序章:1
朝日が街を照らす。鳥のさえずる声が聞こえてくる。朝の7時頃にも関わらず街はすでに人々は動き始めていた。
この世界は朝が早いのだ。その代わり夜も早いのだが…
そんな賑わい始めた街の中に一件の鍛冶屋の一室に彼はいる。曽我ハヤト、異世界に訳も分からず飛ばされた人間であり、この鍛冶屋に居候している身だ。
なぜ居候しているのかというと、ハヤトがこちらの世界に飛ばされた日…1ヶ月前に戻る。
≪1ヶ月前≫
意識を失ったハヤトが目を覚ましたのはビルが建ち並ぶ都会では無く、周り一面木々が生えている森の中だった。
どこだここ?と思いつつ周りを見回し、記憶にないか確かめる。しかし現在いる場所に関する記憶は無く、生えている草に見覚えの無い物が多数有った。
その一つを観察していると何者かが近づいてくる気配がしたので、すぐさま近くの木の枝に飛び乗り気配を消す。その枝の高さは5〜6mぐらいだろうか、ハヤトにとって…いや忍にとってはその程度の高さへの跳躍は軽いものだ。
待っていると10人の男達が姿を表した。服は薄汚れた茶色をしており、あまり出来のいい服ではなかった。そして彼らの手には剣や槍が握られており、山賊又は盗賊ではないかと予想を立てたハヤトだった。
男達はハヤトには気付かずそのまま通り過ぎて行く。ハヤトも枝から枝へと飛びうつりながら追いかける。
上からの為見えにくかったが、彼らの顔は彫りが深く日本人の顔ではなかった。髪の色も黒はおらず赤や青といった地球には居ない髪をしていた。
そういった特殊な集団かと思い、とりあえずこの場所のヒントになるところへ案内してくれるのではと着いて行くのだった。
歩くこと30分程だろうか、洞窟が有りそこへ彼らは入って行った。
洞窟の入口の横には二人の男が立っており、おそらく見張りだろう。
入口が見える木の上で観察していると、見張りの一人が離れた。トイレだろう。そのチャンスをハヤトは見逃さなかった。
シュッ
ハヤトは枝の上から一瞬で消え、洞窟の横にある木に拾った石を当てる。見張りの男は音がした方へ歩いて行く。これにより見張りの居なくなった入口からハヤトは素早く入って行った。
洞窟の中は薄暗かった。壁には光る石が埋め込まれており、それによりなんとか視界が確保されていた。気配を消しながら奥へ進む。
すると奥から話し声が聞こえてきた。どうやら彼らはお酒を飲みながら騒いでいるようだ。
彼らのがいるのとは別の道をさらに進んで行き、二つの木のドアを見つけた。両方とも人の気配は無いため、まず一つ目のドアをゆっくり音がしないように開く。
そこはどうやら男たちが寝室に使っているのか毛布が多数散乱していた。特に他には無いようなのでもう一つのドアへ向かう。
ドアを開くとそこには色々な道具が置いてあった。剣や鎧、宝石やおそらくお金だろう見たことのない金貨が沢山あった。
とりあえず埋もれていた布袋を拝借し中に金貨をバレない程度に袋に入れた。宝石だと盗品の場合捌くのに大変な為、取らなかった。
他にもバレないよう物で隠れている物を探し、袋に入れて行く。ちゃんと見ないと何が減ったかわからない程度なのでバレないだろう。 そして最後に散乱している服から綺麗そうなのを一セット探し出し小さく丸めて袋に押し込んだ。これで一杯になった袋を肩から下げ部屋を出た。
入口には二人の見張りがおり、二人の首に手刀を落とし気絶させ無事外に出た。
なぜ入る際に気絶させなかったかというと、もし見張りの交代の際に気絶させていると侵入している事がバレかねないからだ。出てしまえば姿を見られなければ侵入したのか脱出したのかわからないのでその間に逃げればいい為だ。
森に再び入り盗ん…拝借した服に着替え着ていた忍装束を袋に仕舞い男達が歩いて来た方向へ歩いて行くのだった。
忍というより盗賊紛いの事をしてしまいました。