本当の理由
さて、自分より強い相手と戦う時は突っ込んだら負けだ。
わざわざ相手と同じ土俵に立つ必要はない、そんなことしたらあっという間にぱくりだ。
つまり受け身になりながらも相手の隙を窺い一撃で仕留める。
とは言ったものの、今は様子見のつもりか距離置いているが突っ込んでこられたら素人の俺がかわせるはずもない。
これらのことから導き出される結論は罠に嵌めることだが、そんな経験なんてあるわけがない。
もう1つは敵がかわせない状況を作ることだがさっきの雑魚とは違って易々と突っ込んできたりもしないのでそれも難しい。
これって詰んでね。
「頑張ってください。」
くそ、なぜこんなことに。
冷静に考えろ、あれがこちらに攻撃するにはどうしても接近する必要があるはず。
だが、罠を仕掛ける技術もなければそれに引っ掛かてくれる相手でもない。
さらにあれだけの巨体だ、仕留めるにはそれ相応の威力のあるものでないと話しにならない。
しかし、威力が上がると命中率が下がる。
さらに付け加えれば一撃で仕留めないと暴れ出して手がつけられなくなる。
それらすべてを考慮した作戦は・・・・
side フリッグ
はぁ~、真剣な目になっているレンは素敵です。
生きることに関してもあれくらい真剣になってくれればいいのに。
そして私の想いにも真剣に応えてくれて・・・・・・・
はっ!! トリップしてしまいました
レンの雄姿を見る機会なんてそう簡単にはないでしょうからここは見逃せません。
とはいえレンはどうするつもりでしょうか。
私なら力押しで片付けられますけど、レンは戦闘に関して完全な素人であれを仕留めようと思えばかなり限定されてた条件下でないと難しいはずです。
レンには肉を切って骨を断つといった戦法をとれば確実に仕留められると思いますが痛いのは嫌だと言ってからにはその戦法は取らないでしょうし。
そう考えれば私って相当な無茶ぶりですね。
まぁ、レンの真剣な目を見れたということで良しとしましょう。
何かあれば私が消せばいいだけですから。
side out
あいつを仕留める為の論理は組み立てた。
後はどれだけその論理通りに動けるかだが、いけるかなぁ。
どうして野草摘みにきただけでこんな化け物と戦わなきゃいけないんだよ。
愚痴ってもしかない、腹をくくるか。
「行くぞ化け物!!」
side フリッグ
「行くぞ化け物!!」
ついにやるつもりなんですねって、あれ?
いきなり木に隠れて乱射ですか?
あんな威力じゃ効かないってことくらいさっきの戦いで分かってるはずなのに。
どんな作戦かお手並み拝見ですね。
side out
よし、狙い通りこっちに向かってきたな。
ここは森だ、隠れるところなんてそこらじゅうにある後は木を転々としながら・・・・・
「嘘だろ・・・」
さっきまで隠れてた木がへし折れた。
どんな威力してんだよ。
まずいなこのままじゃいずれ追い詰められる。
少し早いが始めるとするか。
side フリッグ
木を折られたことにレンが驚いています。
そんなに予想外のことだったんでしょうか、レンは初心者だから仕方ありませんか。
どんどん木がおられて隠れる場所がなくなってきてます。
どうするつもりですかレン。
そう思った時大きな音を立てて木が爆発した。
side out
仕掛けは単純、死角となっている木の裏側に衝撃で爆発する爆弾を作る。
流石に木を折ってくるとは予想外だが誤差の範囲内だ。
「あれくらいで仕留めさせてくれないよなぁ。」
俺が巻き込まれないため高威力の物ではないとはいえ仕留めるどころか傷一つ付かないか。
元々あれで仕留められるとは思っていないがほんとに倒せるのか疑問に思えてきた。
あ、また木が折られた。
手当たりしだいな、それも狙い通りだが見ているだけで寒気がする。
あれ喰らったら体の一部が吹っ飛ぶな。
そういえばそうなったらどう言うふうに治るんだ?
吹っ飛んだ部分が元に戻ってくるのか再生するのか、どっちにしても嫌過ぎる。
お、また掛かったな、これで5つ目。
俺の作戦通りならそろそろだな。
side フリッグ
レンの狙いがまったく分かりませんね。
今のレンにあれを仕留められるほどのこう威力の銃を当てることは難しいはずなので、こう威力の爆弾を仕掛けた方が多少の被害は出るでしょうが確実なはずなのにあんな目くらまし程度の物しか使っていない。
冷静さを失わせることは悪いとは言いませんが獣相手では予想外に暴れたり逆効果になることもあります。
また、これで7つ目。
そろそろ隠れるところがなくなってきました。
そろそろ私が・・・・えっ!?
動きが止まった・・・・・
side out
読み通りだ。
最初に対峙した時、警戒するために様子見をするくらいだ。
初めて戦った雑魚とは違ってまともな知性がある証拠。
たとえ言葉が通じなくても学習させることはできる。
良い例としては犬だな。
言うことを聞けば餌がもらえる、そういうふうに教育すれば犬は餌の為に言葉が伝わらなくても人の言うことがある程度なら分かる。
つまりこの場合では木に衝撃を与えれば爆発し傷はつかなくとも痛むから学習して、木に衝撃を与えないようにする。
そしてこの時の為に効かないと分かっていても威力の低い銃を乱射し止まっていてもダメージはなく俺の場所を見極めることができると思いこませる。
そして止まっている相手になら威力の高い銃でも当てることができる。
「終わりだ、くたばりやがれ化け物。」
side フリッグ
凄いです。
どんな手を使ったか分かりませんが魔物の動きを止め、高威力の銃を当てました。
でも惜しかったですね、一発で仕留められなければもう動きを止めることはないでしょう。
さらに素人だから仕方ありませんが、当たったとはいえ致命傷には程遠い一撃、あれでは魔物も生きる為に最大の力を発揮しようとするはず。
そうなればレンに勝ち目はありません。
善戦でした、後は私が・・・・って、動きませんね。
まさか、本当にレンが仕留めちゃったんですか?
side out
これが最後の不安だったが効いてよかった。
そもそも見つからないように背後から射撃して一撃で仕留められるほど俺は熟練者じゃない。
それを考慮した上で弾に麻酔薬を塗り込んで仕留める。
人間追い詰められればなんとかなるもんだな。
俺がこの化け物を仕留めたなんて自分でも信じられん。
「レン!!
どうやって動きを止めたんですか!!
どうやって仕留めたんですか!!」
俺のような素人でも思いつくようなことを理解できないのか?
いや、神にこんな小細工は必要ないのか。
結局、こんな小細工は弱い奴が強い奴に勝つための物だからな。
こいつの場合小細工もろとも消し去りそうだからな。
「教えてくださいよレン!!」
「黙れ!!
あんまり騒ぐとこいつが起きるだろうが。」
「えっ!?
殺してないんですか?」
「俺みたいな素人が背後からの致命傷の部分なんて分かるわけないだろうが。
ただの麻酔薬で眠ってるだけだ。」
「じゃあどうやって動きを止めたんですか?」
説明がめんどくさいな。
そういえばこいつのせいで無駄に疲れたんだったな・・・・少しからかうか。
「レン!!
教えてく「黙れ。」ひゃ!!」
女ってやっぱり柔らかいんだな。
それにいい匂いもするし、これがこいつじゃなきゃ最高なのに。
「れれれれれれれれれれれレン!!!!!」
「黙れ。」
side フリッグ
あわわわわわわわ、突然抱きしられるなんてもしかしてようやくレンが私のこと
「これがさっきの質問の答えだ。」
えっ?
「えっと、どういうことですか?」
「お前は俺に抱きしめられて俺の言うことに従ったよな。
それはなぜだ。」
それはせっかく抱きしめてくれたんだからレンが機嫌を損ねて離れて行かないようにですけど、それとどう関係が?
「もう一つヒントだ。
俺はお前が黙らなければすぐに離れるつもりでいた。」
それなら私は絶対に黙ります。
黙ってなかったらこの幸福感が離れて行くと分かり切っているのにそんなことするはずが、あっ!!
「気付いたか?
どんな行動を起こせば良いことが起きるか悪いことが起きるか分かりやすく示してやれば誰だって悪いこと起きる方は選びたくないよな。
それはそこの奴も同じだ。
俺はそれを利用して下手に動けば爆発するということを示し、心理的に動きを制限した。
それに最初の様子見の時に攻撃されても痛みはあってもたいしたことじゃないと先入観を持たせることで二重に心理的制限を加え動きを止めたんだ。」
す、すごいです。
こんなことをあの瞬間に考えるなんて
「レンって死ぬ前に何かやってたんですか?」
「なにも。
人間いざとなればあれくらいのことはできる。」
初めてあの大きさの魔物を見たらうろたえるだけであんな考え浮かびませんよ。
流石レンです。
ますます好きになってしまいました。
そういえば起きる前にこれを始末しないと。
「寝てる間に殺さなくていいんですか?」
「どうして殺す必要があるんだ。」
そう言われればそうですけど、自慢したいとかないんですかね。
「俺は無駄な殺生が嫌いなんだ。
殺さずに済むならそれに越したことはない。」
「優しいんですね。」
殺されそうになった相手にそんなことを言えるなんて
「なにを勘違いしてるか知らないが、少なくとも俺は優しくはないぞ。
こいつを殺さないのもすべて俺の為だ。」
「どういうことですか?」
「知ってると思うが俺は死にたがりだ。
そんな奴の為に失われる命があったら可哀相だろ。
それに俺自身に他の命と同等の価値など感じない。」
レンはなにを言っているんですか?
まったく理解ができません。
「例えば俺を助けようとして助けようとした奴が怪我をするとするだろう。
その時俺に浮かぶものは感謝じゃなく怒りだ。
どんなつもりかは知らないし、知りたくもないが俺の為に怪我をされるなんてとんだ迷惑だ。
誰だって石ころの代わりに宝石を傷つけられたら嫌だろ?
それと同じだ。
死にたいと願っている俺なんかの為に生きたいと願っている奴が怪我をするなんて馬鹿らしいにも程がある。
さっき殺した魔物だって俺が死ねなければ殺されてもよかったぐらいだ。」
なんなんですかそれは・・・・・・・
どんな生き方をしたら20年も生きていないのにそんな考えに至るんですか。
「どうして、どうしてそんなに死にたがるんですか?」
「言っただろう、人生に満足していたからだ。」
「それなら、もっと別のことで満足しようとは思わないんですか?」
レンはまだまだ若い。
1つのことで満足してもまだまだやれることはたくさんあるはずなのに。
「ないな。
そもそも俺が満足したことは平和な日常だ。
なにも変わらず緩やかに過ぎ去って行く日常。
それが俺の幸せだ。」
「それならどうしてその幸せを手放そうとするんですか!!」
分かりません。
私が話している相手は本当に人間なんですか?
会話が成立していることが逆に怖い。
「言っただろう満足していたからだ。
いや満足しているだな。
常に幸福な時間だったら誰だってそれを幸福とは思えなくなる。
良い例が離婚する夫婦だ。
結婚した当初は幸せの絶頂だとしてもそれが毎日過ぎて行くと幸せを感じなくなる。
そうなったら新しい幸せを求めて離婚しようとするだろう?」
「なら、どうしてレンは新しい幸せ求めようとしなんですか!!」
レンが言った通りなら平和な日常を抜け出して危険が付きまとうファンタジーの世界へ行こうとしてもおかしくないのに、どうしてそんなに拒むんですか。
「幸せが幸せでなくなる。
これがどういうことか分かるか?
それはたぶんとても恐ろしいことだと思う。
だからこそ俺は幸せが幸せであるうちに死にたい。」
これが、これがレンが死にたがる本当の理由。
あまりにも単純で、あまりにも強固な理由。
「レンは何を支えに生きてきたんですか。」
常に付きまとう喪失への恐怖。
そんなものを感じながらどうしてそんなに正気でいられるんですか。
「死だ。
なにも考えることもなく、なにも存在しない絶対の無。
死への憧れだけが俺を支え、正気を保ってきた。」
「どうしてそうなってしまったんですか・・・」
そんなに歪んでしまったからには理由が必ずあるはずです。
それさえ解決できれば
「普通に生活していただけだ。
普通に学校に通って、部活で友達と過ごして、肉親はいなかったが普通の家族と暮らしてこの結論に至った。」
そんな・・・・
当たり前の日常を過ごしながら当たり前の日常に幸せを感じてしまってるだけだなんて・・・・
これじゃあ、レンが生きたいって思わせるなんて
「俺も1つお前に聞きたい。
お前は本当に俺のことを好きなのか?」