二ヴルヘイム その⑤ 神船『フリングホルニ』
まぁ、突然現れた怪盗があれじゃ誰だって黒幕の存在を疑うな。
問題はどうやって古代魔法なんて力を与えたかだ。
ここにいる3人は規格外すぎるから相手にならなかったが俺が見る限りまともな人じゃあれは防げない。
「取引をしよう。
『堕天使の楔』を渡してくれるなら君たちが知りたいことと私が出来ることなら望みも叶える。」
「断ると言ったら。」
「力づくで奪うことになる。」
あれを見ても力づく奪えると言えるってことは相当腕に自信があるみたいだな。
こっちにはフリッグがいるから負けることはないが無駄な戦闘は避けるべきか。
「渡すかどうかは今からする質問に応えてもらってからでいいか?」
「・・・・・・いいだろう。」
「1つ目、これはなんだ?」
俺が見てもただの剣にしか見えないものをあれほどの奴が求めるってことはただ危険な物だけってわけじゃないはずだ。
「それは『フリングホルニ』という船を動かすための鍵だ。
今まで盗ませていた物もすべてその船を動かすための一部であり、その剣が最後のピース。」
「レン、『フリングホルニ』とはバルドルという神が所持していた船の名です。
とある事情で行方不明となっている物なんですがもしかしたら本物かもしれません。」
まさか、神の船とは。
もし、それが本物だとしたらこいつの正体は・・・・
「2つ目だ、その船を使って何をするつもりだ?」
「ただ、見たいだけだ。
遥か昔、『鮮血の女神』と呼ばれる神に落されるまで難攻不落といわれ何人も動かすことすらできなかった最強の戦艦という物を。」
まさか、こんなところでフリッグの武勇伝を聞くことになるとは・・・
確かにこのことを知っていれば絶対に盗まれたくなかったってのも納得だ。
「最後の質問だ、あんたは神か?」
「いかにも。
神といっても元だがな。
今の私は神の役目を放棄し数多の世界に存在する神器を見て回っているだけの存在だ。
だが、これでも追われの身なのでな目立つわけにはいかない。」
「それで、人に力を与えて回収させてたってわけか。」
確かに、それなら突然現れた怪盗がここまで力を持っていることに納得できる。
問題は本当に渡していいかどうかだ。
「さぁ、それを渡してもらおう。」
「最後って言ったがもう1つ質問だ。
そいつのことを出来そこないといったがどういう意味だ?」
「意味も何も言葉の通りだ。
あれだけの力を与えたというのにまったく使いこなせていない出来そこない。
それ以上の意味などない。」
使いこなせていないかどうかは分からないが、腰抜かしてる様子を見ると言ってることも分かる。
「最後といって何度も悪いがこれが本当に最後の質問だ。
あんたは見たいだけといったがその後どうするつもりだ?」
難攻不落の戦艦というくらいだ。
そのままにされて、誰かがそれを利用したらフリッグ以外に止められないからな。
「ふむ、私は1度見ればそれで満足だからな。
その後は好きにして構わない。」
「分かった。
ただし、妙なことをすれば問答無用で沈める。」
「愚かな。
人の身で落とせるならば難攻不落などと呼ばれてない。」
「それは心配に及びません。
私が『鮮血の女神』ですから。」
「ま、まさかこんなところで会えるとは!!」
それにしても本当に有名だな。
本当に何をしたんだ?
「これは下手のことはできないようだ。
では、君たちも来るといい。
彼女がいるということは私が去った後に沈めるつもりなのだろう。
『フリングホルニ』、最期の姿を見るといい。」
side フリッグ
まさか、この船をまた見ることになるとは思いませんでしたね。
完膚なきまでに壊したつもりでしたが伊達に難攻不落は語っていませんでしたか。
「時に姫君、私はあの事件の時にはまだ生まれていなくてね。
『鮮血の女神』と呼ばれた姫君の力を知らない。
『フリングホルニ』を沈めるところを見ていても良いかな?」
「別に構いませんよ。
その代わり、少し力を使いますので他の神に見つかりますよ?」
「それについては心配せずとも大丈夫だ。
姫君でさえも私が神であることには気付かなかった、そう簡単には気付かれないはずだ。」
確かに、この私が神力を感じ取れないほど神力を遮断していれば気付ける者などいても少数でしょう。
「レンたちはここにいてください。
あれを沈めるとなると少々本気を出さないといけないので。」
「分かった。
もう2度と動かせないくらいばらばらにしてきてくれ。」
レンの頼みとあらばただ沈めるだけでは駄目のようですね。
「では、行ってきます。」
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「ここは・・・・・」
「ここは私が創った世界。
これが私が『鮮血の女神』と呼ばれる理由の1つですよ。」
前にも説明しましたがこの世界のルールは私の望むままになります。
あの時は、神力、魔力共に私以外はすべて使用できなくしました。
まぁ、今回はただ崩壊に耐えられる世界ということになっているんですけどね。
「素晴らしい。
これが姫君の力か。」
「では、沈めますよ。」
これを抜くのはあの時以来ですね。
「それは!!」
「これが『鮮血の女神』と呼ばれた本当の理由ですよ。」
聖剣・グラムと魔剣・ダーインスレイブ、この2振りの剣で数多の神を殺し、その返り血で刀身を赤く染め上げたからこそ『鮮血の女神』と呼ばれました。
いくら神力、魔力を封じようとも神には神器がありますからね。
それを相手取るにはこちらもそれ相応の武器を用意する必要がありました。
それが、グラムとダーインスレイブ。
両方とも神界にある中で最高峰の神器です。
「それが、伝説言われるグラムとダーインスレイブ・・・・・
素晴らしい、まさかその2振りを見ることが出来ようとは!!」
他にもいろいろな神器は持っているんですけどね。
私を襲ってきた神を殺した時に奪ったものですけど、かなり有名な物も含まれてます。
ちなみにダーインスレイブはその1つです。
魔力を持たない神がこの剣の魔力に囚われて暴走していたところを殺して奪い取りました。
「もう2度と見れない光景かもしれないので目に焼き付けておいてくださいね。」
私がこの2振りを抜くときは最古参レベルの神でないと相手にすらなりませんからね。
side out
「今回は地味だったわね。」
神の戦艦を見て、それしかないのか?
「妾はそこそこ楽しめたから満足じゃ。」
本当に哀れだなダークハートは。
あの後、フリッグが戻ってきてあの神はそのまま他の世界に旅立った。
ダークハートは警備に突き出して『堕天使の楔』も返したんだが『フリングホルニ』を動かすためにその力を使い果たしたそうで今はただの剣となってる。
「まぁいいわ。
今回は思わぬ収穫もあったことだし。」
そうなのだ。
あの神がダークハートに与えていた古代魔法が使えるようになる宝石を
「いいものを見れたお礼としての対価だ。」
と言って俺たちにくれた。
ダークハートにそのまま持たせておくとまた同じことになるから俺たちが持っておくということになったんだがフリッグにそんなもの必要はないし、フリュネは魔力を持っていない、アリスはある程度見たから必要なし、俺は使おうにも魔力が足りなすぎる、そんなわけでミナが持つことになった。
古代魔法ってのは古代の戦争時に使われていた魔法で主に攻撃系統の魔法で周囲の魔力を利用するものばかりだから、ある程度の魔力があれば誰でも使えるらしいが、最終的にはどれだけ制御できるかになるらしい。
魔法の腕は一級のミナがそれを持てば鬼に金棒、流石にアリスやフリュネには勝てないがそれでも人外の力を得たことになる。
「これで私もレンを守ってあげられるわね。」
「それには及びませんよ。
私がいる限りレンには傷一つ負わせませんから。」
「アリスもいるから近づくこともできないと思うよ。」
「このメンバーで戦争を仕掛ければ3日で国を落とせそうじゃ。」
俺の男としての立場は皆無だな。
本格的に俺も新しい職を探さないと。
このメンバーの中にいたところで足手まといにしかならないからな。
「そう落ち込むでないぞ。
このメンバーが強すぎるだけでレンが弱いという訳じゃないのじゃぞ。」
「それは嫌みか」
こいつが俺を慰めるなんて気持ち悪い。
明日は槍の雨が降らないか心配だ。
「いやいや、これだけ迫られて手を出さない、戦いでは後方支援と男としてどうなのかと思っただけじゃ。」
前言撤回だ。
やっぱりフリュネはフリュネだな。
「やっぱり追い出すかどうか考えた方が良いようだな。」
「まぁ、そう言うでない。
これくらい挨拶じゃ。」
こんなイライラさせられる挨拶なんてあるか。
はぁ、フリュネを相手にしてると疲れる。
二ヴルヘイムも今日で最後だからもう少し見ておくとするか。