最終話 絆
ここまでご愛読していただいた方に感謝を
「レン、朝ですよ」
「ん、ああ、悪い、寝過ごしたみたいだな」
「いえ、レンの寝顔を見る機会なんて滅多にないですから役得です」
「そうか、んっ」
いわゆる、おはようのキス、言葉にするとこの上なく恥ずかしいんだが、もう何年もやっている事で、行為自体はもう慣れきっている
「それじゃあ、今日も頑張りましょう」
「ああ、今日もよろしくな」
「兄さんが寝坊だなんて珍しいですね、いい年なんですから、夜の営みも程々にしてくださいね。」
「私とレンはいつでも新婚気分なんですから、何年経っても止めるつもりはありません!」
「恥ずかしいことを、朝っぱらから叫ぶな」
フリッグと結ばれて15年、こいつは変わらず天然で、いつも底抜けに明るい。
その明るさにいつも救われているんだけどな。
「そう言えば、天笠さんからメールが着てましたよ」
「どうせ、また、冷やかしだろう。
何年経っても、変わらない奴だ」
あの戦いが終わってから、ずっと行方をくらましていた天笠だったが、10年前、ひょっこりと、戻ってきた。
その時、舞花が、元の世界、元の時間に戻すと提案したんだが
「私は風峰に負けた、私も新しい道を探す」
あの戦いで、何か吹っ切れたのか憑き物が落ちたような表情で、また、旅に出た。
世界中を回っていて、各地を転々としながら、音楽をこの世界に広めている。
「久しぶりに、リンネの演奏が聴きたいですね」
「っち、相変わらずの内容だな。
やっぱり、あいつとは一生仲良くできる自信がない」
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう、アリス」
15年経っても、変わらない姿と呼称。
無理矢理、成長を抑えて今の姿を維持しているらしい。
以前、そのことについて聞いたことがあったんだが
「だって、お姉ちゃんたちと被っちゃうでしょ?
お兄ちゃんがいつでもロリコンに目覚めてもいいようにだよ」
どれだけ年月が経とうが、行動理念に一切の変化はない。
そして、補足というか、あんまり思い出しくもない思い出なんだが、数年前、俺はアリスに襲われた。
ちょうど、フリッグが神界に用があると言って1日家を空けてた時だ。
俺もフリッグも最大限に警戒をして、フリッグが家に戻った瞬間、俺もフリッグもここまでくればもう大丈夫だろうと思った、その一瞬のすきにフリッグは別空間に飛ばされて、咄嗟の事に反応できずにその場でやられたという経緯だ。
その後のフリッグを落ち着かせるのに数日、それから、フリッグが満足するまで何日も情事を繰り返すはめになった。
それだけなら、まだ良かったんだが、それからアリスは口八丁でフリッグを丸め込み、1月に一度、さらに、フリッグの監視付きでアリスを抱くことになった……
もちろん、その後、フリッグの嫉妬を抑えるために連日、大変なことになることを記しておく。
「ねぇ、お兄ちゃん、そろそろアリスに乗り換えない?
お姉ちゃんよりアリスの体の方が気持ちいいでしょ?」
「駄目です、駄目です!
アリスは情けを掛けているだけなんです!
レンの一番は私なんです!」
「そうかなぁ?
アリスとお兄ちゃんは相性抜群だし、仕事柄、お互いの事も通じ合ってるんだよ」
そう、アリスには俺の仕事を手伝ってもらってる。
今の俺の仕事は、王となったフリュネの補佐。
もちろん、仕事の中には重要な案件がいくつもあるし、その場で適切な判断が求められることが多い。
そこで、実力も申し分ないし、足も軽い、アリスに手伝ってもらうことなった。
「私とレンは15年も夫婦をやってるんですから、アリスに負けないくらい通じ合ってます!」
「また、朝からやってるわね」
「まぁ、仕方ないだろう」
15年の年月が経ち、幼さが抜け、すっかり美女になったミナ。
家督はジンに譲り、今はミズガルズの研究機関の第一責任者。
舞花の入れ知恵もあり、今この世界は急速に文明が進化している。
流石に、元の世界ほど進んでいるわけではないが、携帯電話、パソコン、など、文明の機器を次々に発明している。
「相変わらず、レンは甘いわね。
そもそも、レンは被害者なんだからアリスの要求なんて呑む必要ないじゃない」
「俺は最初から反対してるんだが、その度にフリッグがな……」
こうやって言い争っているものの、数週間後にはすっかりアリスに丸め込まれているのが現状だ。
最初は俺もあの手この手を尽くしてみたんだが、天然故かフリッグはすぐに丸め込まれてしまう。
「早めに手を打たないと、痛い目見るわよ」
「耳が痛い話だ」
こうやって、指摘してくれるミナの存在は本当に助かる。
本当に俺は友に恵まれている
「またまた、そんな堅いこと言って、アリス知ってるんだよ?
ミナお姉ちゃんだって、15年経っても全然お兄ちゃんのこと諦めきれてないこと。
だから、今でも彼氏の一人もできてないしね」
「な、ち、違うわよ!
彼氏がいないのは、良い男がいないだけよ!」
「その基準って、お兄ちゃんなわけだよね。
つ・ま・り、お兄ちゃんを超える男の人はいない=お兄ちゃんが一番好きってことでしょ?
それにぃ、ごにょごにょ……」
アリスの奴、いったい何を吹き込んだんだ?
ミナが茹蛸のように赤くなって、目じりには涙も出てるぞ。
「ミナお姉ちゃんも、もっと自分に正直なった方がいいよ。
ほら、酔った勢いで……」
「ち、違う、違うの!
レン、違うの、本当に違うんだからね!」
こうやって追いつめられると、幼くなるところは相変わらず。
外見とのギャップが凄いことになってる。
「お兄ちゃん、上手だよ。
お姉ちゃんとアリスをいっぱい抱いてるから経験も豊富だしね。
ミナお姉ちゃん、まだなんでしょ?」
「いや、もう言わないで!」
「ほら、アリスもそこまでしておけ」
涙目で半乱狂になるまで、苛め抜くアリスは相変わらずなようだ。
「ぐすっ、レン、あのね、本当は私も……」
「むぐっ!?」
「きゃああああああああ!
ミナまで何やってるんですか!」
「私だってレン事が好きなのよ!
15年経っても諦めきれないんだから仕方ないじゃない!」
「そんなの知りませんよ!
レンは私の旦那様なんですから、すっぱり諦めてください!」
「おはようございます、レンさん」
フリッグとミナが言い争っている中、俺に挨拶をする、艶やかな黒い髪に透き通るような蒼い瞳を持ち、人形のように可愛らしい容姿の子供。
「おはよう、リア」
俺とフリッグの娘、神であるフリッグの血を引いている所為か、9歳なのに10代中盤程の外見。
フリッグの血を継いでいるだけあって、戦闘においては上級の位を持っている神ですら圧倒してしまう実力を持っている。
頭もよく、フリッグとは違い落ち着いた、たたずまいで、同年代と比べると遥かに大人びている、自慢の娘だ。
「レンさん、私も」
「何度でも言うが、お前は俺の娘だ。
そういうのは将来、好きになった奴の為に取っておけ」
勿論、リアをそう簡単に嫁に出す気はない。
才色兼備であるリアは、この年で、周りから目を引く存在で、変な虫が憑かないか心配が絶えないところだ。
「4年前、私がレンさんお嫁さんになるって言ったら喜んでくれた」
「それは、お前がまだ子供だったからでな」
そして、何よりの問題がこれだ。
どこで、どう教育を間違ったか、リアが俺を父と呼ぶことはない。
子供だと油断していた俺から言質を取り、それ以降、それを理由に迫ってくる。
「私、もう子供じゃない。
アリスさんより大人」
「それは外見だけだろう?
アリスはあれで20歳を超えてるんだぞ」
「私、お母さんより頭もいいし、アリスさんより体は大人。
総合すれば、私だってレンさんに愛してもらう権利はある」
「流石は兄さん、自分の子供にすら求愛されるとは、月のない夜は本当に気を付けてくださいね。」
「あ、舞花さん、おはようございます」
「駄目ですよ、リア、兄さんは身持ちが固いですからね、言い包めようとしても、逆に言い包められてしまいます。
アリスのように実力行使が有効ですよ」
「分かった、いつもありがとうございます」
「これも可愛い姪っ子の為です」
「おい、リアに変な事吹き込んでいたのはお前か」
「どうでしょう、義理の妹と実の娘を同時にいただくというのは?
その背徳感が病み付きになってしまうかもしれませんよ」
「そこ、私が見てないところでレンを誘惑しないでください!」
「ふむ、それでは義姉が見ているところでならやっていいということですか?」
「いいわけありません!
いいですか、レンは私の旦那様なんです!
皆してレンを誘惑しないでください!」
「お母さん、うるさい」
「リアも、いい加減レンのことは諦めなさい。
レンとリアは親子なんですよ」
「愛さえあればそんなことは関係ない」
「あ、これはアリスが吹き込んだんだよ」
「お前らな、人の娘になんてことを吹き込んでくれるんだ」
「レンさん、好きです」
「いや、だからな、そんな熱っぽく見つめられても、俺は応えられないと言ってるだろう」
『レン! 貴様、妾を待たせるとはどういうことじゃ!』
「やばい、アリス、準備はできてるか?」
「大丈夫、それじゃあ行ってきます」
よし、俺も行くか
「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
そっと抱き寄せ、唇を重ねる。
視線が気になるが、フリッグとしては見せつけてやりたいくらいだろう。
「レンさん、私も」
「駄目です」
「お母さんのケチ」
なんだかんだでも親子の仲は良い。
リアもフリッグのことを母親として慕ってる。
俺も父親として慕って欲しいんだけどな。
「兄さん、頑張ってくださいね」
「ああ、家のことは頼んだぞ」
騒がしい日常、愛する妻と娘、俺を支えてくれる仲間、皆がいたから、俺は今でもこうやって生きている。
この出会いには一生感謝し続けるだろう、そしてこれからも決して離れることもない強い絆を胸に、今日も精一杯生きていこう。
『死にたがりな主人公とその仲間たち』番外編含め完結です。
本編含め、ここまで御愛読いただき感謝の極みです。
やっぱり、最後はハッピーエンド、皆が幸せになれる世界なんて現実には存在しないかもしれません。
なので、物語の中だけでも、皆が幸せにと思っています。
そんな理由もあって、ミナも正直にさせてしまいました。
レンはフリッグ一筋ですが、そうは問屋が許さない、最終話だけあって、皆が騒がしく楽しく、書いてる方も楽しんで書けました。
悩み、苦しみ、時には傷つけあい、それでも幸せを掴み取った、『死にたがりな主人公とその仲間たち』 ここに完結です!