8 裏
話の最後ら辺に書いてたもう一人の主人公の物語が思ったより長くなったので分けました
「ねえねえ、クロミネの探してるクレアってどんな人なの?」
引き続きクレアを探して歩いていると、不意にウサリィがそう聞いてきた。
「クレア?うーん、そうだな………一言で言うと………」
僕は一拍置いてクレアの特徴を並び立てる。
「バカで天然で子供っぽくてそのくせ妙なプライドがあって、おまけに大食いで三食おやつにしても良いとか豪語するバカが付くほどの甘味好きってとこかなー」
「…………あの、私が聞いてるのは外見のつもりで言ったんだけど。
しかもすごいボロクソだね」
なんだ、外見を聞きたかったのか。
「あいつは見た目は目立つぞ。
まず髪が長くておまけに真っ白なんだ。
髪に漂白剤かけたの?ってぐらいの驚きの白さ」
「へー、実際に見たら綺麗なんだろうなぁ」
「で、背は低め。
本人曰く「まだ成長期なんです!」とか言ってるけど、もう数年間一センチも伸びてないからとっくに止まってると思う」
「何か私の思ってたイメージと違うなぁ………」
「まあでもあいつ見てくれは良いよ、うん。
見てくれはな」
初めて会った時も、将来美人になるなと思ったが、今は想像の斜め上を行く勢いで綺麗になっている。
そこだけは素直にそう思える。
「まあその分、中身はさっきの通り残念すぎるけど」
天は二物を与えないと言うが、まさにその通りだと思う。
「あとそうだな、見た目としては目も特徴的かな」
「目?」
「うん、あいつの目はルビーみたいな綺麗な紅い色をしてるんだ」
「ふーん?ルビーって人間たちが身に付けてる宝石のことだよね?
宝石みたいに綺麗ってこと?」
「そうそう。
まあ本人に言うと調子づくから面と向かって言ったことはないけどね」
ただ単に面と向かって言うのは恥ずかしいというのもある。
「ねえねえ、他には何かないの?」
「他?そうだな………強いて言えば………」
俺はクレアを表す言葉を他に探す。
「あ、そうそう。
あいつ神様なんだよ、大抵初対面の人には信じられなくて涙目になるんだけど」
ふと思い出したことをサラッと言う。
「ふーん………神さ………えええええええええっ!?」
ウサリィはこちらの期待以上の反応を見せてくれた。
「か、神様ってどう言うことなのっ!?」
「そのままの意味だよ。
クレアは実は神龍で、複数の異世界を管理してる管理人なんだ」
まあ最もその仕事を任されるようになったのはつい最近なので、他の神様からすると就職したての大学生みたいな扱いらしいが。
「ふえ~…………ちょっと待って、神龍ってことはもしかして龍たちの神様なの?」
「うん、そうだけど」
「えっ~~~~~!?」
ウサリィが本日二度目の驚きの声をあげる。
「ちょ、ちょっと待って!
さっき聞いた話からは想像もつかないんだけど!」
「残念ながらどっちも事実なんだよなぁ」
「龍って言ったら、この世界ではトップクラスの上位存在だよ?
その龍たちの神様って言ったらもっとこう………神々しいのを想像してたんだけど」
「少なくともあいつの普段の振る舞いからは神々しさの欠片もないね」
「そ、そこまで言われる神様って…………逆にますます興味湧いてきたよ」
ウサリィは目を皿のようにしてクレアを探し始めた。
会ってもたぶんガッカリするか、あまりのダメ神っぷりに呆れるだけとは思ったが、気合い入れて探してくれるなら良いや、と思い自分もクレアを探す。
「むむ~見つからないよー。
もうこの街を出ちゃったんじゃないの?」
「それはないと思う。
まだこの街に来たばっかりだろうし、街の散策でもしてるんじゃないかな?」
半分そうであってほしいという願いを込めつつ言う。
流石に他の街にまで行っていたら探しようがない、あまり特定の人物を何度も聞いて回ってるとストーカー扱いされるだけならまだしも、あいつの容姿だとさらにロリコンの称号もつく可能性もある。
「まあその時はその時で何とかしようか。
そろそろお腹も空いてきたし、ご飯にしようか?」
「わーい、ごっ飯、ごっ飯♪」
どうしようか………そこら辺で屋台みたいにして売ってあるのを買って食べても良いし、何軒か見かけた食堂に入っても良いし………。
と、悩みながら歩いていると
「………………」
少し先の食堂の前で突っ立っている女の子が何やら悩ましげな顔で自分の持っている袋と食堂の扉を交互に見ている。
「ねえねえ、クロミネ。
あの子どうしたの?」
「さあ?」
見たところ食堂に入ろうとしてるみたいだけど。
ピンクの髪を肩まで伸ばした女の子は、数分間悩んでいたようだが
「おっ?」
女の子が意を決したような顔をして食堂の扉に手をかけーーーその手を離す。
しかし諦めたわけではないようで、またすぐ扉に手をかけーーー離す。
しかしそれでもまたーーー
「さっさと入れ!」
「ちょ、クロミネ!?」
女の子のところまで走り、その手を取る。
「あっ……………」
そしてそのまま、扉を開け女の子の手を引いたまま、食堂へと入る。
「いらっしゃーい、何名様で?」
「三人だ」
「え、あーもしかしてその妖精も数に入ってる?」
「そうだけど。何か悪い?」
「………まあ良いや、適当に空いてるところに座ってくれ」
応対した男の話を適当に聞きつつ、空いたテーブルに座る。
女の子もおずおず、といった感じで椅子に座った。
「じゃあ注文が決まったら呼んでくれ」
男は水を持ってきて三人分置くとそう言って忙しそうに他のテーブルに戻っていった。
「……………」
女の子は黙ったまま、僕をジッと見ている。
「ちょっとちょっとどうすんのよ。
明らかに不振がってるわよあの子」
「いや………つい、知り合いと被ってイライラして、な」
クレアも小心者だからか、優柔不断なところが多々あるから、それにこの子が被ってしまい、つい引っ張ってしまった。
などと冷静に思ってみると、僕のこの行動は犯罪に相当するのではなかろうか。
いやいや、落ち着いて自分の状況を整理しよう。
店の前で彷徨いてた女の子の
手を掴まえて引っ張り
店内に連れ込んだ。
「……………」
「…………クロミネ、ロリコンは犯罪だよ?」
「待て、今僕口に出してないぞ」
「そこはほら、妖精ですから。
心を読んだりとかもできちゃったり?」
「え、初耳なんだけど!?
疑問系だけど本当なの嘘なの!?」
「それより何か頼まないの?
ご飯食べに来たんでしょ?」
「ちょ、目をそらさないで!?」
そんなやり取りをウサリィとしてると
「…………ふふ………」
女の子が思わず、といった様子で口を押さえて笑っていた。
「あは、笑った笑った~。
ねえねえ、私ウサリィって言うの、あなたのお名前は?」
「えと………その……か、カノン………です………」
笑ったことで緊張も幾分かほどけたのか、カノンはペコリ、と自己紹介をする。
改めて見てみると結構可愛い子だ。
華奢な体や、子犬みたいな瞳もそうだし、頭の上から生えた耳も………耳?
「えええっ!?
み、耳が生えてる!?」
「ど、どうしたのクロミネ!?」
「だってほら、頭の上に犬耳!?」
僕がビシッ!と指差した先には二つの犬耳がピョコンと生えていた。
「え、それの何が珍しいの?
犬型の獣人ってだけだよ?」
「………あの、し、尻尾も………生えて、ます………」
「え!?ほ、ほんとだ!」
「きゃっ!?」
後ろに回り込むと、確かにふさふさの尻尾があった。
「あの…………その、あまり……見ないで………ください………」
「え、あ、ゴメン!
そんなつもりじゃなかったから!」
カノンに顔を真っ赤にされながら言われ、慌てて席に戻る。
「クロミネの変態ーー。
あ、おじさん、私この蜂蜜ジュースね!」
「待って、わざとじゃないから変態認定とロリコンの称号はやめて!
おじさん、僕は魚の香草蒸しで」
「………いえ、その………だ、大丈夫ですから…………」
カノンはそう言ったきり黙り込んだ。
「ええと、カノン?
ご飯は頼まないのか?」
「えっと…………」
一瞬、お腹が空いてないのか、と思ったが店の前でうろうろしてたのを見ると、そうではないだろう。
僕ははあ、と溜め息をついておじさんに顔を向ける。
「何かこの店のおすすめを」
「はい、分かりました」
おじさんはそう言うと厨房へ行った。
「それにしてもクロミネがそこまで驚くなんて。
私の幻術はちっとも驚かなかったくせに」
「いや、化け物とか、怪物とかは見慣れてるけど、いわゆる亜人ってのは僕は見たことないから」
「じゃあ何で私には驚かなかったの?」
「いや…………」
どうしよう、小さすぎてインパクトが薄かったとか言ったら怒るだろうか。
最初は虫かと思ったとか。
「……………何か私にとって不名誉なことを言われそうな気がしたから聞くのはやめておくよ」
「あ、ああ!それが良いようん」
ホッと一息ついたところで、おじさんが注文した物を持ってきた。
「はい、魚の香草蒸しと、蜂蜜ジュース、それと今日のおすすめのカタナサカナの塩焼き」
「え、なにその物騒な名前?」
耳慣れない言葉に聞き返すも、おじさんは聞こえなかったのかまた別のテーブルに向かった。
「クロミネ、カタナサカナ知らないの?
カタナサカナっていうのは、水の中を猛スピードで泳ぐ魚だよ。
刀みたいに細い体をしてるの」
「あ、刀みたいな形をしてるからカタナサカナって言うのか」
「んーそれも何だけど、その魚の体ってまるで刀みたいに鋭くて、スピードと相まって触れるものを切り裂いて行くからその名前がついたらしいよ。
良い個体だと石も切り裂くんだって」
「…………嫌な方の予想が当たっちゃったよ」
「…………でも、身はすごく………美味しいんです………よ」
カノンが細々とした声で付け足す。
「じゃあそれでも問題ないんだね?」
「………はい」
「それじゃ頂きまーす」
「頂きます」
「い、頂きます…………」
三人で合掌し、料理を口に運ぶ。
異世界での料理はこれが初めてだが、問題なく口に合うようだ。
ちなみに森にいた時の食事は、料理というか半ばサバイバルに近かったから除外する。
三人ともお腹が空いていたこともあり、あっという間に食べ終わり食後のお茶(どんな茶葉が使われてるかは知らないが)をすすってのんびりしていると、カノンが「あの…………」と話しかけてきた。
「ん?どうした?」
「その、あり………がとう………ございます………。
………私だけだったら………たぶん、入れてなかった………と思います………」
つっかえつっかえながらも僕の顔を見てお礼を言うカノン。
「良いって良いって。
僕たちもちょうど飯をどこで食べるか迷ってたし」
「そうそう。
おかげで美味しい蜂蜜ジュースも飲めたし」
二人で気にすんな、と手を振るとカノンは少しだけ笑顔を見せた。
「さて、ご飯も食べたしそろそろ出ようか」
「うん、クレアを探さないとね」
「は、はい………その、本当にありがとう………ございました」
「だから気にしなくて良いって」
何度もお礼を言うカノンに苦笑しながら、財布を取り出そうとし…………固まる。
そういえば………僕、この世界の通貨って持ってたっけ…………?
「そういえばクロミネ………お金持ってないってさっき………」
「…………」
「あの…………どうしたんですか?」
カノンが冷や汗を顔一杯に浮かべている僕に首をかしげる。
「いや、その…………」
「もしかして………お財布を忘れてしまった………のですか?」
カノンの問いに答え辛くはあるが、頷く。
カノンは僕の返答に少し考え込んだ後
「じゃあ………その、私が払いましょうか………?」
「えっ!?」
と、自分の財布を掲げながら言った。
「おーカノン、太っ腹!」
「いやいや待って。
流石に二人分も払わせるのは悪いよ」
「いえ…………その、クロミネさんが…………後押ししてくれなかったら………きっと入れなかったから…………」
「いやでも…………」
そんな大したことはしてないのに対価がご飯代×2で良いのだろうか。
おまけに明らかに年下の女の子に奢ってもらうなんて………
「もう、迷ってる場合じゃないでしょ?
このままじゃ私たち、無銭飲食で牢屋行きなんだよ?
私はそのまま売りに出されるかもしれないんだよ?」
ウサリィが目の前でぐるぐる回って悩んでる場合じゃないとせっつく。
「あー、その、本当に良いの?
会って間もない僕たちに」
「はい。
クロミネさんたちは………悪い人にも………見えませんから」
「あー…………」
カノンの瞳に見つめられながら、なおも悩むがクレアを見つけるためには、牢屋に入れられるわけにいかないのも事実だ。
「じゃあ…………悪いけど頼んでも良い?」
「は、はい」
カノンはカウンターに向かって財布からお金を取り出す。
「やれやれ…………まさか来て早々年下の女の子に奢ってもらうことになるなんて………」
「なに言ってんの。
元はと言えば、クロミネがお金を忘れるからでしょ?」
「う…………お前に言われたくないけど確かにその通りだ………」
本当は忘れたわけでもなく、この世界の通貨を持ってないだけだが、僕のうっかりミスでもあるので、ウサリィの小言を黙って聞いていると、カノンが会計を済ませて戻ってきた。
「あの………終わりました」
「ごめん、ありがとう。
おかげで助かったよ、今度返すからね」
「え、い、いえ、良いです………よ?」
「いや、今は無理だけどいつか絶対に返すから。
借りっぱなしってのは悪いから」
「えと………その、ではまた今度に………」
「うん、また今度。
そうだ、君の住んでる家とか教えてもらったら助かるんだけど」
「ええと…………家は言えませんが、私ギルドに所属してるので………そちらに来てもらったら………」
「ギルド?
ああ、そういうのがあるのか。
どのギルドに入ってるの?」
「あの…………」
カノンが何か言いたそうにしてるので腰を下げて、耳を近づける。
するとカノンは背伸びをして僕の耳に顔を近づけぼそぼそと所属してるギルド名を告げる。
「………ギ……で………」
「え、そこに入ってるの?」
「はい」
カノンから意外なギルドの名前を告げられ驚く。
気弱そうな、この大人しい少女には似合わなさそうだけど………。
「で、ではまた今度………よ、良かったらまた………」
「ん?また、何?」
「い、いえ、何でもないです!」
カノンは慌てたように首をブンブンと振ると手を振りながら人混みに紛れていった。
「ふう………お金稼ぎもしないといけなくなったなぁ………」
「クロミネって本当に一文無しだったんだ。
てっきりあの時は奢りたくないから嘘ついてるかと思ってた」
「僕はそこまでケチに見えるか………?」
「と言うか、クロミネって今までどうやって暮らしてたの?」
「…………」
来たよ、聞かれて困るこの質問。
どう答えようか…………この世界の住人が異世界人にどういう反応をするか分からないからなぁ………。
「ん?どうしたの?」
「あー…………実は」
ウサリィに答えようとした時
『おい、ザルディー方面の街道に龍が出たらしいじゃないか』
『ああ、それで例のバカ息子が討伐隊を組んで、龍へ挑みに行ったらしいな』
近くでそんな話をしてる人たちがいた。
「龍?
へー、こんな街の近くに来るなんて珍しいね」
「龍…………?
そうだ、龍ならクレアのことが分かるかもしれない」
確か前にクレアが「龍たちは神である私の神気を感じとることができるんですよ」とか自慢げに語ってた気がする。
「でも何か不吉なこと言ってなかった?」
「討伐隊云々とか?
僕の覚えてる龍はそんなに易々とは倒せなかったはずだけど」
「うん、さっきも言ったけど龍はトップクラスの存在だから、普通は龍と交渉するか、撃退するぐらいがやっとなんだけど」
でも今の人たちは討伐、と言ったからにはその討伐隊の人たちには何か秘策があるんだろうか。
「ーーって、討伐ってマズイじゃん!?
クレアのことが聞けなくなっちゃうじゃないか!」
「そ、そうだよ!
急がないと!」
僕は急いでその龍の所に駆け出そうとして………ふと立ち止まる。
「ザルディー方面への街道って…………どこ?」
「……………」
龍の所に行く前に、街道について聞かなければならないようだ………。
ーーーーーENDーーーーー