魔王に滅ぼされた街
昔々あるところに、魔王がいました。
魔王はひと睨みするだけで人間を殺すことができる、とても恐ろしい力をもっていました。
ある日魔王は、人間を滅ぼそうと街にやってきました。
すると、街のレストランからとても美味しそうな匂いが漂ってきました。そこで魔王は、ひと仕事の前に食事を済ませることにしました。
川魚をハーブと一緒に焼いたもの、野菜のスープ、鹿の肉のシチュー、コックが運んできた料理はどれも大変素晴らしい味でした。
魔王はコックに向かって言いました。
「わしは魔王だ。これからこの街を滅ぼすが、お前の料理が食べられなくなるのはもったいない。お前だけは見逃して家来にしてやろう」
するとコックは言いました。
「魔王様、私が料理を作れるのは材料を売ってくれる食材店や、包丁を作ってくれる鍛冶屋がいるからなのです。彼らも見逃してもらわなければ、私は料理を作れません」
魔王はなるほどと頷きました。
それから魔王は食材店に行き、女主人を呼び出すと言いました。
「わしは魔王だ。これからこの街を滅ぼすが、お前がいないとコックが料理を作れなくなってしまう。お前も見逃して家来にしてやろう」
すると店主は言いました。
「魔王様、あたしが商売できるのは猟師や農夫から食材を仕入れてるからだよ。猟師や農夫を見逃してくれないと、あたしも商売出来っこないよ」
魔王はなるほどと頷きました。
次に魔王は鍛冶屋と猟師と農夫を訪ねましたが、彼らもみな他の誰かを見逃してくれないと自分の仕事ができないと主張しました。
それからも魔王は次々と人々を訪ねて回り、とうとう一人を除いて街中全員を家来にしてしまいました。
最後に残った男は街を荒らし回り、何人もの人を殺した犯罪者でした。魔王がひと睨みすると、男はあっという間に死んでしまいました。魔王は満足げに言いました。
「これでわしの家来以外、この街の人間をみんな滅ぼしてやったぞ」
街の人々は歓声を上げ、魔王を王様として迎えました。
魔王は家来たちに囲まれて、美味しい料理を食べながら日々を過ごしました。