序章:2
森を歩くハヤトの今の格好は茶色のシャツにゴワゴワの布製のズボンだ。腰には忍専用のウエストポーチを着けており、シャツでなんとか隠れている。そして肩から袋を下げている。おそらくこの辺りではこれが普通なのかなと着ているのだ。さすがに忍装束は夜以外は逆に目立つ為着れないのだ。
歩くこと1時間。森を無事に抜けることが出来た。そこは平原だった。少し先に道が見えたのでその道をたどれば必ず人に会えるとその道に向かい歩みを進める。
空が赤く染まり始めた頃、一台の馬車が後ろから来るのに気が付いた。道の端に寄り馬車の邪魔にならないように避ける。横を過ぎようとした馬車はハヤトの横でスピードを落とした。
「こんな所でどうしたんだい?」
馬車から声をかけられてハヤトは振り向いた。馬車には短い赤髪の30代ぐらいの男が手綱を握っていた。
「こんにちは。この辺りに詳しくないんですが、この道の先に町はあるんですか?」
ハヤトはそう男に答えた。
「おや?旅の人かい。この先にはマルマの町が有るよ。ただ歩きだと完全に日が暮れちまうよ。なんなら乗って行くかい?」
男は隣の席を叩きながらそう言った。
「そうなんですか。ならお言葉に甘えさせて頂きます」
ハヤトはゆっくりと男の隣に座った。すると馬車は再び速度を上げた。
それからお互い自己紹介をし、この男はゴウ・ラタークという名前なのがわかった。そしてマルマの町で鍛冶屋をしているらしい。そしてわかった事だが道を反対に進んでいれば1時間ぐらいでテユラの町が有ったらしい。
そしてここは地球では無いのだと判明した。ゴウの話では魔法があるらしく、魔法具と呼ばれる魔法を込め道具が普通に売り買いされているらしい。忍といえど学校には通っていたので友人からそういったファンタジーの話(ゲームや小説)を聞いた事があったので、異世界に来たとわかった時は意外とすんなり受け入れられた。
そして何より家族から解放された事はハヤトにとって嬉しい事だったのだ。もう兄に嫉妬も未練も無いしハヤトが消えたとしてもあの両親は気にしないとわかっていたので特に帰りたいとは思わず、来てしまったのでこのままこちらの世界で暮らしていくことを早々と決めたハヤトだった。
空が暗くなる少し前に馬車はマルマの町に着いた。
マルマの町は外出を8mぐらいの高い塀で囲われており、ここらでは3番目に大きな町らしい。 ちなみに1番は王都で2番にマルマの町から馬車で3日程の距離にある港町だ。
門には鎧を着た門番が4人立っており、町に入る人をチェックしていた。そしてハヤト達の番になり一人の門番が近づいて来た。
「身分証を出しなさい」
マズイ…と思ったハヤトだった。身分証を持っていないハヤトはどうしたものかと考えていた。普段ならすぐに臨機応変に対応するよう訓練されているのだが、しかしそれはある程度常識が有っての事。無知のハヤトには様々な考えが浮かびそして同じ数だけ却下していった。そんな時既に自分の身分証を見せ終えたゴウが助け船を出してくれた。
「どうしたハヤト。身分証を無くしたのか?なら金は掛かるがこの町で発行して貰えばいい。…とりあえず今は仮の身分証を発行して貰え。門番、こいつの仮身分証を発行してもらえるか?」
「あぁわかった。なら馬車を降りて着いてこい。指名手配されてないか確認次第発行する手続きをする」
馬車を門の横に止め、門番に着いて行く。着いたのは小さな部屋で、机と椅子と鉄の板のような物が机の上に置いてあった。
「この板の上に手を乗せろ」
言われるまま手を乗せたハヤト。そしてすぐにどけていいと言われ、手を戻すと板を操作しだした。タッチパネルか?と思いながら待つこと1分で操作は終わったらしく顔をこちらに向けて来た。
「指名手配はないようだ。では手続きに入る。名前と種族は?あと年齢もだ」
「ハヤト・ソガです。種族は人間です。19歳です」
それを聞き再び操作をする門番。操作が終わると板にカードサイズの板を乗せた。すると一度白く光ると門番はそのカードを渡してきた。
「これが仮の身分証だ。期限は1週間だ。その間に町の中央にある役所で本登録して来い。そうすれば出身地がマルマの町になるが身分証が貰える。あと銀貨1枚必要だから忘れるなよ」
わかったと返事をしてハヤトはカードを受け取り部屋を出た。
部屋を出るとゴウが待っていた。
「ゴウさん待っててくれたんですか。ありがとうございます」
「気にするな。これも何かの縁って事だよ」
笑顔でそう言ったゴウはかっこ良く見えた。
無事に町に入る事が出来たハヤトはなぜかゴウに着いて来るよう言われ一緒に馬車に揺られている。
そして着いたのは一軒の鍛冶屋だった。