2人の秘密
過去最長です、2,3話に区切ろうかと思いましたが1話で投稿。
誤字脱字が多いかもしれませんが、そこはご容赦ください<(_ _)>
「さぁて、お兄ちゃんは何処かな?」
大きい城の中で、始まった鬼ごっこ。
閉ざされた空間、フリッグと舞花の助けが望めないこの状況で、あのアリスに迫られている。
もちろん、捕まったら、その後、どうなるかなんて決まってる。
「この部屋かな~?」
アリスめ、既に俺が何処に隠れているか知っていて、わざと外したふりをして、徐々に追い詰めていくつもりか。
何年経っても、あの悪戯好きというかサドっぷりは変わらない。
「ね~、お兄ちゃん、お兄ちゃんはどうやって苛めて欲しい?
アリスはお兄ちゃんの心が折れるまで苛め抜くつもりだから、希望があれば聞くよ?」
──はぁ、まったく、どうしてこうなったのか……
「はぁ、はぁ、くそ!」
王都ミズガルズの城下町、人目のない裏道をひたすら走り、なにかから逃げようとする人影。
進む先には十字路、どっちに行くか残り20mを切ったところで、その十字路の影から若い男が現れた。
「ここで行き止まりだ。
諦めろ、あんたが横領したという証拠は出揃ってる。
いま、あんたの屋敷にも調査の手が入ってる。
あんたを捕まえるには十分すぎる罪状がまだまだ出てくるだろうよ」
「な、なぜだ、何も掴ませないように証拠は隠滅したはずだ!」
「あんたが、調査の手が入ろうとするとすぐに証拠を隠滅しようとすることは知っていた。
だから、俺が表だって調査に乗り出したことを噂だて、あんたを動かす囮になったんだよ」
証拠となる帳簿、証言を録音した録音機、さらに、屋敷には裏の組織とのつながりを示唆するものもある。
「さて、あんたには聞きたいことが山ほどある。
抵抗せず、しゃべってくれよ」
「あ、お兄ちゃん、どうだった?」
「予想通り『デルタ』と繋がっていた。
これで、大元は狩れたし、本体への足掛かりもできた」
『デルタ』、最近有名になり始めた組織で、重役に寄生し、そこから薬を売りさばく犯罪者。
こいつらの厄介なところは、『デルタ』の構成員が全くと言っていい程、表に出ないことだ。
登場するのは一度だけ、重役を懐柔し、コネクションを作るときのみ。
そこからは、小金欲しさの奴らを利用し、薬を売り、利益を回収していく。
そんなやつらを捕まえたところで、何も知らないし、すぐに尻尾を切り、なりを潜めてしまう。
だが、今回ようやく大元を狩り、『デルタ』本体を叩くことができる。
「もう、アジトも突き止めたんだ、後は、騎士団にお任せ?」
「いや、逃げ足の速い奴らだ、既に、情報を掴まれていると知って逃げる準備をしているだろう。
大掛かりな部隊を用意している暇はない、懲罰部隊で先行するつもりだ」
懲罰部隊、簡単説明すると凶悪犯罪や、一般の兵士じゃ手に余る厄介事を担当する少数精鋭のエキスパートのみで構成された部隊だ。
「アリスたちが動くなんて久しぶりだね。
皆、腕が鈍ってなければいいんだけど」
そして、懲罰部隊の隊長がこのアリス。
その、アリスが鍛え上げた5人のみが構成員で、俺の指示のみで実働許可が出る。
「明日には発つぞ、招集をかけておいてくれ」
「う~ん、みんな集まるかな……」
「ツヴァイ、久しぶりの仕事だよ」
「お金一杯です?」
よし、1人目確保、まぁ、この子は基本的にこの部屋にいるから簡単なんだけどね。
この部隊は、素性や経歴を一切明かさず、数字で呼び合うことになっている。
隊員№2、そのまま『2』と呼ぶのもあれだったから通称『ツヴァイ』。
とにかく、お金が大好き。
部屋には高く積まれた札束が幾つもそびえ立ち、部屋の端には数えるのも億劫になるくらいの硬貨が乱雑に置かれている、お金だけしか存在しない部屋。
それを1日中眺めているような生活を送っている、アリスが言うのもなんだけど変な子。
「うん、まぁ、たぶん?
それより、他のメンバー知らない?」
「フィーアなら劇場です」
「あれ? どうしてあれの行き先知ってるの?」
「お金借りに来たです。
倍にして返してくれるです」
「本当にどうしようもないなぁ……
それじゃあ、明日から仕事だからいつものところに集合ね」
「分かりましたです」
「あ゛~、また、駄目か~」
「彼女作りたいなら、そのちゃらちゃらした態度を改めようよ」
「お、隊長ちゃん……、もしかして、仕事?」
隊員№4、『フィーア』
とにかく、女性が好きな、いかにも軽薄そうな優男。
その守備範囲は、幼女から熟女までなんでもOKっていう、節操なし。
「いや~、もう、手持ちがなくて困ってたんだよ。
ちょうどいい時に仕事が入ってきて助かったぜ」
『懲罰部隊』は危険度の高い仕事が多い分、給料は高いし、こういう緊急の仕事が入れば手当も付くから、普通はお金に困らないんだけどね。
「ツヴァイには約束通り返さないと駄目だよ」
「分かってるって、あいつに金のことで冗談なんか言えるわけないって。
それにしても、いい女、見つかんねぇな……
そうだ、大将に紹介してもらえねぇかな?」
「お兄ちゃんは忙しいの、それに、お兄ちゃんに紹介されても、お兄ちゃんと比べられたらフィーアなんて見向きもされないよ」
「はぁ~、だよな……、隊長ちゃん、俺と付き合わねぇ?」
「そういうことは、アリスより強くなってから言ってね」
「相変わらず、固いねぇ……、いい加減大将のこと諦めりゃいいのに」
「余計なお世話、明日から仕事だから遅れずに集まってね。
あと、ツヴァイ以外で他のメンバー知らない?」
「ドライの奴なら、あっちの店で見かけたぞ」
「───美しい……」
「お~い、ドライ、仕事だよ」
隊員№3、『ドライ』
とにかく、武器が好きな、いかにも学者っぽい青年。
暇があれば、世界中を飛び回って、珍しい武器を集めまわってる。
今日、ミズガルズにいてよかった。
「この艶、光沢、芸術ともいえる装飾の数々、それでいて、剣としての機能を最大限に引き出している刃と重量……素晴らしい……」
駄目だ、自分の世界に入っちゃってる。
仕方ない、アリス愛用の鎌で気を引こう。
「───っ!? はっ、これは隊長殿ではありませんか」
「明日から仕事だから遅れずに来てね」
「了解しました、このドライ、粉骨砕身で挑ませてもらいます」
通常の状態だったら、この部隊で一番の常識人なのにね。
「ところで、フュンフ見なかった?」
「フュンフ殿ならアイン殿のところでは?」
見つかってくれるのはありがたいけど、めんどくさいなぁ……
「アイン、フュンフ、お仕事だよ」
「私たちが駆り出されるなんて久しぶりですね。
少しは手応えのある相手ということでしょうか?」
隊員№1、『アイン』
その正体はフランお姉ちゃん、今更説明する必要もないけど、とにかく、小さい子が大好き。
小さくて可愛ければ、男女年齢は問わないなんだって。
「死ね」
「こらこら、アリスちゃんに攻撃してはいけないと言いましたよね?」
「でも、お姉さまとの時間を邪魔した、あれが悪いんです!」
隊員№5、『フュンフ』
とにかく、フランお姉ちゃんのことが大好き。
青空のように澄み切った長い髪と瞳、病的なまでに白い肌と人形のような容姿、でも男。
前に、フランお姉ちゃんとの約束で紹介した子なんだけど、着せ替え人形にするだけに飽き足らず、抵抗もなかったからって、つい襲っちゃったんだって。
その時に、女装やら、マゾやら、ヤンデレやらに目覚めちゃったみたい。
基本フランお姉ちゃんにべったりで、2人の時間を邪魔されるのが大嫌い、でも、フランお姉ちゃんは、愛するべき可愛い子の1人で、他の子にちやほやしていると嫉妬で大変な事になるんだよね、さっき、投げられたナイフもこれが原因。
その度にお仕置きされているんだけど、マゾだけに喜んじゃうから効果は薄いみたい。
これが『懲罰部隊』、全メンバー、有能なんだけど癖が強すぎてあのお姫様でさえ匙を投げた問題児たち。
招集かけても、絶対に集まらないから、こうやって一人一人探していくわけなんだけど、ツヴァイは出稼ぎに行ってくると言ったきり、1年は行方知れずになるし、ドライは遺跡探索でこれも行方知れず、フィーアもナンパで世界中をうろうろしてるから行方知れず、フランお姉ちゃんも時々、可愛い子を求めて、行方知れずに、フュンフもフランお姉ちゃんに付いて行っちゃうから行方知れずに……
こうやって、全員集まるなんて奇跡に等しいんだよね。
「まさか、全員集まるとはな……」
「うん、アリスもびっくりだよ」
「大将さん、お金くださいです」
「大将、女紹介してくれ」
「大将殿、奥方に神剣を見せて貰いたのですが」
「大将、僕とお姉さまだけの世界を下さい」
「カザミネさん、いい加減、アリスちゃんをお嫁さんに貰ったらどうですか?」
「そうだよ、お兄ちゃん、アリスはいつまで待てばいいの?」
───頭が痛くなるな……
1人でも面倒だというのに、よりによって全員集まったか……
纏め役のアリスまで悪乗りされたら収拾がつかない。
「今回の標的は『デルタ』、アリスの転移でアジトまで移動。
その後、ツヴァイとドライで入り口を封鎖、アインとアリスで先行し、残党をフィーアとフュンフで刈り取る。
その場の指示はアリスの指示に従い、行動だ」
正直にいって、アリスとフランが出ている時点で逃げ切るのは不可能に近い。
だが、他のメンバーにも経験を積ませる必要があるからな。
そうじゃなかったら、態々、こんな頭を痛い思いをしてまで招集をかけない。
「作戦開始」
「少し数が少ないですね」
「包囲網は完成してるから逃げられたわけじゃないから、時間の問題だよ」
物音ひとつ立たない、最高レベルの隠密行動。
アジトの占拠そのものはものの数分で終了した。
「それにしても、よくここまで作りこんだものです」
山奥にあった洞穴を掘り進め、ゆうに百人以上は入りそうな空間。
これは後々、有効活用できるかもね。
『隊長ちゃん、こっちも終わったぜ』
『隊長殿、出てきた輩も全員捕縛完了です』
「よし、それじゃあ、帰ろうか」
任務完了、後はお兄ちゃんに任せておけば大丈夫。
───ん、これは……?
「そういえば、今日はあの日か」
ここ数年は仕事に忙殺され、忘れてしまっていたことが多かったな。
ちょうどいい機会だ、サプライズで準備することにするか。
「もしもし、フリッグか?」
『どうしたんですか?
もしかして、仕事中に私が恋しくなりましたか?
もぅ、レンったら、いつまでも私のことが大好きなんですからっ』
こいつの妄想癖は何年経っても変わらないな……
本当にリアの方が落ち着きがあるから困る。
「それより、今日なんだが──────」
『そう言えば、ここ数年は家を空けることが多かったですからね。
分かりました、準備しておきますね』
さて、俺も準備しておくか。
「で、これはなんだ?」
いきなり、アリスに呼び出され、現場へ直行し、見せられたものはミズガルズにあるような立派な王城のミニチュア。
「これはね───」
──ゾクリ
まずい、この感覚は……!
当然の光に包まれ、その場にいた俺とアリス、そして懲罰部隊のメンバーはその場から姿を消した。
その場に、不自然に浮いた城のミニチュアを残して
目を開いたとき視界に入ったのは、先ほど見せられた城。
だが、決定的に違うのは、その大きさだ。
手のひらサイズしかなかったものが、本物の城の如く眼前にそびえたっている。
「あれはね、封印具の一種なんだよ。
これの凄いところは、時間の流れが圧倒的に早いところだね。
こっちで3日過ごしても、現実の世界では1時間も経ってないんじゃないかな」
端麗な顔を喜悦に歪ませながら、俺へと説明してくるアリス。
この状況、あの時の感覚、そして、この説明で全てを理解した。
伊達に十数年、貞操を狙われ続けたわけじゃない。
「お兄ちゃんなら、もう分かったよね?
今頃、お兄ちゃんの危機を感じて、お姉ちゃんが動き出してるだろうけど、この空間は時間の流れが違う」
「───つまり、邪魔は入らないってことか……」
「うふふふ、流石お兄ちゃん。
このまま襲ってもいいんだけど、それじゃあ面白くないよね?
時間はあるんだし、どうせなら、抵抗したお兄ちゃんを捕まえて、じっくり犯してあげる」
自分の身を抱き、身を震わせる。
アリスの中で俺がどうなっているのか想像したくもない。
「ゲームをしよう。
ルール①『懲罰部隊』のメンバーは、アリスとお兄ちゃん、どっちについてもいい。
ルール②、致命傷となる一撃を受けたらその時点でこの空間から退場。
ルール③、ルール②はお兄ちゃんには適用されない、そうしないとすぐに退場されちゃうしね。
ルール④、アリスが退場、または、お兄ちゃんが捕縛された時点でゲームセット。
ルール⑤、お互いのスタート地点は城の東西の端から。
と、まぁ、こんなところかな?」
「ルール②は個人差がありすぎるな。
アリスに致命傷を与えるなんてアイン以外不可能に近い」
そのアインですら、よほどアリスが油断していない限り難しい。
アリスが本気になれば、それこそ、フリッグか舞花でないと手が付けられない。
少なくとも、『懲罰部隊』のメンバーが束になったところでアリスを倒すことは不可能に近い。
「それじゃあ、ルール⑥、頭、心臓に当たれば致命傷。
それ以外は3回、命中したら退場っていうことにしようか」
「ルール⑤だが、城の内部情報を全員に提示してもらおう」
「流石お兄ちゃん、それくらい気付いちゃうよね」
それくらい当然、いや、それでこそ愉しいと言わんばかりに声を弾ませる。
アリスもこれが一方的な狩りにするつもりはないんだろう。
だからこそ、『懲罰部隊』を巻き込んだ。
「最後に俺から提案だが、俺とアリス、それぞれ『懲罰部隊』のメンバー全員と1体1で話し合い、そのその上でどっちに着くか決めてもらおう」
「いいよ、そうじゃないと、お互いどんどん条件を上げちゃうだけだからね」
こうして、俺の貞操を賭けた、ゲームが始まった。
アリスチーム アイン、ツヴァイ、フュンフ
レンチーム ドライ、フィーア
職業 アイン:暗殺者兼魔神
ツヴァイ:神力持ちの僧侶
ドライ:近接型魔法使い
フィーア:剣士
フュンフ:万能型魔法使い
「おいおい、大将、隊長ちゃんとアインが敵だなんて勝ち目ないだろ」
「アインが俺の方に着くわけないだろう、そして、アインがいる方には必ずフュンフが入る、ツヴァイが向こうに着いたのは予想外だったな」
「勝算はあるのですか?」
「アリスの性格上、最初から自分で動かない。
ゲームを楽しむと言ったんだ、アリスが出た時点で終わるからな」
「つまり、まずは他の3人を倒して、全員で隊長ちゃんを叩くってか?」
「いや、狙いはアリスだけ、一気に終わらせる」
「分かりました、一点突破、このドライ、粉骨砕身で御身をお守りしましょう」
ゲームスタートまで残り30秒。
「一気に行くぞ」
ゲームスタート
「悪いな大将」
「────っ大将殿!?」
スタートと同時、フィーアがレンの頭部を狙い凶刃を振りおろし、咄嗟にドライが間に入る。
「────フィーア!」
───────パァァァン
瞬時に状況を理解し、フィーアへ狙いを定め、引き金を引きゲームが始まった。
『悪いな隊長ちゃん、ドライの奴は仕留めたんだが、大将には逃げられちまった』
「初手でお兄ちゃんを仕留められるとは思ってないよ。
フィーアはそのままお兄ちゃんを追って、挟撃で確実に仕留めてね」
『OK、隊長ちゃん、しっかり約束は守ってくれよ』
ドライは脱落、これでアリスへの電撃ブリッツはできない。
だとすれば、お兄ちゃんはアリスチームの裏切り者と合流しようとするはず。
フランお姉ちゃんがはお兄ちゃんに味方する理由がないから、間違いなく味方。
そしてフランお姉ちゃんがいるからフュンフも味方。
消去法で裏切り者はツヴァイ、ツヴァイならアリスよりお金がもらえるお兄ちゃんに付くはずだしね。
もし、違っていても、それはそれで、お兄ちゃんは詰んでいる。
さぁ、どんな手を打ってくるのかな?
「大丈夫です?」
「割とやばいな」
もう、ツヴァイが裏切り者ってことはばれてるだろう。
だが、まだ、俺の計算の範囲内だ。
「行くぞ、ツヴァイ、まずは、アインを落とす」
「まぁ、私も舐められたものですね」
アリスの師にして、魔神の一角であるフランが正面を切って現れた。
その佇まいには焦りや不安など一切なく、自信が満ち溢れている。
「俺はてっきり、影から襲撃を受けると思っていたんだけどな」
「カザミネさんを舐めると痛い目を見ることはアリスちゃんからよく聞かされてますからね。
それに、今もツヴァイが不可視の壁を作っていますしね。
ツヴァイ相手なら暗殺より直接倒した方が効率的です。
時間が経てば経つほど不利になるのはカザミネさんですしね」
流石に手の内を知られている相手に不意打ちは通じないか。
銃口を定め、何度も引き金を引くが、今更、フランにそんなものが当たるはずがない。
レンとフランの距離100mを確実に詰めていく。
「音速超えてるんだぞ、これだからびっくり生物は手におえない」
「女性に対して失礼な物言いですね。
アリスちゃんに躾けてもらいましょう」
捕まったら本当にされそうで恐ろしい。
残り20m、ここまで近づかれても当たらない。
銃口定める速さではフランが移動する速さの方が速い。
どれだけ、近づいたところで当たらないのは自明の理。
だが、そんなことはとうに理解している。
「いまだ、ツヴァイ!」
「はいです!」
ツヴァイは神力を用いて治癒、補助、結界、といった補助がメインの僧侶だ。
僧侶が金を好き過ぎるのもどうかと思うが今はどうでもいい。
あくまで補助メインというわけで、攻撃系統の神術を使えないわけじゃない。
もちろん、練度の低い攻撃でフランに当たるはずがない。
───だが、それは、真っ向から対峙した時の話だがな。
「───っ、心中するつもりですか!?」
「俺はルール②の適応外だというルール③があるんだよ。
退場はあんただけだ!」
『セント・バニッシュ』
俺とフランを飲み込むような光の奔流、これが当たればダメージはどうであれ、退場は免れない。
接近したフランを掴み、もう片方では攻撃することも忘れない。
だが、それでも相手は魔神、硬直を解くと、瞬時に銃を弾き飛ばし、回し蹴りで俺を吹き飛ばす。
光の奔流が眼前で迫るな直前に、全力その軌道から回避することに成功する。
「本当に油断ならない人です……
ルール③なんて、ルール通り、カザミネさんを逃がさないために存在しているというのに、こんな使い方をするなんて……」
「お姉さま」
「フュンフですか、ちょうどいいタイミングです。
2人が掛かりで確実にツヴァイを……え?」
「ごめんなさい、お姉さま」
フランの胸から飛び出る、刃。
誰が見ても確実に致命傷となり、退場を告げられる。
「───まさか、フュンフを口説き落とすなんて思いませんでしたよ。
まさか、このタイミングも計算通りですか?」
「ああ、普通にフュンフに襲わせたところで、あんたなら簡単に処理しそうだったからな。
態々、一芝居打って、あんたの余裕をなくした今のタイミングがベストだろ?」
「本当に恐ろしい人ですね……」
これで厄介なアインが消えた。
後はアリスだけだが……
「大将、僕は貴方を許さない」
「ああ、勝手にしてくれ」
どうして、俺がフュンフを味方に引き込むことができたか。
有体に言えば経験則だ、ヤンデレはフリッグやらアリスやらで苦労させられたからな。
あいつらは単に独占欲が強いというわけじゃない。
あいつらは常に怯えているんだ、裏切られるんじゃないかと。
だからこそ、周りから人を遠ざける、恐怖で支配しようとする、裏切らないように、離れて行かないように。
俺がフュンフに言った事は、裏切られたくないなら、お前がまず裏切れ。
今まで見えなかったものが見えるかもしれないぞ、と。
フュンフから見れば、悪魔の囁きにも見えたはずだ。
だが、こいつの顔を見るに、なにかが見えたんだろう。
「おい、隊長ちゃん、アインの奴がやられたぞ!?
あの大将、どうやってフュンフを誑かしたんだ!?」
「それが、お兄ちゃんとフィーアの器の差だよ。
とはいえ、流石にこれは予想外だったかな」
報告じゃあ、ツヴァイも生存しているみたいだし、もう、アリスが動くはめになるなんて、これだからお兄ちゃんは大好き。
人間、真祖たるアリスに比べると途方もなく脆弱な存在のはずなのに、いつもアリスの喉元に剣を突き付けてくる。
あぁ、楽しみだよ、お兄ちゃん。
今日こそは跪かせて、頭を垂れさせ、奪って、支配して、愛してあげる。
「ふふふ、あはははははははははは!!」
「ど、どうしたんだ、突然?」
「ちょっと興奮してきちゃってね……
─────それより、いい加減出てきたら?」
通路の死角、そこから、退場したはずのドライが現れる。
「────気付かれていましたか」
「おいおい、まじかよ、大将が来るまで2人で隊長ちゃんを抑えろってか?
そんなの無理に決まってるだろ」
「だが、やらねばなるまい」
「いいよ、待ってあげる」
身構える2人に拍子抜けする言葉が掛けられる。
もちろん、アリスのことを理解していない、2人には信じられず、構えを崩さない。
「昔ね、アリスはお兄ちゃんに負けたんだ。
綺麗な月の夜でね、アリスはお姉ちゃんと闘って消耗してたけど、お兄ちゃんを倒すには十分だったはずだった。
でも、アリスは負けたんだよ、お兄ちゃんの手のひらで踊らされて、見事に背後から刺された」
「男のやることじゃねぇな、まぁ、隊長ちゃん相手なら話は別だけどよ」
「だからね、今日は勝つよ。
全力を出したお兄ちゃんを真正面から叩き伏せる。
その布石が2人なら、まだ壊さずにいてあげるよ」
「大将、隊長ちゃんって頭おかしいんじゃねぇの?」
「お前はそうやって理解できないことを否定するから女ができないんだ」
「なにっ!? くっ、そういうことか、分かったぜ大将。
──悪い大将、やっぱり無理だ……」
「───だろうな」
『懲罰部隊』がアインを除く全員がアリスを囲んでいるというのに、口元には狂気を孕んだような笑みを浮かべている。
こう言ってはなんだが、アリスを受け入れるなんて、俺たちの家族くらいの肝がないと無理だろう。
フリッグと違って不安定で感情が揺れるのではなく、絶対の理性で感情を操作している。
だから、基本的に説得なんて不可能に近い。
「さぁ、お兄ちゃん、どこからでも掛かってきていいよ。
全部、正面から受け止めてあげる」
───まずい、勝てるビジョンが浮かばない。
こんな広間では物理的死角もなければ、アインを倒されたというのに精神的死角も見つけられない。
アインを倒せば、少しは気が張ると思っていた、少しでも焦らせることができれば可能性はあった、だが、今のアリスは恐ろしい程に自然体だ。
そこに在るだけで『懲罰部隊』が気押される。
「──なぁ、大将、あれ本当に勝てんのか?」
「正直言って、勝てるイメージすらわかないな」
だが、そろそろ、アリスも我慢の限界のはず、そろそろ仕掛けなければ本当に勝機を失う。
「作戦通りいくぞ」
ツヴァイとフュンフの攻撃を火種に俺、ドライ、フィーアがアリスへと肉薄する。
いくらアリスでも、このルールに則ってる以上、躱すなり打ち消すなりしなければならない。
その一瞬の間に、俺は引き金を引き、ドライは拳に炎を宿し掴みかかり、フィーアは4つ剣を曲芸のように器用に操りながら切りかかる。
もちろん、これで倒せるなんて思っていない、案の定、ツヴァイとフュンフの攻撃は全て鎌で薙ぎ払い、迫りくる銃弾を最小の動きで躱し、迫るドライとフィーアを迎撃する。
「───っ、なんつー、力だよ……!」
「フィーア殿、ここが踏ん張りどころですぞ!」
「わーってるよ!」
振るわれる鎌は受け止める事さえ許さず、ドライとフィーアは受け流そうとするが、その振るわれる速度は音速の何倍もの速度、鎌自体の質量が軽かろうと、速度は速ければ速い程、一撃の威力は増していく。
経験と勘で捌くが、その度に裂傷が走り、踏ん張る足元は陥没していく。
「大将さん!」
来たか、これが唯一のチャンス!
「やれ、大将!」
作戦そのものはアインと同じ、捨て身の特攻。
だが、今回捨身をするのは俺ではなく─────ドライとフィーアに仕掛けていた爆弾を爆発させる。
瞬時に俺の狙いを理解し、ドライとフィーアから離れようとするが、これまで稼いでいた時間で、ツヴァイとフュンフが全力でアリスの動きを封じ込める。
2人が全力を出そうとも、持たせられるのは1秒、だが、それだけあれば、ドライとフィーアの自爆に巻き込める!
爆発の直前、口元を歪めたアリスが目に入った。
─────ドォォォォォォォォン
「残念でした」
「───まじかよ……」
爆発したのはアリスたちが戦っている上空。
捨て身で特攻したはずのドライとフィーアはいまだ健在。
「あの戦闘なか、我らの爆弾を取ったというのですか……」
「2人ともまだまだ、訓練が足りないね。
帰ったら、また、扱いてあげる」
慈悲なく振るわれた鎌は2人の首は刎ね、退場させる。
「大将さんどうするです?」
「────っち、逃げたいところだが……」
「何とか足止めするです」
「その内に逃げて、あまり長く持たないから」
逃げたのはいい、おそらくアリスはあそこで仕留めるつもりなんてなかったんだろう。
だが、残っているのは既に俺一人、勝つなんて無理だ。
『八方美人だからそんな目に合うんですよ』
「───舞花、ここは時間の流れが違うらしいんだが?」
『その程度で私に何の支障があるというんですか?
ちなみに義姉さんは、ついさっき飛び出していきましたが、そっちの時間ではあと5時間以上は辿り着けないでしょう』
「まて、お前が助けに来るという選択肢はないのか?」
『兄さんの自業自得にどうして私が助けなければいけないんですか?』
ごもっともだ、正論過ぎて反論の余地すらない。
『まったく、私はこれから約束があるので、本来なら兄さんに構っている暇なんてないんですよ』
「────男じゃないよな?」
『────兄さん、兄さんは何故、いまそのような状況に陥っているか本当に理解していますか?
返答によっては、一度アリスに躾でも調教でもされた方が兄さんの為かも知れません』
冷や汗が背筋をなぞる、完膚なきまでに俺が原因だ。
「すまん、過保護になりすぎた」
『分かればいいんです、私はまだ理解があるので良しとしますが、兄さんがいつまでもその調子ならミナさんをはじめ多くの女性を泣かせることになることをよく理解しておいてくださいね』
「肝に銘じておく」
『それと、約束は義姉さんとリアですよ。
そもそも、兄さんが言い出したことじゃないですか』
「それどころじゃなくなるかもしれないがな……」
間違いなくフリッグか切れて、しばらく収拾がつかなくなる。
そうならない為にも、この状況を何とかしたいんだが
「舞花、どうにかならないか?」
『答えの出てることを私に聞く必要があるんですか?』
「その手は取りたくないから聞いてるんだ」
『──まったく、懲りてませんね……
仕方ありませんね、兄さんはアリスを抱くこと自体にそれ程抵抗を感じているわけではありませんね』
「───まぁな……」
良くないとは分かっているが、なぜかフリッグがアリスの味方をして、幾度かアリスを抱いたことはある。
『それなら話は簡単です、アリスに負けたふりをして、逆に調教してしまえばいいんですよ。
アリスはあれで意外と可愛いところがありますし、兄さんならそれを引き出すこともできるでしょう。
そこまで持ってきたら、義姉さんがそこに来るまでにはその場限りとはいえアリスは屈するでしょう。
この際ですから、もう反旗を翻さないように徹底的にやってしまってはどうですか?』
「───舞花、俺は時々お前が本当に女なのか疑いたくなるんだが……」
男だろうが女だろうが、黒いところがあるのは当然だ。
俺だってこんな職に就いているんだから、人一倍それを感じることだってある。
だが、借りにも兄に向って、妹同然のアリスを調教しろだなんていうか?
『失礼ですね、私が女だってことは兄さんが一番よく知っているじゃありませんか。
それとも、私は誘われているんですか?』
「やめろ、それを思い出させるな」
『嫌なら、さっさとアリスを静めて帰ってきてください。
義姉さんは、呼び戻して、準備を進めておきます』
「───分かったよ、手間をかけてすまなかったな」
『いえいえ、これから兄さんが行うことを特別席で眺められるんですから、これくらいは当然ですよ』
「何が望みだ?」
『諦めてください、それと、私と話していると知ったらアリスが怒りますよ。
それでは、健闘を祈ります』
────はぁ、舞花が観ている前で告白じみたことをやるのか……
言っておくが、見た目こそ20代だが、中身は30過ぎだぞ?
───自業自得か……
「お兄ちゃん、みぃつけた」
「最初から知っていただろ?
あんな子芝居いれなくても、今回は俺の負けだよ」
「負けを認めるなら、自爆するのはやめてね」
あっさり見抜かれたか……
「───まいった、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「えらく殊勝な態度だね、まだ、隠し玉があるのかな?」
「いや、今回は本当に降参だ、俺一人じゃ、どう足掻いてもアリスには勝てない」
「──それもそうだね、それじゃお待ちかねのお楽しみといこうか」
抵抗なんて無意味だと知っている俺は、無抵抗のままアリスに押し倒され、そのまま唇を押し付けられる。
「ふふ、まだまだ、時間はいっぱいあるんだし、いっぱい楽しもうね」
「アリス、俺の上着のポケットに何か入ってるだろ?
それを取り出してくれないか?」
「ん? これのこと?」
「ああ、それだ、開けてみてくれ」
「───これって……」
永遠に輝きを失うことのないと言われる希少な宝石を加工して作られたネックレス。
「今日はアリスの誕生日だろ?
しばらく、祝ってなかったから奮発してみたんだ」
実際、アリスの誕生日は分からない、だから、俺たちとアリスが出合ったこの日をアリスの誕生日として、祝ってきた。
「────ずるい……」
「本当なら仕事が終わってから渡すつもりだったんだよ」
プレゼントを胸に抱きしめ、にやけそうになる顔を必死に抑えようとしている。
こういうところは昔と全く変わらず、変なところで初心なやつだ。
「もう一回キスする……」
「今日はなんだって許してやる。
フリッグだって今日くらいは分かってくれるだろう」
さっきのような荒々しいキスではなく、触れるだけの優しいキス。
すっかりスイッチが入ってしまっている、アリスの顔は真っ赤だ。
「───もう、こんなことされたら、何にもできないよ……」
「黙ってたが、今、家でフリッグたちがパーティーの準備をしてる。
さっさと仕事を片付けて、一緒に帰るぞ」
「ねぇ、お兄ちゃん、今日はお姉ちゃんだって許してくれるんだよね」
「───努力する、としか言えないな」
また、舞花から怒られそうだが……今日くらい許してくれるだろう。
「このことは誰にも言わないでくれよ」
「うん、お兄ちゃんとだけの秘密。
今日のこと忘れられないようにいっぱい愛してね♪」
やっぱり最後はハッピーエンド、らぶらぶいちゃいちゃの結末でした。
もちろん、その後のレンはフリッグと舞花に謝り倒します。
それにしてもアリス編に力を注ぎすぎてフリッグ編を書くのにはまたしばらくかかりそうです。
来週あたりにでも投稿できたらいいかなーと思ってます。
『理の使役者』『僕と天使な彼女』も細々とやっているのでそっちもよろしく=w=
それでは☆⌒(*^-゜)ノ~♪see you again♪~ヾ(゜-^*)⌒☆