鞄と煙草
窓から差し込む光を受けて僕は目を覚ました。
テレビの電源をつけ大きな伸びをする。机に突っ伏していたからか、僕の身体は針金のように硬くなっていた。そして体の暖まる感触を確かめながらテレビに目を向けた。
「本日も晴天なり」と言うニュースキャスター。
満面の笑みを浮かべた天気予報図が、僕をバカにするように賑やかに揺れている。
腹立ち紛れにテレビに向かって変な顔をしてみるもキャスターは相手にしてくれなかった。
今日の様子を慎ましく並べて満足そうな彼が礼を告げてニュースは終わる。
昔はテレビに映った人が天気を操っているんじゃないかって思っていたなぁと、懐かしむように僕は煙草に火を灯した。
僕は大人になったけど、世界は年老いた様子なんか微塵にも見せないで廻り続けているんだ。
お互い大変ですねと吐き出した煙は渦を巻くように世界と同化していく。
こうやっていろんなものを背負わされているのに、こいつは疲れることなく毎日を過ごしている。
きっと今日も明日も、何一つ狂うことのない日々を過ごしていくために。
僕も頑張らなきゃな。
そう自分に言い聞かせて僕は鞄を取る。
まとめた荷物が励ますようにガランと音をたてて笑う。
開いた扉から飛び込んできた燃え上がるような星の明かりが僕の気分を駆り立てる。
つけっぱなしだったテレビは言った
「太陽が落ちるまであと―」




