前哨戦
「フリッグ、なんだその物騒なものは?
どう見たって、やりすぎだぞ。」
そこにあるだけだっていうのに、膝をつきそうになるような圧倒的な力。
いや、この感覚は死に続けていると言ってもいい。
ミナとジンをこの場に連れてこなくて正解だったな。
いくら、相手がアリスだとは言えあれはやりすぎだということくらい素人でも・・・・
「これを使わざるを得ない状況だったんです。
実際これを使わなければ私は負けていましたよ。」
・・・・・おいおい、アリスはいったいどこまで強くなってるんだ?
フリッグの言い方だと、あれは全力か、あるいはそれに近いもののはずだ。
ということは、アリスの力は神に迫ってるってことか?
「だが、もう決着はついたんだろう?
さっさと、それをしまってくれ。」
「・・・・・・・・分かりました。」
フリッグはこれで大丈夫だとして、問題は
「いいの、お兄ちゃん?
この程度の怪我ならアリスは数日で回復する。
アリスがお兄ちゃんを諦めない以上、アリスが生きている以上、アリスは何度でも繰り返すよ?」
「分かってるさ。
だから、1つ提案がある。」
アリスとの力の差は正直測りきれない。
だが、それは神に迫る前も後も同じことだ。
2重3重の罠を張り、あらゆる枷をつけさせ、疲弊した状態ならば、万に1つは勝ちを拾えるかもしれない。
そして、万に1つを勝ち取るための策は組み立てた。
「俺がアリスを止めたら、しばらくおとなしくすること。
俺が負ければ、俺はアリスを受け入れる。」
「今のアリスはこんな状況だよ?
それにお姉ちゃんがそっちに付けばアリスに勝機はない。
そんな条件で受けると思う?」
「もちろん、フリッグは参加させない。
それに、今じゃなくても、アリスがある程度回復してからでもいい。」
流石に全開のアリスと戦って勝てるとは思わない。
あくまでも、ある程度疲弊してる状況での策だ。
アリスなら、用心を重ねて全快するまでまつだろうが
「お姉ちゃん、ちょっとだけ魔力を分けてもらっていい?」
「・・・・・・分かりました。」
「今やるつもりか?」
「もちろん。
だって、これはアリスが予想した通りの展開だよ。」
「なに?」
「よく考えてみてよ、アリスがお姉ちゃんに勝つなんて奇跡でも起こさない限り絶対に勝てないんだよ?
それなら、アリス自身を人質にお兄ちゃんをこの場に呼び出し、お兄ちゃん自身に戦わせる。
ふふっ、全部アリスの思惑通りだよ。」
「嘘だな。
アリスがそんな思惑を持っていたとしたら腑に落ちない点がある。」
「アリスに鎌をかけたって無駄だよ。
お兄ちゃんは詐欺師なんだもん。
今まで騙され続けてきたんだから、そう簡単には騙されないよ。」
失礼な、俺がいつアリスを騙したっていうんだ。
「レン、自覚がないんですか?」
「ぐ、ま、まぁ、そんなことはどうでもいい。
腑に落ちないん点っていうのは、明らかにやりすぎているってところだ。」
「何を言うかと思えば、相手はお姉ちゃんだよ?
最初から全力でいかないと「それじゃない」」
「俺が指しているのは、フリッグじゃなく俺だ。」
「っ、あんまり察しが良すぎると嫌われちゃうよ?」
どうやら、気付いたようだな。
まぁ、フリッグは分かっていないようだから説明してやるか。
「お前たちがいてくれればそれでいいさ。
話を戻すが、仮にアリスがこの状況を作るつもりなら、俺をあそこまで叩き潰す必要はないはずだ。
あそこから立ち上がれるかも分からない、仮に立ち上がったとしてもその時は迷いは振りきってる。
アリスが態々、俺に勝機を与えるようなことをするわけがない。
本当にアリスがこの状況を作るつもりだったのなら、俺を迷わせる程度にしておくはずだ。
俺がその状態なら、まともに思考も回らない上に、いざ対峙した状況で潰せばそれでアリスの勝ちだからな。」
まったく、あの短い時間に俺の戦意を削ぎに来るとは、末恐ろしいにも程がある。
だが、それでもアリスは俺の妹だ。
ここで負けやるわけにはいかない。
「ちなみに、俺はアリスが受けると予測してたぞ。
アリスは確かに天才だ。
だからこそ、相手がどう動いてくるか漠然とだが予測することができる。
だが、逆に予測できない相手には警戒を強めざるを得ない。
そして、今まで俺の近くにいながら予測できないことばかりやってきた俺に余計な時間は与えたくないはず。
それこそ、アリスの体力が回復するよりもな、だろう、アリス?」
「ここまで見透かされると、お姉ちゃんの力を借りてアリスの思考を読んでるじゃないかって思っちゃうよ。
お兄ちゃんの言うとおり、アリスが一番怖いって思えるのはお兄ちゃんだよ。
戦闘において最強なのはお姉ちゃんだけど、戦わなければ大した脅威じゃないからね。
だけど、お兄ちゃんは違う。
いつもアリスの予想を超える策略、有能で信頼できる人もいる。
だからこそ、余計な時間は与えたくないんだよ。
今なら、使える人材が限られて、選択の幅が狭く策が読みやすい。
それがたとえお兄ちゃんの思い通りに動いていたとしても、アリスは読み切って見せるよ。
そして、必ずお兄ちゃんを手に入れる。」
俺もフリッグとアリス、どちらかを敵に回すことになるならフリッグだろう。
最強とは言え、知性があり、良心があればそれを利用して戦わずに治める方法がないわけじゃない。
しかし、優れた頭脳と能力を持ち、自身の行動に絶対の自信を持つアリスが敵に回るとなると手を焼くどころじゃない。
それこそ、国が持つ力を総動員させてもアリスを捕まえることは至難を極めるだろう。
「その考え自体、俺の罠に嵌っている証拠だ。
もっとも、それも承知だろうがな。
だからこそ、アリスには読み切れないさ。」
「ふふっ、やっぱりお兄ちゃんはそうでないとね。
今度こそアリスに服従させてあげる。」
今回はちょっと短めでした。
次回はいよいよ、アリス編最終章!!
神に迫る力を持つアリスに対してレンは!?
次回『約束された勝利』
どうぞ、期待せずにお待ちください(^^)/~~~