依頼を受けてくれるか?

まあ、受けなければ受けないで良いけどな、ただこんな好条件の依頼はもうないと思うぜ」

「良いよ、受けよう」

男の言葉に僕は即決でそう返した。

「お、ほんとか?」

「く、クロミネ!?」

「まあまあ、良いから良いから」

いきり立つウサリィを宥め、男の方へ向き直る。

「じゃあそれ、前金で貰えるんだろ?」

「ああ、ほらよ、頼んだぜ」

男から袋を受け取り、同時にモンスターの居場所を教えてもらってからその場を離れる。

男に貰った地図を見ると、本当にこの街からそう離れてない場所らしい。

男がいた場所から十分離れると、ウサリィが僕の目の前に飛んできた。

「クロミネ!

何で受けたのよ!

あの男の言うことどう考えても嘘臭いじゃない!」

「そうですよ…………それにSS級モンスターは、少人数で倒せませんよ……………」

カノンまでもが批難するような目を向けて抗議する。

「いや、この間も街の近くまでヘルケロベロス?って奴が出てたでしょ?

本当にいたら危ないし」

「そうだけどあの人は明らかに怪しかったでしょ!」

「…………え?

ヘルケロベロス……………?」

カノンが目をパチパチさせながら僕の方を見る。

あ、そう言えばまだ言ってなかった。

「うん、そもそも僕が何でウサリィに背中がヒリヒリするぐらい、引きずられてたと言うと」

「まだ根に持ってるの?」

「いや、そういう意味じゃなくて。

とにかく、僕が倒れていたのはヘルケロベロスが街の近くまで出てきてたからなんだ」

「ええっ!?」

カノンにしては大声をあげて、あたふたと慌て出した。

「そ、そんな危険なモンスターが…………は、早く領主様に…………!」

「落ち着いて、もう来ることはないから」

僕の言葉にカノンは首をかしげ、それからハッとした顔になった。

「もしかして…………クロミネさんが……………」

「そうそう、危なそうだから退治しといた」

「す、凄いです…………!」

僕の言葉をあっさり信じてキラキラとした目を僕に向ける。

素直な子だなー、ここで嘘ですとか言ったらどんな反応するんだろう?いや、退治したのは本当だけど。

「そうそう、しかもクロミネは龍の力を使えるんだよ!」

「……………え?龍…………?」

「……………ウサリィ」

「あ、ごめん…………」

龍という言葉に、カノンが目を丸くし、僕は口を滑らせたウサリィを睨む。

まあカノンなら話しても大丈夫か。

「実は」

僕はクレアが実は神龍であること、自分に龍の血が流れていて、それで龍の力を使えることを話した。

「どう?信じてもらえた?」

「あ、あの……………すみません…………まだ理解しきれてなくて…………」

まあそれはそうか。

「あ、で、でも、クロミネさんのお話を疑ってるわけではないんですよ?」

「大丈夫、カノンならそう思ってくれてるって分かってるから」

確かにいきなり「神様を探してます」とか「私は龍の力が使えます」なんて言ったって理解できないだろう、僕も理解できない。

それよりも、カノンが疑ってるような顔や、僕を変人扱いしなかったことが嬉しいぐらいだ。

「でも…………凄いです、龍の力が使えるなんて…………」

「と言ってもなるべくなら出会いたくはないんだけどね」

龍装騎兵は言わば、僕にとっての最終手段だ。

あの時は街の危機でもあったからしょうがなく使ったが、そうでないなら魔力の消費量も半端ないし、何より使ったばかりだから今はなるべくなら使いたくない。

それでもこの依頼を受けたのは、クレアのこともあるがやはりカノンにお金を借りたままなのが気になるからだ。

まあ使わなければ勝てないのなら、今回は使おうと思う。

カノンにも話したし、これで心置きなく使える…………まああまり派手にやると街からも見えるからそこは配慮しないとだけど。

そんなこんな雑談をしながら歩いていると、いつの間にか街の外へ出ていた。

「さて、ここからは気を引き締めて行くよ」

「はーい」

「は、はい…………!」

三人で警戒しつつさらに地図の通りに進んでいくと、街道をそれ、周りは草木が生える森や草原から、岩ばかりのゴツゴツとした所に変わってきた。

「ここは…………モンスターの討伐でもないと…………ほとんど人が来ない所です…………」

「なるほど………道理で荒れてーーおっと、早速歓迎か」

呟き剣を抜く。

目の前には蠍のような尾が特徴のモンスターと、猪のようなモンスターが僕たちの行く手を阻んでいた。

その数は両方合わせて10ぐらいだ。

「さて、じゃあ軽く準備運動しますか」

「じゅ、準備運動って数じゃないですよ…………!?」

カノンの声を背に受けつつ、一番手前の蠍型に接近しまずは一撃。

ザシュッと甲殻を斬り裂き、刃が食い込むがそれ以上進まない。

「あれ?意外に固い」

「そのファランクスはそこそこ固い甲殻が特徴だよ!

中級冒険者じゃ傷一つつけられないぐらい!」

「それ、そこそこってレベルじゃないっての…………!」

ウサリィの解説に毒づき、剣にさらに力を込めて何とか両断する。

同時に他の蠍型が尾を振り回し、先端の針を突き刺そうとしてきた。

「気を付けて!

それ、毒があるから!」

「だから早く言えっての!」

針に触れないよう、尾の部分に剣を当て弾き返し、返す刀で尾を斬り飛ばす。

「ギイイイイィイィイ!」

蠍型のあげる悲鳴を聞きながら、頭に剣を突き刺す。

蠍型が崩れ落ちる、これであと7体。

その時、ドドドドドドド!と、地を震わせながら何かが僕に接近してきた。

「クロミネさん…………!」

カノンの声とほぼ同時に、猪型が土煙をあげながら僕に突進してきた。

数は…………三体か。

「ウサリィ!

こいつは何か情報ある!?」

「えーと、そのアースボアは………突進攻撃が超強力だよ!」

「見れば分かるんだけど!?」

「あとめっちゃタフ!」

「つまり弱点らしい弱点はないってことだね!」

こんな危険な奴等が街の近くに住み着いてて良いのか?

僕は三体の突進を避け、一体の後ろから剣を2、3回振るうが、毛ほどのダメージしか負ってないようだ。

「ならーーーこれでどうだ!」

僕は突進をやめ、こちらに向き直ろうとしている猪に接近し、その顔に蹴りを入れて飛び上がった。

「…………つうっ!

かったいな本当に!」

蹴りを入れた足が若干痺れながらも、空中で剣を構える。

「閃華!」

空中から加速をつけ、猪型の頭に剣を突き刺す。

「ブモオオオ…………」

猪型が力なく項垂れ、その体が消える。

これであと猪型は2体になった。

蠍型はまだ7体もいるが。

「骨が折れるなこれは………」

「クロミネ!助けてーー!」

悲鳴が聞こえ顔を向けると、ウサリィとカノンがそれぞれ二体ずつの蠍型に追いかけられている。

すぐにでも助けに行きたいが、まだ僕の前にも猪型が二体と、蠍型が三体立ち塞がっている。

「しょうがない…………」

ここなら街からも見えないだろう。

俺はそう判断し、剣を掲げた。

「炎龍の息吹よ!」

剣を振り下ろすと、ゴオッ!と音を立てて炎が現れ、目の前にいたモンスターを呑み込む。

炎が消えると、目の前にいたモンスター達も跡形もなくなっていた。

「も、もう無理ぃ~~~!」

「今から助けに行くから待ってろ!

風龍の加護を!」

加速した勢いのままウサリィの元へ行き、後ろから一匹の尾を切断する。

「ギイイイ!?」

何が起こったかを理解させないまま、続けて頭を真っ二つにする。

「く、クロミネ~。

助かったよ~」

「お礼は後で!」

もう一匹も剣に炎を纏わせて両断し、今度はカノンを探す。

「どこに行った…………?」

「あそこあそこ!」

ウサリィが指差す方を見ると、カノンは後ろを大きい岩に、前はモンスター二体に挟まれていた。

「って絶体絶命じゃねえか!」

全力で走るがすでに一匹が尾で突き刺そうとしている。

間に合わないーーー!?

「カノン!何とかしのげーーー」

カノンにそう叫んだ俺は直後、信じられない光景を目にする。

カノンが突き出された針を、紙一重で避け、さらに両手に持った小太刀の一本を伸びた尾に滑らせる。

ザシュッ!と音がして、切られた尾が地面に落ちた。

「ギイイィィィッ!?」

「…………カノン、やるじゃないか」

尾の勢いを殺さず、逆にその勢いを利用して尾を断ち切るなんて、中々できることじゃない。

カノンのあれはただの謙遜で、本当は凄い実力を持ってるんじゃないか…………?

「はあ!」

カノンは態勢を立て直す暇を与えず、続けてモンスターに追撃をーー

ガッ

「あっ!?」

しようとしたところで、下にあった石に躓き転んでしまった。

「あう……………またやっちゃった…………」

「カノン!上!上!」

頭をさするカノンに態勢を立て直したモンスターが、怒りのままハサミを振り上げ叩きつけようとする。

ウサリィの警告にカノンが気づいて慌てて起き上がろうとするが、もうモンスターはハサミを振り下ろしていた。

迫るハサミにカノンが目を瞑る。

「させるか!」

ガキンッ!

が間一髪、間に合った俺がそのハサミを受け止めていた。

「氷龍の加護を!」

剣に魔法を付加すると、触れているハサミからモンスターの体が徐々に凍りついていく。

「ギイイイッ……………!?」

断末魔を響かせながら、モンスターが完全に凍りついたのを確認し剣を離す。

「大丈夫かカノン?」

「く、クロミネさん…………すみません…………」

カノンは申し訳なさそうな、泣きそうな顔で謝る。

「クロミネ、後ろー!」

「分かってる、よ!」

振り向き様、剣を一閃。

後ろから攻撃しようとしていた蠍型は顔を斬り裂かれ、斬られた場所から炎が身を包み消え去った。

「ふう…………ウォーミングアップには、ちょっとキツかったかな」

僕は剣を納め、カノンの方に向く。

「立てる?」

「は、はい…………すみません……………」

カノンの手を引いて立ち上がらせ、体をざっと見てみるも特に怪我をした様子がなくて一先ず安心する。

「カノン、さっきの凄かったね!」

安全になったのを確認し、ウサリィがそう言いながら寄ってきた。

「いえ……………私はまだ、未熟です……………さっきも失敗しましたし…………」

だがウサリィの興奮とは逆に、カノンは落ち込んだ顔でそう言った。

見たところ、実力は高いのにギルドじゃ下っぱって言うのは…………やっぱりさっきのが原因なんだろうなぁ…………。

カノンの落ち込みようにウサリィは「う」と、一瞬言葉を詰まらせるもフォローする。

「で、でもあんなことはそうそうできることじゃないよ!

ね、クロミネ!」

「あ、ああ。うん、その通りだよ」

「ほ、ほら!クロミネもこう言ってるし!」

二人でフォローするもカノンの顔は晴れなかった。

恐らく長年、抱えてきた悩みなんだろうな…………僕らの言葉だけじゃ、どうしようもないか。

「とにかく今は、依頼に集中しよう。

もうすぐでポイントだから」

地図によると、ここを少し行ったところで例のSS級モンスターとやらが出没したらしい。

僕の言葉に気持ちを切り換えたのか、カノンは頷き僕の後ろを付いてくる。

「それにしてもSS級モンスターって、普通はこんな街の近くじゃ滅多に見ないんだけどなぁ」

「やっぱりそうなの?」

「当たり前じゃん。

普通は人が滅多に立ち入らないような奥地にいるのが普通なんだから」

「……………街の近くにいたら、総力をあげて討伐するぐらいですから…………」

それがヘルケロベロスを含めて、この短期間に二体いるかもしれない、と。

誰かが引き寄せてるんじゃないかってぐらい、何というか運がない。

「もしいたらよろしくねクロミネ」

「あのね、言っとくけどこの間のあの犬っころも結構苦戦したんだからね?」

「苦戦で済ませれるんだから良いじゃない。

普通は生きるか死ぬかの戦いなんだから」

「他人事だと思って…………」

苦戦だって一歩間違えれば生死に関わるんだが。

この妖精に言っても無駄なのは分かってるので、ため息をつくだけに留めておく。

「さて、ついたけど………何もないね」

そうこう話してる内に目標の場所についたが、SS級どころか、モンスターの影も形もない。

「ほら、やっぱり嘘だったんだよー」

「いや、でも嘘ならお金は渡さないだろ?」

「むむ、確かに」

「今は……………いないのでしょうか…………?」

カノンの言う通り、移動した可能性もあるし、もう少し探してみようか。

そう思って歩き出そうとすると、不意に何か黄色い霧のようなものが一瞬、目に入ったような気がした。

「なんだ今のーー?」

この世界特有の気象現象かもしれないと思い、ウサリィ達に聞こうとすると

「ぎゃははは!

まんまとカモが来たぜぇ!」

「っ!?誰…………だ………?」

突然聞こえてきた声に振り向こうとするが、急に体から力が抜け僕はドサッと倒れ込んだ。

「あ………れ?

力が…………」

「動け…………ない…………」

ウサリィとカノンも続けて倒れ、これが人為的なものだと気付く。

「おい、見ろよ。

妖精もいるぜ!」

「獣人の女もだ!

今日は久々に大物だな!」

そして周りからは岩の影に潜んでいたのか、十数人の武装した男たちが次々と現れ僕たちを取り囲む。

「ざーんねん!

モンスターはここにはいねえよ、代わりに俺たちがいるけどなあ!」

「お前たちは…………?」

「まだ気づいてないのか?

依頼の話は嘘だ。

お前たちのような冒険者を誘き寄せるためにでっち上げたんだよ」

一人のリーダー格のような男がニヤニヤと笑いながら言う。

「まさか…………騙したのか………?」

「その通り。

依頼の話で冒険者を釣って、人気のないここまで誘い込み、あとは俺の固有魔法“パライズミスト”で、体を麻痺させたってわけだ。

前金渡して信用させりゃ、あとは幾らでも回収できるしな。

いやあ、ありがとうよ勇気ある冒険者よ。

これでまた当分、金に困らなくてすむぜぇ!」

ぎゃはは!と男たちは笑い声をあげる。

「あの男も…………グルだったのか…………?」

「その通り。

ま、土産はここまでで良いだろう。

おい、妖精とその女は傷つけるなよ、大事な商品だ」

「頭、この男はどうします?

さっきの戦いを見ましたが、結構腕が立つみたいですけど」

「バカ野郎、野郎はいらねえよ。

身ぐるみ剥いで、手足縛ってから転がしとけ。

あとは魔物どもが処理してくれる」

「へーい」

僕の方へ男が数人、ロープを手に近づいてくる。

「どうだ?命乞いでもするか?

そしたら、ロープ少しぐらいは緩くしておいてやっても良いぜ」

男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら言い、その言葉に他の男達もぎゃはは!と笑い声をあげる。

それに対して僕はーー

「いや、べらべら喋ってくれてありがとう」

と、お礼で返し、スッと立ち上がった。

「「「「……………は?」」」」

さっきまで余裕顔で僕たちを見ていた男たちは、ポカンとした間抜け顔で僕を見る。

「な、なんで……………?

俺の麻痺は普通なら十分間は動けないはず…………」

「残念ながら僕は普通の人間とは違ってね。

大抵の毒なら、食らった直後に無力化できる。

倒れたふりをして、話を聞きたかったんだけど、予想外にペラペラと喋ってくれたね」

もちろん、これも龍の力の恩恵だが、こいつらに言う義理はない。

「そ、そんなバカな!

き、効きが悪かっただけだ!

パライズポイズン!」

男が叫ぶと、黄色い霧のようなものが周囲に現れ僕を取り囲む。

なるほど、さっきの霧はこれか。

「今度はさっきより濃度を上げてやった!

中型の魔物でも一瞬で動けなくなるぐらいだ、ひとたまりもーー」

「これがどうしたって?」

今度は倒れすらせず、平然と立っている僕を見て、男たちは顔をひきつらせた。

「ど、どうしやすお頭!?」

「う、う、狼狽えるな!

毒は無力化できても、この人数差だ、一斉にかかればーー」

ドカバキゴスメシャッ

「ーーーーー(パクパク)」

瞬く間に半分に減った味方を見て、開いた口のまま言葉が出ないリーダー。

「この人数差なら?」

「や、やっちまえええええ!!」

自棄になったリーダーの号令に突撃してくる男たち。

「雷龍の咆哮よ!」

バチィッ!!

魔法を発動し周囲に雷撃を走らせる。

倒れているカノンとウサリィを除き、立っていた男たちは雷撃に当たって次々と倒れていく。

「く、くそ!」

形勢不利と見るや、男は倒れた仲間を見捨てて脱兎のごとく逃げ出そうとするが、その前に男の前に回り込み、剣を頭に振り下ろす。

ゴッと音がして、男は気絶した。

「薄々予想はしてたけど、やっぱりこうなったか」

剣を納め、倒れているウサリィとカノンの元へ行く。

「クロミネ~…………助けて~…………」

「いや、ごめん。

自分の毒は無力化できるけど、他人の毒は無理なんだ」

「えっ!?じゃあ…………どうするの?」

「動けるようになるまで、ここで待つか僕が二人を抱えて街まで戻るか、だけど…………」

「……………また捕まるんじゃない?」

「だからここで毒が切れるまで待とうと思う。

カノンもそれで良い?」

「…………はい…………すみません…………」

「いや、謝るのは僕の方だって」

「そうだよ!

だから受けるのはやめた方が良いって言ったじゃん!」

「まあまあ、おかげでこいつらも捕らえることができたし、新たな被害者が生まれなくなって良かった…………ってことで勘弁してくれない?」

「もう……………それは良いけど、私たちにまで隠さなくても良いじゃん。

本当に怖かったんだから…………今度こそもう売られちゃうって」

「私も……………怖かった………です…………」

「う、それは悪かった、この通り、ごめん」

僕は二人に頭を下げた。

監視を警戒して二人には話さなかったのだが、二人に怖い思いをさせたのは事実だし、許されることではない。

幸い、すぐに二人とも許してくれたので、話は当然こいつらの処遇になる。

「あ、段々痺れが取れてきた…………で、こいつらどうするの?」

「もちろん警察…………いや、憲兵だっけ?に突き出すけど」

「どうやって運ぶの?」

ウサリィの言葉にそういえばこんだけいるんだよな、と人数を思い出しうんざりしてくる。

もちろん、万が一を考えて僕が運ぶが、そうなると何往復もしないといけない、せんないことこの上ない。

「あの…………私たちが憲兵さんを呼んできましょうか…………?」

「うーん…………そうだね、見張りもいるしそうしてもらえると助かるけど………良い?」

「はい」

結果、憲兵にここに来てもらうことになった。

「そういえば、こいつが言ってたその、固有魔法?ってなに?」

「えっ!?」

さっき男が出した言葉が気になってたので聞いてみると、ウサリィに信じられないものを見るような顔をされた。

「クロミネ、固有魔法知らないの!?」

「あ、ああ。

そんなに知らないとおかしいのか?」

「固有魔法って常識なんだけど……………というか、私は龍の力が固有魔法か、固有特技かのどっちかと思ってた」

固有特技、また聞いたことがない言葉が出てきた。

「クロミネって本当にどこに住んでたの?

固有魔法を知らないって相当な辺境じゃないとあり得ないと思うんだけど」

「……………それは」

僕は本当のことを言うべきかどうか迷った。

本当のこととは、僕がこの世界の住人ではない、ということだ。

二人がどういう反応をするか分からない、だがこの二人なら受け入れてくれる、という信頼もあり僕は口を開いた。

「ウサリィ、カノン。

実は二人にまだ伝えてないことがあるんだ」

「な、なに?改まって?」

「……………な、何でしょう?」

僕の緊張した顔が伝わったのか、二人にも緊張が漂う。

「実は…………僕はこの世界の住人じゃないんだ」

「え?それって、どういうーー」

「僕はこの世界とは別の世界から来たーー異世界人なんだ」

「「……………」」

二人は僕の言葉に何も返さない。

黙って二人の返答を待っていると、ウサリィが口を開く。

「へー、そうなんだ?」

「………………へ?」

予想外に軽い返答にこっちが逆に驚いてしまった。

「そ、それだけ?」

「何が?」

「いや、僕異世界人…………」

「驚きはしたけど、神様と知り合いって時点でそういうこともあるかーって、思ったけど」

「わ、私も……………」

「………………」

何かそれはそれで、あいつに負けたようで微妙に悔しい気がする。

「でもそっかー。

だからクロミネは固有魔法も知らないんだね」

「う、うん。

だからその固有魔法?とか、この世界のことを教えてくれたら嬉しいなーと………」

「良いよー」

「私なんかで良ければ…………」

二人は痺れも取れたのか、立ち上がりながらそう言う。

「でもクロミネ、魔法には驚かなかったよね?

クロミネの世界にも魔法があるの?」

「ま、まあ」

「私、それならクロミネの世界のことも聞きたいな!」

「私にも…………聞かせてください」

ウサリィとカノンが話をせがむ子供のような目で僕を見る。

「ま、まあその前にこいつら、引き渡そうか」

「あ、そうだった。

じゃあ、私行ってくるね~」

「私も…………行きます………」

カノンとウサリィが街の方へ行くのを見送る。

異世界人であることを気にしてくれないのはもちろん嬉しい、嬉しいが……………

「あまりにも呆気なさ過ぎると…………今まで話さなかったのがバカらしく思えるなぁ…………」

そう呟き、今までの自分を思い出し、苦笑するのだった。

ーーーーーENDーーーーー


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