閉ざされた夢
さて、どう説明するか。
説明せずに帰してもいいがそうすると彼女が混乱するだろうし、なにより帰りたいという理由が意味をなくしてしまう可能性もある。
一度帰りたい理由を聞き出してみるか。
「おい、さっきの話は本当なのか?」
さっきの話が聞こえていたのか?
だが、フリッグは小声だったし、距離だって離れていたんだぞ。
「さっきの話ってのは何のことだ?」
「今帰っても1年進んでいるという話だ!!」
聞こえていたか。
ここは正直に言ったほうがいいな。
下手な嘘をつくと信用されなくなる。
「ああ、残念だが本当の話だ。
それでよければ今すぐにでも返すことができるがどうする?」
「嘘だ、どうしてこんな・・・・・」
帰る理由は期限が切れていたのか。
これは少しまずいな、自暴自棄になって暴れだす可能性もある。
「フリュネ、少し下がれ。」
「うむ。」
「私がなにをした・・・・
私が何をしたぁぁぁ!!」
やっぱり、こうなるのか。
だが、彼女は完全に被害者だ。
下手に傷つけるわけにもいかない。
「レン、私が意識を奪いましょうか?」
「それだと起きたらまた暴れだす可能性が高い。
ある程度発散させる必要があるんだが、いけるか?」
「・・・・・・フリュネくらいまでなら落とせると思いますがそれ以下となると難しいです。」
最高に手加減してフリュネレベルってどれだけ強いんだよ。
だが、気が済むまで暴れさせることが目的だから躱し続ければ問題ないか。
「いいかフリッグ、攻撃せずに躱し続けろ。
20分経っても落ち着きそうになかったら少々荒療治になるだろうが俺がやる。」
「・・・・・・随分肩を持ってるようですがもしかして彼女に一目惚れしたとか言いませんよね。」
こんな時にまで気にすることか?
・・・・することなんだろうな。
そういえばアリスはどうしたんだ?
「やっぱり、黒髪、黒目がいいんですか?
レンが望むなら私もすぐに変えますよ?」
ちょっと見てみたい気もするが
「フリッグは今のままが一番だ。
だから変に変える必要はない。」
こいつの髪と目は本当に綺麗だしな。
「分かりました。
でも、何かリクエストがあったら言ってくださいね。
レンのためだったらどんな格好でどんなプレイでも喜んで受け入れますから。」
微妙に危険な発言をするな。
今のところお前を抱くつもりなんてない。
「いちゃいちゃするのはいいのじゃが、そろそろ手伝ってくれぬか。
妾一人抑えるのは少々つらいのじゃが。」
「フリュネが?
見た限り戦闘の心得なんて持ってないのにか?」
「うむ、先ほどから何をやっているのかわからぬ。
それに、防御してもそれをすり抜けてくるのじゃ。」
流石は異世界補正とでもいうべきなのか?
俺も少しは欲しかった。
「どうやらあれは音、というより振動を操ってるようですね。
音で発生する波に魔力を載せてその波をいくつもぶつけ合ってその衝撃でダメージを与えているんだと思います。」
また、反則的な能力だな。
振動なんてちょっと手を動かすだけで発生する。
それを武器として利用できるどころか、最悪、脳波まで操ることができれば意識を奪うことも殺すことも簡単にできてしまう。
さっきの会話が聞こえたのもこの能力のおかげってことか。
「レン、あれを躱すのは難しそうなので防ごうと思いますが、そうなると神力を使うことになりますけど、使っていいですか?」
こればかりは仕方ないか。
幸いにもフリュネがいるし神力を使ってもフリュネがやったと勘違いしてくれるだろう。
「ああ、だがあまり派手なものは使うなよ。」
「では、『レヴォルト』」
「何をしたんだ?」
「私たちの周りを別世界に置くことで外部からの干渉を一切できなくしたんです。」
相変わらず規格外すぎるだろ。
そんなもの世界を壊せる力でも持ってない限りどうすることもできない。
「そんなもの使って、フリュネがやったと誤魔化せるのか?」
「これはフリュネでも使えますよ。
ただ、神術は神が行使する術なのであまり人には伝わってないんです。」
「なるほどのう。
フリッグ、妾に神術を教えてくれぬか?
最近アリスも力をつけてきたようじゃしな。
妾も負けてられぬ。」
これ以上強くなってどうするんだよ。
王になったら戦うことなんてないだろう。
「それは構いませんが、彼女が落ち着きそうにありませんよ。」
「城の修繕費もばかにならぬからそろそろ止まってくれぬかのう。」
そろそろ潮時か。
この方法はあまりとりたくないんだよな。
効果は抜群だと思うが痛いだろうなぁ。
「フリッグ、俺が今からやることを邪魔することも、終わった後に怒ることもなしだ。」
「・・・・・・そうですね、私が蕩けるような熱いキスをしてくれたらいいですよ。」
「人の弱みに付け込むのはどうかと思うぞ。
それにこれ以上城を壊されたらフリュネだって困る。」
「城を壊されても私が直しますし彼女がどうなっても私が知ったことではありません。
このまま放っておいたらその内力尽きるでしょうしね。
それでも助けたいということは、レンが個人的にあの美少女を助けたいということになります。
美少女だから助けたいという理由なら私は絶対にここから出しません。
そうじゃないなら、証明として私にキスをしてください。」
やけに饒舌だな。
しかも、究極の選択だ。
確かに俺には彼女を助ける理由なんてないが放ってはおけない。
力尽きた後落ち着いていればいいんだが俺たちだってずっとここにいるわけじゃないから、確実に落ち着いてもらいたい。
そうなると、やっぱり俺が行くしかないわけだがそうなるとフリッグにキスをする必要がある。
「言っておきますが後でなんて許しませんよ。
キスしてからじゃないとここから出しません。
もちろん、レンさえよければキスの後も構いませんよ。」
逃げ道を潰されたか。
言っておくが俺はこんな人前で情事に励むような変態じゃない。
「ええい、このヘタレめ、さっさと覚悟を決めぬか。」
お前はフリッグがどれだけやばいかくらい身をもって知ってるだろう。
「分かった。
そういうことなら諦める。
一応仕事だからやろうと思ってたが、俺が頼まれたのはあくまで抑えつけた後のことだしな。」
「え!?
で、でも、いいんですか、このままじゃ城が壊されちゃいますよ。
それに、力尽きてもまた暴れだしますよ。」
「城はフリッグが直してくれるんだろう?
それに城がどうなろうと俺の知ったことじゃない。
力尽きた後に暴れだすという保証もないしな。」
悪いとは思うが俺も自分の身が惜しい。
まだ、永遠を生きていく覚悟なんてない。
「うぅ、レンの馬鹿ぁああ!!
フリュネ、レンが、レンがぁ!!」
「分かっておる。
ヘタレのくせに頭が切れるレンが悪いのじゃ。」
酷い言われようだな。
人の弱みに付け込んだフリッグが悪いとは思わないのか?
「そうです、レンが全部悪いんですよ!!
ムスペルヘイムの時だって、あんないいムードなのにキスの一つもしてくれないですよ!!
私のこと必要だって言うならご褒美くらいくれてもいいじゃないですか!!」
こいつは何を暴露してるんだ。
ここにミナとアリスがいたら問い詰められるのは俺なんだぞ。
「まったくじゃな。
傍から見れば完全にプロポーズをしてる恋人同士にしか見えぬというのにこのヘタレは・・・・」
「ちょっと待て、なぜそんな見てきたような言い方をしてやがる。」
「それは見たからに決まっておろう。
ちなみにミナとアリスも見ておったぞ。
2人とも流石に我慢しておったようじゃが相当に羨ましがっておったぞ。」
やはりこいつとは雌雄を決する必要があるな。
「うぅ、レンの馬鹿、でも大好きです!!」
俺に断われたことがかなりショックみたいだな。
若干壊れかかってる。
「もういいです、行けばいいじゃないですか。
レンが私を好きになったら今まで我慢させてきた分離してあげませんからね。
嬉し恥ずかしな思いをしてればいんです。」
どんな捨て台詞だ。
余計にお前を好きなるわけにはいかなくったな。
しかし、こうなるとは予想してたがまさか本当になるとは。
単純というか操作しやすいというか、本当に手のかかる妹みたいだ。