再会と再戦
こっちの世界に来て一週間。
人の適応力はすごいと思う。
なんだかかんだでこっちの生活に慣れてきた。
あれからあいつらも約束通りちょっかいを出してきたりもしない。
それにこの物理的に突き刺さりそうな視線も流せるようになった。
こいつもいまのところ素直に料理の指導を受けるだけで行動を起こさないし平穏で何よりだ。
問題は仕事の内容が日によって違うことだがそれは職業柄しょうがないと言えるだろう。
つまり、俺はこの世界でも無事平穏な生活を手に入れた。
後はこの幸せを感じていられる間に死にたいんだが、後百年・・・・大丈夫かなぁ。
「レン、今日はこの仕事やってみませんか?」
なになに
内容は隣街、ヴァナヘイムとアルフヘイム間の護衛。
期間は明後日から5日後。
ヴァナヘイムには3日宿泊予定、その間の宿泊費用は依頼主持ち。
報酬は金貨15枚。
定員は4名。
「ヴァナヘイムとここの距離はどれくらいだ?」
「だいたい1日で到着します。
その間、魔物がうろついてたりたまに盗賊なんかも出るそうです。」
ふむ、実際働く時間は初日と最後の2日。
こっちに来ていろいろ忙しかったから息抜きに旅行というのも悪くないのかもしれない。
それに、1日金貨10枚は利益が出てるから1日2日働かなくてもたいした問題じゃない。
こいつも他の街を見てみたいようだし
「別にいいぞ。
だが、定員がいっぱいだったら諦めろよ。」
「ありがとうございます。」
ギルドって国からの依頼って聞いてたけど、個人でも申請できるんだな。
この内容ってどう見ても個人の依頼だからな。
「レン、定員は大丈夫みたいで、最近たくさん仕事しているから実力も認められているみたいですから大丈夫みたいです。」
そりゃ誰だって神と組んでればそうなるだろう。
「そりゃよかったな。
3日間は働かないんだからその分今日働くぞ。
向こうで遊ぶための金も必要だからな。」
「はい。
頑張ります。」
そんなに張りきらなくてもお前は大丈夫だろう。
side フリッグ
駄目もとで聞いてみたんですがまさかOKがもらえるなんて!!
生活を始めてからずっと仕事で家に帰ってからは料理を一緒にしたりそこそこ一緒にいられる時間はありましたがイベントがありませんでしたからね。
でも、これで3日間はデートができます。
これでレンの好感度を上げて、私のことを好きになってもらいましょう。
できればこの3日間で最後までいきたいんですがレンはそういうのあんまり好きじゃないですからね、焦ったら負けです。
私たちの邪魔をするものも先日撃退しましたからそうそう出てこないでしょう。
ふふっ、楽しみです。
side out
唐突だが金貨15枚、約15万、それを4人分、つまり60万だ。
そんな金を出せるってことは金持ってことになるだろう?
さらに言えば護衛を4人もつけるってことはそれなりに危険に晒されることがあるってことだ。
つまり完全に一般人とは掛け離れてる。
さて、結論から言おう。
集合場所に10分前(社会人として当然)に行ったんだよ。
そしたら奴等がいた。
向こうもかなり驚いていたがこっちはそれどころじゃない。
あいつらはこの街の長の血縁、つまり子供ってことだ。
そんな奴等が親を伴って、さらに言えば公衆で護衛を募集して隣町に行くってことはそれは街同士が関わる会合があるってことだ。
前にも説明したがこの世界は9つの街で治められている。
そしてその街はほぼ独立して国と言っても間違いじゃない。
むしろなぜ1つの国で治まっているか不思議だ。
1つの街に城なんかがあったりするんだぞ、さらに言えば代表議員だって300人を超えてそれぞれの分野で活躍してる。
話しが脱線したがこいつらに関わると嫌でも名が知れ渡ってしまう。
そうなったら平穏な生活が壊される可能性すら出てくる。
しかし、今更逃げようとしても既に旅立ちの準備はできてるようで出発まじか逃げ道はなかった。
ていうか、兵隊がいるならなぜ護衛を募集する必要があるんだよ・・・・
side ミナ
まさかあいつが護衛に着くなんて。
街にも兵隊を置いておかないと小さな町や村なんかがもしものことがあったら救援に向かえない。
それでも十分兵は連れているから一般募集は念のためだったんだけどこれはチャンスだわ。
約束では私はあいつの目の前に出たら駄目という内容だった。
それなら父さんに実力を見せて街の兵に組み込んでしまえばいい。
そうなればたぶんこいつは拒否するはずだけどあの街にいる限り父さんの発言は絶対だ。
それを私が個人として引き抜けばあの2人を手に入れられる。
問題は実力を試す時に妹さんは大丈夫だと思うけどあいつが勝てるかどうか。
圧倒的な実力で勝たない限り父さんが引き込もうと思わない。
上手く行くかな?
side out
厄介なことになった。
あいつとの約束は俺の目の前に現れないこと。
だが、人伝いに関わることはあ出来る。
そして俺にその約束を撤回させれば堂々と俺の前に現れることができる。
面倒なことにならなきゃいいんだがたぶん無理だろう。
side フリッグ
せっかくのレンとのデートだというのにまたあの女ですか。
仕事の関係上どうすることもできませんが、レンが頭を抱えているところを見るとまたなにか仕掛けてくるんでしょう。
本当に記憶を消してしまいましょうか。
目に余るようでしたらそれも考えておきましょう。
とりあえずせっかくのデートです。
すこしでもレンの近くにいましょう。
side out
side ミナ
待っていた休憩の時間。
流石に丸1日走りっぱなしというわけにはいかない。
一度軽い休憩を入れて再びヴァナヘイムへと向かう。
そしてこの時間こそ唯一のチャンス
「父さん・・・・・」
絶対に手に入れて見せる。
side out
side ジン
まさかあの2人が来るとは思わなかったがこれで絶対に安心だな。
あの妹さんがいれば他の兵なんて必要ないくらいだ。
ミナも約束は守る娘だから大丈夫だろう。
おっ、休憩か。
あいつらに挨拶くらいはしておくか。
「兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど。」
なんだ?
とんでもなく嫌な予感がする。
「兄さん、あいつと戦ってくれない?」
side out
side ミナ
「兄さん、あいつと戦ってくれない?」
父さんは金を払ってまで雇ってるんだから実力を見てみたいと言えば2つ返事で納得してくれた。
あとは兵士の中でも最強の部類に入る兄さん相手に勝てないまでも善戦を演じてくれれば私の計画は成功する。
「ミナ、約束を忘れたのか?
お前はあの2人と関わること禁止されたはずだろう。」
「禁止されたのは目の前に現れることよ。
間接的に関わることは約束に反してないわ。」
「はぁ、なぜ俺があいつと戦う必要がある?
前にも言ったがあいつは素人だ。
確かに少しは腕を上げたようだが俺にはどうやっても勝てないぞ。」
「分かってる。
ただ兄さんはあいつと戦ってくれればそれでいいの。」
下手に手加減なんてされても意味がない。
全力とは言わないけど手加減なしの兄さんと戦って善戦してもらわなきゃいけない。
あいつも仕事の信頼上、明らかな手抜きはしないはず。
それに絡め手を使えば兄さんだってそう簡単には勝たせてはくれないはず。
「分かった。
この休憩しか時間がないからちょっと行ってくる。」
「ありがとう。」
side out
さて、俺があいつならこの時間に仕掛けてくるはず。
どんな手でくるか・・・・
「また会ったな。
まさかお前たちが来るとは思ってなかったぞ。」
「俺もまさか護衛の対象があいつだとは思わなかった。
それで何の用だ。
ただの挨拶だというわけじゃないだろう。」
「ああ、ミナがお前たちが本当に護衛として役に立つか見たいそうだ。
悪が俺と一戦お願いできるか?」
そう来たか・・・・・・だが甘いな。
お前は俺たちを兵に組み込むつもりなんだろうがそうはいかない。
確かに俺たちは立場上それなりの実力を示す必要がある。
だが、それにも抜け道はあるんだよ。
「その相手は俺じゃなくてもいいんだろう?
それじゃ相手はこいつだ。」
side ミナ
「それじゃあ、ちょっとした模擬戦を始める。」
随分ギャラリーが多いわね。
まぁその分、証言がはっきりするから好都合だけどね。
「アルフヘイム代表は我らが隊長、ジン・レグス。
護衛代表はフリッグ・カザミネだ。」
え!!
どうして妹さんが!?
妹さんが出ればそれこそ引き抜きたくなる。
だからこそあいつが出ると思ってたのに。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
どういうつもりなの?
side out
side フリッグ
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
確かにこの人とは人としてはかなり優秀ですけど、所詮は人。
神である私に勝てるはずありません。
それにレンから頼まれたことを私が断るはずも失敗するはずもありません。
「始め!!」
さて、それではレンの指示通りに
side out
「始め!!」
始まったか・・・・・これで俺の勝ちだ。
「隊長!!
大丈夫ですか!!」
指示通り。
相変わらずあいつは反則だな。
side ジン
俺じゃあ妹さんにはどうやっても勝てない。
胸を借りるつもりでいくか。
「始め!!」
先手必勝だ・・・・・なん・・・だ・・・これは?
「隊長!!
大丈夫ですか!!」
体が・・・うご・・かねぇ・・・・いった・・い・・な・・にが・・・
side out
side ミナ
いったい何が起きたの?
突然兄さんが倒れて、そのまま模擬戦は終わってしまった。
医者の見立てでは疲れて気を失ってるだけだった言ってた。
確かに兄さんは忙しい中私に付き合ってくれたりもしたけどさっきまで何ともなかったはずなのに・・・・・
side out
「あれでよかったんですか?」
「ああ、ところでいったい何やったんだ?」
戦闘開始と同時に意識を奪えとは言ったが
「ちょっとした呪いのようなものです。
どんどん体が重くなってきて意識が遠くなるんです。
目が覚めたら元通りになります。」
期待通りの仕事をしてくれたな。
これで俺たちを引き込めはしないだろう。
こいつの使ったものは魔法じゃないからばれはしないだろうからな。
それにこいつが気付かれないように大きな結界を張って危害を加えようとする奴等は50m以上近づけないようにしてるらしいから護衛の仕事なんてないと同じだ。
残念だったな