ミズガルズ その② 嘘
「確認のために聞いておくけどアリスがついた嘘ってどれのこと?」
「子供扱いされるのが嫌だから、だろ?」
あれだけのことを平然として言えるアリスがそんな幼稚な理由で心の内を話したりはしない。
それがアリスにとって有利に働くなら話は別だが、俺を脅してもマイナスにしかならないからな。
「む~、そこまで分かってるならアリスの思惑通りに動いてくれもいいのに。」
「俺がアリスを怯えれば少しは幻滅できるかもしれないってか?
俺が言うのもなんだがたぶん無理だぞ。」
大方、自分の感情が俺にとって危険だと思い、少しでも俺に対する好意をなくそうとしたんだろう。
「何事もやってみないと分からないよ。」
「やってみないと分からない程アリスは馬鹿じゃないだろ?」
「それはそうだけど・・・・」
まったく、フリッグが幼すぎるとしたらアリスは大人すぎる。
2人を合わせて半分にすればちょうどいいぐらいだろう。
「でも、お兄ちゃんは怖くないの?
アリスはさっき言ったこと実行できるよ。
今は、お兄ちゃんを大切にしたい気持ちがあるから今日みたいに自分を抑制しようとするけど、そんな気持ちはすぐに消えちゃうよ。」
「それなら、その気持ちが消えないように頑張れ。」
「お兄ちゃん、自分が言ってること分かってる?
それって、とっても残酷なこと言ってるよ。」
さっきの俺の言葉を訳すると俺のことを諦めろと言ってるようなものだ。
確かに俺のことを殺したいほど慕っているアリスにこれほど残酷な言葉はないだろう。
「早とちりするな、俺が言いたいのは両方の気持ちを両立させろと言ってるんだ。」
「簡単に言ってくれるけど、それができないから脅したんだよ。
お兄ちゃんがお姉ちゃんたちと仲良くしてるとお兄ちゃんを殺してアリスだけのものにしたいって思っちゃうもん。」
これがアリス以外だったらどんなホラーよりも怖いだろう。
恐ろしいことを当たり前のように本人に言うんだからな。
「アリスならできると信じてる。」
「それ、嘘だよね。
お兄ちゃんが何かを信じるなんてできるわけないもん。
それができれば死のうだなんておもわないでしょ?」
この程度の嘘は簡単に見抜かれるか。
普通の奴だったら完璧に騙せるはずなんだが。
「ねぇ、お兄ちゃん、そんな嘘でアリスを納得させようとしてるならミズガルズにいる人、皆殺しにするよ。」
「あんまり殺気をまき散らすな。
皆怯えてるだろう。」
「どこまでも余裕だね。
本当に殺してもいいんだよ。」
いつの間にか俺たちの周りに誰もいなくなったな。
まぁ、これだけの殺気を間近で感じたらだれったて逃げ出すだろう。
「アリスは俺を死なせたくないんだよな。」
「それはそうだよ。
一番はお兄ちゃんがアリスを選んでくれることだもん。
お兄ちゃんを殺したいと思うのはアリス以外を選ぶときだけだよ。」
「なら、アリスは俺に信じさせるんだろ?
俺が言った嘘を本当にするんだろ?」
「・・・・・・はぁ、お兄ちゃんって詐欺師に向いてるよ。」
「そう言うな。
こんなことを言うのは家族だけだ。
だから、アリス、俺を信じさせてくれ。
その為にも、自分の気持ちを制御してくれ。」
「これだけやっても結局丸め込まれちゃうんだね。
お兄ちゃんにそんなこと言われたら頑張るしかないよ。」
これは俺も簡単に死なせてくれそうにないな。
すこしずつ納得させないと100年経っても死ねない。
「そのかわりと言っちゃなんだが、今まで好きになりすぎないように我慢してたところもあるんだろ?
その分、甘えてきてもいいんだぞ。
アリスはまだ子供なんだから。」
「そんなこと言っていいの?
本当に甘えちゃうよ?
お姉ちゃんが嫉妬して怒っても離れないよ?」
「前言撤回、ほどほどに甘えてきてくれ。」
「ふふっ、お兄ちゃんらしいね。」
ようやく笑ってくれたか。
やっぱり、アリスはあんな物騒な殺気をまき散らすんじゃなくて笑っている顔が似合う。
「じゃあ、勝負だね。
アリスがお兄ちゃんを信じさせるか。」
「俺がアリスを納得させるか。」
「絶対負けないよ。」
「俺も簡単には負けないさ。」
俺が負けたときはアリスは最高の女になってるんだろう。
それを見たくないと言えば嘘になるな。
「お兄ちゃん、キスしよ。」
まぁ、デートだしキスくらいならいいか。
いままで、我慢してきたアリスへのご褒美の意味も込めて。
side アリス
「お兄ちゃん、ちょっとトイレ行ってくるからここで待ってて。」
「ああ、気をつけるんだぞ。」
「うん。」
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「~~~~~~~~っ。」
やばいよ、にやにやが止まんないよ。
こんな緩んだ顔、お兄ちゃんには見せられない。
「あんなの反則だよ。
だから、アリスみたいな危ないのに好かれちゃうのに。」
ただでさえ、お兄ちゃんは変な人を惹きつけやすいのに、今の調子じゃあまたライバルが増えちゃうよ。
お姉さんもお姉ちゃんがいなかったら危なかったんだろうなぁ。
「お嬢ちゃん、こんなところに一人でいたら知らないお兄さんに連れて行かれちゃうよ。」
「まっ、連れて行くの俺たちなんだけどな。」
ちょうどいいところに
「アリス、今すごく機嫌がいいから付き合ってあげる。」
「それはいいところに来たもんだ。」
「それじゃあ行こうか。」
「うん。」
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「ば、ばけもの・・・・」
「やっぱり、お兄ちゃんじゃないと何とも思えないや。」
飛び散ってる血もただの汚れにしか見えないし、虐めても全然楽しくない。
お兄ちゃんならすっごく興奮すんだろうなぁ。
「それじゃあね、ちゃんと通報しておいてあげるから命は助かるはずだよ。
これに懲りたらもうこんなことはしないようにね。」
やっぱり、初めて人を殺すならそれはお兄ちゃんがいいな。
お兄ちゃんにはアリスの全部の初めてになってもらいたい。
「そのためにも頑張らないとね。」
そろそろ戻らないと、お兄ちゃんも心配してるだろうし。
ああ、愛しい愛しいお兄ちゃん。
殺したいほど大好きだよ。
side out
ん、なんだか騒々しいな。
何かあったのか?
「ただいま、どうかしたの?」
「やけに騒々しいと思ってな。
武装した連中が向かってたようだから何かあったのかと思ったんだ。」
「これだけのお祭りだから羽目を外した人が暴れたりしたんじゃないの?」
それもそうだな。
駄目だな、何かあるとすぐに悪い方向に結び付けてしまう。
「そろそろ腹減ったな。
アリスは何か食べたいものあるか?」
「ん~、食べやすいものがいいな。」
それじゃあ、麺類にするか。
これだけの人がいる中で血を吸わせるわけにもいかないしな。
「それにしても、随分ご機嫌だな。」
「それはお兄ちゃんとキスできたからだよ。
普段は滅多にできないもん。」
そりゃ、普通は兄妹でキスなんてしないだろう。
それを抜いてもフリッグが怖い。
アリスがどれだけ物騒なことを言っても怖くないんだが、フリッグが言うと怖いんだよな。
「ねぇ、お兄ちゃん、あれってお姉ちゃんたちじゃない?」
「本当だな。
何をやってるんだ?」
フリッグたちの周りにはやけに人だかりができてる。
何かやったのは間違いないだろう。
「あっ、レン。」
「今度はいったい何をやったんだ?」
「どうして私に言うのよ!!」
それは日ごろの行いを顧みて自分の胸に聞いて欲しい。
「で、実際のところどうしたんだ?」
学生の自治体か何だか知らないが明らかに一般人じゃないのが数人。
やっぱり何かやらかしやがったか。
「だから、私じゃないって言ってるでしょ!!
今回はリンネがやったのよ。」
『今回は』ということは一応毎回やってる自覚はあるんだな。
まぁ、それも俺の為なんだから何ともいいずらいんだが。
「ええっと、一応止めたんですよ。」
「フリッグに触れようとしたからな。
当然の報いを受けてもらっただけだ。」
ああ、成程。
大体の状況は呑み込めた。
「相手の容体は?」
せめて殺しだけはしてないでくれよ。
「心配せずとも意識を奪っただけだ。」
「それがやりすぎなのよ!!」
大方、天笠が切れて派手にやらかしたんだろう。
普段は冷静な奴なのにフリッグが絡むと途端に切れやすくなるからな。
「話を戻してもよろしいでしょうか。
一応、正当防衛ということにしておきますが今後は我々を呼んでいただければ対処しますので暴力沙汰は控えるようお願いします。」
「迷惑をかけてすみません。」
どうやら丸く収まったようだな。
初日から厄介事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。
「レン、すみませんが一緒に付いてきてもらっていいですか。
私が言ってもリンネが止まりそうにないんです。」
俺は別にいいんだが
「どうする、アリス?」
「ん~・・・・・・別にいいよ。
もう十分満足できたから。」
「本当ですか!!
ありがとうございます。」
「ふ~ん、満足ね・・・」
「他意はないぞ。」
「まぁ、いいわ。
私もリンネの扱いには手を焼いてたところだし。」
「そういうわけでおとなしくし貰うぞ。」
「っち、そのかわりフリッグに変な虫を寄せ付けるなよ。」
最初にあった頃の天笠とはもはや別人だな。
どうして、色恋沙汰になるとうちの女性陣はこうも暴力的になるのやら。
「それじゃあ、まともに観光できる日は今日が最後かもしれないからめいっぱい楽しむわよ。」
「縁起でもないこと言うな。」
たまには、何事もなく終わらないものか・・・・
アリスが小悪魔からヤンデレにジョブチェンジしました。
フリッグとは違うタイプのヤンデレですが作者的にはアリスのヤンデレが怖いです。
現実にアリスのような人がいたら腰抜かしますね。