アースガルド その④ 神の力と人の力
side グレイ
「ようやく僕の花嫁を見つけました。
次こそは手に入れて見せます。
どうか見守っていてくださいわが神よ。」
「熱心だな、グレイ。」
「父様、僕は今回のお告げで花嫁を見つけました。
そして今、探しだしているところです。
名をフリッグ・カザミネと言います。
父様、僕たちの仲を認めてくれますか?」
「お前が連れてきたものならもちろん歓迎しよう。
しかし、神の教えに背くことがないようにな。」
「もちろんです。」
必ず、幸せにしてしみせます。
「今、フリッグと言ったかしら?」
「あ、あなたは・・・・」
「ええ、あなたの想像通りこの世界を治める神よ。」
side out
おかしい。
なぜ何も起きない?
何も起きないのはいいことなんだがここはあの王子がいる城だぞ。
それなのに、何も起きないなんてことがあるはずがないのに
「流石、王様が住む城ね。
アルフヘイムとは比べ物にならないわ。」
「人が作るものは芸術性があって本当に素敵です。
架けられている絵画も調和の取れた内装も頭の固い神に見習わせたいものです。」
「神聖な気配に当てられて気持ち悪い。」
「いい城だ。
これを攻めるのはなかなか骨が折れるな。」
今、俺たちは城の外へと出ようとしている。
これは本当に何もないのか?
あと一歩で
「止まってください。」
「どうしたのフリッグ?」
フリッグだけじゃなくアリスも警戒態勢に入ってる。
だが、ジンが気付けない相手となるとかなりやばいい相手だな。
期待させて落とすか。
なかなか鬼畜なやり方だな。
「また会いましたね。」
「私は会いたくありませんでしたけど。」
王子様?
ただ力だけの奴にジンが反応できない訳がない。
「それと、後ろに隠れても丸分かりですから姿を現わしてください。」
後ろ?
なにもないようにしか見えないが。
「流石、僕の花嫁だ。
どうやら、君にも神が見えるみたいだね。」
「お兄ちゃん、下がって。
お姉ちゃんと同じ気配がする。」
「本当に神がいるってのか。」
やっぱり何事もなくってわけにはいかないようだな。
「流石、一夜にして幾多の神を滅ぼした”鮮血の女神”ね。」
「ああ、貴女でしたか。
ここは貴女が管理しているところだったんですね。」
鮮血の女神?
過去に何かあったのか?
「驚いたわ。
まさか、貴方がここにいるなんて。
この子が教えてくれなければ一生気付かなかったかも知れないわね。」
「くだらない話は終わりですか?
私はまだ観光を楽しみたいのですが?」
「相変わらずね。
それにしても、貴女ほどの存在が人と一緒にいるなんてね。
それも、1人は吸血鬼じゃない。」
見えないのに声だけが聞こえる。
どうやら、本当に神がいるようだな。
だからと言って俺がどうこうできる問題じゃないんだが。
「アリスは私の大切な妹です。
侮辱するというなら、また、叩き伏せますよ。」
「私があの時のままと思っているなら大間違いよ。
私は貴女を殺すために力を磨いてきた。
あの時からずっと。
ようやく、私の願いが叶う。
ここが貴方の最期よフリッグ。」
「なにかと思えばそんなことですか。
器量が狭いですね、シェヴン。」
素人の俺でもやばいと分かる。
神同士がこんなところで戦ったらとんでもない被害が出るぞ。
「減らず口もそこまでよ。
消えなさい!!」
「神よ、僕たちを祝福してくれるはずでは!!」
「ええ、私に屈服させたら貴方の思う通りにしていいわよ。
だから、貴方はそこの人たちを相手にしてなさい。」
あの馬鹿王子、利用されてるって気付かないのか!!
「アリス、行けるか?」
「前のあれだったら大丈夫だけど、今のあれは力が増してる。
それに、神術相手だったら相性悪いから厳しいかも。」
どうする。
ここは、あいつのホームグラウンドだ。
地形の理はあいつにある。
それに、どういう原理か知らないがフリッグとシェヴンが消えた。
「僕の花嫁の為に消えてください。
それに、そこの男には前は負けてしまったから今度は容赦しないよ。」
最悪の状況だな。
今のあいつにまともにダメージを与えられるのはアリスくらいだ。
そのアリスは神術と相性が悪い。
「レン、俺とアリスで時間を稼ぐ。
その間にミナとあいつを倒すための策を考えてくれ。」
「よろしくね、お兄ちゃん、ミナお姉ちゃん。」
「・・・・・・・・・3分だ。
その間にあいつを倒す策を立てる。」
「任せろ。」
「後で褒めてね。」
頼んだぞ。
「レン、状況は確認してきたわ。
この広間には今誰もいない。
フリッグとあの神もどこかに行ったみたい。」
いくつか柱があるとはいえ姿を隠すには小さすぎる。
障害物にもならないだろう。
それに天井も高い。
つまり、ほぼ何もない平地だと考えていい。
「今のあいつにまともにダメージを与えることができるのはアリスだけだ。
しかし、アリスは神術と相性が悪い。」
「あの神に強化されてるってことね。
フリッグが倒すまで粘れればいいんだけど。」
「フリッグが勝てるか、勝てたとしてどれくらいの時間がかかるか、不確定要素が多すぎる。
どうにかして、アリスから意識を逸らせればいいんだが・・・・」
意識を逸らすには相手の意識を他に向けるしかない。
意識を逸らす・・・・・・
「「それだ!!」」
「レンも思いついたみたいね。」
「ミナと同じなら心強い。」
後はこの作戦を2人に伝えるだけだが
side アリス
いくら力を増したからってアリスのようにお姉ちゃんから使い方を指導されているわけじゃない。
だから、避けるのは難しくないけど見境なしに攻撃されたらとてもじゃないけど近づけない。
それなら
「ブラッティランス」
遠距離からの魔法ならどう?
「無駄だよ。
その程度の攻撃で神の加護を受けた僕は倒せない。」
やっぱり無理。
ジンさんじゃ近づくことはできてもダメージを与えられない。
せめて、魔力を練れる時間さえあれば。
「アリス、ジン、目を閉じろ!!」
流石お兄ちゃん、きっかり3分だね。
side out
いくら馬鹿でも、もう閃光弾は通じないか。
だが、閃光が収まるまでの一瞬だけは隙ができる。
とはいっても、全力で防御に回るから攻撃は無理だけどな。
今回はジンとアリスを呼び戻すための時間稼ぎだ。
「アリス、ジン、時間がない一度で覚えろよ。」
side ジン
「これが俺たちの作戦だ。
この作戦の鍵はジンだ。」
「任せろ。
最近活躍してないから、俺にも花を持たせろ。」
絶対に成功させて見せる。
愚かな俺を許してくれた友の期待にこたえる為。
「それじゃあ行くぞ、あの馬鹿王子の目を覚まさせてやる。」
side out
「また、君か。」
「ああ。
悪いが今回も勝たせてもらうぜ。」
「それはないよ。
神からの加護を受けた今の僕に君たちの攻撃は通じない。
唯一の頼みである吸血鬼でも近づけなければ僕は倒せないだろう?」
「さあ、どうだろうな?
とりあえず俺が言いたいのは人を舐めるなよ。
人の英知は時に神さえ超える。」
「なにを馬鹿な。
神は全知全能の存在。
人は神を信じ生きているからこそ繁栄してきたんだ。」
流石は信仰の国か。
ここまで行くと狂信だな。
だがな、神は世界のバランスをとるだけの存在。
どれだけ貧しくても、どれだけ危機に晒されても、人はその知恵と勇気で今まで生きてきた。
考えることを忘れ、神に頼り切っているお前に人は導けない。
「証明してやるよ。
人を治めるのは結局人だ。
神に頼り切ってるお前は王にはなれない。」
「戯言はここまでにしよう。
僕の将来のため、消えてくれ。」
side ジン
人を治めるのは人か。
俺もいずれ上に立つ者としてここは負けられないな。
「行くぞ、ジン!!」
「おう!!」
作戦の第一段階、それは
「また、それかい?
いい加減無駄だよ。」
それくらい織り込み済みだ。
だが、一瞬でも目は閉じられる。
その隙に、俺とレンが肉薄する!!
side out
あいつは油断はしないと言った。
それはそうだろう。
生れて初めての敗北。
それが、ただの人間ならなおさら警戒してしまう。
こいつはアリスと同様俺のことも無意識のうちに警戒する。
その俺が肉薄すれば嫌でもアリスから意識が離れる。
「はああ!!」
「そんな攻撃が通じると思ってるのかい?」
やっぱり無理か。
「後ろがガラ空きだ!!」
「愚かな。
これが君の作戦かい?
例え背後でも神の力に死角はない。」
「ジン!!」
「これで1人だ。
次は君だ。」
おしゃべりに付き合ってくれてありがとよ。
「お兄ちゃん!!」
side ミナ
レンがいる限りアリスへの意識はかなり逸れる。
私なんて眼中に入っていないだろうけど、その余裕後悔させてやるわ。
「アリス、行くわよ。」
「うん。」
私の役目はアリスへの魔力供給。
これでも補助系統の魔法の腕なら一級だ。
レンがあいつの気を引いている間に陣を描き大気中の魔力をすべてアリスへと収縮させる。
すべてはこの一撃にかかってる。
レンが注意を引けても1分が限界。
急いでアリス。
side out
side アリス
1分。
たったそれだけの時間であの神術を破る魔法を用意する。
普通ならまず無理。
神から強化された神術の守りは常人の魔力の何百倍もある。
でも、アリスは真祖の吸血鬼。
人の中でも頂点に立つ者、生まれながらの絶対者。
例え十年しか生きてないとしても、最強のお姉ちゃんからの指導を受けてる。
だから、これだけ御膳立てされて負けるわけにはいかない。
「お兄ちゃん!!」
これが人の力だ!!
side out
これが作戦の第二段階、いけるか。
「ブラッティランス!!」
血のように赤い槍と神々しい光との衝突。
「神の力の前に人の力など無力だ!!」
俺たちの最強の攻撃を受けきるとはやはり神の力は強大だよ。
だがな
「前に言ったよな。
不意打ちってのは相手に気付かれず、一撃で相手を仕留めることだってな。
そう言った俺がああも派手なアリスの攻撃を決め手に使うと思うか?」
「なにを、がっ!!」
「終わりだ。
お前は人の力を侮りすぎたんだよ。」
終わったか。
フリッグは無事だろうか。
side ジン
「作戦通り、いい仕事だった。」
「ああも上手く行くとは流石レンとミナが立てた作戦だな。」
今回の作戦の種明かしをすると、まず俺とレンがあいつの意識を引きつける。
レンが言うにはレンが前に出れば無意識に警戒するそうだ。
そこで俺が背後から攻撃し、反撃を受ける。
その反撃で倒されたふりをし、時間を稼ぎアリスの一撃で仕留めると思わせる。
レンが言うにはここが一番の綱渡りだったらしい。
背後から攻撃する俺に反撃が来ても、それを気絶したように見せかけることができるか。
なかなか難しかったがなんとかなった。
いくら神の加護を受けてるとはいえあのフリッグを超える素質を持つアリスにミナの補助、これだけ揃っていれば流石に全力を防御に回さないと防げはしない。
そこで、完全に認識外だった俺がアリスの魔法に意識を回している隙に仕留める。
アリスから意識を逸らすことは難しいなら、すべての意識をアリスに向ける。
よくもこんな作戦を本当に3分で思いついたもんだ。
side out
レンたちを勝たせるのに苦労しました。
おかしくないですよね?