二ヴルヘイム その② 怪盗、ダークハート
side フリッグ
結局あの後はあれ以上のことはなく皆の所へ帰ってその日を終えました。
ただ、帰ってからのレンは私に対してまた壁を作ったんですけどね。
前から私には一枚壁を置いていたんですけどさらに増えたようです。
でもそれは、壁を置かないと私に心を奪われることを恐れているという証拠でもありますから喜ばしいことでもあります。
それにしても、怪盗だか何だが知りませんがもう少しでレンを落とせたというのに良くも変な騒ぎを起こしてくれたものです。
会うことがあったら捕まえて警備の人に突き出してやりましょう。
side out
「レン、ダークハートを捕まえるわよ。」
「寝言は寝て言うから許されるんだぞ。」
まったく朝っぱらから訳の分からないことを。
「寝言じゃないわよ!!
昨日、フリュネと話してたんだけどこのままじゃ何も起きそうにないじゃない?
それなら、こっちから動こうという話になったのよ。」
「このままでは本当にただの旅行じゃ。
そんなもの妾は許さぬ。」
お前ら2人は特に狙われていることを自覚してるのか?
それに、せっかく何事も起きそうにないってのにどうしてわざわざ首を突っ込んでまで厄介後に関わらなきゃならないんだ。
「捕まえたきゃ、勝手にやってろ。
俺は適当に観光してる。」
「アリスはお兄ちゃんについて行くよ。」
「私は個人的に怪盗には思うところがありますので協力します。」
ということはアリスと2人か。
アリスに美術館は退屈だろうから適当に歩いて回るとするか。
「3対1よ。
レンも協力しなさい。」
「却下だ、俺を巻き込むな。」
昨日回ったところでいいところがあったからそこら辺をもう一回見て回るか。
「ミナよ、ここは妾に任せよ。
レン、少し表に出よ。」
なんだこの嫌な予感は・・・・・
「何の用だ?」
「妾が命じよう、妾に従え。」
「却下だ。」
何を言ってるんだこの我が儘姫は。
「妾は姫じゃぞ。
その妾の言うことが聞けぬというのか?」
「残念だが今のフリュネは姫という身分を隠してるということになってるんでな。
それに姫だからと言ってきく理由がない。」
俺がフリュネの我が儘を聞いてやる訳ないだろう。
そんなにわがままを通したかたったら帰れ。
「ふむ、ならば昨日のことをミナとアリスに言ってもよいのじゃな?」
「なんのことだ?」
そんな鎌をかけたところで無駄だ。
「レンとフリッグがキスをして、さらにレン自らフリッグにキスしようとしたのじゃろう?」
「知らないな。」
落ち着け、もし俺たちの後をつけていたとしてもフリッグが気付かないはずがない。
「いつまでとぼけていられるか見物じゃな。
今回のデートでフリッグのことを意識して不自然にならぬように壁を作っておるじゃろう。
それほどに、夜景での告白は効いたようじゃの。」
「・・・・・・・どうして知ってやがる?」
ここまで来ると本当に知っているとしか思えない。
しかし、どうやって、って、まさか・・・・・
「分かったようじゃの。
フリッグ本人から聞いたのじゃ。
今回のデートは妾がいろいろとアドバイスしたのでな、その結果を聞いたのじゃよ。」
あの馬鹿女、よりにもよって一番知られたくない奴に全部話しやがって。
「さて、これをミナとアリスに教えればどうなるか楽しみじゃのう。」
「この我が儘姫が・・・・・・」
「もし、協力をすると言うのならばこのことは妾の胸にしまっておいてもよいのじゃが、どうするのじゃ?」
このことがミナとアリスに伝わりでもしたら考えるだけでも恐ろしいことになる。
「っち、協力してやるよ。」
「ふむ、交渉成立じゃな。」
一番面倒な奴に弱みを握られたな。
side アリス
「レンが協力してくれるそうじゃ。」
「良くやったわ。」
む~、せっかくお兄ちゃんと二人きりになれるチャンスだったのに。
お兄ちゃんが帰って来てからお姉ちゃんに対して壁を作ってるみたいだからデートの時何かあったってこと。
アリスも負けてられないのに。
「お兄ちゃん、アリスと2人は嫌?」
「俺としては大歓迎なんだがいろいろあってな。
今度埋め合わせするからアリスも手伝ってくれ。」
よし、言質は取った。
お兄ちゃんは約束は破らないからこれでデートできる。
「約束だよ。」
「ああ、約束だ。」
「こらそこ、朝からいちゃいちゃしない。」
最近はお姉ちゃんたちもアリスをライバルとしてみてるのか、血を吸う時以外でべたべたしてると牽制される。
でも、肝心のお兄ちゃんが妹としてしか見てないならなんの意味もない。
せめて、もう少し成長できたらいいのに・・・・・・
side out
「で、ダークハートってのはどんな奴なんだ?」
「昨日、ある程度聞いて回ったんだけど数ヶ月前から二ヴルヘイムを騒がせている美術品を狙う怪盗で素性はもちろん不明、仮面をつけてるから性別も分からないって話よ。」
「それだけにしてはやけに注目されてるな。
ただそれだけなら一般の人がそこまで興味を持つものか?」
ここが芸術の街ってことは分かるが全員が芸術家ってわけじゃない。
確かに、正体不明の凄腕怪盗ならある程度の注目を集めるのは分かるが、予告状が送られたくらいで騒ぎたてるものか?
「それはダークハートがどういう訳か盗んだ美術品を返してるからよ。
ダークハートが狙ってるものって一般公開があまりされてないもので盗んで数日後、一般人でもの目に止まるようなところに置いているらしくて受けが良いのよ。」
なるほど、納得いった。
確かにそれなら人気が出てもおかしくない。
芸術の街ってことで芸術家にとっては最高の環境なんだろうがそれ以外からすると娯楽も何もないところだから、そういったゴシップには過敏に反応するだろう。
「そして、ダークハートが次に狙う美術品は『堕天使の楔』って呼ばれてる剣よ。
なんでも、この世界に現れた堕天使を地に縛り付けた剣らしいわよ。」
また物騒な名前だな。
しかし、一般公開がされていない美術品。
それは、何か公開できない理由があるってことだ。
魔法が存在しているこの世界で公開できないって理由は山ほど思いつくな。
「レンも気付いてると思うけど、ダークハートが狙う美術品ってそうとう危険なものらしいんだけど、返されてる美術品は一般人が見てるんだけど被害は無いらしいわ。
それに一度盗まれたものは一般公開されている物もあるそうよ。」
そうなると疑問が生まれてくるな。
一般公開ができないほど危険な物をいくつも安全なものにしてるってのになぜ追われる?
盗んでも返してくれるというなら一度盗ませて安全なものにした方が良いに決まってる。
それにダークハートの目的に裏を感じる。
表向き、一般公開させるために一度盗んで安全なものにするってふうに取れるが、そもそもなぜ一般公開されていない美術品を知っているんだ?
危険だからこそ保管されている美術品ということはそもそも名前すら表には出ないだろう。
何か嫌な予感がするな
「それにしても、捕まえるってどうするつもりなんだ?
予告状が出されてくるらいなら警備くらいついてるだろう?」
それも何度も盗まれてるくらいならかなり大掛かりなものだろう。
「毎回、盗まれてる警備なんてすぐに突破されるでしょうから盗んで逃げようとしたところを捕まえるつもりよ。」
まぁ、こっちには1人1人が世界を相手取れるような奴が3人もいるからな。
いくら凄腕だからといって逃げられはしないだろう。
「それで、捕まえてどうするつもりだ。」
「私の勘が捕まえた後になにかあるって言ってるのよ。」
「考え直せ、たまには平和な観光でもいいだろ?」
ミナが言うと洒落にならい。
捕まえた後ってことはその怪盗との関わりが続くってことだ。
下手をすれば俺たちまでお尋ねものになってしまう。
「嫌よ。
ああ、レンがデートしてくれるって言うなら考え直してもいいわよ。」
「駄目です。
レン、ダークハートを捕まえましょう。」
くっ、昨日のことがあったせいでいつもより意識してしまうな。
表に出さないようにしなければ。
「分かったよ。
さっさと捕まえて突きだすか。」
ただの怪盗ならいいんだが・・・・・・
我ながらネーミングセンスのなさに泣きたくなります。