敗者との約束
今俺はホームギルドを無事脱出し食材の買い出しに来ている。
ていうかこれからの職場となる場所から脱出という言葉を使わなければいけないことに絶望する。
それに、あのミナとかいう女がそう簡単に諦めてくれるとも思えないしな。
はぁ、早く平穏な日常を手に入れないと。
「レン、これおいしそうですよ。」
人の気も知らないではしゃぎやがって
「そういえば神って食事を取る必要はあるのか?」
「いえ、神は必要なエネルギーを自己生成しますから外から取り入れる必要はありません。
でも趣味娯楽でこっそり神界からおりて食べに行く神も少なくありませんよ。」
なるほど、神にも五感はあるらしい。
それにしても神って結構自由なんだな。
「お前って好きなものとかあるのか?」
「私はあんまり食事を取りませんでしたからそういうのはあんまりないです。」
好き嫌いがないことは素晴らしい。
家の義妹に見習わせたいくらいだ。
「それじゃあ適当に作るか。
お前も食べるんだろ?」
「はい!!」
こっちの食材は呼び方は違うが地球にあるものが多い。
この世界って言ったが俺がいるところは別の世界の惑星の1つだ。
そもそもこの世界に惑星という概念はあるのか?
重力が存在するということは地球のような惑星ということだ。
そして昼と夜が存在しているということは太陽が存在して惑星が回っている証拠だ。
まぁ、こんなこと考えても仕方ないか。
ここには空気があって人が暮らしていて食べ物があって社会がある、それだけで十分だろう。
「どうかしたんですか?」
「なんでもない。」
この幸せはいつまで続くんだろうか・・・・・
「ずっとです。」
side フリッグ
「ずっとです。」
この平穏な日常は必ず私が守ります。
そしてこの幸せを一生感じ取れるように私がレンを支え続けます。
「心を読むなといっただろう。」
「読んでませんよ。
でも、レンの顔を見たら分かります。」
いつか訪れるかもしれない喪失への恐怖を感じている無表情ながらもどこか怯えている表情。
「大丈夫です。
百年の間にレンを変えて見せます。」
「言ってろ。
俺は百年後まで変わりはしないし、それ以上生きるつもりもない。」
「それでは勝負ですね。
私がレンを変えられたら私の勝ち、レンが百年間変わらなかったらレンの勝ちです。」
「お前も物好きな奴だ。
どうして俺なんかのことをそこまで想えるか理解できないな。」
「いくらレンでも私の好きな人を卑下することは許しませんよ。」
レンは自分のことを過小評価しすぎてます。
常に先のことを考えて行動できる賢い人です。
だからこそ喪失への恐怖に気付いてしまったんでしょう。
「分かったよ。
とりあえず食材は買ったから帰るぞ。」
「はい♪」
それなら私はその恐怖に勝るぐらい私のことを好きになってもらいます。
そうなったらレンも永遠を信じてくれますよね。
side out
「遅かったわね。
お邪魔してるわよ。」
「こいつらを引っ張り出せ。」
「はい。」
「ちょっといきなり何すんのよ!!」
「黙れ不法侵入者、警察に突き出されないだけありがたく思え。」
「警察? なにそれ?」
どうして家の中までこいつと付き合わなければならないんだ。
家といったら安らぎの象徴だぞ。
そこで何が悲しくて爆弾を抱えなきければならないんだ。
「話しがあるのよ。」
「俺にはない、さっさと帰れ。」
どうせまた勧誘だろう。
何度来たって結果は同じだ。
「いいの?
私たち兄妹はこの街を治めている長の血縁よ。
この意味、あなたなら分かるわよね?」
厄介な。
つまり住む場所と仕事を人質というわけか。
これなら俺たちの戸籍のことを知っていてもおかしくはないか。
「お前こそこいつの力を知らない訳じゃないだろう。
そんなことをしてみろ街を人質に取るぞ。
それにこいつは俺の言うことは一部例外を除くと従うからな。」
「平穏な日常を愛するあなたにそんなことができるの?」
元からやる気はないがこいつに俺の甘さを知られたことはまずいな。
そこを突かれたら反撃が難しい。
「できないと思うか?
別に街すべてを人質にする必要はない。
この街を治めている連中を脅せばいくらお前が血縁だろうが問題ない。」
これで押し切れるか
「確かにそれなら私はどうしようもないけど、そんなことをしたら他の街から応援が来るわよ。
そうなれば一般人にもあなたたちのことが知られて平穏な日常は望めないわよね。」
やっぱりこいつ相手になるとこれで誤魔化せないか。
仕方ないこの手はあまり使いたくはないんだが
「それならお前たち兄妹を殺すだけだ。
それならお前たち2人の命で俺の平穏は保たれる。
こっちにはこいつがいるんだ。
完全犯罪なんて簡単にやれる。」
「無理ね。
あなたは甘いもの。
自分の都合の為に人を殺すなんてことできるわけない、そうでしょ、レン・カザミネ。」
ああ、確かにそうだよ。
だがそれで勝ったと思うなよ。
「確かにお前の言うとおりだよ。
だが、何度も言うがこっちにはこいつがいるんだ。
お前が俺たちと会ったという記憶を消せば問題ないよな。
それにお前の兄は俺たちを仲間にすることに乗り気じゃなかったみたいだしな。
そこにお前という人質を突き付ければあの兄はお前を俺たちから遠ざけるだろう。」
「あなたにそれができるの?」
「できないと思うか?」
side ミナ
「できないと思うか?」
予想以上だわ。
彼の甘さを突けば簡単に落ちると思ってたんだけどきついわね。
恐らく彼はさっき言ったことを実行できる。
多少の罪悪感は感じるだろうが所詮私1人、それもちょっとの間の記憶を奪うだけだ。
この街にも私にすらも何の支障も及ぼさない。
それに兄さんのことだ、そうなれば徹底的に私を彼から離そうとするだろう。
ならば
「勝負しない?」
side out
「勝負しない?」
諦めが悪いな。
そこまで俺たちが欲しいのか?
「断る。
そんなことを行うメリットが見えないからな。」
「あるわよ。
あなたが勝てば罪悪感を感じずに済むじゃない。」
「残念だがそれと仲間に入れられるとでは等価にはならない。
そっちが持ちかけてるんだ、少なくとも対等、あるいはこちらが得になるようにならないと勝負する必要はない。」
後はこいつから記憶を奪ってしまえば俺の勝ちだ。
「ぐすっ・・・・」
は?
side フリッグ
なんだか話について行きません。
さっきからお互い睨みあいながら口論を続けてます。
結局、レンの方が勝ったみたいですがよく分からないので凄いんでしょうが今いちすごいと思えないですね。
でも、これで私とレンの生活を邪魔することはないでしょう。
「ぐすっ・・・・・」
まずいです。
レンが女性の涙に弱いことは実体験を伴って実証済みです。
レン、どうか負けないで。
side ミナ
「ぐすっ・・・・・」
なによ、別にいいじゃない、ちょっと仲間になってってお願いしてるだけなのに。
やっと、これから面白くなるはずなのに。
それなのにどうして記憶を消されなきゃいけないのよ。
そりゃちょっと強引なところもあったかもしれないけど、そこまで言わなくてもいいでしょう。
「ひっく・・・・うぅ・・・・・。」
side out
「ひっく・・・・うぅ・・・・・。」
なぜお前が泣くんだ!!
こっちは公衆の前で襲われて、ようやく安心できると思ったら不法侵入されて、さらに権力にものを言わせて無理矢理引き込まれようとしたんだぞ。
むしろ俺が泣きたいわ!!
だから頼むから泣きやんでくれよ。
女の涙って本当に反則だろう。
「分かった。
勝負でも何でもしてやるからいますぐ泣き止め。」
はぁ、言ってしまった。
本当に自分の甘さ加減には心底嫌になる。
「絶対?」
「対等な条件下の勝負ならな。」
これくらいは許されるだろう。
こっちは受ける必要のないものを受けてやってるんだ。
対等どころかこっちが有利な条件で初めてもいいくらいだ。
「じゃあ、約束の指きり。」
こいつ幼児退行してないか?
この年で指きりとか恥ずかしすぎる。
「約束してくれないの?・・・・ぅ」
「分かったよ、その代わりお前が負けたらもう俺の前に現れるなよ。」
本当に指きりなんてもので約束を守るとでも思っているんだろうか。
「もう今日は帰れ。
勝負の内容についてはまた明日だ。」
今日はもう休みたい。
「うん。
あの、ありがとう。」
やっぱり駄目だな。
あの笑顔を見せられただけで全部許せてしまう。
本当に世界って不平等だなぁ。