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ミズガルズ その⑥ 詐欺師への第一歩

「どなたですかな?」


「ミナの兄貴分とでも思ってくれればいい。

ここに来たのは俺の妹が面倒な事になってるみたいだったから助けに来たんだ。」


「助ける、とは言いますが、こちらの問題に干渉してきたのはそちらのほうからですよ。」


まぁ、そうくるよな。

さっき自分が言った言葉がどれほどの意味を持つか身をもって知れ。


「それじゃあ、いくつか質問に答えてもらおうか。

まず1つ目、クルス、お前なぜミナを知っているんだ?」


「この街にいて、その名を知らない者はいないと言ったはずです。」


「確かにそうだ、俺も聞いた回ったがミナの名前を知らない奴はいなかった。

だがな、ミナの顔を知ってる奴もいなかったんだ。

それなのに、どうしてお前はミナの顔を知っているんだ?」


「そ、それは偶然知っていただけ。」


苦しい言い訳だがそれを言われるとこっちもこれ以上は何も言えない。

あくまで、なぜ知っていたかという話だがな。


「そうか、俺はてっきりそいつが新しい長に就任した時の顔見せの場で、アルフヘイムの代表として来ていたミナを見ていたそいつから教えてもらったとばかり思っていたんだが、違ったようだな。」


「っ!!」


どうやら当たりのようだな。

つまり、こいつはミナの顔を知っていなかった。

とは言え、それを白状してはくれないだろう。

まぁ、白状させるんだがな。


「なら、アリスが誰だかくらいわかるよな?」


「なに?」


「あんたがミナを目撃できた場所といえばミズガルズしかありえない。

それ以外でミナとあんたの接点なんてないからな。

なら、ミズガルズにいる間、常に傍にいたアリスのことくらい知ってるよな?」


これはもちろんブラフ。

だが、ミナの顔を知らないということはミナがどんな行動をとっているかも知らないということ。

そんなやつが突然こんな質問をされて答えられるはずがない。


「そ、それは・・・・」


「どうした?

アリスはミズガルズに来るのは初めてだぞ。

なのに、どうして悩んでるんだ?」


「なっ!?」


これで、ミナの顔を知らないことを証明したようなものだ。

それにしてもみるみる顔が青くなってる。

まぁ、あれだけゆさぶりをかけられた後のブラフなんてよほど場馴れしておかないと見抜けないだろうな。


「お兄ちゃん、嘘ついたからもう詐欺師だよね?」


「これはミナを助けるために仕方なくだ。

詐欺師は自分の為に騙す職業だぞ。」


「誰かの為って言う言葉はね、自分のやりたいことを正当化させるために使う言葉だってフランお姉ちゃんが言ってたよ。」


また、あの人は余計なことを・・・・


「話を戻そうか。」


「あ、逃げた。」


やっぱり、あの人とは良く話し合おう。

アリスを抑えようとしてくれたのは助かるが、余計な知識をつけられたら厄介だ。


「さて、さっきのやり取りで偶然会ったというのは嘘だよな。

なら、どこでミナの顔を知った?」


「それは私が教えたんですよ。」


っち、やっぱり素通りというわけにはいかないか。


「それは、学連との繋がりを認めるってことか?」


「奇な事を言いますね。

私は、この街の長です。

当然、学連との繋がりはありますよ。

もっとも、今回の件は学連の独断ですがね。」


疑わしきは罰せずか。

クルスからの自白を取れればそれで終わりだったんだけどな。


「彼が彼女を知っているのは私が長になった時に教えたからですよ。

彼女ほどの天才はいませんからね、知っていて損はないと思いまして。」


確かに学連の自警団というくらいだから、そんな重要な場所にいた可能性は高い。

おそらく、嘘だろうけどな。

だが、それを証明できない限り否定することもできない。

なら、別の方向から攻めるだけだ。


「あくまでこの件について学連との関係を否定するんだな?」


「必要があれば何度でも言いますよ。」


これで俺の勝ちだな。


「あ、お兄ちゃんが凄く悪い人の顔してる。」


「可哀想に。」


いちいち茶々入れるな。


「そうか、それじゃあこの件はクルスの独断ってわけだな?」


「学連の間違いでは?」


「いや、学連のほうには確認を取った。

そんなことは企んでいないそうだ。」


正確には何かあるとは分かっていたが概要までは知らず、クルスからは街を救うためとしか聞いてなかったそうだ。

ここで、長が学連と関わっていないという言葉が効いてくる。


「それは、勇気のあることだと思いますがそれがどうかしましたか?」


「もちろんあるさ。

なにせ、俺はこの件をもみ消すつもりだかな。

学連という集団よりクルスという個人の方が楽だろう?」


「・・・・そんなことができるとでも?」


「できないと思うか?

ミナがこの場にいることを知っているのはあんたら2人だけだ。

なら、片方さえ押さえてしまえば証拠のなくなる。

ちなみに言っておくと、俺には個人的に王族に山ほど借りを作ってるからな、この程度の頼みなら二つ返事で聞いてくれるだろうよ。

それに、アルフヘイムからも圧力をかけられる。

それを、ただの一学生に耐えられるか?」


それも、街からの保護もない。

嫌でも首を縦に振らされるだろう。

それに、ここまで来てしまえばミナが関わったかどうかなんて関係ないだろう。

もし、失敗しても王族の誰かに罪をなすり擦り付ければ問題ない。

悪いとは思うがミナには代えられないからな。


「そんなことをすればただでは済みませんよ?」


「それはこっちのセリフだ。

いい加減、非を認めないというなら俺はあんたを長の座から引きずり落とすこともできるんだ。」


「そんなことが「できるんだよ。」」


「この街は八割以上は学生だ。

そして、その学生が運営している学連、その影響力はこの街すべてに及ぶ。

俺はその学連からの協力を得られるんだぞ?

さらに、アースガルド、アルフヘイム、三つの街から糾弾される。

長について間もないあんたを助けるために三つもの街を敵に回そうなんて酔狂なところもないはずだ。」


「ぐっ・・・」


チェックメイトだ。


「クルス、それはお前もだ。

このまま黙っていれば、学連どころかこの街すら追放される。

俺が頼めばお前の家族を人質にだってとれる。」


「うっ・・」


「そうならない平和的解決は簡単だ。

今回の件はあんたらが仕組んだことだと白状してしまえばいい。

もちろん、白状したところでどうなるわけでもない。

昨日と同じ日常が繰り返されるだけだ。」


袋路地に追い詰めて逃げ道を作ってやれば長の方はともかくクルスはすぐにでも飛びつくだろう。

我ながら詐欺師のような手口だ。


「ような、じゃなくてそのものだよ。」


「レンのシスコンって兄さん以上よね。」


どうして空気を壊すようなことを言うんだ。

あと少しなんだからもう少し黙ってろよ。


「・・・・・認めます。」


「なにをだ?」


「私と長がレグスさんを利用しようとしていたことをです。」


「そうか、これに懲りたらこんなことはしないことだな。」


一応、学連の要望に応えておくか。

これで、フリュネの問題も解決の足掛かりができるだろう。


「でだ、どうするミナ?」


「どうするって、何が?」


「こいつらのやったことは確かに正しいとは言えないが、それでも学生に負担をかけないようやったことだ。

この問題はミナが少し手を貸せば解決する。

ちなみに、俺はどっちでもいいがな。」


「・・・・・そうね、私を嵌めようとしたことは許せないけど、一応、私もここの学生だったんだし少しくらい手を貸してあげるわ。」


「ほ、本当ですか!!」


「そのかわり、私の名前を出さないこと。

これを守れるならだけどね。」


「分かりました。

どうか、よろしくお願いします。」


これで一件落着。



「そういえば、どうやって学連を騙したの?」


「騙したとは人聞きが悪いな。

俺はただ、あいつらの企みを説明して、それに伴う利益とリスクを説明してやって、それより、アースガルド、アルフヘイムとの繋がりがあり、尚且つミナと親しい間からである俺に協力した方がこの街に為になるんじゃないかって説得しただけだ。」


「・・・・詐欺師だ」


アリスはどうしても俺を詐欺師にしたいんだろうか?

俺をどんな目で見ているのか気になるぞ。


「さて、ミナ。」


パンッ


「えっ?」


「今回の件、関わらなければそれ終わりだったはずだ。

それくらい、ミナなら分かったはずだろう。」


やっぱり、悪いことをした後は怒ってやらないとな。

叱ってやるのも俺の役目だ。


「・・・・・ごめんなさい。」


「まったく、心配をかけるな。」


「だって、レンのお荷物になりたくなかっただもん。」


予想はしてたが久しぶりに来たな。


「俺はこれでもミナを頼ってるつもりだ。

それに妹を守るのは兄の務めだ。

あんまり手がかからないってのも寂しいんだから、少しくらい迷惑かけてもいいんだ。」


「レン・・・・」


あ、これはやばいな。


「さて、明日には帰るんだから今日はしっかりとみて回るか。」


「あっ・・・」


頼むからそんな寂しそうな顔をするな。

無性にかまってやりたくなる。


「ミナ、行くぞ。」


「うん。」


手を握ってやるくらいなら大丈夫・・・・・とは言えないかもしれないがあんな顔をされて放っておけるわけがない。

フリッグとアリスもそこは理解してくれるだろう。

暴走するかどうかは別としてだが。


「レン、ありがとう。」


やっと笑ってくれた。

これを見れたなら多少の罰くらいは覚悟するか。


この後のレンがどんな目にあったかは想像にお任せします。


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