軟禁
いつかやられるだろうとは思っていたが、ついに来たか・・・・・
簡単に今の状況を説明しよう。
ミズガルズから帰ってきた後、フリッグに呼ばれ部屋に行った瞬間、意識を奪われて部屋の中に閉じ込められた。
ドアはもちろん窓も開かないし壊れない、通信機も通じない。
つまり、外部と完全に隔離された軟禁状態だ。
監禁だじゃないだけまだ、救いがあるのかもしれない。
「あ、起きてたんですか。」
「ここから出せと言っても聞かないよな?」
「そのあたりの話はご飯を食べながらにしましょう。」
こんな行動に出るくらいだから相当きてるのかと思ったがやけに冷静だ。
それに、普通に調理をできたということは全員説得済みとみるべきか。
「で、どうして俺はこんな目に合ってるんだ?」
「私は前からずっと言ったことですよ?
レンは私以外を好きになっちゃいけないんです。
それなのに、最近はミナやアリスにばっかり構って私にはあんまり構ってくれないじゃないですか。
だから、閉じ込めたんです。」
相変わらず滅茶苦茶な言い分だし、なにが『だから』だ、意味が分からない。
「あ、もちろん襲ったりはしませんよ。
そういう約束で皆には許可をもらってるので。
もちろん、レンからなら大丈夫ですよ。」
とりあえず貞操の危機は免れているようだ。
そう長く閉じ込められるわけじゃないだろうから、これなら大丈夫か。
「それと、この部屋の時間の流れは外と比べると十分の一くらいですのでゆっくりできますよ。」
・・・・そうきたか。
十分の一ということここで10時間経って、外では1時間。
俺が部屋に閉じ込められて気を失った時がちょうど12時だったはず。
それから気を失っていた時間を5時間とすると、外は12時半くらいか。
どういう約束をしているか知らないが、少なくとも明日の朝には解放するはず。
つまり、残り18時間程度。
この部屋に換算すると180時間、7日と半日か・・・・
「1週間もレンと2人きりなんて幸せです。
いっぱい、いちゃいちゃしましょうね。」
冗談じゃない。
1週間もこいつ2人きりだと。
部屋だって特別広いというわけじゃないってのにこんなところに長くいたら気が狂って何をしてしまうか分かったもんじゃない。
さっさと説得して脱出しなければ。
「1週間と言ったが、その間の食事とかはどうするんだ?」
食事だけでなく風呂やトイレだってある。
不老不死の体も万能じゃないな。
「それについても心配りません。
ご飯は1週間分作って時間を止めた空間に保存してますから、食べたい時に取り出せば温かいまま食べられます。
お風呂やトイレなんかはそこの歪と繋げてます。」
最低限のことは考えてるようだな。
「なら「ストップです。」」
「レンにしゃべらせてるといつの間にか騙されちゃいそうですからこれ以上の質問は許しません。」
流石に学習してきてるか。
これがこんな状況じゃなければ成長を喜んでやりたいが現状では悪い方向にしか働かないな。
「それじゃあ、最後に一ついいか?」
「どうぞ。」
「1週間、何をするつもりなんだ?」
「何も決めてませんよ。
私は、レンと一緒にいられればそれでいいんですから。」
「じゃあ、読書だ。」
やることがないときはこれだろう。
暇も潰せて、知識も増える。
「却下です。
もっと2人でできることにしましょう。」
そう言われても、広くない部屋の中でできることなんて限られてる。
それも同じことを1週間もやり続けたら流石に飽きるだろう。
「それじゃあ、レンのことを聞かせてください。
レンのことなら大体知ってるつもりですけど、前の世界でのことは聞いたことありませんでしたし。」
前の世界のことねぇ。
両親が事故死した後、親戚の家に預けられたこと以外は普通・・・・・とはいないかもしれないがありふれたものだと思うから話しても面白くないと思うが。
「それはいいが、どんなことを聞きたいんだ?」
「それじゃあ、彼女はいましたか?」
「いなかったな。
友達は数人いたと言えばいたんだがどいつもこいつも変わり者ばっかりだから、普通の奴からは敬遠されていたのかもしれない。」
その中でも特に酷かったのが、暇だからという理由で生徒を人質に立て篭もって休みを増やせとか馬鹿な事交渉しやがった。
もちろん、取り押さえられて警察に連れていかれたんだが、つるんでた奴の中にどう言う訳か圧力をかけられる奴がいて、揉み消された。
我ながらとんでもない奴らとつるんでいたものだ。
「それじゃあ、レンも、その、初めてなんですよね・・・・」
「ん、ああ、そうだな・・・・」
「・・・・どうして目を逸らすんですか?」
自分の胸に聞いてみろ。
経験あるとか言ったらこの場で襲うだろ。
「レン、怒りませんから正直に話してください。」
それなら、この窒息しそうな空気をどうにかしろ。
俺じゃなかったら気絶してるぞ。
「わ、分かったから落ち着け。」
「・・・・・どうなんですか。」
「正直に言うと、ある・・・・」
弁解の為に言っておくが俺が迫ったわけじゃないからな。
それを察してくれると助かるんだが
「レンがそんな俗物だったなんて・・・・」
そりゃ、彼女がいなくて経験あると言ったら風俗とかだと思うのは普通か。
だが、これはついてるかもしれない。
勝手に勘違いして幻滅してくれるのなら一番厄介だったフリッグが諦めてくれるかもしれない。
「やはり、ここは私がレンを受け止めるしかありません。」
そっちか・・・・
「勘違いするな。
確かに、経験はあるがあれは襲われてのことだ。」
「誰ですか、そんな羨ましいことしたのは!!」
名前だしたら殺しに行くなんてことはないよな?
ありそうだから名前を出したくない。
「聞いてどうするつもりだ?
フリッグどうやってもすでに起こったことは代えられないだろう?
それに、そいつは向こうの世界にいるんだからもう会うことはないだろうから聞いても無駄だぞ。」
あいつが本当に異世界というだけで会えないとは言い切れないけどな。
世界間の移動なんて普通にやってのけそうだ。
「それはそうですけど・・・・」
「それじゃあこの話は終わりだ。」
「1つ聞かせてください。
その襲った娘に気があるわけじゃないんですよね。」
「それだけは絶対にない。」
あいつに向ける感情は妹以上の感情はありえない。
それはあいつも同じだろう。
あれだって、ただの気まぐれだったみたいだしな。
「それならいいです。
そのかわり次にレンが抱くのは私ですからね!!」
「それはどうだろうな?」
今のところフリッグを抱きたいなんて微塵も思わない。
最近は妹として大事にしたい気持ちが強すぎてフリッグを女として見れないしな。
それはアリスや、ミナも同じだ。
ムスペルヘイムじゃ水着を見ただけで揺らいだが、今なら裸を見たって揺らがない自信がある。
今も軟禁されてはいるが妹の我儘程度にしか思えないしな。
流石に監禁されたら洒落にならないが・・・・
「そもそも、抱くって意味わかってるのか?」
「それくらい知ってます!!
私とレンがその・・・・え、えっちなことを・・・・」
いつも、手を出すとか抱くとか言ってるが、フリッグはかなり初心なんだよな。
ミナも同じだろうが、アリスは違うだろう。
アリスなら平然と言ってくるし、行為にも躊躇なんてないだろうな。
「と、とにかく、レンがだ、抱いていいのは私だけなんです!!」
そんな顔を真っ赤にして叫ばなくてもいいだろうに。
まぁ、無理に背伸びしようとしてるところも可愛いんだがな。
「なぁ、もし俺がフリッグを好きになってそれでも死ぬことを諦められなかったら、俺と一緒に死んでくれるか?」
何を聞いてるんだ俺は。
「悪い、聞かなかったことに「嫌です。」」
「私は絶対に諦めません。
レンと一緒にずっと生きるんです。」
「・・・そうか。」
本当に成長した。
会ったばかりのころは泣いて縋って、子供の我儘のようにしか言えなかったこいつが、今では正面から立ち向かおうとしている。
「強くなったな。」
「レンと約束しましたから。」
なら、俺もあの時の約束を果たせるよう強くならないとな。