最悪の真実
「・・・・・どういうことかな?」
「最初に言っとくがこれは鎌かけじゃない。
あくまで推測だがこの仮説ならお前がやった不可解な行動にも納得がいく。」
さぁ、解答編だ。
その仮面はぎ取ってやる。
「まずこれは確認だが俺がお前を銃で撃つとしよう。
そうなればお前は銃弾が当たらない未来を作るよな。」
「・・・・そうだね。
痛い思いをするのは誰だって嫌なことだからね。」
そう余裕ぶっていられるのもいまのうちだ。
「つまり、お前は俺がお前に対して銃を向けている状況を知っておく必要がある。
もっともお前が俺に銃を向けられる未来を作ってるというなら話は別だがな。」
「随分回りくどい言い方をするね。
何か言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだい?」
「いいだろう。
俺の仮説の結論、それはお前は未来を作ることなんてできない。
お前に出来ることは未来を予知することだけだ。」
今思えばかなり単純なことだったんだがフリッグが与えた情報のせいで変な先入観が生まれてたな。
まったく、自分で言ったことだってのに。
「でもそれはおかしくないですか?
彼は私から逃げることができたんですよ。
いくら私の動きが視えていたとしてもあんな罠を仕掛けられるものなんですか?」
「それについてはフリッグが言っただろう?
未来予知ってのは数多ある未来を視通す力。
それは情報があってこそ初めて役に立つ。
こいつはこの計画を始めてから起きる未来を視た。
それも世界から読み取れるほどの力の持ち主なら俺たちが来ることを予知できてもおかしくない。」
「なるほどね。
私たちが来ることが分かっていれば私たちのことを調べて私とレンが弱点となりうることくらい簡単に想像できる。」
さっきの俺のことを知っているかのような会話もそれで納得がいく。
いくら俺が裏で動いてるとはいえ最近は目立つ行動があったからな。
そうなれば必然的にアルフヘイムの2つの事件のことに行きつく。
そこで誰も殺してない、甘い措置ばかり取っていれば俺の性格くらい把握できるだろう。
「その通りだ。
それに頭が切れる奴ならある程度俺たちの動きを予測することもできる。
それでなくとも俺たちがどう行動するか予知すればいいだけだしな。」
「やれやれ、やはりこうなってしまいましたか。
こうならない為に可能な限り手を打ったんですが覆すことができなかったようですね。」
よくもここまで嘘を真実に見せられたものだ。
さっきまで話していたこともすべて真っ赤な嘘。
真実を曲げれば必ず歪み発生する。
それが矛盾として現れるがそれも最小限に留めてる。
こいつは根っからの詐欺師だな。
「予知した未来ではこの先どうなってるんだ?」
「『妖精の導』を破壊されますよ。
なので最後の悪あがきといきましょう。
レン・カザミネ、君に私の願いを壊せますか?」
「この期に及んで今更世界平和の素晴らしさを説こうってのか?」
「いえ、私の本当の目的は未来を変えることですよ。」
「それくらいいつもやってるだろう?」
未来予知で見れるものはあくまで可能性の1つ。
実際、俺たちのことを調べなければあの場で捕えることだってできたはずだ。
「ええ、確かに君が私を撃ったという未来が在ったとしても私がそれをかわせば未来を変えているということにはなります。
しかし、世界には大きな流れ、俗に言う運命という物があるんですよ。
どれだけ私がその流れを乱そうとしても世界はそれを修正し、乱そうとする者を排除しようとする。
君たちが私を止めようとしていることも世界が定めた未来なのかもしれませんね。」
「そんなことしてどうするつもりだ?
未来なんて大多数の人には見えない。
例え運命に流されていようが人が生きていく上で何の支障もない。」
「確かにそうです。
例え未来が視える者であっても支障はないでしょう。
しかし、先ほど私は作者であり読者といいましが私は生粋の読者です
私は今の世界がたどる物語を読み終わってしまった。
だから、私は流れからはずれ、新たな流れが紡ぐ物語を読みたい。」
「その為の『妖精の導』か?」
「街と街を繋ぐ街道があるように流れにもたどるべき道筋があります。
『妖精の導』があれば街道に別れ道があるように流れがたどる道筋にある分岐点を視ること出来ます。
その分岐点さえ分かればやりようはいくらでもあるんですよ。」
これが真実か
「あんた最悪だな。」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。」
流れが外れた世界がどうなるかも分からない、それ以前に多くの人の命を奪ってる。
その目的が物語を読みたいから。
そんなことの為に世界全てを巻き込むことができる精神。
まともな思考回路じゃ到底たどり着けない結論だ。
「さて、私の目的は話しました。
改めて尋ねましょう。
君に私の願いを壊せますか?
いえ、君に私が殺せますか?」
こいつは殺さない限り、また流れを外すために別の方法を考えるだろう。
その度に多くの人の命が奪われ、その中に俺の知ってる奴が入る可能性もある。
だが・・・・・
「流れからはずれ、新たな流れをたどる世界は私にも予知できません。
しかし、その流れが今より悪くなると言えますか?
それに、私が流れを読み終わるまで数十年かかりました。
『妖精の導』を使ったとしても流れを変えることができるのは数年後、もしかすれば十年以上後のことかもしれません。
その後、流れを読んだとして次に流れを変えようとした時には私は死んでいるでしょう。
そもそも流れを変えることができないかもしれません。
しかし、私が奪った命はもう戻らない。
それならば、『妖精の導』を破壊せず私のことを黙認しておくのも悪くないでしょう。
『妖精の導』さえあれば分岐点を変えること以外で命を奪うこともない。」
世界の均衡を保つ神が何もしてこないということは流れを変えたところで世界の均衡は崩れないということ。
ただ、たどる未来が変わるだけ。
「しかし、『妖精の導』を破壊すというのなら私は新しい方法でアプローチをします。
その過程で再び命を奪うこともあるでしょう。
だが、君はそれを容認できない。
ならば私を殺すか、このまま黙認するかどちらかしかない。」
「好き勝手言ってるけど私たちが貴方を殺すことだってできるのよ。」
「確かに、実際に私を殺すとなればそこのお嬢さんがやるでしょう。
しかし、たとえ彼女が殺すことになったとしても彼は自分を責めることになりますよ。」
「っ!!」
この詐欺師め、俺の性格を理解したうえで言葉を選んできやがる。
「レンよ、妾が命じてやろう。
その男を殺せ。」
「その時はアリスたちのせいにしてもいいんだよ、お兄ちゃん。」
「どうしてここに?」
「してやられての。
下っ端を囮にして逃げおった。」
堂々と言うな。
完全に『ニーズヘッグ』から注目されることになるだろうが。
「レン、例えレンがあいつを殺したって引っ張ってきたのは私なんだからレンの責任ばっかりってわけじゃないんだからね。」
「それに実際に殺すのは私ですしね。」
まったく、お前等格好良すぎだろう。
俺の男の立場0だな。
「フリッグ、『妖精の導』を破壊してくれ。」
「分かりました。」
「フリュネ、その男を絶対に逃げられないよなところに閉じ込めれるよう手配を頼む。」
「いいじゃろう。」
「ふふっ、どこまでも甘い判断だ。
もし私が脱獄したらどうするつもりだい?」
「その時はまた相手してやるよ。
その度にお前の願いを壊してやる。」
俺だって人を殺したくない。
なにより、こいつ等に人を殺させたくない。
こんなことでしか俺がこいつ等を守ってやれる方法はないしな。
「本当に君は面白い。
君のこれからの未来には第二、第三の私が現れるだろう。
君はその度に背負って行くつもりかい?」
お前は本当に魔王か。
それに未来予知ができるお前が言うと洒落にならない。
「それが俺に出来るこいつ等を守る方法だからな。」
「では、改め尋ねましょう。
君に私の願いが壊せますか?」
「ああ、あんたの願い俺が壊してやるよ。」




