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ムスペルヘイム その⑤ 支え

出たくない。

まさか、ホームレスでもないのに牢屋から出たくないなんて言う時が来るとは。


「どうした、早く出ろ。」


1日でフリッグのスイッチが元に戻っていればいいんだが、出た瞬間拉致監禁なんて冗談でも笑えない。

だが、いつまでもこうしてるわけにもいかない。

いい加減覚悟を決めるか。

「俺が出てこれたってことは成功したみたいだな。」


「はい。

あの後すぐ、犯人が見つかりまして王位継承権を剥奪するということで話しが付いたみたいです。」


それはご愁傷さまだな。

それにしても意外と普通だな。


「おにいちゃん、昨日血を貰ってないから貰うね。」


そういえばそうか。

その内俺がいなくてもアリスが血を飲める方法を考えておく必要があるな。

そう何度もこんな目には遭うとは思わないが。


「予定では明日には帰る予定だから今日は遊びましょう。」


心構えがしてたおかげで最初の時よりましか。

最初はまともに見ることさえできなかったが今ではそれくらいなら問題ない。


「つまらぬ。

もっと動揺せぬか。」


「黙れ。

妹にそう何度も欲情してたまるか。」


あの時は本気でやばかったが、今は可愛い妹として見れる。

俺もかなりシスコンが進んでるな。

ちょっと前までのジンよりはましだと思いたい。


「そんなことより、今更誰もフリュネを追い出そうなんて思わないんだから憎まれ役を買ってやる必要はないんだぞ。」


「それをレンの口から聞けるとは驚きじゃな。

じゃが心配は無用じゃ。

妾はこれまでにも結果を出すために他の物から恨まれることなど数えれないほどあった。

それが今更1つ2つ増えようと問題はない。」


「だからこそ、支えが必要だろ?

あいつらはフリュネに懐いているんだから裏切るようなことはないはずだ。

俺も貸しを作れるから大助かりだしな。」


「最後の部分は余計じゃな。

そこは、絶対に裏切らないくらい言えぬのか?

そうすれば妾を口説き落とせたかもしれぬのう。」


「冗談じゃない。

この際言っとくが俺はお前の性格が気にいらない。」


「それはこちらのセリフじゃ。

このヘタレめが。」


やっぱりこいつとはこうでないとな。

女友達との距離ってこんな感じなんだろう。

好き勝手言える相手ってのは大事だよな。


「まぁ、悪くないからいいか。」


「そうじゃな、悪くない。」


「そういえばフリッグの様子はおかしくなかったか?」


「レンとの甘い生活を想定していたようじゃ。」


それくらいないつもやってる気がする。

あの悪寒はこのレベルじゃないはずだが、俺の気のせいか?


「妾も今更フリッグのことを好きになれとは言わぬ。

じゃが、もう少し気にかけてやるがよい。

あれは神じゃが中身はまだまだ子供じゃ。

自らの感情を制御できておらぬ。」


分かってはいるんだがそこに関しては本当に扱いが難しい。

加減を誤ると抑えているものが溢れ出しかねない。


「忠告は受け取っておく。

悪いが、フリュネからもフォローしてやってくれ。」



「ん~、遊んだわね。」


「はい、またいつか来ましょう。」


今度来るときは何もなければいいがな。

何度も使っていたらフリュネが王になってからが大変になる。

できるだけあれは使わないで済むようにしないとな。


「あっ、レン、ちょっといいですか。」


「どうした?」


「相談したいことがあるんです。」


この場面で2人になるのはかなり危険だがフリュネにも言われたばかりだからな。


「分かった。

他の皆は先に行っててくれ。」


「上手くやりなさいよ。」


簡単に言ってくれる。

この旅行の一番の厄介事かもしれないってのに。


「いったな。

それで、相談ってのは、っん!!」


「レン、レン、レン、レン、レン、レン、レン!!」


くっ、さっそく恐れていた事態が・・・


「お、んんん、ちつ、、んん、け・・・」


「もう駄目なんです。

抑えようとしても抑えきれません。

もうどうしようもないくらい好きなんです。」


「話を聞け!!」


「嫌です!!

また、そうやって私を丸め込もうとしないでください!!

苦しいんです、レンがミナやアリスに優しくしてるところを見るたびに心が締め付けられるんです。

お願いです、レン、私に同情してください。

私を助けてください。

私を抱いてください。」


そういうことを泣きながら言うなよ。

俺が女の涙に弱いってこともどこまでも甘いってこともお前が一番知ってるだろ?

お前の為にならないってことがわかってるのに俺は優しくなれないって知ってるだろ?


「嘘でもいいんす、ぐすっ、嘘でもいいですからぁ、うっ、愛してると言ってください。

私はミナみたいに聡明じゃないんです。

その嘘に騙され続けますから、ひっく、愛してるって言ってください。」


俺はまだまだ甘く見ていたな。

半年もの間この感情を抑えつけることがどれだけの苦痛だったか俺には分からない。

少なくとも泣き縋ってくるほどの苦痛だ。

それを俺の尺度で考えてずっと抑えつけさせてた。

まだ、自分の感情を制御する術を知らない子供に・・・


「フリッグ、俺はたぶん今から残酷なことを言うと思う。

それを拒みたいなら拒んでもいい。

その時はフリッグの望み通りにしてやる。」


俺は変わると誓った。

アースガルドでジンに対して犯した過ちを繰り返さないためにも俺はこの痛みを乗り越えなければならない。


「俺はアースガルドで過ちを犯した。

後に苦しめることになるとわかっていてもその場の罪悪感から、痛みから逃げたいばかりに無責任なことを言ってしまった。

その時はミナに本気で怒られて、俺なんかの為にここまでやってくれるお前たちに俺も変わろうと思った。

でも、やっぱり俺は弱いから今もフリッグを抱いてこの罪悪感から逃れたいと思ってる。」


ああくそ、こんな時でも本能が拒否する。

喉が渇く、目の前がちかちかする、体が震える、体に意思が引っ張られる。

本当に情けない。


「フリッグ、ちょっと抱きしめていいか?」


「は、はい。」


まったく、情けない。

こうでもしないとすぐに逃げてしまいそうになる。

フリッグは神であっても心は子供で、そんな心でずっと俺を支えてくれた。

その思いに報いるためにもいい加減に俺も負けられない。


「俺は弱くて脆い。

特に痛みに関してはひどく脆弱だ。

何をするにも自分を納得させる理由がなければそれだけで潰れてしまう。

たぶん、お前たちが支えてくれなければ俺はすでに発狂してたかもしれない。

だから、これからも俺を支えてくれないか?」


これからも今まで通りでいてくれと、今の気持ちを抑えてほしいと言ってるようなものだ。

それができなくて苦しんでいるフリッグにはあまりにも酷な言葉。

だから


「そして、俺もフリッグを支える。

はっきり言ってフリッグはまだまだ子供だ。

今まで対等に扱ってもらえず、俺に会ってようやく対等と呼べる関係を築くことができた。

だから、感情を上手く制御できてない。」


こいつのヤンデレもそこから来てるものだろう。

1万年生きてようやくできた関係だ。

それを奪われそうになると過敏に反応するのは当たり前だ。


「フリッグも俺と一緒に変わっていこう。

俺にはフリッグが必要だ。」


俺ができるのはここまでだ。

あとはフリッグ次第。


「・・・・・酷いですよ。

そんなこと言われたら頑張ろうと思っちゃうじゃないですか。

まだまだ、頑張れると思っちゃうじゃないですか。」


「フリッグは俺に騙されてくれるんだろ?

もう少し騙されててくれ。」


「レン、好きです、狂おしいほど愛してます。

その強さも弱さもすべてが愛おしいです。

だから、レンにもこうなって欲しい。

私しか見えないくらい好きになって欲しいんです。

だから、私を支えてください。

きっと、レンが振り向いてくれる私になって見せます。」


「ああ、こっちこそよろしくな。」


俺は少しは変われたんだろうか?

まだ、死にたいという思いは変わらない。

だから、大切なものを作らないようにしてきた。

だが、今の俺はこいつらを置いて逝けそうにない。

今までは、俺がいなくても悲しまないようにだったがこれからは俺がいなくても強く生きていけるように見守っていこう。

それは、最後に悲しませることになるがそれを受け入れられるよう99年と半年、こいつらと一緒に頑張っていこう。


side フリュネ


なんとかなったようなじゃな


「アリスはいつもお兄ちゃんに抱き着いてる。

だから、羨ましくない、羨ましくない・・・」


事情を知らなければどう見ても恋人同士じゃからなアリスやミナは羨ましい限りじゃろう。


「やっぱり駄目!!」


「待ちなさい、アリス!!」


「ミナおねえちゃんは羨ましくないの!!」


「羨ましいに決まってるでしょ!!

私だってレンにあんなこと言われてみたいわよ!!」


レンは弱みを見せぬからのう。

もしかしたらこれが初めでじゃなかろうか。


「ほれ、2人ともそろそろよいじゃろう。

あれ以上のことはおきぬはずじゃ。」


「分かってる、分かってるわよ。

でも、羨ましいのよ!!」


「うぅ、お兄ちゃん・・・」


レンも大変じゃのう。


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