開花:3
いつも読んで頂きありがとうございます。
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今後もよろしくお願いいたします。
空が明るくなり始める頃、ハヤトはラタークの鍛冶屋の一室にいた。
昨晩、見知らぬ人を助け、クナイを一本回収しそこないクナイの補助をどうするか考えながらも、この町の道や建物の配置を全て把握する事が出来た。
文字を覚えたので、さっそく今日から店で働くことになっている。
朝食までの時間に仮眠を取るため、メイリアが起こしに来るまでベッドに入り目を瞑る。
メイリアによって起こされ、実際はすでに起きていたのだが、朝食を食べ終わるとカルシアとメイリアに連れられてハヤトは店の準備を手伝いに行く。
メイリアが準備をしている間にカルシアから仕事を教わる。
主にハンターが武器を買いに来るか、武器や包丁などを研ぐ依頼を受ける、それの受け渡しがハヤトの仕事になるようだ。
他には、鍛冶に使う素材が届いたら倉庫に運ぶというのもあるが、それはたなにしかないらしく届いた時にまた教えるそうだ。
ひとまずあらかた教わっり、なにかあればメイにきいてね。と言い残しカルシアは家に戻って行った。
残されたハヤトは準備も終わりカウンター席に座り相変わらず無表情のメイリアに視線を向ける。
「………なにか用?」
「いや。なにかする事がないかと思ってね」
「………ない」
「………はい」
それからは無言が続いた。早く客が来ないかなとハヤトが考えていると。
ガチャ
扉が開く音がしたのでハヤトは助かったと思いながら扉に顔を向けた。
「いらっしゃいませ」
ハヤトの声が店に響いた。
入って来た客は若い男性二人組で、鎧を着ていた為、ハンターなのだろうと予想した。
「へ〜こんな店が有ったんだな。俺様に合う剣はあるかな」
「へっへっへ。どうだろうな。またすぐぼろぼろにするんだから安物でよくねぇか」
そんな会話をしながら品定めをする二人組。俺様発言は金髪のいかにもチャラい男で、もう一人は茶髪のこちらもチャラい男だ。顔はそんなに悪くなく、普通にしてればモテるのだろうが、性格に難がありそうだ。
そのままカウンターの横に立ち位置を変えたハヤトは嫌味にならない程度に二人に視線を向けながら、様子を伺った。
「いや〜、マジないわ。この店にはいい剣はないのか?もっと格好よくて、ビーストどもをスパッと斬れる剣はよぉ」
「へっへっへ、そうだな。無いな。くそだなこの店は」
好き放題言う二人組に多少イラつきながらも、微塵も表情には出さなかった。横に目をやると普段通りに無表情なメイリアだったが、微かに怒りの雰囲気が漂っていた。
この時、ハヤトはメイリアは感情が少ない少女のイメージから、感情を出すのが苦手な少女に改めたのだった。
ちなみにビーストとは、ハンターが狩る獣の事でハンターはよくビーストと言う言葉を使うらしい。
二人組の客はカウンターに来るとハヤトを完全に視界から外して、メイリアに話しかけた。
「ねぇ、君はこの店の子?かわいいね。なんなら俺様の八人目の彼女にしてやってもいいぜ」
「……………いや」
「そんな照れんなよ。まぁいいや。ところで、この店で一番いい剣くれない。もちろんタダでな。
いいだろ。俺様が使った剣って事でこの店も有名になれんだから、それぐらい安いもんだろ」
確かに有名なハンターが愛用している武器を作ったとなれば、鍛冶屋も相応に有名になるのだが、この二人組の実力はハヤトが見る限りそこまで強くない。鎧も綺麗なものだが、実用的ではない。使うより飾った方がいいと思う一品だ。
恐らくは金持ちの子供か、もしくは何かで大金を手に入れて勘違いしたかのどちらかだろうと予想した。
相変わらず俺様男は一方的にメイリアに話しかけ、仲間の男もへらへらしながらたまに話に入っていた。
メイリアは明らかに嫌そうな顔をしていたが二人組は気が付かないのか、ハヤトもそろそろ見かねて助けに入る事にした。
「お客様申し訳ありませんが、お客様にふさわしい武器は当店にはございません。お引き取り願えますか」
突然話掛けてきたハヤトに明らかに不機嫌な顔をしたが、低姿勢なハヤトに再びニタリと笑顔に戻した。
「はっはっは。やはりこんな小さな店には俺様に合う武器はないか。それなら仕方ないな。俺様が強すぎるのが罪なんだな」
前髪をかきあげる俺様男。
はぁ〜、と一度心の中で溜め息を吐いたハヤトは、再び口を開いた。
「そうですね。お客様のような方(馬鹿)に合う武器はそうそうないのではと思います。当店にお客様に合う武器がないのは残念です。他の店に行かれればもしかしたらあるのではないでしょうか。」
そう言ったハヤトの言葉を聞いた俺様男は、機嫌を良くして笑いながら他の店に行く。と言いながら出て行った。
結果的に客を追い出してしまった事に気が付き、メイリアに視線をやると不機嫌な顔は既に元の無表情に戻っており、じっとこちらを見ていた。
「すみません。客を追い出す形になってしまいました」
「……いい。気にしないで。むしろ…………ありがとう」
まさかのお礼に驚いたハヤトだったが、
「お礼を言われる事はしてないですよ」
そして、沈黙が店の中を包み込んだ。しかし居心地の悪い沈黙では無く、暖かな沈黙だった。
そんな沈黙を破ったのはドアが開かれる音だった。
「たっだいま〜♪」
ドアを開けた人物は金髪のハルバートを背負った女性だった。
「………お帰り。お姉ちゃん」
「おっ、お姉ちゃん!!!」
ついにラターク家の最後の一人が登場です。
武器は悩んだのですが、ハルバートにしてみました。
次回に名前を出します。