二ヴルヘイム その④ 鬼ごっこ
「おい、本当に消えたぞ・・・・」
街を一望できる所から双眼鏡で姿を捕えてたはずなのに、突然見失った。
「ふん!!」
からかいすぎたか・・・・
キスするのもダークハートを捕まえようと言ったのもミナなんだから多少のことは許して欲しい。
「悪かった。
だから、ダークハートを探してくれ。」
こういう時は素直に謝っておいた方がいいか。
でも、フリッグやミナのこういうところを見るとどうしても加虐心が湧くんだよな。
アリスにそんなことできるはずないし、フリュネなんかは皮肉を返してきそうだ。
「絶対、いつか見返してやるんだから。」
駄目だ、またいじめたくなってきた。
だが、真面目にやってないとフリッグたちに気付かれるから我慢しよう。
「他の場所に転移するって難しいのか?」
「空間転移の魔法は既に失われてるはずよ。
使えるなんて人がいるなんて聞いたことないけど。」
しかし、そうとしか思えない消え方だった。
「いた!!」
「どこだ!?」
「いま、フリュネの方に向かってる。」
「分かった。
フリュネ、聞こえるか?
いま、ダークハートがそっちに向かってる。
空間転移のようなものを使うから気をつけろ。」
『それは面白そうじゃの。
捕まえていろいろ吐かせたいものじゃ。』
せめて、話を聞くという表現にしろ。
side フリュネ
「どうやらあれのようじゃの。」
妾の娯楽のために頑張ってもらうとするかの
「そなたがダークハートじゃな?
大人しく捕まってもらう。」
「・・・・・・」
何もしゃべらぬのか?
つまらぬな。
「妾が逃がすと思っておるのか?」
少々足が速かろうと逃げ方が上手からろうとそんな小細工が通用しない相手がいることを教えてやるとしよう。
「!!」
鬼ごっことは久しぶりじゃの。
神力で強化した妾が負けることなどないがの。
「どうしたのじゃ?
お得意の空間転移は使わぬのか?」
「・・・・・」
ほう、本当に空間転移を使えるものがいるとは驚きじゃが
「その程度で逃げられると思っておるのか?」
神力を広げれば最大半径5kmまでなら誰がどこにいるくらい把握するくらいお手のものじゃ。
「さぁ、妾を楽しませて見せよ。」
そして、神力で強化した体なら空を蹴ることも可能じゃ。
簡単に言うと空を飛ぶことができるということじゃな。
「見つけたぞ。」
「!!」
「ほう、妾と戦うつもりか?」
『ディヴァイン・セイバー』
ほう、これは古代魔法。
確か、大気中の魔力を圧縮し放つ、空間転移と同じく失われた魔法のはずじゃが
「その程度か?」
その程度の魔力密度ならアリスの方が10倍は強い。
古代魔法の使い手とは面白者じゃがこの程度の実力者ならその辺に五万とおる。
「!!」
まだ逃げるか。
「よかろう。
どこまでも相手になるぞ。」
どうやらあの方向はアリスがいる方向じゃな。
挟み撃ちで捕まえるとするかの。
「アリスよ、ダークハートがそっちに向かっておるようじゃ。
妾も向かう、挟み撃ちにして捕まるとしよう。」
『分かった。』
それにしても真祖の吸血鬼を良くもここまで手懐けたものじゃ。
アースガルドの王宮騎士など束になったところで妾には勝てぬが、アリスと本気で戦えば妾もただでは済まぬじゃろう。
そして、アリスはレンに懐いておるし、なおのことレンを敵に回せぬな。
side out
side アリス
あの黒いのがダークハートみたいだね。
「あなたがダークハートだよね?
アリスはどうでもいいんだけどお兄ちゃんのお願いだから捕まえさせてもらうね。」
「!!」
お姫様は何をしたんだろう?
凄く怯えてるようだけど。
「逃がさないよ。」
その程度で逃がすはずないよ。
それに、せっかくお兄ちゃんと2人きりなれるチャンスを潰されてアリスもちょっと機嫌が悪いから遊ばせてもらうね。
『エンシェントフレイム』
へぇ、アリスが知らない魔法だ。
これがミナお姉ちゃんが行ってた古代魔法。
『ブラッティランス』
ちょっと面白くなってきた。
炎属性の魔法に浄化の効果が付いてる。
それもかなり強力な、でもその程度じゃアリスには効かないけどね。
すぐに倒すこともできるけど、もう少し古代魔法を見せてもらおう。
『アブソリュートエンド』
次は絶対零度で凍らせてばらばらに砕く古代魔法。
アリスは見た目は、人間と変わらないんだけど根本の構造が人間とは掛け離れてるから絶対零度の中でも普通に生活できるんだよ。
『ブリザードテンペスト』
無数の氷の刃を暴風が同時に襲ってくる風と氷の混合魔法。
ここまで多彩に使えるって中々の術者だけどもういいや。
『エンシェントフレイム』
「!!」
古代魔法って言ってもこんなものなのかな?
確かに、普通の魔法より強い気がするけど範囲が広すぎて使いどころが悪い。
「どうしたの?
ああ、こんなに近くで術式を見たらそれを真似ればいいだけだからアリスだって使えるよ。」
とは言っても、こんなことアリス以外で出来る人なんてアリスが知る限りお姉ちゃんしかいないけど。
「っ!!」
本当に空間転移が出来るんだ。
あればっかりは一回見たくらいじゃ難しいかな。
まぁ、気配は覚えたから逃がさないけどね。
「ようやく追いついたようじゃな。」
「もう逃がさないよ。」
「っ!!」
後はお姉ちゃんの方に追い込めば捕まえたも同じだね。
「いい加減、飽きてくるものじゃの。
そろそろ終わらせるとしよう。」
「アリスも古代魔法は面白かったけどもういいや。」
あ、また逃げた。
でも、狙い通りお姉ちゃんの方に行ったからいいか。
「妾達も行くとするかの。」
「そうだね。」
それにしてもこのお姫様、アリスについてくるって本当に人なのかな?
side out
終わったな。
あの2人にしたら空間転移だろうが古代魔法だろうが意味ないな。
「少しダークハートには同情するわ。」
まったくだ。
「空間転移ってのは物は移動させられないのか?」
「さぁ、空間転移なんて使える人なんて見たことないから詳しいことは分からないわよ。」
まぁ、あの様子からなら自分以外は出来ないみたいだがな。
そんなことが出来ればアリスたちを他の場所に飛ばせば逃げられる。
そうなると、わざわざ姿を見せてるのは力を誇示したいだけか。
「案外小物だったわね。
私も勘が鈍ったのかしら。」
そうだといいんだが、そんな小物が古代魔法なんてものを使えるのか?
それに盗んでいる物が物だ。
これは裏になにかいそうだな。
「もう、私たちも行きましょうか。
ダークハートもフリッグの所に追い詰められてるみたいだしこれ以上は逃げられないでしょう。」
「そうだな。
一応聞いとくが、捕まえた後はどうするつもりなんだ?」
「さぁ? その場の流れ次第よ。」
それくらい考えておけよ。
まぁ、いざとなれば警備に突き出せばいいだろう。
side フリッグ
どうやら来たみたいですね。
私とレンの邪魔をした報いは受けてもらいましょう。
「ようこそ、ここが貴方の終着点ですよ。」
どうやら、後ろからアリスとフリュネも来てるようですね。
「っ!?」
「ああ、ここでは空間転移はできませんよ。
少し空間を閉じさせてもらいました。」
「どうやら鬼ごっこも終わりのようじゃな。」
「早く帰ってお兄ちゃんに暖めてもらいたい。」
「アリス、私が暖めてあげますからレンは駄目ですよ。」
「もう、お兄ちゃんと約束したよ。」
くっ、可愛い妹と思っていたら本当に油断ならない相手のようです。
まぁ、レンはアリスを妹としか思っていないので今はいいでしょう。
「仕方ありませんが、手を出してはいけませんよ。」
「アリスも最初は奪って欲しいから、そこは大丈夫だよ。」
「そういう話は捕まえてからにせよ。」
そういえば忘れてましたね。
もう、正直どうでもよくなってきましてね。
さっさと警備に突き出しましょう。
「な、なんだよお前等!!
俺は危険な物を安全にしようとしてるだけなんだぞ!!
邪魔するな!!」
「そんなもの知らぬ。
これは妾の娯楽じゃ。」
私が言うのもなんですがかなり横暴ですね。
「っ!! 『メテオストライク』」
まったく、こんな素晴らしい街にあんな物を落とすなんてどうかしてますね。
『クリア』
「ああぁ・・・・・」
こう言ってはなんですが、どれだけ凄かろうと所詮は人が起こすもの。
神である私が処理できないものなんてありません。
「どうやら捕まえたようだな。」
side out
「どうやら捕まえたようだな。」
これで一件落着か。
「まったく、所詮は出来そこないということか。」
「あんたが黒幕ってことか?」
もうお出ましとは・・・・
「いかにも。
私がそれに美術品を集めさせてた者だ。」