ムスペルヘイム その③ 亀裂
side フリッグ
「いい加減に視線が鬱陶しくなってきました。」
「それは私もよ。
だけど、この方が効率いいんだから我慢するしかないわよ。」
レンが言った作戦はユーリアとジンを除く4人で適当にうろついて注目を集め、その中にいるかもしれない犯人をユーリアが見つけるというものです。
確かに、私たちはかなりの美少女ですからレンとジンがいないと声をかけたくなるのも分かります。
しかし、何度も声をかけられ、視線を感じれば鬱陶しくもなります。
私の肌を見ていい男はレンだけでいいんです。
それなのに肝心のレンはいません。
これはご褒美にキスくらいねだってもいいですよね?
思い返せば二ヴルヘイムのデートの時以来キスすらしてませんね。
そうしてる間にもミナとアリスは進展があるようです。
まったく、レンが女として見いいのは私だけとあれほど言ってるのに、ここは一度分からせてあげる必要があるようですね。
「もう日が暮れるわね。
今日はこの辺りにしましょうか。」
私の水着姿にはしっかりと反応がありましたから女としてはレンの中で問題ないはずです。
そうなるとやはりレンが死にたがりという問題ですね。
本当にどうやったら変わってくれるんでしょうか?
こっちの世界に来て半年、レン自身も変わろうとしているみたいですが簡単にはいかないみたいです。
これがある限りレンは絶対に私の想いを受け取ってくれません。
「ふむ、そうじゃな。
レンからの連絡を待つしかなさそうじゃ。」
でも、レンともっといちゃいちゃしたいです。
もうお互いのことしか見えないくらい、所構わずキスしたり、お互いに食べさせ合ったり、毎晩のように愛しあったりしたいです。
守りが堅い分、落としたらそれくらいやってくれそうです。
「お兄ちゃん・・・・・」
「大丈夫よ、アリス。
あのレンがそう簡単に負けるはずないわ。」
やっぱり最初はいいムードで、でも言葉で攻められながら激しく求められるというのも・・・・・
やっぱり私はMなのでしょうか?
レンに求められればなんでもできるような気がします。
恥ずかしいと思いますがそれが気持ちよくなりそうです。
でも、それはレン限定ですね。
レン以外に辱められでもしようものなら即殺です。
「ところでフリッグ、さっきから何やってるの?」
「レンとの甘い生活の過ごし方を考えてました。」
「正直なのはいいけど今考えること?」
「レンは私のすべてなのでいつでもレンのことを考えてます。」
もう、レンがいない生活なんて考えられません。
「・・・・もういいわ。」
「重症じゃな。」
「お兄ちゃんは渡さないよ。」
アリスはともかく2人から相当呆れられました。
でも、もう半年も片思いで相手はその想いを知ってて満更でもない感じなんですよ?
それにキスまでしてる関係で一緒に住んでるんですよ?
それなのに本人どころか夢の中までガードが堅いんですよ?
ちょっとくらい妄想しても許されるはずです。
「とりあえず今日は戻りましょう。」
side フリュネ
「明日も今日みたいにするんですか?
これでは見つからないかもしれませんよ。」
「そうねぇ、レンも言ってたけど最悪殺されてる可能性も捨てきれないからこれ以上は無駄かもしれないわね。」
「もう無理矢理に連れ出しちゃおうよ。」
ふむ、そろそろころあいじゃな。
これも外の人である妾の役目じゃろう。
「皆の者、少し妾の話を聞け。
今日の様子では明日も見つからぬじゃろう。
しかし、レンの無実を証明する方法はもう一つあるのじゃ。
のう、ユーリアよ。」
「裁判の時に私がレンさんの無実を主張するんですか?」
「それは無理じゃな。
そもそも、冤罪で拘束するつもりならその後のことなど予想済みのはずじゃ。
おそらくじゃが今頃レンに自白を強要されておる。
レンの自白があればそれで終わりじゃ。」
いくらレンでも拷問には耐えられまい。
「それは本当ですか!!
それなら今すぐ助けにいきます!!」
「落ち着くがよい。
レンを助ける方法はもう1つあると言ったはずじゃ。
それは、レンを犯罪者に仕立て上げようとしている王族を断定できれば助けることができる。」
ここまでいえば分かるじゃろう。
「それはユーリアさんがこの件に関わってるってこと?」
「そうじゃ。」
「いくら姫だからといって言って良いことと悪いことがあるぞ。」
「ジンよ、妾達のように上に立つ者が疑うべきはまず身内じゃ。
そもそもおかしいと思わぬか。
偶然にも1人でいるユーリアのもとにレンを嵌めようとしている者たちが絡み、それを偶然レンが見つけ、通りかかった警備の者に捕えられるなど出来過ぎておる。」
「それは本当?」
「・・・・・」
「アリスはお兄ちゃんの為ならなんでもするよ。
だけどお兄ちゃんを悲しませたくないから誰かを傷つけるようなことはしたくないんだ。
だから本当のことを言って。」
この魔力、また一段と大きくなっておる。
後数年もすれば妾でも歯が立たぬかもしれぬな。
「落ち着きなさい、アリス!!
フリュネも場を乱すこと言わないで!!」
「しかし、ミナ、フリュネの言うことは筋が通ってます。
これが本当ならレンを助け出せます。」
これだけの面子が共生出来ていたのもレンがいたからということじゃな。
だからこそ、ここでレンを失うにはいかぬ。
『あ~、なんだか騒がしいがなにかあったのか?』
「レン、お前から言ってやってくれ!!」
『落ち着け、ジン。
誰か冷静な奴、この状況を説明してくれ。』
「えっとですね。
フリュネがユーリアとレンを嵌めた敵と通じていると言ったんです。」
『あ~、そういうことか。
分かった、大体状況はつかめた。』
意外と余裕があるようじゃな。
拷問は妾の思いすごしだったかのう。
「どうなんだ、レン!!」
『落ち着いて聞け、フリュネの言ってることはたぶん本当のことだ。』
「レン!!」
『だから落ち着け。
これじゃあ話が進まない。
まったく、フリュネももう少し穏便に済ませることぐらい出来ただろう。』
「それは済まなかったの。」
妾も随分レンに頼り切っておったようじゃな。
『とりあえずだ、俺とフリュネの言ったことは推測でしかない。
だから本当のことを聞かせてくれないか?』
「・・・・・本当のことです。」
「ユーリア!!」
『だから落ち着け!!
お前はいい奴だがすぐに熱くなるのは悪い癖だぞ。』
「っ、悪い。」
『それにユーリアさんもジンの為にこんな裏切るような行為をしたんだろうからな。』
「何故それを!?」
『これでも嘘を見抜くのは得意でな。
ユーリアさんが演技でジンに近づいていないってことはここに来るまでに分かってた。
それなら、誰かを人質に取られてるってことだ。
まぁ、身内の誰かって可能性もあったがどうやらジンで正解だったようだな。』
妾ももう少し思慮を深める必要があったようじゃな。
それにしてもレンの嘘を見抜く能力は使えるのう。
ここにいる全員をまとめていることといいやはりレンを手に入れねば扱えぬか。
『それより、ユーリアさんを脅した奴は誰か分かるか?』
「それは・・・・・」
「どうしたんだユーリア?
誰がこんなことをさせたんだ?」
「ごめんなさい。
言えません。」
「なぜじゃ?
後にジンに何かしようものなら妾が息の根を止めてやるから心配はいらぬぞ。」
流石に今回の件だけでは失墜させることは難しいじゃろうからな。
『まぁ、そう簡単に信じろってのも難しいか。
仕方ない、それじゃあ最強のジョーカーを切るか。
フリッグ、ミナ、アリス、フリュネ、4人には少し働いてもらうぞ。』
「私たちは何をすればいいんですか?」
『宣戦布告だ。』
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