ミズガルズ その① 好きの理由
遅くなって済みません。
「それにしても賑わってるな。」
「年に一度のお祭りだからね。
この一週間はミズガルズにある学校全部が何かしらやってるのよ。」
特別な時期に来るということは特別な何かが起きやすい。
そして、トラブルメイカーのミナがいるこの状況、マイナス思考をしたくはないが予感じゃなくて確信めいて面倒なことが起きる気がする。
「学校の中には料理専門もあれば騎士なる為に戦闘訓練を専門とするものもあるし、学生とはいえ教師はその道のプロフェッショナルだからそこそこ期待はできるわよ。」
「それにしてもやけに詳しいな。」
「ちょっと前までここの学校に通ってたのよ。
もっとも、すぐに教えてもらうことなんてなくなって止めちゃったけどね。」
最近忘れがちだがミナはかなりの天才だ。
自分でいろいろ役に立つものを開発してる、俺たちが使っている通信機や車も全部皆のお手製だ。
そして、集団生活の中でそんな異端の存在が意味するのは・・・・・
「今日はもう日が暮れるし観光は明日からね。」
「そうだな。」
「アリスとお兄ちゃんは明日別行動だからね。」
「分かってる。」
学園祭が開催されているなら退屈はしないだろう。
しかし、心配なのは
「ミナ、フリッグと天笠から目を離さないでくれよ。」
「心配性ね。
いくらリンネでも嫌がるフリッグをどうこうするはずないでしょう。」
それはそうなんだが・・・・・
「分かったわよ。
でも、シスコンたいがいにしないと犯罪よ。」
「家族を大切に思うことが犯罪なわけないだろう。」
俺がシスコンなのは認めるが、あくまで家族を大切に思うことの延長線だ。
妹に欲情するシスコンは犯罪だろうがな。
「もういいわ、だんだんフリッグが可哀想に思えてきたわね。」
「言っておくが、俺の中ではミナも妹だからな。」
「それも分かってるわよ。
でも、私はまだ半々ってところでしょ?」
相変わらず人の心を読んだような発言。
しかも、的外れじゃないってところが怖い。
「いまさらだけど、あれだけの美少女に迫られて妹扱いできるっていろいろ心配なってくるわ。」
「何度でも言うが俺は男好きじゃないぞ。」
「そうじゃなければ困るわよ。
・・・・・私ってどうしてレンのこと好きになったんだっけ?」
それを俺に聞くか?
「確かに、何度も助けてもらったし、私を初めて負かした相手だから頭はいいわよ。
それに、努力家でいつも頑張ってるし、家事なんかも普通にできる。
口ではなんだかんだ言ってても私たちのこと大切にしてくれる・・・・・・
これって、好きなっても仕方ないわよね?」
いや、だから俺に聞かれても・・・・
「フリッグはレンのことどうして好きになったの?」
「レンは私が神だと知っても態度を全く変えなくて、どんな時でも私を私として扱ってくれるところですね。
それに、私が勝手に落ち込んでても励ましてくれますし・・・・
もう、好きですレン!!
結婚してください!!」
往来で何を言ってるんだ。
どうやら、まだ常識がなってないらしい。
「アリスは?」
「アリスはお兄ちゃんの全部が好きだよ。
アリスがお兄ちゃんを好きになることは生まれた時から決まってたって言われても信じられるもん。」
だから、往来で言うことじゃないだろ。
流石に恥ずかしくなってきた。
「明日は観光するんだろ?
今日は早く休むぞ。」
「流石は風峰、内心は照れているのに微塵も表情に出さないとはな。」
こいつ、俺に恨みでもあるのか?
「レンでも照れることなんてあるのね。」
「ふっ、そんなに睨むな。」
ポーカーフェイスには自信がある。
そして、ミナが気付かなくて天笠が気付くということは
「気付いたか?
いくら表情に出なくとも心音や血流は乱れるからな。
それを私に隠し通せるはずがない。」
ここに俺のプライバシーは存在しないのか・・・・
「天笠、俺は体を張ってお前を止めたよな?」
「ああ、そのことには感謝しているよ。
だが、目の前でフリッグがあんなことを言い出すんだ。
おとなしく八つ当たりを受けろ。」
理不尽だ・・・
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「それじゃあ、行ってきます。」
「レン、手を出してはいけませんよ。」
「こんな人が多いところでやったら捕まるわ。」
もはや定番となりつつなるやり取りだな。
「アリスはお兄ちゃんが望むなら別にいいよ。」
「アリスはそんなに俺を犯罪者にしたいのか?」
公衆わいせつ罪と幼児虐待で言い訳のしようもなくお縄に付くな。
「お兄ちゃんがその気になってくれるなら犯罪者になった後助けてあげるから心配しないでいいよ。」
どこまで本気なのやら。
「それじゃあ俺たちは行ってくる。
フリッグ、天笠に襲われそうになったらすぐに逃げるんだぞ。」
「それは昨日の仕返しのつもりか?」
「どうだろうな?」
「はいはい、そこまで。
リンネ、私たちも行くわよ。」
「・・・・・必ずフリッグは私が奪い取る。」
「私の意思を無視しないでください!!」
行ったか。
天笠の能力には何か対策を立ておく必要があるな。
魔法に関しては完全に素人だし、フリッグにでも聞いてみるか。
「それじゃあ、アリスたちも行こう。」
「そうだな、一応聞くが行ってみたいところはあるか?」
「アリスはお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ。」
予想通りの答え。
アリスもそう分かってて答えたな。
「それじゃあ、適当にぶらつくか。」
「うん、お兄ちゃん手、繋ご。」
「いいぞ。」
「ふふっ♪」
いつ見てもアリスの笑顔は癒される。
やっぱりアリスはこうでないとな。
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「いろいろやってるな。」
目につくだけでも飲食店だけで10店舗、他には占いに劇、本や学生作の魔法を使った道具の販売、一つ一つ見て回ってたら時間が無くなりそうだ。
「アリス、何か興味があるものあったか?」
「お兄ちゃんの手を握ってるだけでもう満足だよ。」
いつも、血を吸うために抱き着いてるのに手を握るだけで満足とは分からないものだな。
「分からないって顔してるね、お兄ちゃん。」
「そりゃな、アリスのことなんでも分かるわけじゃない。」
アリスは俺のこと何でも知ってるって言いそうだがな。
いや、アリスに問わずフリッグやミナなんかも言ってきそうだ。
最近は、フリッグもだんだん鋭くなってきたから隠し事一つもやすやすとできなくなってきてる。
俺のプライバシーは何処にあるのやら。
「それじゃあ教えてあげるね。
アリスはお兄ちゃんを独占できていれば抱きついてても手を繋いでても同じことなんだよ。
正直に言っちゃうと血を吸うために抱き着いてるんじゃくて、抱きつくために血を吸ってるんだよ。
血を吸ってる間はお兄ちゃんを独占できてる感じがするから。」
「それじゃあ、アリスは血を吸わなくても生きていけるのか?」
「他の吸血鬼はどうか知らないけど、少なくともアリスは平気だよ。
会った頃は血が必要だったけど、最近は血がなくても普通の食事で問題ないみたい。」
それは、真祖だからか?
アリス以外の真祖なんてあったことないからはっきりとは分からないか。
「お兄ちゃんの血は美味しいからデザートみたいなものだよ。
だから、吸っちゃダメって言わないでね。」
「別にいくら吸われても死にはしないからアリスが吸いたいって言うなら構わないが、もうちょっと視野を広げた方がいいんじゃないか?」
俺に懐いてくれてるのは嬉しいが、あまりにも周りを見なさすぎてる気がする。
これじゃあ、俺がいなくなった時が心配だ。
「そんな必要はないよ。
だって、お兄ちゃんがずっと傍にいてくれればそれでいいもん。」
「だが、俺は100年後にはいなくなってるかもしれないぞ。」
「それはないよ。」
ぞっとする笑みってのはこれのことを言うんだな。
アリスが考えていることが全く分からない。
「・・・・・・どうしてそう言い切れるんだ?」
「ん~、お兄ちゃんはアリスのこと可愛いっていつも言ってくれてるよね。」
「ああ、それがどうした?」
「でもね、本当のアリスは怖いよ。
お姉ちゃんのことヤンデレっていつも言ってるけどそれはアリスにこそ当てはまる言葉だって思うもん。」
side アリス
う~ん、ちょっとは表情に出るかと思ったんだけどなかなか出ないなぁ。
「アリスのどこがヤンデレなんだ?
少なくとも俺の眼にはそうは映らないぞ。」
「それはアリスが隠してるからだよ。
でも、いつまでも子ども扱いされるのはちょっと嫌だからアリスの本当をちょっと教えてあげるね。」
アリスも好きって気持ちがここまで怖いものだなんて最近になって知ってんだよ。
お姉ちゃんみたいに感情を爆発させるようなものじゃなくてもっと理性的で凶悪な感情。
「ねぇ、お兄ちゃん、アリスがまともにしゃべることができたころに2人で仕事に行ったことがあったよね。
あのとき、お兄ちゃんが死ねばアリスも死ぬって言って、お兄ちゃんはそれを駄目って言ったけど、ここまで力をつければ今更主従の契約なんて今すぐ破棄できるんだよ。
今は、お兄ちゃんとの繋がりだから破棄しないけど。」
お兄ちゃんはアリスの命より大事で、お兄ちゃんがくれたものは命の次に大事な宝物。
お兄ちゃんが愛おしくて愛おしくて仕方がない。
「そうはいっても、俺は死ねるぞ。
100年後に死ねるという希望があってこそ俺は今正気を保ってる。
それが潰されればどうなるか分からないわけじゃないだろう?」
「それくらいのことで諦められるほど安いものじゃないよ。
お姉ちゃんたちは優しいから、死に続けようとするお兄ちゃんを見たら死なせてあげるかもしれないけど、アリスはそれをずっと見続けられるよ。
お兄ちゃんの気が変わるまでずっと見てあげられる。
なんだったら、アリスが殺し続けてもいいよ。」
アリスはお兄ちゃんを否定しない。
どんなことも肯定して受け入れる。
ただ一つの例外、アリス以外を選ぶこと以外は。
「それに、アリスがこう言ったらどうする?
お兄ちゃんが死ぬたびに、他の人を殺す。
お兄ちゃんには一番効く言葉だよね。
見ず知らずの誰かに迷惑をかけたくないお兄ちゃんがそう言われて死ねる?」
「人を殺してはいけないことくらい知ってるだろう。」
「お兄ちゃんがいるから人を人として見れるんだよ。
お兄ちゃんがいなかったらただの餌に過ぎないよ。
それくらい、アリスはお兄ちゃんに依存してる。」
もう、お兄ちゃんがいなければまともに生きていない。
アリスは愛の奴隷だね。
「そんなことをすれば、フリッグに殺されるぞ。」
「それでもいいよ。
それはきっとお兄ちゃんにの心に楔を打ち込むから。
アリスが死んだらお兄ちゃんは誰も好きなれないまま死んじゃうよね。
死んだ後もお兄ちゃんを独占できるなら本望だよ。」
最初は怖かった自分の感情も今では当然だと思える。
フランお姉ちゃんからは距離を置いた方がいいと言われたけど、今更そんなことをしても無駄だって分かる。
「大好きだよ、お兄ちゃん。」
「ああ、俺も好きだぞ。」
え?
「それじゃあ、そろそろ行くか。」
「さっきの話聞いてなかったの?
アリスが怖くないの?」
「どうして俺がアリスを怖がるんだ?
確かに言ってることは物騒だが要約すると俺のことが好きだって言ってるだけだろ。」
こんなはずじゃなかったのに。
反応が予想外すぎて思考が読めない。
「もしかして、アリスが言ったこと信じてない?
なら、見せしめにだれか殺してあげるよ。」
「いや、アリスが言ってことは一つを除いて本当のことだろう。
俺が嘘を見抜くことが得意だってこと忘れたか?」
うぅ~、やっぱりお兄ちゃんには敵わないなぁ